自動化・インハウス化の中でも揺るがない広告代理店の価値とは?
- 高谷みう
スピードやナレッジの蓄積、顧客理解という点でマーケティング機能をインハウス化する動きが世界的に強くなっている。日本においても例えば、メルカリやビズリーチ、レバレジーズといった成長企業は「インハウス体制」であると言われている。
インターネット広告媒体費のうち、およそ80%は運用型広告が占めており(※2018年 日本の広告費)、運用コスト削減の点においてもインハウス化を検討している企業も少なくないのではないだろうか。インハウス化によって広告主側にはどのようなメリット・デメリットがあるのか?またインハウス化が進む中、今後の広告代理店側に求められるものは何か?
今回は、月間2,000万円以上の広告費を運用しながらチームのマネジメントに関わってきたキーワードマーケティング社取締役COOの瀧沢貴浩氏に広告運用のインハウス化についてお話を伺った。
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ツールに代替されない人ならではの価値
ここ一年間で急速に、機会学習やアルゴリズムによる自動化の流れが大きくなっている。では、具体的にどのような業務が自動化され、また今後代替されていく可能性があるのか。瀧沢氏は以下のようにまとめている。
瀧沢氏:
現在、機械学習やアルゴリズムがユーザーの検索意図を精度高く理解し、適切なキーワードと広告文を自動的にマッチさせることができるようになりました。
しかし、たった2、3年ほど前には数百〜数千のキーワードに対し1つずつ広告文を割り当てる、いわゆる「1広告グループ1キーワード」でアカウントを構築し、それを人の手で細かく管理することが広告代理店の価値の一つでした。
そういった状況が急速に変わりつつあるなかで、広告運用において今後も人が担う役割は大きく以下の3つだと考えています。
広告運用において今後も人が担う役割
(1)クリエイティブ
(2)戦略設計
(3)クライアントワーク
まず(1)クリエイティブですが、前提として認知層向けと潜在・顕在層ではまったく違うものとなります。
弊社では、潜在・顕在層からのコンバージョンを獲得するための広告をメインに取り扱っているのですが、その代表的なプロダクトであるリスティング広告では特に広告テキストが重要となります。
例えば、残業を終えて家の前に着いたときに家のカギを落としたことに気づく。時計をみると21時。そんな状況で「カギ 落とした」と検索して出てくる広告に「創業30年プロが丁寧にカギを開けます」なんて書いてあってもしょうがないですよね。
当然、「この時間でも来てくれるのか」「どのくらい時間がかかるのか」「いくらかかるのか」といった不安に応える広告文でなければいけません。
このように、ユーザーに寄り添った広告を作るために(2)戦略設計が必要です。
一般的な自動化ツールはすでに用意された要素をもとにして効果を出すことは得意ですが、お客様に必要なものをゼロベースで判断することが難しいようです。
ツールがAからA’を作り出せるとしたら、人はAからDへとジャンプした発想を生み出すことができますので、そこがひとつの価値になります。
人が生活者のニーズや目的を整理する必要があるため、弊社では1次情報(実際のユーザーの立場でサイトやサービスの利用を行う)はもちろん、1.5次情報と呼んでいる、Yahoo! 知恵袋などの質問サイトの回答から検索ユーザーのニーズを洗い出し、ターゲットとそのターゲットが持っているであろう不安・不満を定義します。
そして、その不安・不満に寄り添うメッセージを広告文へと適用していきます。
また、(3)クライアントワークに関しては、広告主が納得・安心して十分に広告費への投資判断ができることが重要だと考えます。
そのためには、「仮説に対する裏付けに納得感がある」「レポーティング」が大切です。人との関係も重要なので、「早いレスポンス」「質問の意図がズレない」コミュニケーションスキルも必要になります。
このあたりは当然、一般的な自動化ツールではまだまだ実現が難しいでしょう。
自社運用と代理店運用のメリット・デメリット
インハウス化のメリット・デメリットを整理した時に、インハウス化をするかどうかは各企業のありたい姿や哲学に判断が委ねられると瀧沢氏は言う。
瀧沢氏:
インハウス化にも代理店運用にも、当然メリット・デメリットがあります(以下の表を参照)。
企業はそれらを把握した上で、どういう組織にしたいか、どういうビジネスをしたいのかによってインハウス化するべきかどうかを判断する必要があります。
また、インハウス化したくても人材確保がなかなか難しい現実があります。大企業や成長企業であれば比較的専門の人材を集めやすいかもしれませんが、中小企業などは採用に苦戦しています。
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代理店が発揮する新たな価値、広告主が頼るべきところとは
インハウスへと運用体制を変えることは、専門知識のある人材がいなければ不安が大きい。広告代理店の新たな価値の一つは、それを払拭し、インハウス運用を支援することだ。
瀧沢氏:
これからの広告代理店の価値は、以下の5つだと考えています。
(1)戦略設計
(2)業界を横断した事例やナレッジの提供
(3)最新の専門情報の提供(媒体からの情報提供があるため)
(4)レポーティング(広告主が納得感と安心感を得ることができる)
(5)インハウス運用支援
急成長するスタートアップ企業では広告費が大きく、代理店に運用手数料を支払うよりも人材を雇用した方がコストパフォーマンスが良いケースもあります。
しかしながら、自動化やインハウス化によって、代理店の価値が下がるわけではありません。代理店次第ですが、一般的な自動化ツールに代替されない価値や、新たな価値を発揮することができると思っています。
特に、自動化が進むことで開示される情報はどんどん減っていくことは間違いありません。実際にこれまで当たり前に確認することができた、クリエイティブごとの成果が特定できない広告形式も登場しています。
そういった状況で成果が悪化した時に、最短距離でその状況を打破する精度の高い仮説と打ち手を多く出すことが大事になってきます。そういったニーズの高まりから弊社では、インハウス運用を支援するコンサルティングサービスの拡充を行いました。
こういった状況が進むことで、マーケティング知識が必然的に重要になります。広告主も広告代理店も、より本質的なマーケティング資質が洗練されていく、良い変化が訪れるのではないでしょうか。
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瀧沢 貴浩氏 プロフィール(Twitter:@080fe121)
新卒で入社した会社で幼児教育支援事業のデジタルマーケティング責任者を務めた後、2016年7月よりキーワードマーケティングに入社。入社半年で九州佐賀支社長に就任し、オペレーションセンターの立ち上げを成功させる。東京本社に戻った後、プレイングマネージャーとして月間2,000万円以上の広告費を運用しながら、広告運用チームのマネジメントに関わる。マーケティングチーム、インサイドセールスのマネージャーを経て、2019年4月より取締役COOに就任。
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高谷みう