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SPEEDAのオンラインマーケティング戦略。ターゲット拡大に伴う試行錯誤とは

大木一真(モジカク)
ユーザベース|インハウスマーケティングラボ

1,300社超の成長企業が活用する経済情報プラットフォーム「SPEEDA」。今回は、同サービスのマーケティング戦略や上手くいった施策などについて、株式会社ユーザベース SPEEDA Marketing&Branding Teamの伊佐敷一裕氏、斎藤可奈氏にお話を伺った。

成果の出た施策や、広告運用体制の変遷、オフライン施策の展開まで幅広く伺っている。

「プロフェッショナルファーム」から事業会社へ。ターゲット変更に伴うメッセージの変化

株式会社ユーザベースSPEEDA事業マーケティング担当 伊佐敷 一裕氏

――SPEEDAのサービス概要について教えてください。

伊佐敷 一裕氏(以下、敬称略):経済情報プラットフォームであるSPEEDAは世の中に散らばる多様なビジネス情報を人とテクノロジーの力で整理・分析・創出し、ワンストップで検索・取得できる、というコンセプトで始まったサービスです。

SPEEDAには世界200か国、600万社に渡る企業情報や、上場企業の決算・財務情報などの開示情報、弊社のアナリストが作る560業界に渡るレポートが格納されています。他にも2000媒体におよぶニュースや過去のM&A、統計データといった、様々なビジネス情報が格納されています。

元々は「プロフェッショナルファーム」と呼ばれるコンサルティングファームや投資銀行を中心に使われていました。しかし最近では、事業会社の経営企画部門新規事業担当法人営業の方々にも多く使っていただけるようになっています。

――ターゲットが「プロフェッショナルファーム」から事業会社に広がったことで、どのような変化がありましたか。

伊佐敷:ターゲットが事業会社に広がるにつれて、オンラインマーケティングの重要性が高まり、それによりメッセージや訴求の仕方も変わりました。

初期フェーズでは、プロフェッショナルファームの方々を中心に、口コミや地道な営業活動を通して広まっていきました。

業界分析に時間をかける「プロフェッショナルファーム」にとっては、情報収集業務の時短というメッセージが刺さっていました。

広告の反響の少なさから打った対策

伊佐敷:しかし、事業会社には「情報収集業務の時短」のメッセージはあまり刺さりませんでした。「プロフェッショナルファーム」と比べて業界分析にかける時間が少ない、もしくは必要としないためです。

そこで、SPEEDAを使って「能動的に情報収集することで、攻めの意思決定をして事業を加速していきましょう」といった主旨のメッセージに変わりつつあります。

斎藤 可奈氏(以下、敬称略):顧客層も幅広くなり、多様化する顧客ニーズに合わせて届けるメッセージが変わるなかで、改めて事業全体でSPEEDAの提供価値、実現していきたい世界観を見直しました。そこで、新たに掲げたブランドタグラインが「企業の進化に、スピードを。」です。これはお客様が、必要としている情報に最速で辿り着くことで意思決定のスピードがあがり、企業の進化が加速する、私たちはその進化を支えるソリューションを提供していきたいという思いを込めています。しかし、こういった背景にある思いまでは広告では伝えきれません。「企業の進化に、スピードを。」と書かれたバナーを作っても、抽象度が高いこともあり、あまり響かないと気付きました。

そのため、SPEEDAのサイトに直接つなげる広告だけでなく、「M&Aにおける効率的な情報収集」について解説するセミナーの案内や、「経営企画が抱える悩み」について調査しまとめたホワイトペーパーなど、お客様の課題に寄り添ったコンテンツを企画し、そこにSPEEDAとして伝えたいメッセージも載せるようにしています。

――ターゲットに事業会社も含めて以降は、どのようなマーケティングを展開されていますか。

伊佐敷:前提として、顧客層が広がったことで必然的にSPEEDAの使い方も幅広くなっています。経営企画や営業の方でも使い方が異なるので、それぞれに分けたメッセージングが重要です。

まずは、お客様事例のコンテンツを幅広く、いろんな業界、職種で作成し、メールでご紹介しています。「こういったお客様にはこうした事例が合うだろう」とカスタマイズしています。実際、セグメントを分けてメール配信することで成果が出ています。

最近は展示会やセミナーなどイベント施策にも注力しています。しっかりターゲットを考えた上で、それぞれの顧客層に合わせたコンテンツを考えることが重要です。

Web広告だけで作れる接点には限界がある。オフライン施策にも注力するように

株式会社ユーザベースSPEEDA事業マーケティング担当 伊佐敷 一裕氏と斎藤可奈氏

――展示会やセミナー施策に注力するようになったのは何故ですか?

伊佐敷:これまでは、特にGoogle/Yahoo!のリスティング広告やFacebook広告が重要なチャネルでした。重要であることは引き続き変わらないですが、Web広告だけではアプローチしきれない顧客層があると気付きました。

集客チャネルを広げ、アプローチできる顧客層を広げるべく、最近ではセミナーやコンテンツマーケティング、ウェビナー(Webセミナー)などの施策を展開しています。

これまではオンラインマーケティングが重要でしたが、これからは様々なチャネルが等しく重要になっていく感覚がありますね。

セミナーや懇親会を通じてSPEEDAの無料トライアルや商談数増加につなげることができています。ただし、セミナーなどオフライン施策からすぐに受注につながるわけではありません。

リードタイムが長い傾向にあるので、その分インサイドセールスやメールマーケティングなどを通じて顧客と接点を持ち続けるようにすることが大事です。

まだ数回しか行っていませんが、事業会社向けに行うウェビナーもやって良かった施策と感じています。ウェビナーであれば開催コストも低いですし、お客様も気軽に参加してくださるので、集客もあまり苦労せず、常に50〜60名ほどの方々に参加いただいています。私たちの場合は、以前コンタクトがあったお客様へウェビナーをご案内すると反響が大きく、商談につながるお客様も多いですね。

展示会で接点を多く生み、コンテンツで継続的な接点を

ノートパソコンと手元

――上手くいったマーケティング施策について教えてください。

展示会への出展

伊佐敷:オンライン・オフライン関係なく考えると、今年インパクトが大きかったのは展示会です。大規模な展示会(Japan IT Week、営業支援EXPOなど)に出展し、そこからのリード数は大きく、商談や受注につながっています。

細かい展示会も含めれば、2019年だけで10回くらいは出展しています。大規模のものであれば、1回あたりのリード数が3,000件ほどになる場合もあります。

もちろん、商談化率自体はそこまで高くはありません。展示会でお話したお客様にはインサイドセールスが電話をかけます。その後も、継続的にメールを送ったり、セミナーを案内したりし、お客様とのタッチングポイントを定期的につくることで、商談や受注につなげる流れを作っています。

広告キャンペーンに応じたLPの文言とCTAをA/Bテスト

伊佐敷:A/Bテストツールの「Optimizely」を使って、広告キャンペーンに応じたLPの文言やCTAを変更しています。例えば、「〇〇」というキーワードで検索するユーザーに対しては「△△」というキャッチコピーをファーストビューで見せる、といった具合です。

SPEEDAのスクリーンキャプチャ

伊佐敷:私たちのチームでは、積極的にA/Bテストを実施しており実際に成果も出ています。ファーストビューのキャッチコピーやCTAの変更は、A/Bテストの結果に大きく影響します。

反対に、あまり効果のなかった施策は大規模なLP改修です。思ったほどインパクトがありませんでしたね。結局効果があったのは、ファーストビューやCTAの改善でした。もちろんLP改修自体はメッセージやデザインの更新の役割があるため、無駄とは思っていませんが、数値改善は過度に期待しない方が良いとも感じました。

また、MAを用いた自動スコアリング運用もあまり活用できていません。SPEEDAのお客様は業界・業種が幅広いので自動で受注可能性を判定するのには限界がありました。結局、ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)を実践するために、今は1社1社バイネームで指定したターゲットリストを作っているところです。

SPEEDAのマーケティングチームが実践する広告運用

株式会社ユーザベースSPEEDA事業マーケティング担当 斎藤可奈氏

――サービスサイトへの集客チャネルは何ですか。

斎藤:主にはGoogle/Yahoo!のリスティングとオーガニック(主に指名検索/一部オウンドメディアやコーポレートサイトからのリファラル含む)、Facebookです。

広告のチューニングやLPのA/Bテスト・改善などは、パートナー企業と共にこまめに実施しています。2年前と比べると、オンライン経由のリードは2倍以上になっています。

一方で、従来のやり方でのオンラインの上限が見えてきているため、オフライン含めた新たなチャネル開拓と、以前コンタクトがあったお客様に対しての再アプローチに力を入れています。

――広告の運用はインハウス(社内)で実施しているのでしょうか。

斎藤:一度、運用の大部分をインハウスで実施する体制に挑戦し、その上でパートナー会社との最適な協力体制を探りました。例えば、クリエイティブ制作などSPEEDAのブランディングに繋がる部分はこだわりを持ってインハウスで実施し、配信設計部分は信頼のおけるパートナー会社にお任せするといった役割分担をしています。

また工数面でも、今のマーケティングチームのリソースでお客様へのアプローチ方法の多様化を実現できず、パートナー会社の協力が必要でした。

セミナー・ウェビナー・ホワイトペーパー等のコンテンツ作成をSPEEDAのお客様のことをよく知る私たちが行い、そしてそのコンテンツを届ける部分を広告媒体理解が深いパートナー会社さんにお任せする、といったやり方で集客チャネルの多様化を実現できています。

――広告の運用では何が大変でしたか。

斎藤:ブランドイメージを保持しつつ、短期間で安定した成果を出すことです。

SPEEDA自体、ユーザー層が幅広く、かつお客様によって使い方も様々なので、広告の成果が安定するまでの期間に、どういうキャンペーン構造、キーワード、広告にするかなど簡単には決められません。データ量が少ないBtoBの広告運用は、データだけを見てもなかなかわかりません。自分の中で届けたいお客様のイメージがあること、仮説がたてられていることが重要だなと思います。

また、SPEEDAではブランドイメージを大切にしています。数値として成果が出るからといって、ブランドイメージを損なう表現はできません。SPEEDAが目指す世界観を大切にしつつ、新しいお客様の目を引くように、デザインチームと一緒に配信結果を見て協議しながら広告運用をしています。

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伊佐敷 一裕氏 プロフィール(Twitter:@issa_kzp
株式会社ユーザベース SPEEDA Marketing&Branding Team。東京大学理学部卒業後、ナイル株式会社にてWebコンサルティング業務に従事。SEO・アクセス解析・ユーザー調査などの観点から50社以上のマーケティング支援に携わったのち、2017年に株式会社ユーザベースに参画。現在はオンライン領域を中心に、経済情報プラットフォーム「SPEEDA」のマーケティング・ブランディング業務に携わっている。趣味はダンスとギター演奏。

斎藤 可奈氏 プロフィール
株式会社ユーザベース SPEEDA Marketing&Branding Team。2016年に株式会社コロプラに入社。マーケティングチームにてソーシャルゲームのプロモーションに従事した後、2018年に株式会社ユーザベースに参画。WEB広告の運用を中心にSPEEDAのリードジェネレーションを担当している他、オフラインのセミナー企画・運営に挑戦中。

株式会社ユーザベースSPEEDA事業マーケティング担当 伊佐敷 一裕氏と斎藤可奈氏

この記事を書いたライター
大木一真(モジカク)

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