スタートアップインタビュー

2年で新規市場を創ったecbo社の戦略とサービス設計

高谷みう
ecbo_eyecatch

ecbo株式会社 代表取締役社長 工藤 慎一(@conansite
1990年生まれ マカオ出身 日本大学卒。Uber Japan株式会社を経て、2015年、ecbo株式会社を設立。2017年、カフェや美容室、郵便局など多種多様な店舗の空きスペースを荷物の一時預かり所にする世界初のシェアリングサービス「ecbo cloak(エクボクローク)」の運営を開始。ベンチャー企業の登竜門『IVS Launch Pad 2017 Fall』で優勝。

店舗の空きスペースを活用した、荷物預かりシェアリングサービス「ecbo cloak(エクボクローク)」。2017年1月にサービスを開始してから、約1年でJR東日本、JR西日本イノベーションズやメルカリなどから資金調達を実施。(調達金額非公開)およそ2年間で全国47都道府県、導入店舗数1,000店舗以上の展開を成し遂げた。

今回は、そのecbo cloakを運営するecbo社の代表工藤慎一氏に、その急成長の背景にあった戦略と、今後の動きについて伺った。

ecbo社が急成長を実現した2つの背景

具体的なユーザー数や売上をあえて公開していないecbo社だが、JR東日本やJR西日本、日本郵便などと業務提携を行なっていたり、すでに全国47都道府県に導入されていたりとサービス開始から約2年間で、急成長を遂げている。その背景にあるのは、「ニーズの強さから起こった口コミ」と「PRによる信頼獲得」の2つだという。

ecbo工藤氏

工藤氏:

まず、そもそも荷物を預けるというニーズが大きかったというのが拡大につながった背景のひとつです。そしてそれを救うサービス自体が世の中になかった。真に欲しいものは誰かに教えたいので、口コミをベースに広がりました。

さらに、口コミをより広げるための施策としてプロモーションコードの発行を行いました。友達に紹介すると、初回利用が無料になるというクーポンを用意し、Twitterなどソーシャルメディアでも簡単に拡散できる仕様にしました。これは以前Uber Japanに所属していた際にうまくいっていた施策なので、自分たちのサービスにも転用しました。

そして2つ目は、メディアの活用による信頼獲得です。

荷物預かりサービスは世の中にない新しいサービスだったので、第三者であるテレビや新聞などのメディアに紹介していただいた方が、世の中に受け入れてもらえるのではと考えました。広告に予算をかけて一方的に自社からメッセージを発信しても、信頼をしてもらえませんので。

地道なリサーチと圧倒的な失敗の末、口コミが発生

ecbo工藤氏

口コミが広がる以前に、まずは口コミを”発生”させる必要がある。その端を発した施策は何だったのだろうか。サービス開始初期の段階ではできるだけお金をかけない、ということを意識していたecbo社。成長へのきっかけを掴んだのは、地道なリサーチといくつものトライアンドエラーの末にたどり着いた施策だった。

工藤氏:

ecbo cloakは、国内よりもニーズの高い外国人の中で、まずは口コミが広がりました。

事前のリサーチで、外国人旅行者は旅行先で、自分たちの時間をロッカー探しに使いたくないという課題感が強いということ、そして台湾や香港などではいいものがあるとすぐにシェアする文化がある、ということがわかっていました。

そのため、海外のインフルエンサーや海外メディアの中で、日本を紹介しているなど相性が良さそうなところにプレスリリースを送り、興味を持ってもらえたところに取材をしてどんどんアプローチしていきました。すると、一つ記事が出ると、そこから見事にどんどん広がっていきました。

ただ正直な話、いろいろな施策をやってその方法が当たっただけです。反応が全くないことも多々ありましたし、失敗の方が圧倒的に多かったです。

また前提として、口コミを広げる前にまずはプロダクトの磨きこみをしました。
10,000人のユーザーを作るよりは、100人のファンを作るということの方が重要だと考えています。

100人が触って、ストレスないよね、良いプロダクトだよね、という状態をいかに作るか。中途半端なプロダクトに広告費をかけてユーザーを増やしても、結局悪い口コミが広がってしまいますので。

「テレビ映え」を狙ったサービス設計とPR戦略

ecbo工藤氏

国内においてはテレビや新聞を活用するPR戦略をとったecbo社。
実はそこにも工藤氏がUber Japanで経験した成功事例が転用されている。

工藤氏:

基本的にインターネットサービスだと、テレビの映り方として「インターネットの画面」しか映らないので「テレビ映え」しません。

ただ、ecbo cloakはオンラインとオフラインを行き来するサービスです。オンラインであるアプリ上では簡単な操作で予約や支払いができ、オフラインのカフェでは店員さんに荷物を渡してこんな風に預ける、などのような感じです。オンラインとオフラインを行き来するため、テレビの画面上では立体感のある見え方になります。

実はサービス設計時にも、「メディアはどんな画で取材したいんだろう?」というのはイメージしながら取り組んでいました。それもUberでの成功体験から至った考え方です。Uberの場合、スマホでアプリを開いて、ボタンをポチッと押したら自分がいる場所に車がくる。それが新鮮で画になるし、さらに日常的に世の中の社会課題を解決するサービスになっている。だからこそ、メディアが反応しやすかったのだと思います。

市場を創るときに必要なことは、論理よりも情熱と共感

ecbo工藤氏

ecbo cloakはこれまで世の中にないサービスであり、市場を創っている先駆者といえる。その中で大きなハードルとなったのは、荷物の受け入れ先であるオーナー側の「新しいこと」に対する心理的なハードルだ。そのハードルを超えることができたのは、目指している世界観と情熱の共有により共感者を増やすことだった。

工藤氏:

世の中にない新しいサービスということで、使っていただくには心理的ハードルを乗り越えなければいけませんでした。荷物を預かってくださる飲食店のオーナーさんにしても「店で荷物を預かるの?」と、難しい反応。そこに対して、単純に荷物を預かるだけではない、自分たちが思い描く世界観を一生懸命に伝えて乗り越えました。

外国人が数十万円かけて日本に訪れてくれているのであれば、できるだけいい経験をして欲しい。それにも関わらず、彼らはコインロッカーを探すという苦い経験をしています。しかしスーツケースを1個でも預かってもらえたら、その人たちがハッピーになる。そしてその人たちが、こんな風にいい経験をしたと、またあなたたちの所に戻って来てくれるかもしれない、というのをパッションを持って伝えました。

そこでこういう風に副収入が得られます、集客になります、など一方的にメリットを伝えるだけでは店舗オーナーは新しいサービスの導入に動いてくれません。
どういった世界を一緒に作ろうという話を、情熱を持ってしっかりと伝えることが重要です。

これからはマイクロインフルエンサーの活用施策や、CMも視野に

ecbo工藤氏

サービス開始から市場が出来上がるまでは、できるだけマーケティングにお金をかけずに、プロダクトの磨き込みを意識してきたecbo社。大型の資金調達を行い、これから積極的にマーケティング施策を打つという同社は具体的にどのような施策を進めているのだろうか。

工藤氏:

今はオンラインの施策も行っており、オンライン広告は基本的に網羅しています。オフラインでは、ポスター広告、のぼりを立てるなども行なっています。
ポスター広告は直接コンバージョンに繋がるものではないですが、認知施策として有効だと考えています。コインロッカー自体やその周辺に貼り、”ロッカーを探している”というシチュエーションに合ったクリエイティブ、メッセージを入れるようにしていますね。

また、お金をかけないマーケティングで重要だと思ったのが、地味ですが店頭に貼るステッカーです。例えば食べログでも、飲食店の入り口にステッカーが貼ってありますよね。ああいったように、ecbo cloakのステッカーが貼ってあると、「ここにもあそこにもecbo cloakがある!」、と認知に繋がります。

そして今後のメインの施策としてはインフルエンサーです。海外で台湾、香港、韓国に関して言うと、Vlog(※)を配信しているマイクロインフルエンサーを活用する施策がとても費用対効果が高いです。そして、ある程度認知度が上がったらCMをやりたいと思っています。

※Video Blogの略で、動画を使ったブログ

「シンプルに面白い」オウンドメディアと、その先にある効果

最近、ecbo社はecbonist(エクボニスト)というオウンドメディアを始めた。目指すのは「シンプルに面白いメディア」であり、その先に、SEO、PR戦略、採用、さらにエモさがある。

工藤氏:

プレスリリースなど発信活動をしていく中で、記事となって言語化されるのが社長の僕の言葉だけになってしまっていました。でも会社を作っているのは僕一人ではないし、もう少し内容に肉付けして発信したい、という思いがありました。
そこで、会社の歴史書のようなイメージで、これまで何があって、どんな人がいてその人が何を思って何を解決して、ということを深掘りしてメディアに残しています。

そうすることで、例えば採用にも繋がるし、SEO観点でユーザー獲得にもなり得ます。さらに、組織が大きくなった時に、「初期はこんなことあったね」と振り返ることができます。それってエモい(感情が動くこと)ですよね。メルカリのmercan(メルカン)などもそうだと思うのですが、単純に面白いです。

ecbonist

ecbonist(エクボニスト)」。メニューに置かれているテーマ軸はVISION、TIPS、SERVICE、PEOPLE、ABOUTの5つ。VISIONではプレスリリースの概要と共に、その内容にさらに情報を肉付けした記事が掲載されるなどしている。

工藤氏:

またecbonist(エクボニスト)は、ユーザー獲得などのKPIは置いていません。
最初はSEO観点で記事を作ろうという話もありましたが、それだけだとつまらないよね、と。やるからには、面白いメディアにしたいです。

オウンドメディアがPR戦略の一つにもなっているということで、実際に成果として他社メディアに取り上げられた記事を教えていただいた。メディアに取り上げられるための秘訣は、社会課題の文脈に乗せ、かつ季節や行事など時事に絡ませたことだった。

工藤氏:

GWを狙った記事は、メディアに取材していただくことができました。
例えば、以下が実際の記事です。

これは、GWの課題をみんなでブレストして、メディアに取り上げられることを意識して記事を作成しました。社会問題としても、「どのお店にいっても人手が足りない」という課題があったり、混雑が苦手な人が持つニーズがあります。その解決策を記事にし、メディアにアプローチしネタとして取り上げてもらう。

サービス開始から2年くらい経って、ecbo cloak単体で取材されるのは難しくなってきているので、社会課題や時事、関連サービスなどのネタと抱き合わせでテーマを区切って取り上げてもらうようにしています。

JRなどの大手企業との提携、その背景にあるもの

ecbo_JR九州

ecbo社のこれまでの成長を語るうえで、JR東日本・西日本、郵便局など大手企業とタッグを組んだことは外せない。スタートアップ企業が大手企業と組み、成長の後押しとなった背景にあるのは大手企業側の変化と、地道な営業活動だという。

工藤氏:

僕らがやったことは、微々たるものです。大手企業が僕らのようなベンチャー企業を相手にしてくれるようになったのは、先方が姿勢を変えてくれたから。
昨今、オープンイノベーションということで大手企業がVCを作ったり、アクセラレータープログラムを作ったりしているからこそ、我々がそこにうまく乗っかることができた。

ただもちろん、全く私たちが努力していないということはなくて、自分たちのサービスがどの業界の課題を解決できるんだろうというのはずっと探していました。JRさんなど電鉄系は、サービスを始める前から協力できるのではと考えていましたし、業界トップから組んでいくとその後が続きやすいと思ったので意識していました。だから、いろんなルートを使って彼らと繋がるように、インバウンドだけでなく自分たちで営業していくのはすごく重要かなと思います。

シンプルなサービス設計が、少数精鋭での価値最大化を実現する

ecbo工藤氏

今のecbo cloakを作り上げているチームは、社員やインターン、業務委託を含めて30人。(2019年5月現在)少数精鋭での事業展開を実現している組織体制やツール、採用などにどのような工夫をしているのかが気になっていた。
しかし工藤氏から返ってきたのは、「シンプルなサービス設計が肝」という回答だった。サービス設計時に、理想のサービスだけを求めるのではなく、今後進んでいく少子高齢化という社会背景や、社員の幸せをも意識していたその思慮深さに驚かされた。

工藤氏:

少数精鋭で拡大するために一番重要なことは、プロダクトがどれくらいシンプルか、ということではないでしょうか。サービスを成り立たせるにはどういう人がいればいいか、何があればいいかという話です。

僕らでいうとecbo cloakという「サービス」「店舗」「ユーザー」の3つだけなんです。ecbo cloakというサービスを作るチーム、店舗を開拓するチーム、ユーザーを集めるチーム、ただこれだけなんです。ここにフォーカスする。なんでもやってしまうと、それだけチームやプロジェクトが大きくなり、力をかけるところが分散してしまいます。サービスを作る時点で、できるだけ小さく、自分たちはどこに注力するべきなのかをすごく意識した方が良いと思います。

実は以前、ecbo storageというデリバリー付きのトランクルームサービスを行っていました。その時はメンバーが4人しかいないのにリソースがあらゆることに分散してしまっていたんです。

倉庫を借りて、倉庫内の人がどうやって荷物を出し入れするかというオペレーションを組んで、さらに荷物を運ぶ人を雇わないといけない、車を買わないといけない、配送ルートを決めないといけない、ユーザーを集めないといけない、倉庫を拡張する時どうしようなど、考えることとやることが多かったんです。

できるだけプロダクトをシンプルにしてやることを減らし、組織をシンプルにすることが大事です。今後の時代背景を考えると、少子高齢化が進むことによって、現役で働ける世代が年々減っていきます。例えば人件費が一人あたり年間500万円かかるとして、10人だったら5,000万円になってしまいます。それを、一人に5,000万円支払ってサービスが成り立ったら、その仕組みの方が採用コストもかからないし働きがいがあるじゃないですか、そういうオペレーション作りです。

Instagramがfacebookに約810億円で買収された時に、社員は13人しかいませんでした。一人当たりが生み出す価値が、だいたい60億円ぐらいです。そうした実例があるので、会社の価値が大きくなるに比例して、必ずしも人が増えないといけないわけではないと思うんですよ。

ecboは2025年までに世界500都市への展開を目指しています。
100人で1兆円の企業をつくれたら面白いですね。 

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この記事を書いたライター
高谷みう