広告代理店組織作り

楽しくもしんどい「広告運用」という仕事を、組織の力でもっとマイルドに。キーワードマーケティング社に聞く、強い組織をつくる8の秘訣

Shirofune広報担当
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インターネット広告運用者は市場価値が高く転職市場では引く手あまた。自社で育成しても数年で離職してしまうケースも多く、組織維持に課題を抱える代理店は多い。

Google広告の台頭初期から広告運用に携わってきた株式会社キーワードマーケティング。同社の瀧沢 貴浩氏は取締役COO(Chief Organization Officer)として同社の組織づくり、若手人材の定着などに取り組み、結果として広告運用者の離職率を2年間で4分の1以下に抑えることに成功した。また同時にブランディングと情報発信を強化することで自社採用サイト経由の応募者が大幅に増加し、新規採用の面でも大きな成果をもたらしたそうだ。

そこで本記事では、瀧沢氏に同社COOとしての2年間の取り組み、強い組織の作り方の8の秘訣についてお話を伺った。

株式会社キーワードマーケティング 取締役COO 瀧沢 貴浩氏(Twitter:@080fe121

愛知県名古屋市出身。新卒で入社した会社で幼児教育支援事業のデジタルマーケティング責任者を務めた後、広告運用を極めたいと2016年7月キーワードマーケティングに入社。入社半年で九州佐賀支社の立ち上げに立候補し、佐賀支社長に就任。オペレーションセンターの立ち上げを成功させる。東京本社に戻った後、プレイングマネージャーとして月間2,000万円以上の広告費を運用しながら、広告運用チームのマネジメントに関わる。マーケティングチーム、インサイドセールスのマネージャーを経て、2019年4月より取締役COOに就任。

組織づくりにコミットする“COO(Chief Organization Officer)” 

私は2019年4月に取締役COO(Chief Organization Officer)に就任し、組織づくりの責任者として様々な施策を行ってきました。一般的にCOOのOはOperationを意味し、業務遂行の責任を担いますが、弊社ではOをOrganizationと置き、組織づくりに関する計画立案と実行責任者と定義しています。

就任当時、大きな課題となっていたのが若手人材の定着でした。

インターネット広告の運用経験がある人は、市場価値が高くすぐに転職できてしまうため、弊社でも離職率がなかなか下がらないという状況が続いていました。

若手人材の定着」というミッションを与えられた私は、市場価値の高い仕事に就きながらも、それでもキーワードマーケティングで働きつづけたいと思ってもらえる組織づくりに取り組んできました。

キーワードマーケティングで働くことを心から誇りに思える環境づくりには、社内外からの評判を高める【ブランディング】が重要です。しかし、ブランディングだけが先行してしまえば、組織の一部が「オレたちはすごい!」と盛り上がっているだけの空虚なものになってしまいます。

心地よい労働環境に投資するための売上を伸ばすには【マーケティング】の強化も必要ですし、志高い仲間を集め長く働いてもらうための【採用と定着】への取り組みも欠かせません。

この3つの要素をバランス良く実現するために、マーケティング部の立ち上げや、中途採用の責任者としてカジュアル面談やオンボーディングなども同時進行で取り組んできました。

組織づくりは広告運用と同じ。エンドユーザーの気持ちを理解することから始まる 

COOに就任して最初に行ったのは、全社員との面談でした。私自身、広告運用の仕事をする中で、サービスを受け取るエンドユーザーにどれだけ寄り添えるかを大事にしてきました。

広告経由でお問い合わせに至ったお客様の声や、普段からお客様とコミュニケーションを取っている営業さんへのインタビューなどから、お客様の持つ悩みや不満を整理し、そこに具体的なメリットとなるメッセージを当てることが運用型広告の正攻法のひとつです。

こういった考え方の素地があったので、組織づくりでも同様に「誰がどんな悩みを持っているのか」を直接聞きに行くことから始めました。全社員と1:1の個別面談を行い、社員一人ひとりの意見を聞いた上でどういう組織をつくるべきか考えていきました。

この全社員へのヒアリングが起点となり、2019年度は19個に及ぶ施策やプロジェクトを実行しました。

目指すは、様々な人間関係で遠慮なく頼り合うことができる組織

冒頭でもお話した若手人材の定着、離職率の問題は積極的に解決しなければならない大きなテーマでした。

そこで初めに行ったのがCOOとしての所信表明でした。

「キーワードマーケティングで3年以上勤めたメンバーは、どんな会社でもやっていける。需要もめちゃくちゃある。それでも『キーマケで働き続けたい」』思える組織づくりを推進していく」というメッセージを発信しました。

その上で、上司・部下・同僚など、様々な人間関係で遠慮なく頼り合うことができる組織を目指すため、その信頼関係のバロメーターとして「心理的安全性」を導入しました。

さらに、心理的安全性を提唱したエイミー・エドモンドソン教授による「心理的安全性を脅かす4つの不安」を紹介し、組織としてあるべき未来像を説明しました。

弊社では専門家をお招きしてワークショップを開催し、ゲームを通して心理的安全性への理解を深めたり、学術的な4象限の話をして目指す組織像の認識をすり合わせました。

横軸が責任、縦軸が心理的安全性です。心理的安全性は高いもののやっている仕事の責任が低いと、ぬるま湯状態で組織が成長しません。目指すべきは仕事の責任が程よく重く、心理的安全性が高い状態です。ここが組織として理想の状態であることを強調しました。

心理的安全性を、あえて若手メンバーにもインプット。遠慮なく仕事を進められる社風を目指す

心理的安全性を脅かす4つの不安は、マネージャーなど上司の立場によって引き起こされると考えられがちですが、あえて新人も含めた全社員にインプットしました。上司が意識することの裏返しとして、部下の立場の人が意識すべきことを伝えていきました。

具体的には「キーワードマーケティングにおいて4つの不安を感じる必要はない」と繰り返し話すようにしてきました。どれだけ伝えても新卒や若手の立場からすれば、上司に言いにくいことや遠慮してしまうことは出てくると思うので、そういう気持ちは持たなくていい、ということ。マネージャー層には部下に不安を感じさせない行動をとるよう伝えています。

アクションとしては大した話ではないのですが、語気や言葉の使い方、表情、質問をされたら必ず顔を向けるなど、ちょっとしたことです。日常で表れる些細な態度こそが大切だと伝えてきました。

これによって仕事を進める上で遠慮なく進められる社風、風通しの良さが実現できてきたように思います。

COOとしての責任と権限が明確だから最後までやりきれる。就任2年で離職率は以前の1/4以下に

こうした取り組みが功を奏し、取締役COO就任2年目となる2020年度の離職率は2〜3年前と比べて1/4以下まで改善しました。コロナ禍という外部要因により人材の流動性が低かったという事情は少なからずあるとは思いますが、それでもかなりいい数字が出せたと思います。

一連の取り組みを振り返ってみると、COOとしての責任と権限が明確に与えられたことで、新しい施策を次々と計画・実行できたことが大きかったと思います。

明確な責任と権限の範囲において、自信を持って施策を実行することができ、組織全体にインストールされるまで責任を持つことができるポジションを用意いただけことは成功の大きな要因だったと思います。

施策をやりっぱなしにせず、毎週行う全体ミーティングでは「今みんなに意識してほしいのはこれ」と繰り返し共有をしつづけました。実行し、振り返り、結果を共有するというサイクルを発信しつづけることで社内の意識が少しずつ変わっていったように思います。

ブランディングと採用オウンドメディアを通じた情報発信で、中途の応募件数が大幅に増加 

若手人材の定着と同時並行で課題感を持って進めていたのが、中途採用者の獲得です。

中途採用の大きな方針は下記の2つです。方針を固めることで新規採用者は増えていくと考えました。

  1. 自社のブランディングを行い、キーワードマーケティングという会社自体の価値を上げる
  2. 採用オウンドメディアを新設し、情報発信を強化する

一つ目のブランディングについては、キーワードマーケティングという会社を新しい見せ方にしていく必要性を感じ、ミッションの更新と会社HPのリニューアルを行いました。

「僕たちが扱う運用型広告にはこんな素晴らしい可能性があるんだ」ということを、社外だけでなく、社内のメンバーにも改めて考えてほしいという想いを込めて「誰かの人生の、分岐点になる広告を。」というミッションを作りました。

このミッションはお客様や同じ業界の経営者さん、中途採用への応募者の方など、幅広い方々から好評をいただきました。

二つ目の採用オウンドメディアについては当時、「mercan(メルカン)」や、「ナイルのかだん」といった採用オウンドメディアが話題になっており、求職者に向けたオウンドメディアの可能性を感じ「キーマップ」(https://keymap.kwm.co.jp/)をリリースしました。

ありがちな社員インタビューではなく、読み物として学びのある内容や、質の高い広告運用の裏側などを公開することで、求職者に留まらない幅広い方に読んでいただけるメディアに成長させることができました。

今では「キーマップ」を通じて直接カジュアル面談のエントリーがくるようになりました。

オリジナリティの高いノベルティで話題を作り、カジュアル面談につなぐ

新規採用数の増加施策として、カジュアル面談を開始したこと、その起爆剤として「IKEUCHI ORGANIC」さんとコラボタオルを制作したことも効果的でした。

カジュアル面談は選考に進む前に行う面談です。本格的な選考に進む前に候補者が希望するキャリアに私たちが応えられるかを確認し、その一方で、私たちが抱える課題感を共有する場の必要性を感じていました。

中小企業なので課題が全くない訳ではありません。正直なところ、完成された組織ではない事実をしっかりお話する意味でも、選考の前段階としてカジュアル面談を実施することにしました。

ただ、「カジュアル面談が可能です」と言ったところで応募していただけないので、「カジュアル面談にきていただいた方に、IKEUCHI ORGANICとのコラボタオルをプレゼントします」という仕掛けを行いました。

そもそも企業ロゴが入ったノベルティなんて使わないよね?という発想から、あえて本当に欲しいノベルティを作ろうとスタートしたプロジェクトです。

転職とは、ある日突然思い立って行動を起こすものではなく、緩やかに検討しだんだんと意欲が醸成されていくものです。ですからキーワードマーケティングという会社名を覚え、思い出してもらうためにもノベルティは日常に浸透していくものがいい。なおかつよくあるボールペンや充電器といったものではなく、本当に価値のあるもの、もらって嬉しいものという発想で作ったのがIKEUCHI ORGANICさんこだわりのタオルです。

ノベルティのタオルに対する思いもしっかり文章化してキーマップに掲載したところたくさんの方に話題にしていただきましたし、実際にカジュアル面談の際にお渡しするととても喜んでいただけました。

カジュアル面談という仕組みを作り、それに対して起爆剤となる施策を用意したことで新規応募者の獲得にインパクトのある施策となりました。

カジュアル面談により中途入社者の早期退職はゼロに

カジュアル面談は応募者増以外にも様々な効果をもたらしました。

カジュアル面談を経て応募の意志が固まった方は、より志望度が高い状態で選考に進んでくれるようになりました。逆に面談を通して両者の求めるもののズレに気づくこともありました。

私たちが提供できる環境と、候補者が求める環境のズレです。両者が納得した形で「選考には進まない」という意思決定ができるようになりました。

また、中途入社者の早期退職問題にも大きな効果をもたらしました。入社前は候補者が求めるものを確認し、私たちが提供できる環境、抱えている課題を共有します。

入社後は3ヶ月、半年、1年、1年半、2年というタイミングで個人面談を行い、入社前とのギャップを改めて確認する場を設けるようにしました。入社後半年を過ぎてからは業務的なギャップ、自分ができると思う仕事と期待される仕事とのギャップを確認していきます。

こういった取り組みにより中途入社者がギャップを感じにくく、仮に感じてもそのギャップを埋めにいけるようになり、結果として中途入社者の早期退職はゼロになりました。

「広告運用」という仕事を、組織の力でもっとマイルドにしたい。
目指すは広告が大好きなメンバーが心地よく働き続けられる組織

強い組織をつくるため、この2年間に行った様々な取り組みをお話しましたが、その根底には変わらない思いがあります。

それは「楽しくもしんどい『広告運用』という仕事を、組織の力でもっとマイルドにしたい」ということです。これはCOO就任時に所信表明として伝えた言葉で、今でもこれが私の役割の本質だと思っています。

広告運用の結果は良くも悪くも数字ではっきりと出てきます。お客様の大切な広告費をお預かりし、どれだけビジネスに貢献できたかを数字で常に評価されつづけるという重圧に時に挫けそうになるのも事実です。

それでも、広告が大好きでお客様に喜んでもらうことが大好きなメンバーが少しでも心地よく働ける環境を作っていきたい。それができるのがCOOというポジションだと思っています。

2年間、インターネット広告運用という仕事を少しでもマイルドにしながら事業を成長させるために行った様々な種まきが今、芽を出してきています。離職率も低下しました。中途メンバーも着実に増えています。社内のメンバーが働くことを誇りに思える組織づくりができているように思います。

組織環境はだいぶ整ってきているので次の2〜3年はこの環境の規模を広げていくフェーズに突入します。自分のスキルを高めながら広告に関わって行きたい人、成長フェーズの企業で働きたい人にはぜひ仲間になって欲しいです。そしてこれからも仲間同士で楽しみ、頼り合うことでしんどさを克服した強い組織をつくり、事業成長していきたいです。

(写真/矢野 拓実 取材・文/藤井 恵 編集/中島 孝輔 株式会社才流)

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