インハウス編集者記事寄稿

オウンドメディア急成長を支えた「やらない判断」。“死の谷”を乗り越え、前年同月比3.9倍に(藤田 隼)

藤田 隼
死の谷

皆さま、はじめまして! 株式会社SmartHRの藤田隼と申します。

インハウスマーケティングラボでは、約2年間の“オウンドメディアひとり編集部”経験で培ったTIPSやノウハウを公開していければと思います。

最初の記事となる本稿では、成長中のオウンドメディアでひとり編集部を担う私が、「やらない判断の重要性」についてご紹介します。

自己紹介

本題に移る前に、簡単に自己紹介をさせてください。前職ではWEBメディアに特化した事業会社で複数サイトの制作ディレクターを経験した後、2017年6月にSmartHRへ入社しました。

SmartHRでは、マーケティング・広報グループに所属。人事労務専門のオウンドメディア『SmartHR Mag.』の運営や導入事例作成をはじめとしたコンテンツマーケティングを担当し、2017年9月より同メディアの編集長に就任。また2018年10月にはSmartHRの活用に特化したオウンドメディア『SmartHR ガイド』を立ち上げています。

「死の谷」を超えた急角度の成長曲線

さて、前置きが長くなりそうなのでそろそろ本題に入ります。

まずは、株式会社才流 代表の栗原さんの記事で触れられていたこちらの図をご覧ください。

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(図1)出典:「天才マーケターがいるかどうか」では決まらない!BtoBマーケの成否を分ける要因(栗原 康太) – MarkeZine

私はこのグラフを見て、目からポロッと鱗が落ちるような感覚に陥りました。

成長曲線の理想と現実にはギャップがあって、これはBtoBマーケティングにも言えるんじゃないかとの仮説が触れられていますが、『SmartHR Mag.』もまさにこんな感じだったんです。

というわけで下図をご覧ください。

(図2)SmartHR Mag. 2017年1月以降のUU推移

栗原さんの記事にあった成長曲線の図とけっこう雰囲気似てますね。
もっとわかりやすいように、2018年1月以降の成長曲線を、Googleデータポータルのトレンドライン(多項式)で下図に示してみました。

(図3)SmartHR Mag. 2018年1月以降のトラフィック トレンドライン(多項式)

栗原さんの指摘する“死の谷”が、2018年夏から秋にかけて現れているのが、よくおわかりいただけると思います。

もちろん、人事労務という特性上、季節要因で検索ボリュームが増減するのですが、中長期的にみても停滞期は少なからずある。

そのような時期を経てもなお、辛抱強く取り組んだ結果が2019年1月からの伸長です。

2019年3月は働き方改革関連法施行直前という一時的な検索ボリュームの増大があったとはいえ、それを抜きにしても、3月上旬の検索アルゴリズムアップデート等がプラスにし、4月に入って以降も堅調。一段上のレベルに成長したのは間違いありません。

ひとり編集部には「やらない判断」も必要

「“死の谷”を迎えようが、ユーザーと向き合い真摯に取り組むことで必ず成果に結びつく!」

これは決して特別な言葉ではありませんが、先ほどの成長推移が示すとおり、ひとつの真理なんじゃないかと思っています。とはいえ、なんでもかんでも愚直にやればいいわけでもありません。

なぜならば、“ひとり編集部”という特性上、限られたリソースで勝負せざるを得ないからです。

先程の、栗原さんの記事の中でこのような一文があります。

“施策実行のトライを続け、学習時間が伸びていれば、最初は打ち手の精度が低くても、ある瞬間から大きな成果が出せるようになる。一方、思ったような成果が出ない「死の谷」の心理的、数値的なストレスに耐えられないと、途中で投資を縮小してしまい、成果を出せずに終わってしまう。”

こちらも首がもげるほど頷きました。

ネット上には様々なTIPSや魅力的なメッセージが溢れています。でも、それらを手広く手を出すと、1つ1つの取り組みに対する試行錯誤の回数が減り、仮説検証で判断を見誤るリスクがあります。打ち手の量、つまりサンプル数の量が少なければ、効果測定の精度が下がるからです。

そうすると、正しい判断を下せず持続可能な成長が難しくなってしまいます。また、施策ごとのインパクトが薄れ成長しているのか否かがわからなければ、モチベーションも持続せず、栗原さんが指摘するように、挫折しかねません。

やりたいことが無数に増えていく中では、意識的に引き算思考を持ち「やらない判断」を下すことが重要です。そして、打ち手の“範囲”を絞り、現実的な守備範囲の中で打ち手の“量”を増やしていくのが、ひとり編集部の鉄則ではないかと考えています。

「選択と集中」で前年同月比3.9倍の急成長

かくいう私も『SmartHR Mag.』において、あれこれと風呂敷を広げてしまい、伸び悩む時期はありましたが、2018年夏以降「やらない判断」を適宜行い、選択と集中によって成長に繋がりました。

例を挙げます。2018年6月29日に働き方改革法が成立し、2019年4月1日に順次施行開始されました。これにあわせて、夏以降集中的に関連記事を公開。逆に、同期間においては、他の施策にはあまり手を広げていません。

定量的には、2018年7月1日から本稿執筆時点の2019年4月19日までに公開したサイト全体107本の記事のうち34本、つまり3本に1本が働き方改革法に関する記事でした。

その結果、多くの記事で検索上位。たとえば以下の記事は「働き方改革法」で検索結果第1位、「働き方改革関連法」でも厚生労働省の告示等に次ぐ第3位(コラム記事では第1位)となっています。

2019年4月より順次施行。「働き方改革法」への具体的対策とは?【大企業編】

サイト全体のトラフィックとしても、改正法施行が近づくにつれ着々に伸長(図2参照)。2019年3月は単月30万UUを突破し、前年同月比約3.9倍の大幅成長となりました。手前味噌ながら、労務に特化したメディアとしては、有数の規模になりつつあると実感しています。

この成長を実現できたのも、2018年8月に現れた“死の谷”を前にしても挫折することなく、また目先の成果にとらわれることなく、「やらない判断」によって限定的な範囲で打ち手量を最大化できたからだと考えています。

「やらない判断」の軸となるメディアコンセプト

さて、あれこれと書いてきて大事なことをお伝えし忘れていました。

何をもとに「やる」「やらない」を判断したのか?

これはメディアコンセプトに尽きます。

具体的には、「ホットな人事労務マガジン」というタグラインのもと、人事労務にまつわるお役立ち情報を配信し続けてきました。

SmartHR mag. のロゴ

(図4)SmartHR Mag. のメディアロゴ、そしてタグライン

『SmartHR Mag.』では、1本単位の記事だけではなく、「マガジン」となってこそ読み手の価値を最大化できると考えています。

このコンセプトのもと、実際に『SmartHR Mag.』でやらないと判断したことのうち、代表的なものとして以下の5つがあります。

  1. PV・UU至上主義
  2. SEO至上主義
  3. バズ至上主義
  4. プロモーション至上主義
  5. 公開本数至上主義

たとえば、「SEO至上主義」。

もし『SmartHR Mag.』が成果にのみこだわるのであれば、恐らく「年末調整」などのビッグワードで検索結果1位を狙うため、先行する大手メディアと徹底抗戦し、長文の記事を投下、リライトし続けるのが良いでしょう。

しかし、既に世の中に充実した記事があるのに、そこに対してリソースを割くのは読者にとっての価値につながらない。むしろ、「マガジン」としての体をなさずメディア価値低下に繋がる恐れがあると考え、現時点でやるべきことではないと判断しました。

そこで「やらなかった時間」を活かし、目下叫ばれる「働き方改革法」について人事労務担当者様が知るべき注意事項を専門家の方々とともに注力配信。

先述のような成長に寄与したほか、充実した関連コンテンツをもとに、ホワイトペーパーも制作。このホワイトペーパーも、記事同様多くの方にご覧いただいております。

(図5)働き方改革法を特集したホワイトペーパーの表紙と目次。『SmartHR Mag.』の記事がもとになっています。

もちろん「SEO至上主義」以外にも、やらないと判断したことはまだまだあります。

それぞれ、どのような経緯でやらない判断に至ったのかについて、次回ご紹介したいと思います。

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■ note
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この記事を書いたライター
藤田 隼

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