戦略スタートアップ

僕はスタートアップマーケの救命医。高梨大輔が語るスタートアップ × インハウスマーケ論

金森悠介
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スタートアップは常に制約との戦いだ。そんなスタートアップにおけるマーケティングに抜群の知見を持つのが高梨大輔氏だ。

同氏はリジョブの元取締役副社長CMOを経て、現役でスタートアップの実務支援を手がける。「お金も時間もないスタートアップにとって、僕のようなマーケター経験者は医者でいうと、外科や皮膚科などの専門医ではなく、救命医のようなものです」と語る。

スタートアップが取り組むべきマーケティング施策から、採用すべきマーケターの条件、そしてマーケティング力に対する独自の見解まで、現役のスタートアップ支援者であり実務家として活動する高梨氏ならではの視点が明かされた。

支援先スタートアップ限定でゼミを主催する理由


高梨氏がゼミ長となり主催するゼミで使用されている実際の資料の一部

高梨氏が特に得意とする企業規模は、月間のマーケティング予算が100万円以下のスタートアップだ。この規模のスタートアップでは「いかに少ないお金で、コスパよくやることが必要」だと語る。

また、予算が少ないと打てる施策の数は限られているため、自然とやれることの施策が似てくる。そこで、支援する複数のスタートアップで知見を共有すべく、2018年末頃から『Marketing Insider』という紹介制のクローズドゼミを主催している。

高梨氏:僕がゼミを主催する理由は、スタートアップがマーケティング活動で悩まないようにするためです。自分もスタートアップのインハウスマーケターとして失敗した経験があるからこそ、一番支援したいのです。そのためにも、ピュアな想いを持つスタートアップ一社だけではなく、スタートアップそれぞれが世界を同時多発的に良くしていけば、世の中がさらに良くなるでしょう。水の波紋が広がっていくイメージですね。今年は、多くのスタートアップを支援することに注力しているので来年以降はより世界が良くなるように、「変化の大きさ」にこだわってやっていきたいです。

それと、このゼミで僕は教える側ではないんです(笑)。「ゼミ長」として学ぶ側でもある点はユニークかもしれません。僕は救命医的なスキルセットなので疾患のポイントはわかるけれど、特定の疾患に対しては専門医には敵わないんです。だから、僕が信頼する専門医的なマーケティングスペシャリスト(SEO,広告,SNS…)を教授として登壇してもらえるよう頑張って呼ぶ、これがゼミ長としての僕の一番の仕事です。

創業期のスタートアップが注力すべきマーケティング

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施策決定時のポイント

ゼミ運営などを通し、現役で月10社限定のマーケティング支援を行う高梨氏いわく、創業期のスタートアップが注力すべき施策は「コスパの高い施策」だと語る。

高梨氏:コスパの高い施策とは、コスト(投下リソース)が低く、かつ想定効果が高い領域がコスパの高い領域です。創業期のスタートアップはまず、施策を決定する際にコスパの高い領域に注力することがおすすめです。具体的にはCVに近いポイント(ex.入力フォーム最適化、CTAボタンの改修)から改善しましょう。

いわば、創業期のマーケターは医者、それも救命医が良いです。医学も永遠に終わりのない学問ですが、マーケティングも同様でとても幅が広く、“血が出ているなら、すぐに止血できる”救急救命医の役割を果たすことができる人が求められます。例えば、せっかくサイトへの流入があっても、CVの一歩手前であるフォームからの離脱率が高いなら、まずEFO(入力フォーム最適化)に取り組むべきですよね。そこで止血することできれば、別の施術もできるようになるわけです。

一方で、スタートアップのマーケターにおすすめできないのは「ツール先行でツールを導入すること」だという。

高梨氏:何か目的があるならさておき、最初からツール先行でツールを導入すると、やりたいことをツールに合わせる必要があります。例えば、「とりあえずMA(マーケティングオートメーション)を導入しよう!」となったものの、使いこなせなかったり、そもそも不要だったりするケースはよくあります。

「施策の個数」をKPIにおく

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高梨 大輔氏

マーケターはCPAやCVRなどの数値をKPIにおくことも多い。ただ、スタートアップのマーケターが持つべきKPIは、そうした数値ではなく「施策の個数」にしてみるのがおすすめだという。

高梨氏:例えば、1週間で5個の施策に取り組むことをKPIに置き、それを実行しきるのがおすすめです。ノウハウが最初溜まっていない状態でも、経験値を積んでいけば施策の精度が上がっていくからです。また、施策の解像度を上げるために僕のようなマーケティング支援者の存在がいます

僕自身、リジョブ時代にグロースハックチームを作り「この施策をやれば、CVRが何%上がる」などと分析をしていた経験がありました。しかし、分析をしている間に2週間が過ぎていた経験も多く…。その失敗経験から、細かい分析よりも先にスタートアップのマーケターは取り組む施策の個数をKPIに置くことを推奨しています。

本当に採用すべきマーケターの条件

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支援者側として社外から多くのスタートアップのマーケティング組織を見てきた高梨氏。「スタートアップには、マーケターとして凄い経歴を持つようなスーパーマンは希少である」と触れた上で、スタートアップはどんなマーケターを採用するべきか語ってくれた。

高梨氏:サービスの初期フェーズはカスタマーサポートやテレアポなどもやるため、純粋なマーケティング活動のみをするわけではありません。その意味で、マーケターの経験は必ずしも必要ないと考えています。

むしろ、スタートアップが採用すべきマーケターには条件が3つあります。

(1)サービスや会社のカルチャーとマッチしているか

サービスが好きで、マーケティングがやりたいなら良いのですが、マーケティングがやりたくてどのサービスにするか選ぶ、といった人を採用するとギャップがあるためお互い辛くなります。

(2)経営のKPIを肌感で因数分解できる人

ビジネスの上位のKPIは、売上や利益など。その因数分解先がサイトのトラフィック数×CV数などに当たります。こうした因数分解を肌感で理解できる人はマーケターに向いています。というのも、経営は全てが繋がっており、上下を繰り返すことになるからです。例えば、広告運用を逆算していくと、最終的には経営へと行き着きますし、逆算ができる人はいわゆるCMO人材になりやすいです。

(3)文章を読むことが苦ではない人

「知っているか、知らないか」で大きな差があるからです。イメージは、「パズルのピース」です。10ピースしかない状態で絵柄を描こうとしているマーケターと、1万ピースあるマーケターがいたとします。当然、1万ピース持っているマーケターの方が良いです。どう描くかというと、1万の方が良いに決まっています。無理してインプットしようとしている人はいつか天井が来てしまうので、文章を読むことが苦ではないマーケターの方が成長します。

「マーケティング力」=「友達を作る力」

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マーケターを採用する選択以外に、実は経営者がマーケティングを学ぶことが最もコスパが高いという。では、初心者のマーケターは何から学び始めれば良いのだろうか。

高梨氏:企業成長のために、マーケティングはずっと必要です。そのため、実は経営者がマーケティングを学ぶことが最も投資対効果が高いです。経営者は、自社サービスについて毎日本気で考えているからこそ吸収するスピードも違います。

だからこそ、マーケターを採用する際も、スキルより企業やサービスへの共感度を見ることが大事です。仮にマーケスキルがない場合でも、短期的に僕のようなマーケティングのアドバイザーを入れて施策の解像度を上げて、ナレッジが溜まったタイミングで内製化していくやり方もあります。

どんなことから学べばいいかというご質問を多くいただくのですが、もしWEBサービスを運営しているならば、初心者向けのSEO本を読みましょう。SEO業者を見分ける力もつきますし、ずっと資産になります。

また、スタートアップのマーケターには実務に使える本を読むことがおすすめです。特に初心者におすすめなのは、いちばんやさしい〇〇シリーズです。中級者には、「小さな会社 儲けのルール」や「沈黙のWebマーケティング」、「リードビジネス打ち手大全」などがおすすめです。まずは、読書を通して最低限の知識をつけて各種のマーケティングスキルにおいて‘‘偏差値50”を目指しましょう。ちなみに、僕自身は海外のマーケティングメディアなどからも情報収集をしています。

ただ、マーケティングは学ぶ量が本当に多いため、全てを覚えることはできません。そのため、マーケティングに詳しい友達や知り合いに教えてもらうことが必要になります。その意味で「マーケティング力=友達を作る力」と言い換えることができます(笑)。もちろん、そのためにはこちら側がギブし続けるために学び続ける必要があるので、学ぶことそのものがライフワーク化していきますね(笑)。

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高梨大輔氏 プロフィール@dtakanashi
ビタミン株式会社CEO・CMO。1984年生まれ。静岡県出身。大学3年からベンチャー業界に。美容・代替医療業界の大手HRメディアを運営する、株式会社リジョブの創業メンバー/元取締役副社長/CMO。創業から約10年間に渡りマーケティング・エンジニアリング・デザインをゼロから立ち上げ、責任者として統括。2014年、株式会社リジョブが株式会社じげんへ約20億円でのM&A、ロックアップ期間を経て退職。2015年12月、ビタミン株式会社を設立し、スタートアップ専門のマーケティングサポートを行う、強みは元インハウスマーケターからコンサル転向のため内部の葛藤や痛みを理解できる点。その他、エンジェル投資家としても活動中。

この記事を書いたライター
金森悠介