社会学記事寄稿

Webマーケターの友人から「社会学って何?」と言われたら

sagako
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私、sagako(@sagako0302)はnoteユーザーであり、ときどき「マーケティングには社会学の視点が効いてくるよね」といったコラムを書いている。こう説明するとよく聞かれるのが、

「社会学ってなに?」

ということだ。実はなかなか難しい質問である。

相手に向かって「お前という人間は何なのか?」と質問するに等しいが、あいにくと社会学という学問は、そこまで認知を得ているわけではない。大学に入学した時から10年に渡り質問され、ある程度は説明慣れしている。

私流にかみ砕いて説明すると、「社会学とは、人間社会において何故このようなことが起こっているのか、原因と過程を調べ、考察する学問である」(※個人の解釈なので、詳細はページ下部の用語集をのちほど確認してね)。

社会学が生まれた背景にある“産業革命”

そもそも、なぜこのようなを学問が生まれたのだろうか。ギリシャ時代には、そもそも必要なかった。きっと、江戸時代にも必要なかった。だが現代にて、大学の学部として設置されるまでに至ったのには、それなりに理由がある。

原因は、産業革命だ。産業革命がおこり、都市に人が集まって人口も増え、社会の構造が複雑になった。

王様&貴族&平民で構成されていた階層の面では、株式の概念が生まれたり、社長が誕生したりという変化が訪れた。思想に多様性が生まれ、宗教の数も増えた結果、さまざまな文化的背景を持った人は、一緒くたに集まって生活するようになった。

そうなると、トラブルが起きないわけがない。人間は複雑になった社会を科学的に分析する必要があり、その過程で生まれた学問こそが社会学なのである

“社会学” と “マーケティング”に共通する考え方

また、社会学の有用性を説明するのに、とっておきの研究がある。社会学を科学として地位を獲得させた偉大な学者、エミール・デュルケーム先生の著書『自殺論』である。

1897年にフランスで出版された本書。当時はナポレオンが失脚したり、エッフェル塔ができたりと、政治や経済が盛り上がりつつもごちゃついてた時期だ。そうなると、さまざまな軋轢も起こりがちとなり、自殺も結構問題になっていたらしいのだ。

デュルケーム先生は、なぜ自殺が増えるのかを調べたわけだけど、先生が画期的だったのは「自殺は根暗な性格な奴が多い!」とか「そりゃ寒い地域に住んでいて憂鬱になっていたからだ!」と、決めつけ論調を展開しなかったことだ。

自殺というのは、天候や生物学的な要因だけでは説明しきれない。いわゆる、「“社会”の問題なんじゃないか?」と投げかけた。

さらにさらに、「どこで、どんな性別で、どんな年齢のどんな人が自殺しているのか、統計を用いて、しっかり事実から話そうぜ。」という分析が行われた。

現代における自殺の問題は、心理学、生物学的な見地からだけではなく、教育、経済、病気、コミュニティなどの様々な要因が絡みあい、それぞれが複合的に関係し合うことにより生じている。

けれど、昔はそういう理解も得られなかった。

デュルケーム先生は、人々が好き勝手に自殺の原因を説明している時代に証拠を見つけてきて、数値から考察を深め、自殺の種類を分類までしてみせた。彼の著書のおかげで、それまでの自殺の常識がひっくり返され、その考え方は現代の常識になっているのだ。

つまり、社会学というのは、みんなが「こう違いない!」と思っている、「それって本当?」「どうして起こっているのだろう?」「もしかしてこれが関係しているんじゃな?」と感じた現象に対し、統計を活用したり、現場のインタビューを通して考察していったりする学問なんだ

マーケターとツイ廃に役に立つ“社会学”

じゃあ、「実生活に役立つの?」といわれるんだけど、これが意外と役に立つ。特にマーケターとツイ廃(=Twitterヘビーユーザーのこと)にはおすすめ。

例えばあなたが、

「フハハハ!!!女子はピンクが好きじゃろお!!!カフェも服もピンクにしておけば売れまくって儲かるに違いない!!!」

と思っても、商材が売れる可能性は低く、儲かるハズがない。主観の要素が多く、仮説としても考察が甘い。ただの博打に近い。真に利益を考えるなら、いや、真に未来のお客様のことを考えるなら、あまりにも浅い考えだ。

あなたが社会学的視点を持つならば、下記のような考えに至るだろう。

  • ・女子がピンク好きって本当?
  • ・日本だけだったりしない?他の環境下では?
  • ・すでに誰か調査していない?
  • ・なにか生物学的根拠がないか先行研究調べよう。
  • ・それってここ数年だけだったりしない?
  • ・もし好きなのなら、誰がその価値観を作ったのかな?
  • ・その考え方って、ステレオタイプなジェンダー論じゃない?そんなこと言っているあなたの思考だいぶ偏っていない?
  • ・ピンクを好ましく思う文化が輸入だったら、なぜ?
  • ・ピンク好き文化が流行るには、どんなメディアや製品がかかわっていたんだろう?
  • ・もしかして学校教育とかで嗜好を矯正されたりしてない?
  • ・ていうか、女子って誰のことを指しているのだろう。わたしの中の「女子」の概念はどこから来たんだ?

事実を疑い、証拠を求め、ひとりの人間が現在に至るまでに影響を与えられてきたと思われる要因を洗い出す。

これは、マーケターがカスタマージャーニーを構築するときに似ていないだろうか。

全ての要因を洗い出そうとする姿勢は、社会学とマーケティングともに近しい。社会学の宗教や文化形成にまで要因を探す思考法は、マーケターにもきっと役立つだろう。

AIDMAで言えば、興味をもち(Interest)、欲しいと思うようになる(Desire)過程。この意志決定プロセスを形づくる「ユーザーの価値観」がどこから生まれているかも、深堀ることができるようになるだろう。

社会学は「価値観の形成」を非常に重視している。とはいえ、誰しもが社会学の専門家になる必要はない。

社会学ができてから百年ちょっと経ったが、沢山の優秀な社会学者がうまれ、素晴らしい理論が多数発見されている。

その理論を覚えていくだけで、「女子はピンクが好き」という事象の出現に至った社会構造の変化に対して、いくつか仮説を立てられるようになる。

社会学を学ぶと、目に見えない、何となく思っていた、「社会を動かす理論」を知ることができると同時に、そこに隠れる理由を考える力が湧いてくる

「みんな言っているけど、それって本当なのかな?」と疑う力ができてくる。

世の中の一般論に従うだけじゃない、みんなの見逃している事実をすくいあげて投げかける、なかなかパンチの利いた、いや、ロックな学問なのである

……だらだらしゃべってしまったけど、読者のあなたも興味が湧いてきたかな?

sagakoが持つ本連載では、マーケターが活用できそうな社会学の理論をご紹介できればと思います。

次回も、おたのしみに。

注1)社会学の定義
“社会学は、人びとの形づくる社会生活や集団、社会を研究する。”
アンソニー・ギデンズ著、松尾精文・西岡八郎・藤井達也・小畑正敏・立松隆介・内田 健訳『社会学(第5版)』而立書房、2010年、20p

“人間の形づくる集団や社会の研究で、とりわけ先進工業世界の分析に重点を置く。社会学は社会科学群のひとつで、社会科学には、他に人類学や経済学、政治学、人文地理学が含まれる。社会科学は、それぞれの境界が明確ではない。いずれも、同じ問題関心や概念、研究方法を数多く共有している。”
アンソニー・ギデンズ著、松尾精文・西岡八郎・藤井達也・小畑正敏・立松隆介・内田 健訳『社会学(第5版)』而立書房、2010年、用語解説 17p

参考文献)
デュルケーム著、宮島喬訳『自殺論』中央公論新社、1985年

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