リード獲得だけが目的のオウンドメディアはもう古い! LISKULの創設者が語る令和時代のメディアコンテンツの捉え方
- 臼杵優
リスティング広告を中心にWebマーケティングの支援を行っているソウルドアウト株式会社。同社は地方、中小・ベンチャー企業にフォーカスし、支援を行ってきた。
また、マーケティング支援やテクノロジー支援、そして、HR支援のみならず、メディア運営でも一定の地位を築いてきた。それが、「LISKUL(リスクル)」だ。Webマーケティングに従事する者であれば、「LISKUL」から知見を得たという経験のある方も少なくはないはずだ。
2014年に開設され、今もなおマーケティングに関するノウハウやトレンド情報を発信し、「Webマーケティングのメディア」としてのポジションを保ち続けている。
今回の「インハウスマーケティングラボ」では、Web業界の進化やトレンドの変化と共に生まれては消えゆくメディアもある中、ソウルドアウトのオウンドメディア「LISKUL」はどのように運営され、成果を出してきたのか、その経緯と秘訣についてLISKUL」の立ち上げから現在に至るまでの責任者であり、ソウルドアウト 上席執行役員 メディア事業開発室 室長 である長谷川 智史氏に伺った。
“インバウンド”でマーケティングを実践するための施策として「LISKUL」をスタート
―― まずはじめに、ソウルドアウト社の中でどういったキッカケで「LISKUL」を立ち上げたのでしょうか。
長谷川:私がソウルドアウトに入社したのが2012年なのですが、当初は前職(株式会社ビービット)時代に培ったスキルを活用し、コンサルティングチームの立ち上げなどに取り組みました。当時はテレアポを始めアウトバウンドの施策を中心にリードを獲得していたのですが、「インバウンドでリード獲得をできないか」という話が社内で挙がりました。
そこで、リスティング広告運用を始め、外部媒体や比較サイト等のリード獲得など試行錯誤をしつつ、当時Webメディアの黎明期だったこともあり、オウンドメディアの運用に行き着きました。
当時は、オウンドメディア運用のノウハウが溜まっていなかったこともあり、外部に運営を委託したところ、スムーズには進まず失敗を繰り返していました。そうした過程を経て、とあるコンサルティング会社に支援をいただきながら、2014年に立ち上がったのが「LISKUL」です。
―― コンサルティング会社が入ったことでオウンドメディア「LISKUL」として軌道に乗り始めたのですね。
長谷川:はい。外部に委託していた時代は、自分たちが求めているコンテンツと、委託先から納品されるコンテンツのクオリティにギャップを感じることがありました。その後、コンサルティング会社に支援していただきつつ(リスティング広告運用などの)知見をもった自分たちがコンテンツを制作するという運用が最もしっくりきたのです。
とはいえ、現在では外部ライターさんの協力もありつつ運用を続けているため、一概に外部委託が悪かったというわけではなく、運用のフェーズに応じて適切なパートナーを選択していくスキームが重要だと思っています。
当初はインバウンドでリード獲得することを目的にオウンドメディアを立ち上げ、コンテンツマーケティングを実践してきました。しかし、現在はメディアとしてのブランドが育ってきたこともあり、それに2018年からリード獲得に加えてメディアとしての収益化という目的も併せ持ったメディアとして運用しています。
―― 今この時代にオウンドメディアを立ち上げると仮定した時、押さえておくべきポイントなどはありますか?
長谷川:仮に「リード獲得数を伸ばしたい」という目的で始めるのであれば、「本当にいまオウンドメディアをやるべきなのかな?」とも思いますね。もちろん、オウンドメディアの立ち上げ自体を否定するわけではありませんが、リード獲得数が目的であれば、オウンドメディアを立ち上げることに力を注ぐよりは、コンテンツマーケティング施策を全体像として捉えて実践することが大切だと思います。
例えば、私自身も「LISKUL」の立ち上げと並行し、外部の著名なメディアに寄稿する機会も増やしていました。著名なメディアの場合、すでに認知が広がっており、一定のユーザーが集まっている場にコンテンツを寄稿していく狙いがありました。
それに自社でメディアを立ち上げて運用をするというのは、非常に大きな労力が掛かります。メディアの構築に始まり、コンテンツ設計から制作、そして持続的な更新と効果に対しての工数がかかります。
もしオウンドメディアを立ち上げるのだとすれば、メディア自体に魂を載せられることがとても重要です。単にコンテンツを発信するだけではなく、自社ないし編集長という立場の方自身が熱量をもって運営すること。そして、その役割を最大限に活用して他の施策に繋げていこうという想いがあればとても良いことだと思います。
現代において「メディア」が如何にしてマーケティング活動に寄与するのか
―― 先日、メディアエンジン株式会社を連結子会社化した※という貴社の発表を見ました。現在メディア運営の支援にも注力されているのでしょうか?
長谷川:「LISKUL」の運営で見えてきたものもありますし、ソウルドアウトとして中小・ベンチャー企業を支援していく中で、「コンテンツマーケティング」はマーケティング施策全体における重要なパーツだと思っています。
当社が培ってきたノウハウとメディアエンジンのノウハウを活かして、比較サイト型メディアの運用も開始しています。今後は、当社がメインとして据えていた「リスティング広告」のみならず、メディアグロースも軸としながらお客様の支援を行っていきたいと考えています。
近年のマーケティング業界では、プライバシー保護の観点での自制をしていく気運が高まってきていますよね。これにより、リターゲティング広告などの運用型広告でこれまでのように成果を出していく施策を実施することが難しくなると予測されます。
その中で、比較サイト型のメディアを始めとし、掲載いただけるお客様の成果に寄与できるメディア運営が、より一層重要になるかと思われます。
これまでお客様が出稿するリターゲティング広告の成果向上に貢献し続けてきたことは間違いのない事実。しかし、これが伸び悩むときの受け皿を考えた時、リターゲティング広告のみでは集めきれない、検討状況がもう少し浅いニーズのユーザーの集まる場が必要です。
そういったニーズのユーザーが集まるメディアを作り、その中でのコミュニケーションを最適化させていくことは、成果効率という面でも間違いなく良いのではないでしょうか。仮説を持ち、都度新たなプロジェクトとして進めていけば良いと思います。
もちろん、メディアの目的や立ち位置によりそれだけが正解というわけではなく、ブランディングを目的としたメディアも重要と捉えています。
※:メディアエンジン株式会社を連結子会社化。コンテンツマーケティングによる企業向けオウンドメディア支援のほか、ソウルドアウトグループのメディア事業を強化 | ソウルドアウト
―― 先程、リード獲得の媒体という目的に加えて2018年から外部の収益化という観点から「LISKUL」を運営されているというお話がありました。ターゲットなど根本的な面から方針を変えようという動きがあったのでしょうか?
長谷川:今後、上述でも触れたメディアエンジンの連結子会社化を経て、新しく始まったメディアビジネスのスキームを構築し、「コンテンツを軸としたマーケティング施策」の実験の場として、今後の「LISKUL」を考えています。そのため、ソウルドアウトとしては必ずしも「LISKUL」単独で大幅な収益化を目指す訳ではありません。
元々、「中小企業はコンテンツマーケティングをやるべき」と私は思っていて、自分たちが実績を保証できない施策をお客様にはオススメできないという想いが、「LISKUL」を立ち上げた当初からありました。
「LISKUL」は2018年から2年間、これまで以上に「収益化」を目指した期間がありました。この結果、認知獲得やブランド獲得寄りなオウンドメディアというより、収益メディアとしてのスタンスを取ることにより、実験的な運営からさまざまなものが見えてきました。
オウンドメディア運営だけでなく、BtoBという限定的な市場の中で収益メディアを実践するという両方の側面から運営した結果、ノウハウが蓄積され、第三者のメディアを支援するという形でサービスを提供できる算段が付いたわけです。
―― 自社のメディアを実験の場として、コンテンツマーケティングとして多面的な切り口、手段を持てるかを知ることが重要だったのですね。
長谷川:オウンドメディアという自分たちが運営する軸を持ちつつ、コンテンツマーケティングという広い視点を持つことが大切です。
私たちのように、リード獲得から収益化に方針を振ることもできますし、採用活動につなげることもできます。また、他社のメディアと協力することで新たなビジネスに展開することも可能。
それに、リード獲得を目的としているのであれば、新たにドメインを取得してメディアを立ち上げるよりも、認知されている媒体から取材を受けたり、その媒体への寄稿を行ったりするほうが費用対効果が高くなる場合もあります。メディア活用という考え方を広く捉えていけば、そういった選択肢もあります。
それに、メディアではなく製品サイトのほうがCVRが高くなるのは必然なので、外部媒体にコンテンツを掲載して製品サイトにユーザーを集めるほうが、認知獲得の費用対効果としては明らかにお得な施策です。
リード獲得とオウンドメディアを混同して考えるのではなく、「そのメディアを使って今後どのように事業を作り出していくのか?」という視点を持つことが大切です。
多くのメディアが消えゆく中、「LISKUL」の運営を続けられる理由
―― ブランドを築き、リード獲得から収益化まで実験的に運営できる「LISKUL」が存在する一方で、潰れてしまうメディアが多くあるのも事実です。現役で運営を続けられている背景には何があるのでしょうか?
長谷川:立ち上げ当初の目的こそリード獲得でしたが、その背景には「コンテンツマーケティングを提供していきたい」という気持ちがずっとありました。だからこそ、メディアを立ち上げはじめた当初、2つのメディアの立ち上げに失敗しているのですが、3回目のチャレンジとして「LISKUL」を軌道に乗せることができたのです。
今思えば、成果が芳しくない立ち上げ当初から、メディア運営をどう行えば、最終的にお客様に提供できるものになるのかということを考えていたように思います。
そして、「LISKUL」が軌道にのるキッカケとなったコンサルティング会社はとても有益なノウハウを持っていたんですね。
メディア運営自体で収益を上げられなかったとしても、運営をすることで、ノウハウが溜まっていくことは明白でした。なので、社内で編集部を立ち上げる時は、そういったベネフィットを伝えながら仲間を募りました。
単に通常の仕事と平行して記事を書いてほしいと伝えるだけでは、どうしても「やらされている感」を感じることもありますよね。だからこそ、本当に良いと思えるノウハウを仕事をしながら学ぶという観点で運営できたことが、メディアを続ける上でとても重要であったと振り返れば思います。
―― コンテンツを制作し、発信していくことで得られる成功体験というものもありますよね。
長谷川:書き手自身の市場価値を上げたいというのと、学びながら仕事をするというある種の公私混同のような状態でコミットできる状況を作れるのであれば、メディア運営というのはとても良いものになると思います。むしろ、「そのくらいやってやろう!」という気概がないと運営し続けるというのは難しいのではないかなと思います。
それに、各メンバーに2週間に1本でいいよと伝えている中で、責任者である私自身も伝えるだけでなく週1本ペースで記事を上げていくことで背中を見せることもしました。
コンテンツを制作することでユーザー理解が深まる。その他の施策における相乗効果
―― メディアを運営し続けたことによって、その他の業務との相乗効果はありましたか?例えば、「広告の運用と共通することを見つけた」のような。
長谷川:コンテンツを自ら作るようになってから、よりユーザーを見るようになりました。リスティング広告の運用だけを行っていると、どうしても数字だけで判断してしまいがちです。
広告の管理画面に表示される“数字の束”で見てしまうんですよ。例えば、個のユーザー行動というよりも、CPCが平均と比べてどうか、CVRはどれくらいなのかというように、ついユーザーのことが抜けてしまうことがあります。
キーワードに合わせて、そこから見えてくるニーズに応えるコンテンツを作る。これがコンテンツマーケティング全般において大切な要素です。例えば、検索結果の上位に表示されるようなコンテンツは、そのキーワードからユーザーのシチュエーションが発露しているものです。
「リスティング広告」というキーワードでGoogleの自然検索の順位を調べると、1~3位にランクインしている(2020年3月執筆時点)記事のタイトルは「リスティング広告とは」というコンテンツです。
ただし、このキーワードと数字だけを見てSEO・SEM施策に取り組んでも、読み手が潜在的に読みたいと思っているニーズを理解していないと、検索上位に位置する記事を作成することはできません。
キーワードから読み解くニーズ、つまり「ユーザーはこういうシチュエーションで、こういったキッカケで検索しているのだから、この訴求が自然だよね」という態度変容のイメージこそがコンテンツ制作には欠かせません。こうした意識を普段から持てるように、「LISKUL」を立ち上げたことで、以前にも増してユーザーを見るようになりました。
マーケターのキャリア形成としてのコンテンツ制作の意義
―― よりユーザーの視点で広告を運用できるようになったのですね。これはマーケターのキャリア形成を行う上でも重要な考え方だと思いました。
長谷川:定量と定性どちらの視点で考えることも重要ですからね。例えば、上記のようなユーザーの視点を持つことで、クライアントとのコミュニケーションも取りやすくなります。「CPCが◯◯円上がっています」とか「このカテゴリーでCVRを◯◯%向上させるには」と、マーケティング支援先のお客様に伝えても、コンテンツ作成の意図が伝わりきらないことがあります。
例えばですが、「ニキビ 治し方」というキーワードで検索しますか?
大人になると、おそらく検索しなくなるキーワードですよね。なぜなら、大人な過去の体験として「放っておけば治る」と知っており、自分たちが対象となる若い人たちではないと捉えているからですよね。
つまり、「ニキビ 治し方」で検索する人は、初めてニキビができた人やより短い期間で治したい人であると推測できます。そういうニーズに届けるクリエイティブのほうが、効果が上がるはず。
そうした読み手のイメージと伝えたい訴求軸を整理することで、マーケティングに取り組みたいお客様自身が、自身の施策をイメージしやすくなるんです。
キャリアという観点から言えば、やはり定量的な観点で根拠を示せる、かつ定性的な判断や訴求軸の整理ができるようになると、より成功確率の高い施策に取り組めるようになると思いますね。
―― 長谷川さん自身の体験を踏まえて若手マーケターに伝えたいメッセージはありますでしょうか?
長谷川:私がコンテンツマーケティングという考え方を知った時に、企業の一方的な発信だけでなくユーザーの事を考えて求めることに応えていくという考え方にすごく共感したんです。例えば、「HubSpot」の提唱するインバウンドマーケティングの考え方はまさしくそうですよね。
人並み外れた熱意というか、「『俺はもっとできるのに』という熱い想いをもっているのに自分の役割に終始している…」、というのは非常にもったいないじゃないですか。
それなら、会社の業務とは別に、noteやブログなどを書いて発信してみるとか。それを見た人から仕事を依頼されたり、スカウトがあるかもしれない。発信した時点で自分自身の市場が一気に広がるチャンスだと思います。
そういうキャリアの広がり方って、今のSNS時代だからこそありうると感じていて、それに共感する諸先輩方がさらに拡散して広めてくれることも現実としてあると思う。
どうせ誰も見ていないと思っていても、100記事くらいコンテンツを作ってみたら、1記事くらい誰かの目に留まるかもしれないですし、くすぶっているのであれば「やらないよりはやってみようよ」と思います。
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長谷川 智史氏 プロフィール(Twitter:@so_hasegawa)
1979年生まれ。株式会社オプトを経て、2008年株式会社ビービットに入社。コンサルタントとして大手企業やWeb系企業のWebマーケティング改善に従事。2012年よりソウルドアウト株式会社に参画。成果改善部門や自社メディア「LISKUL」立ち上げを経て、2018年上席執行役員就任(現任)。2020年、メディアエンジン取締役就任。主にメディアのM&AおよびM&A後のグロース業務を統括。
<取材・編集=カイ マサユキ(@Kai_MSYK)、文・写真=臼杵 優(@yuu_da4)>
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臼杵優