
イベントを活用したROAS向上の重要性と企画のステップ
 
- 菊池 満長
2025年現在、デジタル広告を活用したマーケティング施策は、もはや企業組織の売上げ拡大において不可欠な存在となりました。一方で、マーケティング予算の見直しやプラットフォームの多様化により、広告運用者が「いかに効率よく広告費を回収するか」を問われる場面が増えています。
2024年の調査では、約6割のマーケティング担当者が「Web広告の費用対効果が悪化している」と回答しており、多くの企業が解消に苦慮していることが伺えます。
広告施策の費用対効果を図る指標としては、「ROAS(Return on Advertising Spend)」が存在します。これは「投入した広告費に対してどれだけの売上げを上げられたか」を数値で可視化する指標であり、日々の運用判断から経営層への報告まで幅広く活用されています。
ROASを向上させるための取り組みはいくつも存在しますが、広告施策では季節ごと、あるいはスポットで開催される「イベント」に狙いを定めてキャンペーン内容を調整する戦略も基本のひとつです。
本稿では、イベントを活用してROASを向上させる重要性と、そのために必要な企画プロセスについて、具体例を交えながら解説します。
ROASの定義と計算方法の振り返り
まずはROASの定義について改めて整理し、基礎部分をおさらいしましょう。
広告運用におけるROASは、施策の成果を評価する際に欠かせない指標です。しかし、ROASの正確な意味や位置づけを理解せずに「なんとなくの数値目標」として扱ってしまうと、適切な改善施策を打てなくなってしまいます。
ROASの定義
ROAS(Return on Advertising Spend)とは、「投じた広告費に対してどれだけの売上げを生み出したかを示す指標」です。日本語では「広告費用対効果」と訳されることもあり、広告運用者にとって最も基本的かつ重要な指標のひとつといえます。
ROASは、広告キャンペーンがどの程度効率的に売上げを生んでいるかを定量的に測るために用いられます。
この指標が広告運用で重要視される理由は「売上げと広告費のバランスを即座に評価できるから」です。特にECやリード獲得型の施策では、ROASの数値を見ながら日々の入札調整やクリエイティブ改善を行うことで、より効率的な投資が可能になります。
ROASの計算方法
ROASの計算式は非常にシンプルで、次のように表されます。

ここでいう「売上げ」は、広告を通じて獲得できた売上げの総額を指します。たとえば、以下のようなケースをみてみましょう。
<想定ケース>
- 広告費:50万円
- 広告経由の売上げ:250万円
この場合、計算式は次のとおりです。
<計算結果>
- (250万円 ÷ 50万円)× 100 = 500%
つまり、ROASは500%となり、広告費の5倍の売上げを生み出せたことを意味します。
ROASが100%を下回る場合、「広告費を回収できていない=赤字に近い状態」と判断できます。一方、100%を超えると、広告投資が売上げとして回収されていることを示します。
ただし、ROASはあくまで「売上げベースの指標」である点には留意が必要です。利益率や原価を考慮した指標ではないため、特に低利益率の商材を扱う場合はROI(利益ベースの指標)との併用が不可欠です。
運用現場では、ROASの数値をリアルタイムでモニタリングし、入札調整やターゲティング改善の指標として活用することではじめて、より効果的な広告運用を実現できます。
関連記事:ROAS(広告費用対効果)の計算式や計算から分析までの手順、計算方法の具体例も交えてわかりやすく解説
ROASを向上させるイベントの種類
広告施策の成果を高めるためには、単に広告配信の最適化を行うだけでなく、「どのタイミングで訴求するか」を見極める必要があります。
特に、消費者の関心が高まるイベントの時期は、通常時よりも購買意欲が高く、適切なアプローチができればROAS(広告費用対効果)の大幅な向上が期待できます。
広告運用者が押さえておくべき代表的なイベントの種類としては、以下が挙げられます。

それぞれの特徴を理解し、どのようなマーケティング施策に活かせるかイメージできるようになりましょう。
季節イベント
季節イベントとは、1年を通じて定期的に訪れるシーズンや祝日を活用したマーケティング施策です。日本であれば「年末年始」「バレンタインデー」「ゴールデンウィーク」「夏休み」「ハロウィン」「クリスマス」などが代表的でしょう。
これらのタイミングは消費者の購買意欲が高まるため、広告キャンペーンとの相性が非常によいとされています(例:クリスマスシーズンはギフト需要が高まり、ECサイトや実店舗へのトラフィックが急増するなど)。
そのため、ターゲットに合わせて「ホリデー限定セット」「シーズナルキャンペーン」などの訴求を打ち出すことで、通常時よりもクリック率(CTR)やコンバージョン率(CVR)が向上しやすくなります。
実際、ユニクロは毎年「感謝祭セール」をブラックフライデーに合わせて展開し、シーズン需要を取り込みながら短期間で売上げを大きく伸ばす施策を打っています。

(出典:トラベルWatch「『ユニクロ感謝祭』セール品の詳細公開。注目アウター&コートは3000円引き、カシミヤセーターは2000円引き」)
季節イベントは広告クリエイティブやランディングページ(LP)のシーズンカラーへ最適化しやすく、ユーザーの関心を自然に引き寄せられます。
ショッピングフェスティバル
ショッピングフェスティバルは、ECプラットフォームや大手小売業者が仕掛ける大規模なセールイベントを指します。代表的なものには「Amazonプライムデー」「楽天スーパーセール」「中国の独身の日(ダブルイレブン)」などがあり、短期間で爆発的なトラフィックと購買が発生するのが特徴です。
ショッピングフェスティバル系のイベントでは、通常よりも広告予算を増額しても十分な効果が見込めるため、新規ユーザーの獲得や休眠顧客の掘り起こしを狙う企業も少なくありません。
そのため、Amazonプライムデーなどに合わせて新製品を投入し、限定オファーで話題化を狙うメーカーもあります(例:Kaedearの新ヘアケア製品キャンペーンなど)。

(出典:PR Times「年に一度のプライム会員大感謝祭『プライムデー』、 対象商品を一部公開 第1弾」)
広告運用者にとって重要なのは、事前の告知フェーズからイベント直前・当日にかけての配信設計です。特に、Meta広告(旧Facebook広告)やGoogleディスプレイ広告を用いたリ、マーケティングが効果的で、セールを知っていたものの購入に至っていなかったユーザーへ再訴求したりすることが、ROAS向上に直結します。
文化・社会的イベント
文化・社会的イベントとは、スポーツ大会や音楽フェス、記念日など、特定のテーマに基づいた大規模なイベントです。代表的なものとしては、五輪やワールドカップといった国際スポーツイベント、母の日・父の日、敬老の日、誕生日月間などが挙げられます。
これらは、特定のターゲット層の感情に訴求しやすいという特徴があります。もし、母の日キャンペーンを打つとするなら、「日頃の感謝を形に」というニュアンスのメッセージを全面に押し出し、ギフト需要を喚起できます。

(出典:Suketton)
なお、オリンピックなどのスポーツイベント期間中は関連商材の需要が急増するため、これに合わせたクリエイティブやキャンペーン設計がROAS向上を図る際には必要となります。特に動画広告はイベントの熱気や臨場感を表現しやすく、エンゲージメントを高める手段として効果的です。
新商品・リニューアルローンチイベント
新商品・リニューアルローンチイベントとは「製品やサービスの発表」「既存サービスの大型アップデート」「オンラインセミナーの開催」など、企業が新たな価値を市場に届ける際に行う施策です。
これらのイベントは、消費者や取引先に対して「今すぐ情報をチェックする理由」を与え、早期購入や問い合わせといった初動を促進します。
有名どころでいえば、米Appleは新型iPhoneの発表イベントを世界同時にライブ配信し、その後すぐにオンラインストアでの予約受付を開始します。発表当日の注目度がピークになるタイミングで広告を集中投下することで、話題性と購買意欲の両方を喚起し、効率的に売上げを伸ばしています。

(出典:YouTube「Apple Event – 9月13日 – Apple」)
広告運用者にとっては、このようなイベント前後のキャンペーン設計が重視すべきポイントです。イベント告知段階ではリーチ最大化を狙ったディスプレイ広告や動画広告を活用し、当日や直後にはリマーケティングを活用して「見込み客との接点構築」を行います。
また、オンラインセミナーを活用する場合は参加登録をコンバージョン指標とし、「限定特典」などを盛り込んだクリエイティブがROAS向上に効果的です。
業界イベント・展示会
業界イベント・展示会は、特定の業界や分野に特化したカンファレンスや見本市で、企業間のネットワーキングや商談が活発に行われる場です。参加企業にとっては、ブランド認知の拡大と同時に、見込み度の高いBtoBリードと接点を持つ有用なタイミングです。
実例を挙げるなら、SaaS企業が参加する「CES」や「Interop Tokyo」などの国際規模の展示会では、イベント開催期間中にSNS広告を配信し、ブース訪問を促す施策が定番となっています。

(出典:「Interop Tokyo」)
さらに、イベント終了後も興味を示した訪問者へのリターゲティング広告を通じて商談化率を高め、ROASを効率的に追跡する企業が増えています。
広告運用者にとっては、展示会の前後で訴求内容やターゲティングを切り替えることがポイントです。会期中は参加者を来場に誘導し、会期後は名刺交換したリードやサイト訪問者に向けたナーチャリング広告を展開することで、限られた予算で最大の効果を狙えます。
ロイヤルティ/会員向けイベント
ロイヤルティ/会員向けイベントとは、既存顧客や会員に限定して提供される特典イベントです。ポイントアップキャンペーン、会員先行販売、VIP向けセールなどが代表例であり、顧客のリピート率向上やLTV(顧客生涯価値)の最大化に直結します。
たとえば、無印良品は「無印良品週間」に合わせ、公式アプリ会員向けの限定セールを開催すると同時に、SNS広告でアプリ未使用会員層にも訴求。この広告施策により短期間で来店率と購買単価を押し上げています。

(出典:無印良品「【御影クラッセ】無印良品週間開催のお知らせ」)
このような施策は既存顧客に長く利用していただくのと同時に、「上位ランクを目指す動機付け」を作り出すことで、長期的なROAS向上にも貢献するでしょう。
広告運用の観点では、CRMデータを活用したセグメント配信が有効です。会員属性ごとに訴求を変えたり、過去購買履歴に基づくパーソナライズ広告を展開したりすることで、効率的にリピート購入を促進できます。特に、会員ランク別の専用LPと組み合わせることで、広告費を最小限に抑えつつ高いCVRが期待できます。
イベントがROASの向上になぜ重要なのか
広告運用において「誰に、いつ、どのように訴求するか」は、ROAS(広告費用対効果)を左右する要素です。ユーザーの心理・行動は常に一定というわけではありません。変化によるものです。
特定のシーズンや記念日は消費者に「このタイミングで買いたい」という動機を生み出しやすく、そこに最適化された広告が当たるとCTR(クリック率)、CVR(コンバージョン率)の双方が向上しやすくなります。
ここから、イベント活用がなぜROAS改善に直結するのかを、3つの視点から具体的に解説します。
- 需要喚起タイミングを最適化できる
- 訴求の一貫性や関連性を強化し効果が高まる
- 予算集中による投資効率の最大化ができる
次項より、個別にみていきましょう。
需要喚起タイミングを最適化できる
需要喚起タイミングの最適化は、広告運用の効果を最大化する上で欠かせない戦略です。イベントやセール期間は、消費者の購買意欲が自然に高まるタイミングです。この時期に合わせて広告を配信することで、通常よりも少ない広告費で多くの売上げを獲得できる可能性があります。
実際に、アメリカのブラックフライデー期間中に実施されたFacebook広告キャンペーンでは、2022年のCVR(コンバージョン率)が前年に比べてプラス38%、ROAS(広告費用対効果)が平均で2倍(+100%改善)に達したという結果があります。

(出典:Linkedin「2021 vs 2022 Black Friday Performance on FB Ads」)
これは、開始前から告知広告を徹底し、当日は大規模なリターゲティング広告を行った結果、短期間で高いエンゲージメントと売上げを生み出したことが背景にあります。このように、イベント直前の告知フェーズから当日の成果獲得フェーズまでを一貫して設計し、需要喚起のピークにリーチできるようタイミングを調整していきましょう。
訴求の一貫性や関連性を強化し効果が高まる
イベントに合わせた訴求の一貫性は、広告の効果を飛躍的に高めます。ターゲット層が関心を持つテーマに沿ったクリエイティブやメッセージを展開することで、ユーザーの共感を得やすくなり、広告体験全体の質が向上します。
特に、Google広告やMeta広告ではクリエイティブの関連性が高いほど品質スコアが向上し、結果としてCPC(クリック単価)が抑えられ、CPA(顧客獲得単価)の低減にもつながります。これは限られた予算でもより多くのコンバージョンを獲得できるため、ROASの向上に直結します。
たとえば、Scandiweb社が広告運用を支援したカナダのアウターウェアブランドKanukは、冬商戦(Black Friday〜クリスマス)に向けてGoogle広告とMeta広告を全面刷新しました。

(出典:Scandiweb「PPC Case Study: Costs Cut in Half During Winter Sales」)
この取り組みでは、季節感のある「クリエイティブ×表記」を一貫させたことで、以下の成果が得られたと報告されています。
- Google広告:平均購入単価+135%、収益+9%、広告コスト‑58%、ROASは20.84達成
- Meta広告:平均購買単価+48%、収益+93%、コスト‑45%、ROASは13.58達成
このような成功は、イベントに関連したクリエイティブ一貫性の向上が広告プラットフォームからの評価(配信・コスト面)に直結した結果と考えられます。このように、イベント内容に即した訴求を行うことで、広告効果をさらに向上させられるのです。
予算集中による投資効率の最大化ができる
イベント期間に予算を戦略的に集中させることは、投資効率を大きく高める手法です。通常運用では分散しがちな広告費を、効果が最大化するタイミングに合わせて配分することで「ムダ打ち」を防ぎながら売上げ効果を最大化できます。
株式会社ベクトルデジタルが2025年に発表した調査では、Web広告運用における課題について「費用対効果の向上」が47.2%と最多となっていたことからも、投資効率の最大化は多くの企業にとって悩ましい問題といえます。

(出典:キーマケLab「BtoB企業における2025年度Web広告予算の実態と展望に関する調査結果」)
イベントを上手く活用できれば、消費者の購買意欲が最高潮に達するタイミングに合わせて広告露出を増やし、CTR(クリック率)やCVR(コンバージョン率)の向上が期待できます。そうすれば、同じ広告費でも大きな売上げ効果が得られるでしょう。
また、予算集中はシーズナリティのある商材だけでなく、BtoBの展示会シーズンにも有効です。会期中にWeb広告を強化し、会期後はリターゲティングを活用する二段構えの設計で、商談化率の高いリードを効率的に獲得できます。
ROASを向上させるイベント企画のステップ
イベントを活用した広告キャンペーンは、適切に設計すれば短期間で高いROAS(広告費用対効果)を実現できる一方、準備不足や場当たり的な運用では効果が限定的になりがちです。
そのため、ROAS向上につなげる上では事前の企画段階から緻密な設計を行い、実施後の振り返りまでを一連のプロセスとして管理する必要があります。具体的な手順は、以下の7ステップに分けられます。

次項より、個別にみていきましょう。
ステップ1:目標設定とKPI定義
イベント施策を成功させるためには、まず明確な目標設定とKPI(重要業績評価指標)の定義が不可欠です。これが曖昧なままでは、キャンペーン実施後に何をもって「成功」とするのか判断できず、改善の糸口も見えにくくなります。
目標設定では、イベント期間中に達成すべき売上げ額や新規顧客獲得数を具体的な数値で決定します。さらに、最低限確保すべきROASや許容できるCPA(顧客獲得単価)も合わせて定義するとよいでしょう。
| 目標 | KPI例 | 
| 売上目標 | イベント期間中に売上げ◯◯円を達成 | 
| 新規顧客獲得 | 新規顧客を◯◯人獲得 | 
| 広告費用対効果(ROAS) | ROAS◯◯%以上を維持 | 
| 顧客獲得単価(CPA) | CPA◯◯円以下に抑制 | 
| エンゲージメント向上 | クリック率(CTR)◯◯%以上、コンバージョン率(CVR)◯◯%以上 | 
| 客単価向上 | 平均注文単価を◯◯円以上に引き上げる | 
このように目標とKPIをセットで設計することで、戦略立案から効果測定まで一貫性のある運用が可能になります。また、KPIは売上げやROASといった最終成果指標だけでなく、「クリック率(CTR)」「コンバージョン率(CVR)」「平均注文単価」といった中間指標も組み合わせて、多角的なパフォーマンス分析を行いましょう。
ステップ2:イベントテーマとタイミング策定
目標が明確になったら、次はイベントのテーマ設定とタイミングの決定です。これは「何を・いつ訴求するか」を決める段階であり、消費者の行動心理や過去データの分析が求められます。
まず、イベントテーマはターゲット層に響くものを選ぶ必要があります。新規商品なら「先行予約キャンペーン」、既存顧客向けなら「VIP限定セール」などです。
テーマが決まったら、過去のキャンペーンデータを振り返り、シーズナリティやトレンドも考慮しながら最適な時期を見極めます。
具体的に考えてみましょう。ファッションECの場合、春夏シーズンの立ち上がりタイミングで「新生活応援キャンペーン」を実施すると、新規需要を効率よく取り込めます。
ステップ3:予算設計と配分計画
イベント施策では予算設計とチャネルごとの配分計画もROASを左右します。限られた広告費を最大限活用するためには、過去のROI実績に基づく配分比率の設計が不可欠です。
その上では、イベント全体に投入する予算を決め「通常運用と比較してどの程度増額するか」を検討します。その際、「どのチャネルにどの割合で配分するか」を決めていきましょう。
検索広告やSNS広告、ディスプレイ広告、動画広告など、それぞれの媒体での過去の効果を分析し、高ROIチャネルに重点を置きます。
さらに、イベント直前・直後にも一定の配信枠を確保すると効果的です。直前は購買検討中の層へのリマインド、直後は取りこぼし層の刈り取りを狙うことで、長期的な効果の底上げが可能になります。予算設計時には、入札単価の上昇リスクも想定し、調整の余地を持たせましょう。
ステップ4:クリエイティブ設計
イベント施策においてクリエイティブ設計は、ユーザーの関心を引きつけ、コンバージョンにつなげる上では不可欠な要素といえます。
ここで意識すべきは「イベントテーマに沿った統一感のあるコピーとデザインの構築」です。バラバラのビジュアルやメッセージはブランドの印象を弱め、ユーザーの購買意欲を削いでしまう恐れがあります。
まず、見出し(ヘッドライン)では一目で魅力が伝わる訴求を意識します。「期間限定」「先着特典」など、時間的・数量的な制約を提示することで、購買の緊急性を高められます。また、CTAは「今すぐ申し込む」「限定オファーを見る」など行動を促す表現を複数バリエーションで作成し、A/Bテストに備えます。
ビジュアル面では画像・動画の両方を用意し、配信チャネルごとに最適化しなければなりません。たとえば、SNSでは短尺動画やカルーセル広告が効果的である一方、検索広告ではテキスト主体の訴求が機能するようにデザインする必要があります。
イベント専用LP(ランディングページ)も用意し、オファー内容や申込みフローを最短化することで離脱率を抑えられるでしょう。
ステップ5:ターゲティングとセグメンテーション
優れたクリエイティブも、適切なターゲットに届かなければ成果にはつながりません。そのため、広告配信のターゲット設定とセグメント分けを徹底することも大切です。
まず、配信前の準備段階で「誰に届けるか」を明確にするために、ペルソナ設計を行いましょう。ペルソナとは「理想の顧客像」のことであり、ターゲットの年齢層・性別・関心領域などを整理しておくと、セグメントごとに最適な広告メッセージやクリエイティブを設計しやすくなります。

(引用:LEAPT)
その上で、既存顧客には「会員限定セール」「VIP特典」といったリピート促進施策、新規顧客には「初回限定特典」や「送料無料」などの訴求を行っていきます。これにより、クリエイティブの訴求力を上げつつ、キャンペーン内容を最適化していけます。
ステップ6:テスト運用と最適化
イベント広告の本番配信に入る前に、テスト運用で仮説検証を行いましょう。なぜなら、テストを行うことで実際の配信環境で最も成果が出るクリエイティブやターゲティングの組み合わせを見極められるためです。
まず、作成した複数の見出し・CTA・ビジュアルの組み合わせを使い、A/Bテストやマルチバリアントテストを実施します。この際、主要KPIとしてCTR(クリック率)、CVR(コンバージョン率)、CPC(クリック単価)を一定期間で追跡し、パフォーマンスの良いパターンを抽出します。
その後、テスト運用で得られたデータをもとに、入札戦略や配信スケジュールの調整を行います。たとえば、曜日や時間帯ごとの成果の違いに応じて予算配分を最適化することで、無駄な広告費を削減しながら効果を最大化できるでしょう。
ステップ7:効果検証と次回施策へのフィードバック
キャンペーン終了後は、効果検証とフィードバックを行う必要もあります。広告運用者はここで売上げやROASといった結果を可視化し、当初の目標やKPIに対してどの程度達成できたかを評価します。
効果検証では、ROASやCPA(顧客獲得単価)に加え、LTV(顧客生涯価値)など長期的な指標も分析対象に含めましょう。特に、イベント施策が新規顧客獲得だけでなく「リピート購入にどう寄与したか」を確認することが大切です。
「限定オファーはCTRが高かったが、LPの離脱率が課題」など、具体的な気づきを次回施策に活かすことで、PDCAサイクルが回りやすくなります。
イベントを活用してROASを向上させた成功事例
イベント施策がROAS向上に有効であることは理論や仕組みとして理解できても、実際に企業がどのように活用し成果を出しているのかは、広告運用者にとって非常に気になるポイントではないでしょうか。
そのため、ここからは広告運用においてイベントを利用して具体的に成果を上げた3つの成功事例を紹介します。それぞれの企業がどのようなターゲティングやクリエイティブ設計を行い、どのようにして高いROASを実現したのかをひも解きながら、実践に活かせるヒントを探っていきましょう。
事例①:トヨタ、タイで実施した試乗イベント連動型広告施策で申込み数を166%改善
タイを中心にマーケティングソリューションを提供するInsider が公開した事例によると、トヨタは新型車の試乗イベントにあわせてWeb広告施策を強化し、オンラインからディーラーへの送客数を大幅に改善しました。
具体的には、公式サイトの商品詳細ページに「試乗申込みボタン」を設置し、試乗イベント期間中はSNS広告やディスプレイ広告で集中的に訴求しています。

(出典:Insider「How Toyota increased test drive applications by 166% with Insider’s Web Suite」)
加えて、訪問者がページを離脱しようとした瞬間に表示される「Exit‑Intentポップアップ」を導入し、申し込みを迷っているユーザーを最後に引き留める仕組みを構築しました。
この取り組みにより、Web経由での試乗申込み件数が従来比で166%増加したとのことです。特定期間に広告配信を集中させることで、限られた予算でも投資効率を最大化できた好例といえるでしょう。
<施策のポイント>
- 試乗イベント期間中にSNS広告・ディスプレイ広告を集中配信
- Exit‑Intentポップアップを活用し、申し込み離脱防止を実現
- 商品ページに試乗申込みボタンを設置し、自然なCV導線を強化
事例②:Microsoft、セミナー告知広告で2,212件の登録獲得&高い開封率を実現
米Microsoftは、BtoB向けセミナー「Business Forward」の告知に合わせて、LinkedInのSponsored InMail(メッセージ広告)を活用したキャンペーンを実施しました。ターゲットは企業の意思決定者層に絞り込み、セミナー開催前の短期間に集中配信することで、高い訴求力を確保しました。
この取り組みにより、2,212件のセミナー登録を獲得し、全体登録数の約87%がInMail経由だったと報告されています。さらに、広告メッセージの開封率は最大48%に達し、1登録あたりの平均コスト(CPEA)は約88ドルに抑えられました。

(出典:Microsoft「Microsoft boosts event registration with LinkedIn Sponsored InMail and skills targeting tools」)
Microsoftは、イベント期間中に広告配信を集中させることで、効率的なリード獲得と投資対効果の最大化を実現したとしています。
<施策のポイント>
- ターゲティング:役職・業種など条件を絞り込んだ意思決定者層への広告配信
- 配信方法:LinkedIn InMailを活用し、メッセージ形式でパーソナライズした訴求
- 成果:登録件数2212件、最大開封率48%、CPEA約88ドルを記録
事例③:Proponent社(米国)、航空部品展示会を活用したBtoB広告戦略で平均ROASが20.36倍を達成
米国の広告代理店Echo‑Factory社が公開している事例によると、航空機部品卸大手Proponent社は、業界展示会に連動して実施したBtoB広告キャンペーンにより、平均ROASを20.36倍に改善したと報告されています。

(出典:Echo‑Factory「A 43x ROAS in a BtoB Marketplace With Precision Digital Targeting」)
この取り組みでは、展示会参加に合わせてLinkedInとGoogleディスプレイ広告を連動させた広告展開を実施しています。
展示会での接触層に対し、役職・業種・出席者情報に基づいたターゲティング広告を配信し、展示会後のリマーケティングも連携。狙いを絞った広告アプローチにより、業界ごとにROASが5〜43倍の成果を築きました。
<施策のポイント>
- 展示会参加者リストや過去来場者属性に基づいた精緻なターゲティング設計
- LinkedIn広告+GDN広告の併用による複数接触チャネルの確保
- 展示会後もリマーケティング広告で購買意欲の熟成を狙う設計
まとめ
イベントを活用した広告施策は、消費者の関心が高まるタイミングに合わせて訴求できるため、通常期に比べて圧倒的に高いROAS(広告費用対効果)を実現しやすい手法です。
しかし、その効果を最大化するためには、事前の目標設定から予算配分、クリエイティブ設計、ターゲティング、運用後の効果検証まで、一連のプロセスを戦略的に設計しなければなりません。
本記事で紹介したように、季節イベントやショッピングフェスティバル、業界展示会など、さまざまな種類のイベントが存在します。それぞれの特性を理解し、適切なタイミングと訴求内容でアプローチすることで、広告施策の成果は飛躍的に高まります。
実際の成功事例からも分かるように、短期間で高い効果を得るためには「ユーザー視点」に立った体験設計も不可欠です。単に広告を配信するだけでなく、イベント全体を通じた一貫性のあるメッセージと価値提供が、ROASの向上に直結するのです。
限られた予算でも最大限の成果を引き出すため、期間の限られているイベントのタイミングを有効活用していきましょう。

大手ネット広告代理店に新卒で2006年に入社し、一貫して広告運用に従事。
緻密な広告運用をアルゴリズム化し、誰もが高い広告効果を得られるようShirofuneを2014年に立ち上げ。
2016年7月に国内No.1を獲得し、2022年までに国内シェア91%を獲得。
2023年から海外展開をスタートし、現在までに米大手EC企業や広告代理店への導入実績。
2025年3月に米国広告業界で最古かつ最大級の業界団体である全米広告主協会からMarketing Technology Innovator AwardsのGoldを受賞。





 
    
   
  
