インハウス編集者記事寄稿

前年同月比3.9倍のオウンドメディアが「やらない判断」の裏で大切にした3つのこと

藤田 隼
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こんにちは。株式会社SmartHRの藤田 隼です。

デビュー記事となる前回の記事、「オウンドメディア急成長を支えた『やらない判断』。“死の谷”を乗り越え、前年同月比3.9倍に」では、「死の谷」と呼ばれる停滞期を乗り越えるまでに、意識的に行った「やらない判断」について、その重要性をご紹介させていただきました。多くの方にご覧いただき、また共感いただけたようで大変光栄です。

本稿では、前回記事で触れた、

  • ・PV・UU至上主義
  • ・SEO至上主義
  • ・バズ至上主義
  • ・プロモーション至上主義
  • ・公開本数至上主義

など、オウンドメディア『SmartHR Mag.』において「やらなかった」ことについて、どのような経緯でその判断に至ったのかについて解説します。その上で具体的には何に取り組み、どのような成果が生まれたかについてご紹介します。

前回のトピックス

まず、前回記事で触れた内容について、箇条書きで簡単に振り返ります。

  • ・2018年春頃まで順調にトラフィック成長していた『SmartHR Mag.』
  • ・同年夏頃にかけて停滞期「死の谷」が訪れた
  • ・ひとり編集部という特性上、対応するリソースは限られる
  • ・そのため主に5つの「やらない判断」をし、打ち手の“範囲”を絞った
  • ・現実的な守備範囲の中で打ち手の“量”を増やしていった
  • ・結果的に2019年3月時点で30万UU突破、前年同月比3.9倍の成長に

以下本題です!

「やらない判断」に至った経緯

『SmartHR Mag.』でやらなかったことについて、再掲します。

  • ・PV・UU至上主義
  • ・SEO至上主義
  • ・バズ至上主義
  • ・プロモーション至上主義
  • ・公開本数至上主義

なぜこれらをやらなかったのか?

結論から言うと、これらを一挙に1人でやるとなると、「人事労務メディア」として成立し得なくなる危険性があったからです。

ここでは、上記の中でも気になっている人が多いであろう、「PV・UU至上主義」と「SEO至上主義」について紐解きます。

中長期的な利益を損ねる「PV・UU至上主義」

これはオウンドメディアに限った話ではないのですが、メディアの成果は、施策を実施したその月に生まれるものとは限りません

むしろ、半年、1年と経ってから効果が現れるような施策のほうが、実は多いのではないでしょうか。施策効果を積み上げ、LTVを最大化させる上でも、中長期的観点で捉えるのが得策です。SEOもそのうちのひとつに挙げられるでしょう。

しかし、逆に言えば目に見える短期的な成果としては推し測りづらいものでもあります。

そんな中、「PV・UU至上主義」を選択すると、どうなるでしょう。人事評価期間内の成果を最大化させることに意識が向き、今はまだ評価され得ぬ中長期的な意識が自然と薄れてしまいます。

そうなると、短期的成果に繋がる「バズ至上主義」や「公開本数至上主義」へと陥りやすくなります

メディア価値創出の難しい「SEO至上主義」

とはいえ「SEO至上主義」に熱中する危険も避ける必要がありました。

中長期的な成果という観点でSEOは有効な取り組みですが、ひとり編集部という特性上、これだけにとらわれると、メディア価値が向上しないどころかメディアとして成り立たない危険を感じました。

1キーワード単位で1位を取るのは相当な労力がかかりますし、維持し続けるのも至難の業です。記事が増えていけば増えていくほど、既存記事を改善するためのリライトに多くの時間がかかります。必然的に、新着記事にかけられる工数は減り、新着記事を制作する時間が限られてくると、優先順位を考慮し、検索トラフィックが期待できるテーマから優先的に取り組むことになります。

こうなると、本来メディアで実現したい社会文脈形成や世界観は届けられず、一貫性のないメディアになってしまいます。もちろん一定の成果は生まれるかと思いますが、それはもはや「メディア」というより「SEOのハコ」に近いかもしれません

「やらない判断」の裏で大切にした3つの取り組み

これらを踏まえた上で、持続可能な成長を遂げる体制を築く必要性を感じました。

「やらない判断」の裏で大切にしたこと、注力したことについてご紹介します。

(1)「成果」ではなく「ミッション」で握る

株式会社SmartHRはOKR(Objectives and Key Results;目標と主な成果)に基づく評価制度をとっています

たてつけとしては、会社のミッションに紐付いてチーム(マーケティング・広報グループ)のミッションがあり、チームのミッションに紐付いて個人のミッションがあります。

また、個人の評価としても「主な成果(Key Results)」ありきではなく「ミッション(OKRにおけるObjective)の達成度」が重要です

つまり、僕にとっての「オウンドメディア運営」という役割やその成果は、個人のミッション(ひいてはチームや会社のミッション)を達成する上での手段に過ぎません。シンプルにいうと、「オウンドメディアの成果」ありきで評価を設計していないということです。

もちろん、オウンドメディアの運営における成果が、評価指標におけるある程度の割合を占めてはいますが、それが全てではありません。むしろ“為すべきミッション”からかけ離れたメディア運用であれば、数値を達成していても、マイナスの評価がくだされることになります

ちなみに、メディアとしての方針や運営のポリシーについては、適宜上長との間で握っており、「主な成果(Key Results)」についても、2週に1回の1on1の中ですり合わせています。

これがあるからこそ、安心してメディア運営と向き合えるといっても過言ではありません。

(2)リライトは優先順位を決め、改善範囲も課題ごとに明確化する

リライトは、1人でも対応可能にするよう、優先順位を決め、改善範囲も限定的にしました。

まず、優先順位についてですが、既に一定の検索インプレッション数があるキーワードについてバブルチャートを作成し、可視化の作業を行いました。縦軸が検索順位、横軸がCTRです。バブルの大きさはインプレッション数です。ちなみに色分けは赤がサービスとの関連性が高いキーワード(以下、顕在KW)、青がサービスとの関連性が低い集客キーワード(以下、潜在KW)です。

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実際に作成したバブルチャート(2018年9月)

これらのうち、既に検索順位もCTRも高いキーワードは、いったんリライトの対象から除外しました。既に良好な状態であるため、改善インパクトが小さいからです。

まず①と示した領域は、検索順位は高いものの、CTRが低いキーワードです。基本的に検索順位が高ければCTRは高いのですが、そうでなくトラフィックを取り切れていないもったいない象限です。主に、タイトルやディスクリプション面でトラフィックを逃している可能性が考えられること、その改善工数は比較的軽微であることを鑑みて、直ちに着手しました

続いて②と示した領域は、順位もCTRも低いキーワードで、もっとも改善余地の大きい象限です。しかし、タイトルやディスクリプションはもちろん、記事内容も含めて抜本的に改善する必要があり、その工数は膨大となります。そのため、「1日5KW」を目安にリライトにあてる時間を確保し、地道に改善を行いました

最後に③は、CTRは順位が高く中程度のキーワードです。顕在KWがこの象限になく、また改善インパクトも比較的低い領域なのでここは第3優先としました。

(3)「E-A-T」を担保しつつ特集テーマを絞り「働き方改革法」文脈形成へ

2018年6月の働き方改革関連法可決以降、2019年4月の法施行を前に、関連記事の公開を集中的に進めました。

進め方としては、大局観をまとめるマクロな記事を公開した後、具体的法施策の詳細をブレイクダウンしながら、ミクロな記事を公開。順次、マクロ側の記事にミクロ側の記事を内部リンクさせ、網羅性と回遊性を高めていきました。

また、SEOの中でもメディアバリューと直結する「E-A-T(専門性、権威性、信頼性)」を担保するため、労働法と人事労務における実務に精通した、社会保険労務士・弁護士の方々に執筆を依頼しています。

その結果どうなったのか? 具体的に生まれた3つの成果

このような取り組みの結果、以下のような成果創出に繋がっています。

(1)30万UU突破、前年同月比3.9倍

前回の記事でも触れたように、2019年3月に30万UUを突破し、前年同月比3.9倍となりました。

ブルーオーシャンだった働き方改革関連法のコンテンツ拡充はもちろん、対応範囲を限定的に行ったリライトも奏功しています。リライトした中でも顕著だったのは「雇用保険」というキーワードです。

改善前の検索順位は8前後で、前述のバブルチャートでも検索順位・CTRともに低い象限だったものの、以下の記事は検索結果2位につけています。

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「雇用保険」の検索結果。Google Chromeシークレットモードにて検索(2019年6月5日時点)

通算PVも、公開後1年となる2019年5月末時点で20万PVを突破しています。改善を実施した昨秋以降約3ヶ月で成果が現れ、3月時点で月間約4万PVに達し、人気記事のひとつになりました。

2018年6月から2019年3月のページビュー推移(Google Analyticsより)
・労務担当者が知るべき「雇用保険」の基礎知識。加入条件、手続き方法は?

これらは決して1位だけを狙った結果ではなく、現実的に表れている数字をもとに課題を洗い出し、ポイントを絞って改善に成功したのは、ひとり編集部にとって効果的な進め方のひとつだったと感じています。

(2)34本の「働き方改革法記事」公開、ホワイトペーパー化にも寄与

働き方改革関連法にまつわる記事を集中的に公開した結果、半年強で34本の記事公開に至りました。

体系的に特集できたこともあり、ホワイトペーパーとして再編集する際には、あまり時間を要しませんでした。ウェブ上で公開された記事という特徴もあり、アクセス解析から定量的なニーズも予め把握できているため、厳選するにあたってもスムーズでした。

(3)ホワイトペーパーをもとに冊子化。展示会セミナーで配布しさらなるリード獲得に成功

あわせて、(2)で作成したホワイトペーパーを現物として冊子化し、人事業界最大級の展示会「HR EXPO」にてセミナー聴講者限定で配布しました。

SmartHR ブースセミナーの様子
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SmartHR ブースセミナー後、冊子配布に並ぶ長蛇の列

目的は、ブースセミナー後の離脱防止と、ブース内回遊の促進です。結果的にリード獲得に貢献でき、同展示会の開催期間における総獲得リードのうち、10%強がこのブースセミナーと冊子ノベルティ起点でした

セミナー内容も働き方改革にまつわる内容であり、興味喚起とコンバージョンポイントの相性が良い導線でした。ちなみに、セミナー内容自体、『SmartHR Mag.』で配信してきた様々な記事から重要箇所をピックアップし編集した内容となっており、ウェブに限らないコンテンツの有用性に、自分自身驚かされています。

おわりに

メディアバリューだけがあっても具体的な成果がなければ、メディアの存続は難しいものです。多くの読者支持を得る著名なオウンドメディアの閉鎖が相次ぐ昨今の状況から見ても、一筋縄ではいかないことが見て取れます。

一方で、成果にとらわれ極端なSEOに取り組もうとしても、ユーザーエクスペリエンスやメディアバリューが置き去りになる恐れもあります。

ひとり編集部として、どちらかではなくどちらも取り組む上では、前回記事で触れたように「やらない判断」による選択と集中が必要になるでしょう。

『SmartHR Mag.』では、極端ではない程よいSEOによって安定的なトラフィック土台を築きつつ、特集によって文脈形成を図ることで、ウェブにとどまらない成果創出につなげ、マーケティング活動全般に影響しうるだけのコンテンツ力をつけてきました

これは、ひとりのインハウスマーケターという観点でみても、「ウェブ編集者」のキャリアステップとして、マーケティング全般で活躍しうる余地があることを示唆するものではないかと感じています。

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この記事を書いたライター
藤田 隼