Web解析インタビュー

2万7千サイトを分析したプロが語る。マーケターにとって分析よりも大事なこととは

Shirofune広報担当
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垣内勇威氏(かきうちゆうい):1984年生まれ。東京大学を卒業後、株式会社ビービットに入社。大手クライアントのWeb改善コンサルティングに携わる。2013年に株式会社WACULに入社、取締役に就任。WACULでは、AIを活用したWebサイト分析サービス「AIアナリスト」の立ち上げに関わり、現在は「AIアナリスト」を基盤とした、新たな価値創造・事業創出をすべく、新規事業インキュベーションの責任者を担当。Twitterでは @yuikakiuchi のアカウントでWebマーケティングに関する知見を発信している。

デジタルマーケティングは、もはやほとんどの企業が避けて通ることのできないテーマであり、中でもその第一歩としてWebサイトの改善に取り組んでいる方は多いのではないだろうか。そのWebサイトのデータ分析と改善提案という「コンサルティング・サービス」をAIによって自動化するサービス、AIアナリストを提供しているのがWACUL社だ。

昨年11月に5.6億円の資金調達を行った同社は、その後コンテンツSEO支援サービスWACULテクノロジー&マーケティングラボの発表など立て続けに大きな動きを見せている。
今回は同社取締役CIO(新規事業インキュベーション責任者)の垣内勇威さんに、その裏に描く同社のこれからの展開と今後のデジタルマーケティングのあるべき姿を伺った。

WACUL社のマーケティング全体像

WACUL社は「AIアナリスト」を提供サービスの主軸とし、対人営業で契約の獲得を行うためのリード獲得を主にオンラインで行っている。コンバージョンポイントは「AIアナリスト」の無料トライアル申し込みやセミナー申し込みなどだ。

同社の集客導線として一番大きいのは、アクセス解析のノウハウを書いたオウンドメディアAI analyst blogだ。毎月500件ほどのリードを獲得できているという。
広告はFacebook広告とリスティング広告を出していたが、リスティング広告でリーチできる層は、すでにターゲットとなるキーワードで検索上位を獲得しているオウンドメディア側で獲得できるため今はほとんど出していない。

リード獲得後に反応がない場合は掘り起こし活動として、架電やメール、「AIアナリスト」の改善提案を更新してお伝えし、セミナーに招待するなどしている。

広告からメディア運営まで、基本はすべてインハウスで運用し、自社でデータを持っていないFacebook広告については多くのデータを持っている専門の代理店からアップデートなど最新の情報を得ている。

垣内氏:
「最初に接触したユーザーは、弊社のサイトを見るだけであったり、セミナーに来ただけであったりなど、リードにもならないことが多いです。
弊社としては、そういった接触ユーザーに対し、まずは無料登録や事例集、ホワイトペーパーなどをご提示して、リードにつなげます。
また、リードをとったものの、受注に繋がらなかったユーザーや、タイミングとして今すぐに有料化することのできないユーザーは、その後の掘り起こし対象になります。
そうして、予算やサイトの立ち上げのタイミングなどの問題で期を逸したユーザーさんがどんどん溜まっていくので、時期をみて掘り起こしをします。」

過去にはトレンドのSEOを試すも効果出ず、そこでの気づきが今のメインチャネルを作った

今では集客導線の主力となっているオウンドメディアだが、過去にはいわばブラックなSEOにトライしたこともあるという。

垣内氏:

「SEOで失敗したことはあって、すこし前のSEOのトレンドにあわせて強いドメインを大量に買ってそこにアクセス解析のブログを立てて、怪しくない程度にリンクを貼るということをひたすらやる、みたいなことを実験的に試したことはあります。
順位が上がっていたこともありますけど、結局小手先でやっても意味がなくて。Googleがユーザー思考と言っている中で、小手先の対応はどこまでも続くことではないので、地道にちゃんとコンテンツを作るしかないなっていう失敗と気づきはありました。」

コンテンツはインハウスで仕組み化。魂を込めて丁寧に書くことが命。

月500件ものリードを獲得するオウンドメディアを生み出した運用体制や設計は、「AIアナリスト」で培った知見をもとにPVではなくCVにフォーカスすることや、行動指針にあるシステム志向に沿って徹底的に自動化・効率化をすることを通じて磨き上げられてきたのは間違いない。
ただ、最も大事にしていることは魂を込めることだと垣内さんは言う。

メインの集客チャネルとなっているブログは月間20万PV以上

垣内氏:

「初期はキーワードや骨子については社員が担当し、記事執筆はインターン生にお願いしていました。そのうち骨子作成の自動化を進めるにあたって、インターン生でも骨子を作れるようになりました。
コンテンツSEOを自動化するサービスを提供していますが、元は社内で自分たちのオウンドメディアを成長させてきた中で作りあげたスキームそのものなんです。
自社でうまくいったからサービスとして外販しようと思いました。

ただ、記事のつくり方に関しては、アクセス解析やデジタルマーケティングを専業とする弊社が誰よりも詳しいと思っています。
そのため、そこは外注せずに魂を込めて丁寧に書くようにしています。

今後どんどん周りでコンテンツが増えていく中で、Googleのルール変更があったとしても優位性を保ち続けるためには、そこが一番重要だと思っています。」

デジタルでは獲得できない潜在層が今後のターゲット

これまでは、オウンドメディアから流入し能動的に情報を取りに来るユーザーが多かったWACUL社。
今後のマーケティング戦略は、情報を取りにこない潜在層をターゲットとした「広報活動」と「アライアンス」の二軸だという。

垣内氏:

「今後の戦略としては、広報活動を通して認知獲得をするというのが一つの軸になります。私のTwitter(@yuikakiuchi)も広報活動のためにやっています。

また、研究所としてプレスリリースで研究成果を発表したり、大学でマーケティングや人工知能を研究していたり、大手企業で最先端のマーケティングを追求されていたりする顧問の方と対談したりしていこうと思っています。
すぐにリードを獲得するようなものではないですが、日々研究していることを発表することで「デジタルマーケティングといえばWACULに聞いてみよう」という第一想起といわれるポジションをとっていくということをやっていきます。

もう一つの軸は、代理店さんやWeb関係の業務を行う企業とのアライアンスによって、リアルのチャネルを攻めるということです。
WACULは良くも悪くもWebが得意なので、放っておいてもWebまわりの施策でリードが月1,000件くらい来ていました。
ただそれは結局検索している人を刈り取っているので裾野が狭い。

能動的にデジタルを使わないようなところ、例えばまだデジタルマーケティング領域に踏み込んでいない大企業の方などはオンラインで自分から来たりしないので、そこにはいくつかの方法でアプローチしています。

例えば、弊社の株主でもある電通さん経由でナショナルクライアントと言われる大企業に会いに行ったり、ダイレクトアジェンダのようなマーケティング系のネットワークイベントに参加したりして、リアルなコミュニケーションをとるなどしています。
これまでのプル型ではなく、プッシュ型でないと取れない層をこれからとっていきます。」

WebサイトにおいてCVをあげる勝ちパターンは決まっている

Webサイトのデータを月間40億セッションなど、大量に保有しているWACUL社は、サイトの種類や特性とターゲットの掛け合わせによって分類が可能でそれぞれ勝ちパターンが決まっているという。

垣内氏:

「Webマーケティングの「勝ちパターン」に関する研究をたくさん行っています。
世の中にはWebで完結するECのようなサイトと、Webから営業担当につなぐBtoBのようなサイトがあります。

この中でも大企業しか狙っていないようなサービスもあれば中小企業向けのサービスのサイトもありますし、お客さんが情報をたくさん持っているケースと持っていないケースがある。
セグメントごとに、ユーザーの購買ステップが決まっているので、やらなきゃいけないことはこれです、という「勝ちパターン」を整理しています。

例えば、WACULの場合はお客さんがあまり情報持っていなくて、中小企業向けにも展開するという法人向けソリューションのセグメントになります。
弊社のWebサイトを訪れる方には、検索してTOPページに入る人もいれば、広告からランディングページに入る人もいるし、ブログのようなコンテンツから入る人もいる。

そういった最初に訪れるランディングページから、いかに問い合わせというアクションまでスムーズに誘導するかという点が最も重要です。
BtoBの商材に関しては、最終的には営業担当に会わないと購買するかどうかわからないので、Web上で事細かに説明することはあまり意味がないと思っています。
だから、どうやって問い合わせというリードを獲得するかということにフォーカスして、全力でユーザーの文脈を考えて誘導していきます。

同時に、問い合わせに入ったユーザーに対して「前後に違和感ないフォーム」を用意することで、営業担当が後々困らないように、その後のオペレーションまで含めたWebのCVを決めることをやります。
これでも営業担当が会えなかったり、会ってもダメだったりすると掘り起こし対象になり、ここに対してメルマガでも記事でもTwitterでも何でもいいんですが、継続的にユーザーとなりえる可能性が高いお客様にコミュニケーションしていく。
MAなど複雑なものを入れずとも簡単にざっくりでいいと思うんですが、ユーザーをセグメント化して狙っていく。

このように全体像を捉えた中でやっていく方法論というものを体系立てて整理しています。その中では、BtoBに限らずECでも同様に「勝ちパターン」を用意してあります。」

最速で勝ちパターンにあてはめ、本当にやるべきことをやる

このように、大量のサイトデータからサイトの種類によって「勝ちパターン」が決まっているということが明らかになっている中で、今後の企業のデジタルマーケティングはどのようにあるべきなのか。
垣内さんは「最速で勝ちパターンにあてはめ、本当にやるべきことをやる」ことだと言う。

垣内氏:

「そもそもデジタルマーケティング業界では、部署異動もけっこう多くてあまりWebを知らない人が担当として入ってきたりもします。
そうすると、なんでもできるような高度な分析ツールを入れたり、サイトをきらびやかにリニューアルしようとしたり、ゼロイチで施策を始めたりします。ただ、だいたい失敗してしまう。
二年ぐらいたってやっぱり普通に戻そうと言って普通に戻した時に、また異動するみたいな。無駄ですよね。

BtoBはこれ、ECはこれ、という「勝ちパターン」があるのであればゼロイチで考えずにそれを使えばいいと思います。

会社は事業にフォーカスをした方がいいんです。商品開発だったりとか、コンテンツ開発だったりとか。コンテンツはやっぱり、魂込めて書くものなので。

リスティング広告なんかも企業の担当者がポチポチとボタンを押してやってるのはもったいないので、それこそShirofuneさんを使って簡略化するのでよいんだと思います。
マーケティングとか経営とかの専門的な知識や細かなテクニックを知らなくても、自分たちの顧客を捉えて、ビジネスをどうつくるかだけ分かっていれば、あとは「AIアナリスト」があればよい、という状態にしたいです。」

サイト改善をやめる判断をし、他に必要な業務にコストをかける

サイトの改善を行っていく際に、どこまでも右肩上がりの目標を置かれることがしばしばある。
担当者レベルで感覚的に改善の天井が見えていても、改善をやめるために社内に論拠を示すことに苦戦する担当者も多いのではないだろうか。
しかし大量のサイトデータを保有しているWACUL社は、業界水準を把握しているためどの程度改善が見込め、どこで改善をやめるべきかがわかる。
その判断ができると、他に取り組むべき施策や業務にコストをかけることができるのだ。

垣内氏:

「例えばフォームを改善する場合に、今はこのくらいのCVR(コンバージョンレート)だけど、どこまであげれば良いのか分からないですよね。
ただ我々から見ると、業界でいうと、このフォームはだいたい20%で上限がくるというのがわかるので、20%に到達したらもう改善施策やらなくていいです、と言うことができます。

やらなくていいという決断ができると、他のことをやりましょうと言えますよね。これは経営指標にもつながってきます。」

AIアナリストの未来はコンサルの自動化。企業内で無駄なPDCAを回さないようにしたい

すでに明らかになっている「勝ちパターン」を使い、企業が本来やるべきことをやるために、WACUL社ではデジタルマーケティングのコンサル的なプラットフォームを作っていくという構想がある。

垣内氏:

「「AIアナリスト」はデジタルマーケのコンサルティングを自動化をするツールだと思っています。

「勝ちパターン」がわかっているものは「AIアナリスト」で補助していき、無駄なPDCAを回さないようにする。
最速で「勝ちパターン」にはめ込み、あとは企業の中の人にしかできないことをしていただく。無駄なことにお金をかけるということがどんどん無くなっていけばいいなと思っています。

また自社で開発することにこだわりはなく、広告をやるんだったらShirofuneさん、制作をやるんだったら何かある特定のCMSさんなど、パートナーさんと組むことができればいいと思います。
「AIアナリスト」はコンサルティングの自動化ツールなので、そこから示される改善方針にそって、様々なツールが連動して改善施策の実行を担う。

「AIアナリスト」がそのプラットフォームの根幹を担えたらいいなと思っています。」

今後のWebマーケティングのあるべき姿とWACUL社の構想について、とても力強くそして熱く語っている垣内さんが非常に印象的だった。
AIを活用してデジタルマーケティングにおける「勝ちパターン」を最速で実装できるように業務を自動化し、あらゆる業務の効率化・最適化が進むのも目前のように感じた。マーケターに求められるスキルやマインドセットが現状とは大きく変わってくるのもそう遠くはないかもしれない。

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この記事を書いたライター
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