半年で300万PVから1,000万PVへ!ボクシルを急成長させたグロースハックの取り組みとは?
- 高谷みう
マーケティング施策の一つとしてコンテンツマーケティングに取り組む企業が増えている。今回は、コンテンツマーケティングで成果を出しているスマートキャンプ社の取締役、林詩音(はやししおん)さんにお話を伺った。
スマートキャンプ社は、2020年には世界市場が9.7兆円にのぼると言われているSaaS市場において、SaaS比較・検索サイト「BOXIL(ボクシル)」を運営している。月間300万PVに到達後、さらに1,000万PVへと目標を掲げ、達成。その集客の9割を担っているのはオウンドメディア「ボクシルマガジン」と「ビヨンド」だ。急成長の背景にあるコンテンツマーケティング戦略の立て方や取り組みはどのようなものだったのだろうか。
300万PVから1,000万PVを目指すための戦略設計
2015年4月にリリースしたボクシル。ボクシルマガジンを主要な集客経路とし、リリースから約3年で月間300万PVへ到達。十分に集客力があったサービスだが、2018年6月に年内に1,000万PV達成という目標を掲げ、目標より1ヶ月おしたもの2019年1月に1,100万PVを達成した。
まずは「どこを」「どのようにして」「どのくらいの工数で」1,000万PVを達成するのかを落とし込み、具体的な改善対象を明確にするところから始める。
林氏:
弊社は少数精鋭でメディアを運営しています。今回の1,000万PV達成も数人のチームで実現していますが、限られたリソース、限られた期間で目標を達成するために、まずはデータ分析をし、その結果を元に計画を立てるところからはじめました。
上記を含め、今回の件で話す内容はほとんど当たり前のことですが、その精度や実行が強みだったと思っています。
PVを伸ばす方法は、リライトで既存記事を伸ばすか新記事を作成してアドオンするかの2通りです。それぞれの方法で取りうる施策をピックアップし、伸ばせるだろうPVを試算するとともに、それにかかる工数を計算することで工数対効果を算出し、施策実施の優先順位をつけていきました。その結果をもとに、工数対効果が高いものから取り組んでいくことで効率的にPVを伸ばしていきました。
①リライト:既存の記事の中で、工数対効果よくPVが伸ばせるだろう記事をリストアップし対策
- ・クリック率が低い記事のタイトル改善
- ・検索順位が5位以内で1位ではない記事を1位にするようリライト
- ・検索順位が11位以下(2ページ目以降)の記事を10位以内(1ページ以内)にするようリライト
②新記事作成:自社のドメインパワーが強い領域のキーワードに注力
- ・過去に作成した記事の中で上位表示が早かったキーワードの類似キーワードを選定
- ・上記キーワードの中でもトレンド性の高いものを選定
Search ConsoleやGoogle Analyticsを使って上記分析に必要なデータを抽出し、エクセルなどで分析して数値の試算をし、最終的には数千ある記事の中から数百記事が改善対象になりました。
弊社は既存記事だけでも数千あるので、まずはリライトだけで達成する方法を検討しましたが、試算の結果リライトだけでは不可能だとわかりました。そこで半年後の1,000万PV達成にむけて、新記事作成とリライトの行動計画を組み、施策をスタートしました。
林氏:
SEO以外の視点で行なった施策として、「Beyond(ビヨンド)」の活用がありました。ボクシルマガジンはSaaSに特化しているため読者が限られていますし、SEO重視のメディアです。一方ビヨンドはSaaSに限らずビジネスパーソンの興味関心をひく情報を提供しており対象読者の母数がより大きく、ソーシャルでのシェアやGoogleニュース、キュレーションアプリにも掲載されるなど拡散の幅が広いメディアです。
ビヨンドでトレンド性の高い記事やキャッチーな記事を作成してバズらせることにより、短期的なPVアップとドメイン力強化を狙いました。そういった記事は被リンクを獲得してくれますし、サイテーション(ネット上で言及されること)によってドメイン力にプラスの影響を与えてくれます。
上記のような記事はドメイン力強化の文脈で一定数作り続けていましたが、効率を考え年間まとめなどバズ記事を作りやすい12月に特に集中して作成しました。
正しい戦略と愚直にやりきる力が明暗を分ける
コンテンツマーケティングに限らず、課題に対して正しい戦略を描くことができなければマーケティングは成功が難しい。正しい戦略づくりに取り組むことを大前提とし、コンテンツマーケティングにおいて成果に繋がるかどうかの明暗を分けるのは「愚直な実行力」に他ならない。採用においては、スキルや能力だけではなく、愚直にやり切れる気質があるかどうかを基準としている。
林氏:
メディアをグロースさせるのに必要なのは、「①正しい戦略」と、「②愚直な実行」の2点だと思っています。両方が必要なのですが、SEOで成果を出そうとした時につまずきがちなのは、「愚直な実行」のほうではないかと思っています。
また弊社はSEOの最新トレンドを適切にキャッチアップしていけるよう、複数の外部のプロフェショナルの方々と定期的に情報交換しています。
そういったプロフェッショナルの一人から、弊社の強みは愚直に実行できることだと言われたことがあります。「同じことを教えてもうまくいく会社といかない会社がある。うまくいかないケースのほとんどは、ノウハウを伝えても実行されないことだ。」とも言われ、私も実行の重要性を改めて認識しました。
実際やってみるとよくわかりますが、SEOで勝てる記事をつくることは非常に手間のかかることです。作ったら終わりかというとそうではないケースも多く、ヒートマップを見ながらリライトするなど、上位表示させるためには手間暇かけて記事を育てていく必要があります。そこをやりきらないことには成果がでませんが、やりきることは簡単ではありません。
自社メディアを作ることを考えるなら、手間暇かかる実務を愚直に実行できるメンバーを集めることをおすすめします。弊社でも、採用時にはその時のスキルよりも、素直に愚直にやり切れる気質があるかどうかを重要視しています。
A/Bテストの企画はエンジニアが主導
メディアのPVを増やすこと以外に、コンバージョン数を増やす施策としてメルマガでのリード掘り起こしやサイト改善など、成果に繋がる可能性があるものはどんどん試しているという。その中で特徴的だったのは、一般的にマーケターが行なうことが多いA/Bテストをエンジニアが企画から実装、分析まで一貫して行なっていることだった。
林氏:
メディアのPVを伸ばすこと以外に、リードへのメルマガ送付やEFO(入力フォーム最適化)などのCVR改善も行なっています。
サイトのA/Bテストについては、エンジニアチームが企画から実装までを行ない、日々サイト改善が行われています。A/Bテストは一度に要件を詰め込むと何が原因かわからなくなるので要件毎に切り分けて実施する必要があり、結果がでるのにも時間がかかります。なので常に何かのA/Bテストが走っている状態になっています。
エンジニアはデータに強いメンバーが多く、SQLなどを駆使して数字を分析しながらデータドリブンにサイト改善をしてくれています。ツールはSplit(スプリット)というgemを利用していて、単独ページではなくWebサイト全体のテストをしています。
エンジニアがサイト改善の企画実行をする体制は非常に合理的だと思っています。改善の企画があがったとき、その実装工数のイメージがすぐにつくので、工数対効果を考えて適切に施策の優先順位づけができます。また企画が実現可能かどうかもすぐに判断できるので無駄がありません。さらに数字に強いメンバーが多く、SQL等を駆使して複雑な分析をさらっとこなすケースも多いので、施策のスピード、精度が非常に高くなるメリットがあります。
弊社は数字の改善や売上向上に興味をもつエンジニアを採用していますが、そういったエンジニアがいることも弊社の強みだと思っています。
「社会の非効率を無くす」というミッションの実現を追求
これまでは自然検索がメインチャネルだったボクシルマガジン。検索を行うユーザーはすでに課題や悩みが明確になっている顕在層であるとのこと。さらなるメディアの成長のために、今後は潜在層へ向けたアプローチもとり、ミッションである「テクノロジーで社会の非効率を無くす」を実現していく。
林氏:
2018年にテレビCMを放送したこともあり、指名検索もじわじわと増えてきています。また、採用や営業時でもテレビCMを知っていてくださる方は多く、認知が増しているという実感があります。サービスサイトなどで発信するメッセージを「クラウドサービスが簡単に見つかる」趣旨のものから「明日の仕事を自動化しよう」に変更したのも利用していただけるターゲットを広げる狙いがありました。
今後、理想である1to1のマッチングにより近づいた状況をつくれるように、記事やサイトの改善などWeb上の施策は引き続き愚直に取り組んでいきます。
一方で、ユーザーさんやベンダーさんにより多くの価値を提供する事が私達の仕事だと思っているので、そこに貢献することであれば、これまでやってきた領域にとらわれず様々なチャレンジをしていきたいと思っています。
林 詩音(はやし しおん)氏 プロフィール
スマートキャンプ株式会社 取締役
新卒でワークスアプリケーションズにエンジニアとして入社。その後中小企業で新規事業の立ち上げに従事。スマートキャンプへ参画後は複数回のサイトリニューアルを行い、2年程でリード数を100倍以上に伸ばす事に貢献。現在もさらにサービスを伸ばすべく、様々な角度からグロース施策を実行中。
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- この記事を書いたライター
高谷みう