ソーシャルメディアSNSインタビュー

「個人の発信」は時として組織や著名人の影響力を凌駕する。ホットリンクCMO 飯髙氏が語る企業のSNS運用の新しいカタチ

臼杵優
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ベンチャー企業から数千、数万人規模の大企業まで、「企業が情報発信を行う」ことはもはや珍しくない時代。かつては、広告やメディア掲載、そして、広報活動など企業から生活者への“一方向的”な情報発信が主流であったが、SNSの普及によりインタラクティブなコミュニケーションを通したWebマーケティング活動を行う時代へと突入している。

SNSの中でもとりわけTwitterでは、企業の公式アカウント運用に限らず「個人」の発信が企業のマーケティング活動に繋がっている事例が登場してきている。その草分け的な存在が、株式会社ホットリンク 執行役員CMOである、飯髙悠太氏(@yutaiitaka)。自著の‪『僕らはSNSでモノを買う』はSNSマーケティングの新法則を解き明かす内容として人気を博しており、2019年‬11月末時点では第5刷が決まっている好調さだ。

今回は、企業がTwitterを活用したマーケティング活動において、誰に向けてどのような活用を行っていくことが重要なのか、飯髙氏自身がTwitterを利用し、企業の支援を行っている事例を踏まえつつ、お話を伺った。

 SNSマーケティングのプラットフォームとしてTwitterを選ぶ理由

飯髙悠太氏|インハウスマーケティングラボ

─ インハウスでマーケティングを進める企業では担当者のリソースが限られている場合があります。SNSを活用してユーザーとの接点を作りたいと考える場合、Twitterの他にもFacebookなどもさまざまなSNSが候補として考えられますよね。そこで、飯髙さんはどういった経緯で現在Twitterに注力されているのでしょうか?

飯髙:
純粋にTwitterが好きで「会社として」だけでなく1ユーザーとして使い続けているっていうは置いておいて(笑)僕自身2011年頃からFacebookを使ったマーケティング支援の企業で働いていた時代があります。その当時のFacebookはタイムラインが時系列順で、いわば現在のTwitterのような環境となっていました。ただ、Facebookの仕様が日々アップデートされ続けたことで、僕自身の関心も、自然とTwitterへと移り変わるようになりました。

それこそ、人っていうのは「承認欲求」が誰にでもあるものですよね。その中で「一方的に発信される情報」を受け取り続けるよりも、「何かを発信してリアクションが来る」ことのほうが、承認欲求は満たされやすいですよね。当時Twitterを使っていた理由って、振り返ればそこが一番大きいと思う。正直今はそんなことすら思ってないですが(笑)。

もちろんFacebookでも、「いいね」がもらえたり「コメント」が付いたり、双方向的な活用が意識されたりと、アップデートが進んではいますが、どちらかと言うと「セルフブランディング」の機会として活用されているなという印象を持ちます。でも、その情報というのはFacebookの「友達」に向けられていたり、クローズドなグループであったり……狭く深くというのは出来ても、その共有範囲を広げていくためには、Twitterのほうが相性がいいと思っています。

飯髙悠太氏|インハウスマーケティングラボ

─ Webマーケティングメディア「ferret」の創刊編集長を務めていた時代は「Webマーケティング全体像としての支援」という印象を持っていましたが、現在SNSを主なフィールドとして活躍されている理由はどこにあるのでしょうか?

飯髙:
実は、支援している領域という意味ではそこまで大きく変わっておらず、むしろ支援できる幅が広がっているとさえ感じています。「支援の着眼点として“SNS”が軸となっている」という言い方をするとわかりやすいかもしれません。例えば、「ferret」を運営する株式会社ベーシックでferretの創刊編集長、執行役員として働いていた時代は、企業とユーザーの接点として「オウンドメディア」が軸となっていました

オウンドメディアを基点としたマーケティングにおいて、全体像から棚おろしをすることによる支援を行ってきました。けれども、SNSから着目して施策の棚卸しを考えると、プロダクトやサービスのマーケティング支援にとどまらず、経営戦略として、企業のブランディングを支援できる可能性に気づきました。

今までは「◯◯ オススメ」のような検索キーワードからの流入を経由して企業やサービスの認知を得ていたところから、SNSという入り口を持つことによって「サービス名や企業名」のアカウントを知っていることで初めて認知をし、SNSユーザーがGoogleなどで直接サービス名や企業名を検索しやすくなります。

こうして「指名検索」が増えることは、企業にとっても興味関心があるユーザーからの直接のアクセスが増えている、非常にエンゲージメントが高まっている施策であると考えられます。こうして、SNSを利用して獲得したアテンションの方が、結果として良質なケースも多く存在します。

こうした施策は売上向上に繋がり、企業やサービスの「世界観」もユーザーに届けやすくなる。そして、口コミとしてSNS上で伝播することがあります。

SNSを通じ“良質なアテンション”を獲得することが施策の第一歩

飯髙悠太氏|インハウスマーケティングラボ

─ 具体的にSNSによって企業のマーケティング活動がプラスに転じた事例はありますか?

飯髙:
とあるベンチャー企業の支援をした時の話です。その企業はもともとSNS運用もしており、Instagram、Facebook広告やGoogle広告への出稿なども行っていましたが、「世界観の構築」に課題を持っていました。そこで、僕らがSNS支援に入ったところ、3ヶ月半でサービスに対する口コミ数が7倍近く増加し、今では広告費の大半をTwitterに費やしています。顕在ユーザー向けのみでなく、潜在ユーザー向けに広告費を使っても、売上を落とすことなく、結果として口コミも増えたことから、認知度向上にも繋がりました。

“企業のSNS”という入り口を作り、そこで良質なアテンションを獲得することで、実際に購入が促され、サービスに愛着を感じたユーザーが自然とSNSで口コミを発信する。これがいわゆるUGC(User Generated Contents)ですよね。そして、「口コミとしてサービスの認知が広まる」というわかりやすい事例だと思います。それに、ただSNSだけで口コミが広がって終わりっていうわけではなく、SNSで反響があったのと比例して、指名検索数が明確に上昇しました。

Googleなどで検索されづらい商材名であったとしても、SNSを起点として検索行動へと導くことも可能になるわけです。

Webサイトや広告だと、閲覧した人へのメッセージとしては「私達は、誰々の悩み(問題)を解決するサービス/企業です」という伝え方になってしまいます。しかし、その商材を手に取るであろう人が複数の悩みや問題を抱えていた場合、一方向からのメッセージだけでは、利用検討者ごとに響くメッセージを伝えることは難しくなります。

SNSという場であれば、その商材を気に入ったユーザーが自ら口コミを発信する。そして、そのユーザーと同じ(興味や関心で分類される)クラスターに向けて、認知を広げることが可能となります。それぞれ異なるクラスターごとにアテンション獲得につながる口コミが発生すれば、さまざまな切り口から、悩みや課題の解決に繋がるメッセージを届けることができるようになります。こうして、単一のメッセージだけでは超えられなかった壁を、SNSを起点として超えることができます。

「企業公式アカウント」から「社内のメンバーのアカウント」に広がるSNSマーケティングの可能性

飯髙悠太氏|インハウスマーケティングラボ

─ 近年、企業アカウントによるSNS運用にとどまらず、ホットリンクさんの様に、企業で働くメンバーが個人アカウントを積極的に運用してブランディングに貢献している例もあります。「企業のSNSマーケティング」の方法はどのように変化しているのでしょうか?

飯髙:
企業が公式アカウントを作って情報発信を行うこと自体は良いことだと思います。ただ、口コミを発生させるという意味合いにおいて、個人アカウントを運用する意義もあると感じています。

公式アカウントの運用だと、「誰」が発信しているのか見えづらいですよね。そこで投稿を続けていても、従来の広告のように企業の一方向的な情報発信と、さほど変わりません。仮に面白い投稿をしてバズっても、数千数万フォロワーを抱えるインフルエンサーとコラボして発信しても、本当に届けるべきユーザーへと届かないことだってありますからね。

僕らが考えているのは、従来型のインフルエンサーではなく、「クラスの人気者」のような存在になること。例えば、とある学校にA君という人物がいたとして、彼はクラスでも人望が厚く、友達が30人くらいいると仮定します。

そんなA君が「このテレビ番組めっちゃおもしろいよ」と友達に伝えたら、クラス中で流行ることって、皆さんもありましたね。A君の友達の中には、隣のクラスや他校の友達にオススメする人もいるかもしれない。そう考えると、学校という枠組みを越えて、近隣の地区で流行り始めることも考えられますよね。

─ 同じクラスターに居る人が熱心にオススメしていたら、たしかに惹かれますよね。

飯髙:
そうなんです。それに、A君はホンネで面白いと感じたからオススメしているのであって、有名人が「オススメ」と宣伝しているのとはまたニュアンスが異なりますよね。その人にとって「良い体験」をしたから人にモノゴトを伝えたくなるのが本質であって、それは業種業態に問わず、SNSを通して起こりうることだと思うんです。

なので、僕らがSNSの支援をする時に必ず伝えているのが、「アカウント運用は基本クライアントさん主体にしたい」こと、「無理なキャラ付けはせず、一日◯◯回投稿や内容を議論する」ということ。フォロワーを集めたりキャラクター化するよりも、まずは基盤を作るために自ら運用してもらうことを大切にしています。

なぜなら、何万フォロワーと母数が増える価値よりも、良質な投稿をしてそこに集まってくれた100人のフォロワーのほうが、個人的には価値が大きいと思っているからです。先程のクラスの人気者の話が、まさにその好例です。

企業の公式アカウントよりフォロワーの母数や直接的な影響力は少なかったとしても、メンバー個々人がSNSで呟き、そこに紐づくクラスターに向けた情報が届くことにより、直接的にはすぐに売上へと繋がらなかったとしても、仕事における何かしらのキッカケとなったり、組織のイメージ作りに貢献することは少なくありません。

そもそもですが、SNSや他プラットフォームを活用する理由って、売上をあげるためですよね?

それなのに、軸とするマーケティング手法がSNSになった途端、フォロワーやエンゲージメントが軸で語られちゃう場面が数多く存在します。

SNSを活用する目的、そのための手段を考えれば、取り組むべきことは非常にシンプルなはずですし、本質的な「ヒト」と「ヒト」のコミュニケーションがないがしろにされてしまうのは、本当に勿体無いことだと思います。

投稿し続けて得られた「成功体験」が継続と成果に繋がっている

飯髙悠太氏|インハウスマーケティングラボ

─ ホットリンクさんのメンバーの方々のアカウントは、皆さん個性的でそれぞれが発信に取り組んでいらっしゃいますよね。

飯髙:
ホットリンクの場合は、個人の発信でも特にキャラ付けをしておらず、みんな自然とTwitterで呟いていると思います。ただ、個人の発信と会社の発信が、なんらかの状態で結びついているくらいですね。

例えば、SNSを軸としたマーケティング支援に強みをもつメンバーは、自身の専門性に絡めた発信をしています。また、SEOやWeb解析に強いメンバー、インサイドセールスを担っているメンバーなど、それぞれが自身の仕事に絡んだ発信を自由にしています。とはいえ、ガチガチにコンセプトを作っているわけじゃないんですよ(笑)

─ しかし、企業によっては「社員に自由にSNSで発信する文化」を作るのが難しいこともありますよね……

飯髙:
禁止しているような企業であれば……それは出来ないでしょうし、仕方がないですよね。ただ、今の時代において個人のSNS利用を禁止していたとしても、当人が匿名で発言していたり、アカウント名を変えて発信することはできますよね。もしかすると、こうした利用が進んでしまう方が、結果的にリスクとなることだって考えられます。

SNSの活用に対して前向きでなくても可能な状況であれば、まずは実際に手を動かし、投稿し始めることが大事だと思います。そこで、チームの中から一人でも成功体験を掴む人が生まれれば、自然発生的に「Twitterをやってみよう!」という意識が自然と芽生えてきます。

自分で発信を繰り返すことで、会社にとって好影響を与えるような仕事に繋がったり、多数のリアクションをもらえたりしたら、もうそれは運用している人自身が最高のユーザー体験をしているわけです。そこに価値を感じたら、組織的に「こうします」とルールを引かなくてもTwitterを使い始めるケースが結構多いのではないかと思います。

─ 飯髙さん自身が思う「マーケティング施策としてのSNS」についての考え方を教えて下さい

飯髙:
僕自身がTwitterを好きだし、SNS活用を支援する仕事に携わり、先ほどの例であるような成功体験をしているからこそ、マーケティング領域の軸としてSNSを捉えることができていると思います。SNSを活用することで、企業が提供するサービスや商品そのものの良さをSNSの利用ユーザー、ひいては将来的にはお客様となりうる人たちに伝えることができると感じています。

ただし、必ずしもSNSを活用しない方がタイミングとして良い場合もあるし、どの方法を選ぶかっていうのは、その人やその会社にとって必要となる手段を選べば良く、SNSはマーケティングの可能性を広げる1つの選択肢であると思っています。

それぞれの施策には得手不得手があるし、「SNSだけやればOK!」という考え方は、SNS領域の支援をしているからといって、僕自身絶対に言わないです。商品やサービスをいかにスマートな形で未来のお客様に届けるか、その全体像を考えた上でのマーケティング施策を、SNSの切り口から取り組んでいきたいです。

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飯髙悠太氏|インハウスマーケティングラボ

飯髙 悠太氏 プロフィール(Twitter:@yutaiitaka
株式会社ホットリンク 執行役員CMO。広告代理店やスタートアップ企業で複数のWebサービス・メディアの立ち上げ、100社以上のコンサルティングを経験。2014年4月、「ferret」の立ち上げに伴い株式会社ベーシックに入社後、「ferret」創刊編集長、執行役員を務め、2018年12月末に退職。2019年1月より現職となる。2019年より株式会社ホットリンクで執行役員CMO(マーケティング責任者)を務め、支援企業のSNSコンサルティングを実施。

Interview:Kai Masayuki (@Kai_MSYK
Edit&Photograph:Yu Usuki (@yuu_da4

この記事を書いたライター
臼杵優

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