広告代理店からSaaS企業へ。wevnalは、どうやって経営方針や組織を変え、事業を転換したのか
- Shirofune広報担当
インターネット広告代理店からSaaS企業へと変革を遂げた株式会社wevnalをご存知だろうか。
同社は創業から9期に渡り、インターネット広告代理事業を主戦場として成長してきたが、売上至上主義による歪み、集客一辺倒のクライアントのマーケティング課題に直面し、自社サービスで集客からWeb接客までを一気通貫でサポートするSaaS企業へと転換することを決意。3年前にチャットボットサービスBOTCHANをリリースした。
チャットボット戦国時代の只中で、独自の立ち位置で順調にクライアント数を増やし、今年の5月には導入社数550社以上を突破。既存の広告代理事業の3倍に登る売上を叩き出すまでに成長し、SaaS企業への変革を果たした。
また、今年の9月にはシリーズAで6億の資金調達を行い、さらなるサービス成長を目指している。本記事では同社代表、磯山氏に広告代理店からSaaS企業への変革のストーリー、今、広告代理店に求められるものについて話を伺った。
売上至上主義の広告代理店から、自社サービスで競合優位性を保つSaaS企業へ
2011年の4月、25歳のときに新卒で入社したGMOの同期と株式会社wevnalを創業しました。現在と比べると、スタートアップの資金調達が活発ではなかったので、得意だった広告代理業から事業をスタートし、当時は目の前のお金を稼ぐのに必死の毎日でした。
3人で始めた会社は、順調に成長していました。広告代理業は働いた分だけ売上が伸びるため、ハードワークを重ねていたのですが、会社の急成長に伴い、顧客からのクレームや社員の大量離職といった歪みが出てきました。
ハードワークを続け、お客様にも迷惑をかけながら100億、200億を目指したいわけではなく、自社の強みを持って顧客の課題に向き合う会社になりたい。
そこで、売上市場主義の広告代理店から顧客課題解決型の、自社サービスで競合優位性を保つSaaS企業になろうと5年前に意思決定しました。
しかし自社サービスを作ろうと決めたところで、当時はサービスの素案すらありませんでした。広告代理事業は毎月お客様からお金をいただくフロー型のビジネスモデルです。新規事業ではストック型のビジネスであるSaaSの事業開発をスタートしました。
Web解析ツール、広告レポート自動化ツール、独居老人への医療サポートサービス…試行錯誤の中で気づいた自社のDNA
新規事業開発は創業メンバーの前田が中心となって進めていきました。0→1が得意で色々なチャレンジをしながらビジネスの火種を作ってくれました。
単身ベトナムに乗り込んで開発組織を立ち上げ、Web解析ツールを作ったり、広告のレポート自動化ツールを作ったりしました。
また当時は「AI」と「IoT」がバズワードだったこともあり、独居老人向けに遠隔で医療サポートをするサービスを開発し、Microsoftさんに表彰されたこともありました。
新しいサービスをいくつか試していく中で、自分たちが提供すべきサービスの形が少しずつ見えてきました。それは既存の広告代理事業に紐づくサービスがいい、ということです。
資金のないベンチャーが全く新しい顧客に、これまでと違うサービスを提供するのは効率が悪い。今の顧客群にこれまでとは違うサービス、違う技術を提供することで事業を拡張していこう、と話がまとまっていきました。
既存顧客に何を提供するか考えた時、wevnalはこれまで顧客の売上向上にコミットしてきたことが強みだと気がつきました。
顧客の売上が上がるサービスを提供するのがwevnalのDNA。だったら集客したユーザーをWeb上できちんと接客し、お申し込みまで伴走するチャットボット事業はどうかというアイディアに行き着きました。
既存の広告代理事業で感じていた「Webで集客して終わり」という課題を解決できる。ランディングページに集客してもそのあとどうすればよいかと迷ってしまうユーザーに「何か困りごとはありませんか?」とコミュニケーションをとることでお申し込みまで誘導する。
クライアントの集客効率が上がるので既存の「集客を支援する」広告事業のプラスアルファになります。このストーリーが見えた時、チャットボットを作っていくという覚悟が決まりました。
独自の立ち位置で、チャットボット戦国時代を生き抜く
覚悟は決まったものの当時はチャットボット戦国時代。クライアントから「チャットボットはもうお腹いっぱい」と何度も言われました。でもだからこそチャンスだと感じていました。
「チャットボットを入れることでコールセンターのオペレーター費用を削減できた」「カスタマー担当の業務が自動化され業務改善に繋がった」など、当時、チャットボットは業務効率目的で語られることがほとんどでした。そこに対して我々は「売上向上目的のチャットボット」というポジションをとりました。
また、既存のチャットボットサービスはツールを提供することがゴールになっていました。真の課題はWeb接客をすることでお申し込み件数を上げるというシナリオの部分、クリエイティブな部分です。
当社のチャットボットBOTCHAN(ボッチャン)を導入すると業務効率ではなく、お申し込みの件数が上がり、売上が上がる、ユーザーを心地よいコミュニケーションで接客することでファン化する集客した後の工程にまでコミットしたのです。
事業を変えるために組織を変える
広告代理店のwevnalがBOTCHANを提供するSaaS企業になるには、組織も変えていく必要があります。これまで広告代理店として、セールス・コンサルティング・クリエイティブで構成していましたが、チャットボットを開発するためにはエンジニアが必要です。
しかし、成果至上主義の営業会社にエンジニアは来てくれません。自社サービス、自社の強みを持って世の中の課題を解決していくエンジニアテックの会社へと変革するため、ミッション・ビジョン・バリューをアップデートし、評価制度も変えていきました。
wevnal社の現在のミッション・ビジョン・バリュー
ミッション
「人とテクノロジーで情報を紡ぎ、日常にワクワクを」
ビジョン
「コミュニケーションをハックし、ワクワクするブランド体験を実現」
バリュー
・Challenger
・Professional
・Honesty
・+One
エンジニアリング、セールス、コンサルティング、クリエイティブ、各分野のスペシャリストが協力し、お客様のマーケティングファネルに対して一気通貫で課題解決していく文化を醸成し、広告代理店の価値観をSaaS企業の価値観へとアップデートでしていきました。
プレスリリースを出したり、ホームページを変えたりと対外的な発信をしながら、代理店からSaaS企業へというメッセージを社内に向けても発信しました。
また、採用方針も転換しました。BOTCHAN事業に集中するため、注力していた新卒採用よりも中途採用の比率を上げる決断をしました。
開発はもちろん、カスタマーサクセスやセールス、デザイナーといった各部門で経験者採用を強化し、ビジョン・ミッションに向かって突き進むスピードをあげていきました。
黒字経営から投資フェーズの赤字経営へ
SaaS企業へと変わるために人と組織を変える。それは全く違うものへと変わるのではなく自社の強みをさらに強化し、組織をアップデートしていくということです。
変化はあってしかるべきだし、変化を楽しむことを元々カルチャーとして持っていたこともあり、カルチャーの変革に対する現場からの拒否反応はありませんでした。
人と組織の変革以上に苦戦したのが事業構造の転換です。これまで自己資本で10年以上経営してきました。代理店事業にかかる費用は人件費だけなので、売上を伸ばすことで黒字を着実に増やし、成長していくスタイルの経営をしていました。
ところが自社サービスを提供するSaaS企業となると初期投資が必要です。スタートアップではJカーブと言われますが、初期投資で大きくマイナスに振れることで成長率が伸びるという事業構造はそれまでの広告代理事業のスタイルと全く違う発想のものです。
今まで評価されてきた粗利が投資フェーズでは評価されず、それよりもサービスの成長性が重視されます。得意としてきた黒字経営を捨てて、赤字を覚悟してお金を大量に使う意思決定をしなければなりません。
得意分野をいい意味でも捨てて新しい経営スタイル、意思決定のスタンダードを作っていく。経営者としての変革はきつい部分がありました。
そもそも、今まであったものを否定してまた新しいものを作るというのは、ゼロから作るより難しい話です。古くからある道路を壊して新しい道路を作るのは、まっさらな土地に道路を作るより難しい。
変革と言うと聞こえはいいですが、人ってやはり今までの成功体験に引っ張られるし、変化が怖い生き物です。10年間染み付いた経営者としての帳簿上の評価や価値観、組織の価値観をうまく否定しながら新しいものにアップデートしていく。広告代理業としての価値観とSaaS企業の価値観を一つの組織体として持つことに難しさを感じました。
しかし既存のチャットボットとは違うBOTCHANの立ち位置、組織のアップデートにより、当時100社ほどあったチャットボット提供会社と差別化をはかり、優位性を築くことができました。
SIerやシステム構築会社はマーケティングのことはわかりませんし、マーケティングの会社はチャットボットの開発ができません。
マーケティングプロフェッショナルな集団が開発するチャットボットである「BOTCHAN」は自ずと導入いただく企業さんが増えてきました。お陰様で今年の5月には導入企業が550社以上を突破しました。そして9月、シリーズAで6億円の資金調達が決定しました。
集客一辺倒の日本の広告マーケットをBOTCHANで変えていく
日本の総広告費は6兆円と言われていますが、その内容は集客一辺倒です。
ここに対して我々はWeb接客という後工程まで踏み込み、マーケティングのファネルに対して一気通貫でコミュニケーションを取っていきたいと考えています。心地よいユーザー体験を継続的にどんな場所でも提供する。
そのためにテレビやWeb、リアルといったあらゆるタッチポイントのクリエイティブ、コミュニケーションを統一し、ユーザーがブランド体験を通じてブランドのファンになっていくお手伝いをしたい。
これができれば企業さんのLTVを最大化させることができます。BOTCHANを主軸としたBX(Brand Experience)プラットフォームを通じて企業さんとユーザーさんが継続的にコミュニケーションをとる世界を実現していきたいですし、ここにこそ集客一辺倒の日本の広告マーケットを変革するチャンスがあると考えています。
wevnalでは【人とテクノロジーで情報を紡ぎ、日常にワクワクを】というミッションを掲げています。インターネット広告の世界は自動化や効率化がどんどん進んでいますが、人が介在する価値はまだまだ色々なところにあると思っています。
自動化や効率化はテクノロジーで進めながらも、人のクリエイティビティーやワクワクする感情を掛け算で追求していきたい。そのためにも組織は非常に重要です。テクノロジーを追求しながらも技術一辺倒ではなく、人の可能性や情熱を大切にする組織。事業と技術、人と組織の両輪が高い熱量で回りながら、マーケティングの価値、ブランド価値の向上を議論しあえる組織を目指していきたいです。
今、広告代理店に求められるのは強い覚悟
僕らは広告代理店からSaaS企業へと大きな変革をしましたが、それは自社のサービスで世の中の課題解決をしたいという思いと、代理事業の先行きが見えなくなってきていたからです。
だからワクワクしながらも無理をしてでも、時にリスクを孕みながらも覚悟を決めて変革をしてきました。広告代理店としての価値を突き詰められなかった側なので変革するのが当たり前とも、かっこいいとも思っていません。
むしろ広告代理店としての価値、他社に負けない強みがあるなら変える必要はないと思うんです。マーケティング支援のニーズは今後も間違いなく増えてきますし、変わらない方がいいという選択肢もあって然るべきです。
でももし変わりたいなら覚悟が必要です。変革しなくてはいけない、という感覚で変革はできません。なぜ変わりたいのか?今、運営している事業の本質的な課題はどこにあるのか?覚悟が決まる何かを見つけなければいけません。迷うのはいいけど迷い続けるのは勿体無い。覚悟さえあれば、変革はいくらでもできます。東大出身でも、マッキンゼー出身でもない僕らができたんです。必要なのは覚悟ではないでしょうか。
(取材・文/藤井恵 写真/矢野 拓実 編集/中島 孝輔 株式会社才流)
プロフィール
磯山 博文氏 Twitter @isoyama0719
株式会社wevnal 代表取締役社長 2008年GMOアドパートナーズに新卒で入社し、メディアレップ事業、新規事業開発に携わる。2011年4月にGMOの同期と株式会社wevnalを創業。インターネット広告代理事業を展開し、順調に成長。Yahoo!正規代理店2つ星(★★)認定。2018年にチャットボットサービスBOTCHANをリリース。2021年5月BOTCHAN導入社数550社以上突破。同年9月シリーズAで総額6億円の資金調達を実施。集客一辺倒の広告マーケットにおいて、ユーザーのブランド体験を重視した「BX(Brand Experience)プラットフォームBOTCHAN」を通じて顧客の売上向上を支援する。