ROAS(広告費用対効果)の計算式や計算から分析までの手順、計算方法の具体例も交えてわかりやすく解説

戸栗 頌平

デジタル広告に割く予算が増加傾向にある中、「広告費をかけているのに成果が思うように上がらない」「どの施策が効果的なのか判断できない」といった課題に直面する企業も少なくありません。実際に、株式会社PRIZMAが実施した調査によると、現在の広告施策に課題を感じていると答えた人は90%以上に昇ります。

特に、中小規模のIT企業では、限られたリソースの中で広告運用のノウハウを蓄積しつつ、成果を出していかなければなりません。しかし、代理店に依存せずに社内で広告運用を行う場合、パフォーマンスを適切に評価し、最適な広告戦略を立てるための指標を理解しておく必要があります。

デジタル広告の運用ではさまざまな指標を測定することになります。なかでも重要度の高いもののひとつとして、「ROAS(Return on Advertising Spend、広告費用対効果)」が挙げられます。

本記事では、広告キャンペーンの成果を客観的に評価し、費用対効果の高い施策を見極める上で大切なROASの計算式や、類似する指標との違いについてわかりやすく解説します。

ROASの計算式とは

ROASとは、「広告に投じた費用がどれだけの売上げを生み出したか」を数値化する指標です。計算式はシンプルで、次のように求められます。

<ROASの計算式>

ROASの数値が大きいほど広告の効果が高いと判断できますが、単にROASが高いからといって必ずしも利益が大きいとは限りません。売上げだけでなく、商品の原価や運用コストも考慮する必要があるため、ROASはあくまで広告効果の「一側面」を示すものとして活用することが大切です。

ROASと似た指標の計算式とその違い 

ROASは広告効果を測る重要な指標ですが、ROI(投資収益率)やCPA(顧客獲得単価)といった関連指標と組み合わせて評価することで、より多角的な分析が可能になります。

ここからは、それぞれの違いをみていきましょう。

ROIの計算式と違い

ROI(Return on Investment:投資収益率)は、広告費だけでなく、原価や運用コストを含めた総合的な利益率を測る指標。計算式は次のとおりです。

<ROI(投資収益率)の計算式>

  • ROI =(売上げ – コスト)÷ コスト × 100(%)

たとえば「広告費とそのほかのコストで150万円を投資し、200万円の売上げを得た」とした場合、ROIは「(200万円 – 150万円)÷ 150万円 × 100 = 33.3%」です。このパーセンテージは、「投資額に対してどれだけの利益が生まれたか」を示しています。

ROASが「売上げ」に焦点を当てているのに対し、ROIは「利益」に注目している点が大きな違いです。広告効果だけを評価するならROASが便利ですが、事業全体の収益性を判断するにはROIの方が適しています。

CPAの計算式と違い

CPA(Cost Per Acquisition:顧客獲得単価)は、広告を通じてユーザーが会員登録や商品購入などの特定のアクションを完了する際に発生した費用を示す指標です。1件のコンバージョン(成果)を獲得するために、「どれだけの広告費がかかったか」を測るために用いられます。

なお、コンバージョン(CV)の定義は業種や目的によって異なり、Webマーケティングでは「資料請求」「購買行動」などの成果指標を指すのが一般的です。

CPAの計算式は次のようになります。

<CPA(顧客獲得単価)の計算式>

  • CPA = 広告費 ÷ 獲得した顧客数

具体例を挙げると「30万円の広告費で100人の新規顧客を獲得した」ケースでは、CPAは「30万円 ÷ 100人 = 3000円」です。この数値は、1人の顧客を獲得するために平均3000円のコストがかかったことを意味します。

ROASは「売上ベース」で広告の費用対効果を測るのに対して、CPAは「顧客獲得ベース」で効果を評価します。特にサブスクリプション型ビジネスやリード獲得を重視する広告では、CPAの分析が重要です。

ROASを計算することはなぜ重要なのか 

広告の目的はただ出稿するのではなく、広告を通じていかに効率よくリードを獲得していくこと、さらには売上げを上げていくことです。そのためには、その出稿した広告が効率的だったのか、成果に起因したものだったのかを計算し、分析する必要があります。

ここでは、ROASを計算することが重要な理由について、3つの観点から詳しく解説します。

理由1. 広告効果の可視化をするため

ROASを計算することで、広告費が実際にどれだけの売上げを生み出しているかを具体的な数値として可視化できます。

一般的な広告媒体の広告のキャンペーンや管理画面からでは、CTRやCPAなどの指標は確認できますが、その後の売上げの情報までは把握できません。

もちろん、管理画面内で確認できる指標は広告の改善には重要な指標ですが、あくまで広告に接触したときの反応の結果であり、その結果が必ずしも売上げにつながるとは限りません。

例えば、お役立ちコンテンツとしてeBookに誘導する広告を出していたとします。クリックもよくされ、ある程度コンバージョンもある広告があったとしても、あくまで情報収集の一環で反応したのであり、サービスへの課題感が低い場合、売上げという点で考えると短期で回収できていない可能性もあります。

この場合、ROASを計算して可視化をしておかないと、売上げにつながりづらい広告に対して投資をしてしまい、結果としてコスト回収ができない、なんてことも考えられます。

たとえば、株式会社読売連合広告社では、当社が提供する広告運用自動化ツール「Shirofune」を導入し、デジタル広告の売上げが前年比130%にまで向上しました。 

この成果の背景には、広告効果を数値で可視化し、効果的な施策を特定して最適化を図ったことが挙げられます。このように、ROASの計測と分析を通じて、広告戦略の改善と売上げの増加を実現した事例は少なくありません。

理由2. 費用対効果の評価をするため

広告運用においては、単に売上げを上げるだけでなく、「投じた広告費に対してどれだけ効率よく収益を生み出せたか」という費用対効果の評価も求められます。ROASはこの費用対効果を直接的に示す指標であり、広告の収益性を定量的に測ることが可能です。

たとえば、あるキャンペーンで「ROAS=300%」という結果が出た場合、「1円の広告費で3円の売上げを生み出している」とわかります。この数値を基準にすることで、「このキャンペーンは効果的だったのか」「もっと改善の余地があるのか」を判断することが可能です。

具体的には、以下のような検討内容です。

  • ROASが想定より低かった場合→ターゲット層の見直しや広告クリエイティブの改善が必要かもしれない。
  • ROASが高い場合→同様の施策を他の広告媒体にも展開し、さらなる成果を目指そう。

また、業界平均や過去の実績と比較することで、自社の広告施策がどの程度優れているかを確認できる場合もあります。

理由3. 広告戦略の最適化をするため

ROASの計算は、単に結果を知るためだけでなく、今後の広告戦略を最適化するための判断材料ともなります。ROASの数値が高いキャンペーンは効果的な施策である可能性が高く、逆に低い場合は改善が必要であるとわかるためです。

株式会社IDEATECHが2024年4月に実施した調査によると、約6割のBtoBおよびBtoBtoCのマーケティング担当者が「Web広告の費用対効果が悪化している」と回答しており、多くの企業が広告施策の最適化に苦慮していると伺えます。

(出典:PR Times「約6割がWeb広告の費用対果が悪化していると回答!広告費高騰を乗り越える「広告×PR戦略」解説セミナー/5月24日(金)開催」)

具体的な活用方法としては、「ROASが高い広告には予算を増やし、成果が思わしくない施策については内容を見直す、あるいは配信停止する」などの戦略的な意思決定が可能です。さらに「どのターゲティングが効果的だったのか」「どの広告クリエイティブが売上げに貢献したのか」といった分析にも役立ちます。

たとえば、特定のターゲット層(年齢・地域・興味関心など)でROASが高かった場合、同じ層に向けた広告を増やすことで成果をさらに伸ばせる可能性があります。一方、ROASが低い場合は、ターゲットの精度や配信チャネルの適正を見直し、広告の出し方を調整しなければなりません。

こうしたデータに基づいた改善を繰り返すことで、限られた広告予算の中でも最大限の成果を引き出せるでしょう。

ROASの計算はいつ行うべきなのか? 

では、ROASはいつ計算するのがよいのでしょうか。ROASの計算は、単に広告キャンペーンの終了後に行うだけでなく、さまざまなタイミングでの評価に役立ちます。

適切なタイミングでROASを確認することで、広告パフォーマンスの改善や戦略の見直しが効率的に進みます。次項より、個別にみていきましょう。

広告キャンペーンの成果を評価したいとき

最もスタンダードなのは、広告の効果を正確に測定するタイミングです。ROASは、運用が終わった後の広告だけでなく、運用継続中のパフォーマンスを測るために計算しても問題ありません。

①:新規キャンペーン後のパフォーマンス測定をするとき

新しい広告キャンペーンを開始した後、その成果が期待通りかどうかを確認するためにROASを計算します。このタイミングでの評価は、「広告のクリエイティブやターゲティングが効果的だったかどうか」を明確にする効果があります。

初期段階でパフォーマンスを把握することで、必要な改善策を迅速に講じられるはずです。特に、短期的な成果が求められるキャンペーンでは、早期のROAS分析が意思決定のスピードを左右します。

②:継続中の広告のパフォーマンスを比較したいとき

複数の広告キャンペーンを同時に運用している場合、それぞれのパフォーマンスを比較することが重要です。この際、ROASは非常に有効な指標となります。

どのキャンペーンがより高い収益を生み出しているかを数値で示すことで、成功している施策と改善が必要な施策を明確に区別できるでしょう。また、広告媒体やターゲット層の違いによる効果の差を把握するためにも役立ちます。

広告費の最適化を行いたいとき

限られた予算の中で最大限の効果を得るためには、広告費の最適化が必須です。ROASは、そのための基準としても役立ちます。

①:予算配分を見直すとき

デジタル広告の運用では「どの施策にどれだけの予算を投じるべきか」を判断するためにROASを活用することがあります。

ROASが低いキャンペーンは費用対効果が悪いため、予算の削減や改善策の検討が必要です。一方で、ROASが高いキャンペーンには、さらなる投資を行うことでより大きな成果を期待できるでしょう。

②:広告媒体やターゲット層の選定をしたいとき

今やさまざまな広告媒体が出てきており、どの広告媒体が効率的なのかを見極める際にも、ROASは役立ちます。

たとえば、「同じ広告でもFacebook(Meta)広告とGoogle広告ではどちらが効率的なのか? 費用対効果が良いのか?」を知りたい場合は、ROASを比べてみるのもよいでしょう。

また、多くの広告媒体ではターゲットの絞り込みができることが多いため、年齢層や地域など、ターゲット設定の違いによる費用対効果の差を分析する際にもROASは有効です。広告は誰に対してどのようなメッセージを届けるかによって成果は大きく変わってきますので、ROASの高い広告を軸に最適な広告配信戦略を立てられるでしょう。

定期的な広告パフォーマンスのレビューしたいとき

広告の効果は一時的なものだけでなく、長期的な視点でも継続的にレビューし続ける必要があります。定期的なROASの確認は、広告戦略の継続的な改善にも役立ちます。

①:社内での定期的なレビューをするとき

社内で広告パフォーマンスのレビューを行う際には、ROASのデータをもとに分析を行うことで、「広告施策が事業全体の収益にどのように貢献しているか」を明確に把握できます。たとえば、四半期ごとの経営会議や月次のマーケティングミーティングでROASを追跡することで、広告費の使い方が適切かを客観的に判断できます。

もし特定のキャンペーンでROASが著しく低い場合、その原因を分析し、ターゲットの見直しや広告クリエイティブの改善といった対策を検討可能です。一方で、ROASが高い施策については、予算を増やし、さらなる成果を狙うといった判断ができます。

また、このデータを活用すれば、広告運用チームだけでなく、営業や経営層などの他部門ともスムーズに情報共有ができるため、組織全体で最適なマーケティング戦略を策定しやすくなるでしょう。

②:経営層やクライアントへのレポート作成をするとき

広告運用の成果を経営層やクライアントに報告する際にも、ROASはわかりやすい指標として活用できます。具体的な数値を示すことで、広告投資がどれほどのリターンを生み出しているかを明確に伝えられるため、説得力のある報告書を作成可能です。

特にクライアントとの契約更新や新たな提案の場面では、ROASを活用した成果報告が信頼性の向上には必須でしょう。

ROASの出し方(求め方)から分析までのステップ  

ここからは、ROASの計算から分析までの具体的な流れを解説します。

以下より、個別に解説します。

STEP1:計算に必要なデータを準備する

ROASを正確に算出するためには、まずはデータ収集を行いましょう。主に必要となるのは「売上データ」「広告費データ」です。

それぞれ、以下の媒体から収集可能です。

<売上データの収集先>

  • Googleアナリティクス(GA)
  • 広告媒体の管理画面
  • マーケティングオートメーション(MA)ツール
  • CRMシステム

<広告費データの収集先>

  • Google広告やMeta広告などの管理画面
  • 会計システム

なお、売上げの詳細を確認するためには、営業部門との連携も重要です。複数のプラットフォームを活用している場合は、それぞれのデータを正確に集計する必要があります。データ収集の段階で不正確な情報が混ざると、ROASの信頼性が低下するため、最新かつ正確なデータを確認しましょう。

また、売上データと広告費データは、集計期間を統一することが不可欠です。 たとえば、広告費は月次データなのに売上データが四半期単位で集計されていると、ROASの計算が正確に行えず、施策の効果を誤って判断してしまう可能性があります。

そのため、「月次」「四半期」など、どの期間で評価するのかを事前に決め、売上データと広告費データを同じ期間でそろえる必要があります。

STEP2:計算式にデータ当てはめる

必要なデータがそろったら、次は実際にROASを計算します。冒頭でも紹介しましたが、ROASの計算式は以下のとおりです。

<ROASの計算式>

  • ROAS(広告費用対効果) = 売上げ ÷ 広告費 × 100

たとえば広告費が20万円で、そこから80万円の売上げがあった場合、以下のようになります。

  • ROAS = 80万円 ÷ 20万円 × 100 = 400%

この結果は、広告費1円あたり4円の売上げを生み出したことを意味しており、投下した広告費の4倍の売上げを作れていることになります。

STEP3:算出したROASのレビューを行う

計算したROASの数値でまず確認すべきは「ROASが100%を上回っているかどうか」です。ROASが1未満であれば、広告費以上の売上げが得られていないことを意味し、改善の必要があります。

一方、100%を超えていれば広告投資がプラスに働いていることを示しますが、その数値が十分かどうかはビジネスモデルや利益率によって異なります。

重要なのは、単なる高低ではなく「なぜその数値になったのか」を考えることです。この段階で現状の課題について仮説を立てることが、次の改善ポイントの発見につながります。

STEP4:目標値との比較や詳細の分析を行う

ROASの数値を評価する際は、事前に設定した目標値(KPI)や業界平均と比較しましょう。この比較によって、現状のパフォーマンスがどの程度優れているのか、あるいは改善の余地があるのかを判断できます。

具体的には、以下の着眼点に則って改善点を洗い出していきます。

着眼点①:ターゲティングは適切であったか?

広告のターゲットが適切であったかを確認します。年齢、性別、地域、興味・関心などが効果的に機能していたかどうかを見直すことで、今後の精度向上を見込めます。

その際には、自社のペルソナと明確にしておくことが重要です。ペルソナが明確になっていれば、その像に合わせて条件を絞り込みやすくなります。

また、広告媒体によっては、自社のサイトにきた類似したオーディエンス自社で保有している顧客・見込み客リストをアカウントに取り込むことで、その属性に近いオーディエンスを自動的に最適化してくれる機能も備わっているものもあります。

<分析ポイント>

  • 年齢・性別・地域:実際に成果を上げたターゲット層と、広告の設定が合っていたかを確認。
  • 興味・関心・行動履歴:広告プラットフォームのデータを活用し、適切なオーディエンスに適切な広告が配信されていたかをチェック。
  • ターゲットの広さ:ターゲティングが広すぎる場合、購買意欲の低い層にも広告が届き、ROASが低下する可能性がある。逆に狭すぎると、リーチが限られ、CV数が伸びないことも。

着眼点②:広告クリエイティブは適切であったか?

広告のクリエイティブは、ターゲットに対して適切に訴求できていたかを分析する重要な要素です。広告のデザインやコピー、動画の内容がターゲットの関心を引き、クリックやコンバージョンにつながっていたかを確認することで、次回以降のクリエイティブ戦略の最適化に役立ちます。

特に、視覚的な訴求力が求められる広告では、画像や動画の選定がユーザーの心理に大きな影響を与えます。たとえば、商品の使用シーンを具体的にイメージできる広告と、単なる商品の写真を掲載した広告では、クリック率(CTR)やコンバージョン率(CVR)に大きな違いが生じる可能性があります。

<分析ポイント>

  • 広告フォーマット:静止画・動画・カルーセル広告のどれが最も効果的だったか?
  • コピー(テキスト)の内容:メッセージがターゲットに刺さる表現になっていたか?
  • 視覚的なインパクト:ブランドの魅力や商品の特徴が直感的に伝わるデザインだったか?
  • 広告とLPの整合性:広告の内容と遷移先ページの情報に齟齬がないか?

着眼点③:広告媒体と配置は適切であったか?

広告の配信先となる媒体や広告の配置が、ターゲットにとって最適なものであったかを確認します。どの広告媒体(例:Google広告、Meta広告、Instagram広告など)が高いROASを出したかを比較し、それぞれの特性を分析することが重要です。

広告媒体ごとにユーザーの行動パターンや購買プロセスが異なり、同一の施策がすべての広告媒体で同じように成果につながるとは限らないため、広告の目的と媒体の特性が一致しているかを検証する必要があります。

<分析ポイント>

  • 媒体別のROAS比較:Google広告、Meta広告、Instagram広告など、どの媒体が最も効果的だったか?
  • デバイス別のパフォーマンス:PCとモバイルのどちらでコンバージョン率が高かったか?
  • 広告の配置(プレースメント):Instagramストーリーズ、フィード広告、YouTube動画広告など、どの配置が最適だったか?
  • 広告の目的と媒体の適合性:認知向上を目的とした広告をコンバージョン重視の媒体で配信していなかったか?

着眼点④:配信の時間は適切であったか?

広告の配信時間帯や曜日が、成果にどのような影響を与えていたのかを確認することも重要です。特定の時間帯や曜日に効果が集中している場合、その傾向を活かして配信スケジュールを最適化することで、無駄な広告費を削減し、ROASを向上させられるでしょう。

また、広告配信のタイミングがずれることで、想定よりもターゲット層と合わないユーザーに届いてしまうこともあります。たとえば、早朝や深夜の時間帯に配信されている広告がコンバージョンにつながっていない場合は、その時間帯の配信を見直すことで、広告の「無駄打ち」を減らせます。

<分析ポイント>

  • 時間帯別のROAS:朝・昼・夜でコンバージョン率に違いはあったか?
  • 曜日別の広告パフォーマンス:平日 vs. 週末でROASの変動はあったか?
  • 業種ごとの特性:BtoBなら平日の日中、BtoCなら夜や週末に効果が高くなる傾向があるか?

STEP5:今後の広告戦略や広告目標の検討

ROASの分析結果をもとに、次の施策に向けた具体的な改善案を検討します。この段階では、単に数値の改善を目指すのではなく、「どの要素がパフォーマンス向上に寄与するのか」を深掘りしましょう。

たとえば、効果の高かったキャンペーンにはさらに予算を投入し、パフォーマンスが低かったものについてはクリエイティブの変更やターゲティングの再設定を行うことが考えられます。具体的には、Google広告を運用していてROASが高かった場合、検索キーワードの最適化や入札戦略を見直し、コンバージョン率の高いキーワードに重点投資するのが有効です。

対して、別で運用するInstagram広告のROASが低かった場合は、クリエイティブを静止画・動画で差し替えるなど、商品の魅力をより伝えやすい訴求に調整することで、広告のパフォーマンスを向上させる必要があります。

また、改善の一環としてA/Bテストを活用することで、広告のパフォーマンスをデータに基づいて検証し、より精度の高い施策を展開できるでしょう。なお、ROASの計算と分析は一度きりの作業ではなく、継続的なPDCAサイクルの一部として取り組むことが大切です。

ROASの計算方法の具体例

ROASの計算結果は、広告運用の意思決定に直接関わる重要な指標です。しかし、単に数値を確認するだけでは不十分であり、その結果をどのように分析し、次の施策に活かすかが広告戦略の成否を分けます。

ここからは、最も重要なタイミングに絞って、ROASの計算例を紹介します。

なお、実際には、広告運用の目的に応じて「広告終了時」「広告終了後の一定期間」「さらにその後」など、他のタイミングでも評価を行う必要がありますので、留意しましょう。

具体例1:ECサイトにおける新商品販売キャンペーン

アパレルECサイトが、新作スニーカーの販売促進のためにGoogle広告とInstagram広告を活用しました。広告費は30万円で、合計300足の販売に成功。スニーカーの販売価格は6000円です。

<ROASの計算(広告終了時)>

広告終了時点でのROASは600%となりました。EC業界ではROAS 300〜600%が標準的な目安とされる意見もあり、本施策は一定の成果を上げているといえます。

ただし、目標とするROASの水準はビジネスモデルや利益率によって異なるため、自社の収益構造に合わせた基準を設定する必要があります。また、本施策ではGoogle広告とInstagram広告の2種類を活用しているため、媒体ごとのROASの違いを分析することも有効です。

たとえば、Google広告のROASが高い場合、購買意欲の高いユーザーにリーチできていた可能性があります。一方で、Instagram広告は売上げに直結しにくいものの、ブランド認知には貢献している可能性があるため、単純な数値比較ではなく、広告接触後の行動も含めて評価する視点が必要です。

各媒体で購買意欲の高い層に適切にアプローチできているかを確認し、必要に応じて配信対象や広告の訴求内容を調整することで、成果の改善が期待できます。

<次の打ち手>

  • リピーター向けのクーポンやメールマーケティングを実施し、リピート購入率を上げる。
  • Instagram広告のクリエイティブを改善し、ターゲティングを見直す。
  • Google広告のROASが高かった場合、次回はGoogleの予算配分を増やす。

具体例2:BtoB SaaS企業のリード獲得施策

法人向けSaaS企業が、新規リード獲得のためにGoogle広告とLinkedIn広告を実施。広告費は50万円で、200件の問い合わせ(リード)を獲得。SaaSの月額料金(MRR)は5万円、リードからの契約率は10%です。

<ROASの計算(広告終了後6ヶ月)>

6カ月後のROASは1200%となりました。BtoB SaaSではROAS 600〜1200%が一般的な目安とされており、比較的良好な結果といえます。リードの成約率が予想より高いため、ターゲティングは適切だった可能性が高いでしょう。一方で、広告によるリードの質をさらに向上させることで、成約率を上げる余地があります。

実際には、広告終了後12カ月のタイミングで、LTV(顧客生涯価値)を考慮した最終評価を行うこともあります。

<次の打ち手>

  • 既存リードのナーチャリング施策(セミナー、ホワイトペーパーなど)を強化し、さらなる成約率向上を目指す。
  • Google広告のコンバージョン率が高い場合、次回の予算配分を増やす。
  • LinkedIn広告のCPAが高かった場合、ターゲティングの見直しを行う。

具体例3:実店舗の集客施策(美容院の新規顧客獲得)

美容院が新規顧客の獲得を目的に、Instagram広告とGoogle広告を活用。広告費は15万円で、150件の来店予約を獲得。施術の平均単価は7000円、新規顧客の40%がリターゲティング広告経由でリピーターになっている段階でROASを計算すると、以下のようになります。

<ROASの計算(広告終了後3ヶ月)>

3カ月後のROASは1000%となりました。実店舗の広告施策ではROAS 500〜1000%が標準的な目安とされており、一定の成功を収めたと考えられます。

ただし、リピーター率が40%であることを考えると、さらに向上させることで長期的な収益性を高める余地があるでしょう。また、口コミや紹介経由での集客が増えれば、広告費を抑えつつ売上げを伸ばすことが可能です。

実際には、広告終了後6カ月や1年のタイミングで、長期的なリピーターの動向を分析することもあります。

<次の打ち手>

  • 初回来店時にLINE登録を促し、次回来店のインセンティブを提供。
  • リピーター向けのキャンペーン(ポイントカード、友人紹介制度など)を実施。
  • Instagram広告のクリエイティブを改善し、より集客効果の高いコンテンツをテスト。

ROASの計算を効率化するならエクセル?それとも自動計算ツール?

エクセルは広告データの管理やROAS計算を手軽に行えるツールです。関数やピボットテーブルを活用すれば、売上げと広告費をもとに効率的な集計や簡単な分析もできます。

(出典:マーキャリ「Web広告予算管理シート テンプレート(Excel形式)」)

特に、以下のような点がエクセルの強みといえます。

  • カスタマイズ性が高い:自社の運用スタイルに合わせたシート作成が可能
  • コストがかからない:追加費用が不要で、すぐに利用できる
  • 小規模運用に最適:広告媒体が少ない場合はシンプルでも十分対応可能

しかし、広告媒体が複数に増え、データ量が膨大になると「データの手入力によるミスのリスク」

「集計作業の負担増」「リアルタイム分析が難しい」といった課題が発生します。このような課題は、広告運用の効率性を低下させ、意思決定のスピードにも影響を与える可能性があります。

また、広告運用の規模が大きくなるほど、ROASの計算や分析には自動化ツールの活用が効果的です。自動化ツールは、複数の広告媒体と連携し、データ収集からROASの計算、分析までを一元化できます。

たとえば、当社が提供する広告運用自動化ツール「Shirofune」は、API連携によるデータの自動取得機能 により、Google広告やMeta広告など複数の媒体の最新データをリアルタイムで集約し、ROASを可視化、データを活かした改善が可能です。

【結論】エクセルと自動化ツール、どちらを選ぶべきか?

最適なツールは、広告運用の規模や目的によって異なります。そのため、以下のニーズ別に活用するツールを選択するのが適切でしょう。

  • 小規模な運用や限られた媒体の場合

→エクセルでの管理がコストもかからず、シンプルな機能で十分

  • 複数の媒体を運用し、効率化や精度の高い分析が必要な場合

→自動化ツールの導入を検討する価値が高い

もちろん、最初は手軽なツールから始めて、事業がスケールする過程で乗り換えるという選択肢もあります。しかし、実際に施策が走り出すと「マンパワーの不足」「蓄積したデータ移行の負担」といった理由から、意外にもスイッチングコストがかかってしまいます。広告運用の現状と課題に応じて、なるべく初期段階から最適なツールを視野に入れることも大事です。

まとめ

ROAS(広告費用対効果)は、広告運用の成果を正しく評価し、今後の戦略を最適化するために欠かせない指標です。ただし、単に数値を計算するだけでなく「その結果をどのように活用するか」が重要になります。

まず、ROASを適切に計算することで、広告の効果を可視化し、どの施策が売上げにつながっているのかを明確にする。その上で、広告費の費用対効果を把握することで、予算の最適な配分や広告施策の改善を実施可能です。

ROASの活用は、単なる計算ではなく、広告の成果を最大化するための「判断基準」として機能します。適切なデータを基に継続的に改善を繰り返し、自社にとって最も効果的な広告運用を実現していきましょう。

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