実録! SmartHR インハウスエディターが広報未経験で挑んだ指名検索数グロースハック
- 藤田 隼
こんにちは。株式会社SmartHRの藤田 隼です。
前回までの記事では、オウンドメディアでの取り組みを中心に紹介してきました。
実は私、2019年7月より、同社マーケティンググループのメディアユニットのチーフとなり、あわせて一部の広報業務も担当してきました。
広報・PRとしてはほぼ未経験ではあるのですが、インハウスエディターやWebマーケティング等の経験を活かして、広報KPIの可視化、ならびに同年7月から11月までの間に指名検索数 +30% 以上の成長に寄与しています。
この数ヶ月間の取り組みを時系列で整理しつつ、その際の工夫ポイント、模索する中で得られた知見を、それぞれ言語化してみます。ぜひご参考いただけますと幸いです。
※おすすめ記事:Web広告のインハウス化(内製化)ガイド。代理店委託から内製化移行を成功させるために。内製化のメリット・デメリットも解説
【前提1】強みとして活かしたこと / 活用ツール / 成果の推移
目線合わせとして、前提条件に触れておきます。
強みとして活かしたこと
- Webマーケティング経験を活かした広報KPIの可視化
- 執筆編集経験を活かしたコンテンツ制作(オープン社内報、プレスリリース等)
活用ツール
- 広報・PR効果測定ツール「PR Analyzer」(ビルコム)
掲載数・想定リーチ数・ツイート数の効果測定および競合調査が目的。 - 「Search Console」(Google)
指名検索数の効果測定が目的。Google スプレッドシートのアドオンにて使用。
※ 本稿で触れる「指名検索数」「ツイート数」などは、すべて上記による計測に基づくものであり、世の中の統一的な見解や、確実性を保証するものではないことを予めご了承ください。
時系列ごとの取り組みや出来事
まずは、この約半年間の取り組みについて時系列で整理します。
なお、隅付きカッコで番号を振っているものは、私も関わりが深かった取り組みです。その際に工夫したことや気付きを、マーケティング・編集の観点から詳細に後述します。
2019年6月〜2019年7月
- マーケティング上の広報KPI体系化【1】
- 広報・効果測定ツールの導入検討
2019年7月
2019年8月
- 「オープン社内報」運営体制の強化【2】
2019年9月
2019年10月
- TVCM配信(10月14日〜10月31日)
2019年11月〜12月
- SmartHRの世界観を伝える販促物の制作・編集
【1】マーケティング上の広報KPI体系化
広報領域を担当するにあたり、評価指標を定義されていなかったため、広報KPIの体系化から着手しました。
自分の強みとして認識しているもののひとつに、数字的感覚を苦にせず、因数分解や逆算思考を持てることがあり、この過程はとてもワクワクしました。
(前提)SmartHRのマーケティング組織と受注までの係数
まず、前提としてSmartHRのマーケティング活動はこのように体系化されています。
続いて、SmartHRにおける受注までの仕組みを係数ごとにざっくりブレイクダウンするとこのような形になります。
※ 「IS」:インサイドセールス。
※ 一言にリードといっても、MALやMQL、SAL、SQL……など細かく分かれますが、ここでは簡略化して示しています。
広報が「指名検索数」の最大化を担い、接触数向上を図る
このうち、SmartHRにおける潜在層のマーケティングとして、広報・PRユニットが「接触数」の最大化をひとつのミッションとして担っています。
中でも、この半年、特に重要視してきた指標が「指名検索数」です。
SmartHRの成果報酬型広告を除くオンラインMQL(Marketing Qualified Lead)獲得数のうち、約7割の流入元チャネルがオーガニック経由からのリード獲得となっています。
(指名検索は、いわゆるリスティング広告の指名買いも後押しします。)
流入数やリード獲得数を増やすには、SERPやLPの改善を図る必要がありますが、こちらはオンラインユニットが担っています。
そのため、現在(※)広報としてはその「オーガニック経由からの流入」の前段階にあたる「指名検索数」をアウトカムの目標として設定しています。計測元はGoogleの「Search Console」です。
(こちらにYahoo!をはじめとした他の検索エンジンは含まれないため、あくまでも指名検索数の増減を目安として、施策を検証するための参考値として活用しています。)
※ 2019年12月時点での指標であり、フェーズに応じて優先順位は変わる可能性があります。
「アウトカム」「アウトプット」にブレイクダウン
ではアウトカムたる「指名検索数」を最大化させるにはどうすべきか?
これを「アウトプット」、「アクション」へとブレイクダウンし、KPIに落とし込みました。(計測しているのはアウトカムとアウトプット。具体的な行動にあたるアクションはかなり細分化されるため、こちらでは割愛します)
・アウトカムKPI
指名検索数
・アウトプットKPI
掲載数、想定リーチ数、ツイート数
(いずれも「PR Analyzer」で計測)
ちなみに、指名検索数と掲載数の相関関係をみたところ、相関係数「0.44」、指名検索数とツイート数は相関係数「0.31」と多少なりの相関が見られました。
強い相関ではありませんが、これまで暗中模索だった広報まわりのKPIを考えれば、十分参考になる値だと言えそうです。
このように、マーケティングモデルの中から広報の効果測定やアクションを体系化していきました。
【2】「人事労務 研究所」発足と「オープン社内報」の体制強化サポート
体系的な広報成果と効果測定フローを確立しつつ私も携わったのが、「人事労務 研究所」の発足サポートでした。
人事労務 研究所の役割は、「コーポレートの労務」と「プロダクトの労務」の両側面にあります。前者は企業内におけるいわゆる労務で、後者は労務プロダクトのプランニングとイメージしてもらえればよいかと思います。
人事労務 研究所 所長の副島は、同研究所発足と所長就任以前は、VPプロダクトプランニングとして、「SmartHR」に携わっていました。しかし「株式会社SmartHR」の成長、従業員の急激な増加とともにコーポレートの労務の重要性が高まってきました。
そこで、豊富な労務知識を活かし、「コーポレートの労務」も「プロダクトの労務」も加速すべく立ち上がったのが「人事労務 研究所」です。
「人事労務 研究所における取り組みはコーポレートやプロダクトのみならず、人事労務にまつわるサービスを取り扱う会社自体のブランドにもつながるのではないか」という、VP of Marketing の岡本のアイデアから、広報ユニットもこの立ち上げプロジェクトに参画し、サポートしました。
実は、この発足リリース、キックオフを行った2019年7月4日から、わずか2週間で公開までこぎつけるスピード勝負でした。と言いますのも、2019年7月は、資金調達を含む5本のプレスリリース配信が既に決定しており、リリースの間隔などの兼ね合いから、自ずと7月18日にリリース日が絞られました。
少し補足すると、8月という選択肢もあったのでしょうが、この8月も既に3本のプレスリリース配信が決まっていたほか、中旬はお盆休みシーズンでもあったため、先送りすることなく、可能な限り最速でのリリースを選択しました。
その際の布陣は以下のとおりです。
プレスリリースや立ち上げ直後の発信を含む、当プロジェクトのリリースまでの全体ディレクションを広報のたけべともこ。
ストーリーの骨子作成を副島、そのサポートや編集を私。
そしてクリエイティブをコミュニケーションデザインの渡邉惇史、撮影とリタッチをオフラインマーケティングの荒木が担う、各部門から多様なメンバーが集まる体制でした。
研究所設立後、加速された「オープン社内報」の発信
先述したような労務プロダクトを扱う会社としてのブランディングにおいて、人事労務 研究所の発足は「オープン社内報」のコンテンツ多様化への寄与にも期待がありました。
一方で課題もありました。「オープン社内報」を牽引する主任編集者の不在です。
そこで、実質的に運営をリードする役割としてたけべともこが副編集長に就任。
部署としてのオーナーシップは人事部門が握っていますが、会社のブランディング自体に寄与すること、また、主にSNSを中心としたコンテンツの拡散は指名検索数にも結びつき、ひいてはサービスサイトへの流入にも間接的につながることから、マーケティング・広報が携わるメリットもあるため、人事との協働体制となりました。
この取り組みは、広報KPIを体系的に整理できていたため踏み込めたことです。
また、社名=サービス名であることのメリットを強く感じた瞬間でもあります。なぜならスタートアップとして貴重なリソースを、一挙に会社⇔サービス双方の認知やイメージ向上に活かせるのは、採用面でもビジネス面でも効率的だからです。
結果的に、本稿執筆時点で計20本を公開する、安定的な配信体制が築かれました。
「オープン社内報」で取り組むインナーマーケティングの追求
私も一編集部員として参画しています。編集を担当した「オープン社内報」における人事労務 研究所の具体的な発信内容には、以下のような記事があります。
・「シン・半休制度」はじめました
・夜に面接がある日は、出社時間を調整できるようにしました
・今日はみんなに月末締めの申請の話を聞いてほしい。
SmartHRが、自ら向き合う労務課題や解決方法を探る様子、そこに隠れた企業フィロソフィなどを言語化した内容となっているほか、制度や業務フローの整備のみならず、それを社内に浸透させるための発信方法を追求しています。
ちなみに「オープン社内報」は採用オウンドメディアとして取り上げられることも増えているのですが、ガチの社内報をオープンにしている位置づけのメディアです。
そのため、編集の際に気をつけていることとして、社外の読者に向けて最低限読みやすい文章にすることを心がけつつ、たとえば「お疲れさまです」で書き始めるなど、あくまでも目線や文体はSmartHR社員を意識しています。これらトンマナも人事と広報のタッグで整備してきました。
その結果、「オープン社内報」で発信する内容のテイストを掴んできた、社内読者による記事ネタの提供も活発化しつつあります。
ちなみに、僭越ながら私自身も下記の記事で筆をとりました。
・【2019年11月度】社員のメディア掲載・登壇・発信まとめ
【3】無償提供枠「¥0プラン」プレスリリース執筆
SmartHRは、2019年10月1日に無償提供枠「¥0プラン」の対象従業員数上限を、30名に拡大しました。
これに先立ち、9月18日にプレスリリース「クラウド人事労務ソフト「SmartHR」が無償提供枠を30名まで拡大 〜 手続き書類の作成を効率化し、日本の人事労務改革を後押し 〜」を配信。当プレスリリースの執筆を担当しました。
前提要件
2019年4月より働き方改革関連法が順次適用開始され、特に2020年4月からは中小企業も含めて時間外労働の罰則付き上限規制が設けられることもあり、人事労務改革が求められるタイミングにあります。
そんな中、日本の人事労務改革を後押しするべく、「¥0プラン」の拡大を決定しました。日本企業の大半が30名未満の中小企業ということもあり、社会的意義や話題性の大きなプラン変更です。
「¥0プラン」で導入を開始した企業さまが、人事労務の効率化とその先の働き方改革、ひいては生産性向上によって企業競争力が高まり、企業成長とともに企業規模も拡大されれば、双方にとってハッピーなサクセスストーリーとなります。
一方で、ややもすればバラマキに誤解されてしまう可能性もゼロではありません。そのため、1社でも多くの導入を目指すべく情報を拡散させつつも、「¥0プラン」拡大の背景を正しく、なおかつわかりやすく伝えることで、全方位的に共感を生む必要がありました。
執筆時に心がけたこと
上記の要件を踏まえ、ただただプラン拡大の概要を伝えるだけでなく、拡大の背景やそもそものSmartHRの生い立ちや想いとして、以下のようなメッセージを含め、プレスリリースを執筆しました。
- 「¥0プラン」拡大で、日本の人事労務改革を後押ししたいこと
- そして煩雑さが否めない社会保障制度をフレンドリーな存在へと変えたいこと
詳しい内容はプレスリリース本文をご覧いただければ幸いです!
プレスリリース公開後の反響
結果的に、プレスリリースのみで数万PVに達したほか、SNSでも大きく拡散されました。
9月18日は、デイリーで1,000件以上のUGC数を記録しています。
また、『CNET Japan』や『クラウド Watch(Impress Watch)』などのメディアにも、ご掲載いただきました。
具体的な成果
これらの取り組みの成果を可視化し、紹介します。こちらの図をご覧ください。
まず、大型資金調達のあった2019年7月はツイート数、指名検索数ともに大幅増加。
8月は大きなニュースやリリースはなかったものの、上旬にBusinessInsiderJapanやダイヤモンド・オンラインなどの大手メディアで露出したほか、社員にフォーカスしたインタビュー記事が拡散されるなど、SNS上で資金調達後の話題熱量が保たれた結果、高水準の指名検索数となっています。
さらに、例年指名検索数の高くない9月についても、「¥0プラン」の対象従業員数上限拡大のプレスリリースが拡散されたことでツイート数はギネスを記録。指名検索数も高水準をキープし、前年同月比で約2倍となっています。
10月は、7月以降の指名検索数高安定に加え、TVCMの放映により、6月と比較して +30% 以上となっています。
年末調整シーズンに入った11月は、顧客の従業員さまから多くのツイートが寄せられ、さらなる伸長となりました。
【補足】
- ・「指名検索数」は、「SmartHR」「Smart HR」「スマートHR」を含む検索クエリの積み上げ。それぞれ「ログイン」を含む場合を除いています。
- ・「ツイート数」は、ツイート内容またはシェアしているURL内に「SmartHR」「Smart HR」「スマートHR」を含む場合に計測されています。
- ・公式の社名・サービス名は、「SmartHR」および「スマートHR」ですが、誤表記の「Smart HR」(スペースあり)での検索も含めて計測しています。
- ・Googleでの指名検索数につき、その他の検索エンジンは含まれません。
- ・「ツイート数」のみ縦軸が異なります。また「PR Analyzer」での計測の都合上、2018年12月以前のデータは含まれていません。
- ・2018年4月、2018年10月、2018年11月、2019年10月はテレビCMを放映しています。
所感とまとめ
一部ではありますが、この半年に携わった広報・PR領域の取り組みで、以下のようなことを感じました。
- ・多様なシーンでプロジェクトマネジメント能力が求められる。
- ・戦略性をもって動いていく上では、計数管理力が求められる。
- ・自ら筆をとることも多々ある上に、編集力が問われることも。
- ・ここでいう編集力には以下のようなものがあります。
– 社会文脈の編集
– 可読性の編集
– 場や人の編集
上記を踏まえると、マーケターやマーケ領域で活躍するインハウスエディターが、広報領域においても活躍する余地は大きいのではないでしょうか。
特にベンチャー・スタートアップでは少人数体制であるケースが多く、限られたリソースの中で事業成果を最大化させるためには、広報とマーケティングの協働によるシナジーが不可欠と言っても過言ではなさそうです。
SmartHRにおける、広報・PRユニットの次なるステップとしても、指名検索に加え認知や好感度、態度変容に繋がっているかなどをトラッキングしていく予定で、新設のブランドマーケティングユニットとの連動が重要となります。
長々と様々なことを書きましたが、広報業務は1人ではなし得ないものばかりであり、社内外問わず多くの方々の協力や連携が必要です。相互に頼り、頼られる関係を作る上でも、大前提として人間力が非常に重要だなと感じた半年でした。
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- この記事を書いたライター
藤田 隼