
広告ROIとは?計算式やROASとの違い、広告ROIを最大化させる方法についても解説
- 菊池 満長
スイスの大手金融グループUBSがグローバルに展開する広告主(主に北米市場を中心とした大企業)を対象にした調査結果において、2025年のデジタル広告支出の平均成長率が前年よりも減速していると発表されました。
小売・eコマース、消費財(CPG)、旅行といった業界の広告主が特に慎重姿勢を強めており、CTV(コネクテッドTV)や旧来型テレビ、オープンウェブの出稿を削減する傾向にあることが明らかになっています。
このようにマーケティング予算の見直しが進むのは、日本企業においても珍しくありません。そうした状況下では、単に「売上が増えたか」だけで施策の成果を判断するのでは不十分です。広告投資を「利益」という視点で捉え、投じた費用がどれだけ回収されているかを定量化する広告ROI(投資収益率)の活用が、これまで以上に重要になるでしょう。
そこで本記事では、広告ROIの基礎的な情報に加え、実務での活用シーン、さらに広告ROIを最大化するための具体的な方法を解説します。
広告ROIとは?マーケティング上の意味と読み方
まずはじめに、広告ROIの定義と計算方法についておさらいしていきましょう。
広告ROIの定義
「ROI(Return on Investment)」とは、投資に対してどれだけの利益を得られたかを示す指標です。ビジネスのさまざまな場面で使われる考え方であり、費用をかけた施策が実際にどれほどの「もうけ」を生んだのかを定量的に測るために活用されます。
つまり、広告ROIとは「広告費という投資に対して、どれだけの利益を上げられたか」を示しています。この指標は、広告戦略の優先順位を見極めたり、複数の施策を比較したりする際の判断軸として使われます。
とりわけ、広告チャネルが多様化し、配信先やクリエイティブの選択肢が増えている企業の場合、施策ごとの費用対効果を定量的に把握することは必須といえます。広告ROIが高ければ、それだけ効率よく利益を生んでいる施策だと定義できるので、社内での説明や予算配分もスムーズになるでしょう。
AIツールにより「作業」が取って代われるなか、広告の成果を「反応数」や「売上げ」だけで測るのではなく、最終的にどれだけの利益が残ったのかという視点を持つことは、これからのマーケターにとって必須です。
広告ROIの計算式
広告ROIの基本的な計算式は、以下のとおりです。

ここでいう「利益」は、広告経由で得られた売上げから原価や手数料などを差し引いた金額を指し、売上げそのものではない点には留意しましょう。
たとえば、以下のようなケースを考えてみます。

この場合の広告ROIは「(100万円 ÷ 100万円)× 100 = 100%」となります。
広告ROIが100%を超えると、「投資した額と同等以上の利益が出ている」状態です。逆に100%未満であれば、広告施策としては赤字に近い状況と判断できます。
広告ROIの目安の考え方は?100%以下だと?
広告ROIの水準に厳密な「正解」はありませんが、運用判断の指標として一定の目安が存在します。以下は、一般的に広告業界の水準とされている広告ROIラインです。

(参考:Taglab「Display Ads 広告ROI Calculator & Formula」を基に、当社にて作成)
ただし、短期的な広告ROIだけで広告施策の成否を判断するのは得策ではありません。
SaaSやサブスクリプション型のビジネスでは、初回契約の段階では広告費を回収しきれず、広告ROIが100%未満になることも珍しくないでしょう。しかし、その後の継続課金によってLTV(顧客生涯価値)が高まれば、長期的には十分な利益を回収できる可能性があります。
広告ROIはあくまで一時点の指標であり、LTVやブランド認知といった中長期の視点も踏まえた評価が大切です。
広告ROIとROASの違いと使い分け
ここまでみてきたように、広告ROIはデジタル広告施策において基本ともいえる指標です。
しかし、広告の効果測定においては、広告ROIだけでは把握しきれない側面もあります。そこで併せて活用されるのが、ROAS(Return on Advertising Spend)。ROASとは、広告費に対してどれだけの売上げを上げたかを表す指標です。
一例を挙げると、10万円の広告費で50万円の売上げが出た場合、ROASは500%です。広告ROIが「利益」に着目するのに対し、ROASは「売上げ」というより初動に近い指標を捉えるものであり、施策の速効性や反応を見るのに適しています。
両者の違いは、以下のように整理できます。

つまり、広告ROIは「どれだけ儲かったか」を示し、ROASは「どれだけ売れたか」を表すということです。売上げが高くとも「広告経由の顧客が低単価」「原価率が高い」という状況では、最終的な利益は伸び悩みます。
この場合、ROASは良好でも広告ROIは低い可能性があります。逆に、少ない売上げでも高い利益率の商品であれば、広告ROIは高くなるでしょう。
施策ごとにROASで反応を確認しつつ、事業全体の運用方針や予算判断では広告ROIを重視する。このように、両者は併用することで広告運用の精度をより高めることが可能です。
広告ROIを考えることがなぜ大事なのか
広告ROIの基本を理解したところで、次に大事なのが「なぜ広告ROIという視点が広告運用にとって不可欠なのか」という点です。主な理由としては、以下の3つが挙げられます。それぞれ個別にみていきましょう。

理由1:費用対効果を「見える化」し、意思決定を明確にする
広告施策において、感覚や経験則だけで判断を下すことには限界があります。特に運用チャネルが複雑化し、配信媒体やクリエイティブが多岐にわたる現代では、定量的な評価軸がなければ、成果の良し悪しを適切に判断できません。
そこで広告ROIを用いれば、「この施策にいくら投じて、どれだけの利益を得たのか」が明確になります。「広告費100万円に対して、粗利益が120万円だった」といった具体的な数値がみえるだけで、意思決定の質は大きく変わってきます。

(出典:PR Times「KIYONOがデジタル広告費の広告ROIを可視化、最適化するBIソリューション『“その広告、売上に繋がっていますか?”広告効果ちゃんとみえ~る』をリリース」)
部門長レベルでいえば、こうした定量データは、社内調整の場面でも役立ちます。マーケティング部門内での施策優先度の決定はもちろん、経営層に対して予算拡大や施策継続の妥当性を説明する際にも「利益」という共通言語を通じた説得が可能になるからです。
加えて、広告ROIは単なる「結果の記録」にとどまりません。特定のキャンペーンが期待ほどの広告ROIを出せていないとわかれば、何を改善すべきかを冷静に分析できます。出稿チャネルの見直しやターゲティング精度の調整、ランディングページの改善など、次の打ち手をデータに基づいて導き出すための基準となるのです。
理由2:利益が出ている施策を切り分け、改善に注力できる
広告運用では、施策が複数並行して走ることが一般的です。SNS広告、検索広告、ディスプレイ広告など、それぞれに異なるターゲットや目的があり、出稿先の数だけ分析すべき指標が存在します。そのような環境下で成果の高低を判断するには、広告ROIという共通のものさしが有効です。
広告ROIを定期的に確認していれば、どの施策が利益に貢献しているかが明確になり、改善すべき対象を絞り込めるでしょう。
2024年に株式会社IDEATECHが実施した調査によると、約6割のマーケティング担当者が「Web広告の費用対効果が悪化している」と回答しており、「効果のない施策は素早く撤退する」ことが重要だといえます。

(出典:PR Times「約6割がWeb広告の費用対効果が悪化していると回答!広告費高騰を乗り越える「広告×PR戦略」解説セミナー/5月24日(金)開催」)
具体的にいうと、あるチャネルで高いクリック率と売上げが出ていても、広告ROIが低ければ、その施策には見えないコストが潜んでいる可能性があります。逆に、少ない流入でも高い広告ROIを記録していれば、重点的に投資すべき施策候補と見なすことができるでしょう。
このように、広告ROIを軸に施策を切り分けることで、効果が出ているものには予算を追加し、伸び悩んでいる施策には改善アクションを集中させるというメリハリのある運用が実現します。運用担当者の勘や印象に頼るのではなく、数値に基づいた判断によって、無駄なコストの発生も抑えやすくなります。
理由3:長期的な広告戦略とビジネス成長に繋げられる
広告ROIが重要なのは、単発の費用対効果を測るためだけではありません。広告によって得られる価値を「いまこの瞬間の利益」だけで評価していては、将来的な収益の機会を見落とすおそれがあります。中長期の利益に繋がる視点で施策を捉えることが、持続的な広告運用では不可欠なのです。
たとえ、コンバージョン直後は広告ROIがマイナスに見えるような施策であっても、その後にリピート購入が続いたり、LTVが高い顧客を獲得できていたりすれば、最終的な広告ROIはプラスに転じる可能性があります。これは、BtoCの定期購入型ビジネスや、BtoBの長期契約が前提となる商材において顕著です。
こうしたケースでは、初回CPA(獲得単価)のみで施策の良し悪しを判断するのは早計です。広告ROIを軸に、「今ではなく、数カ月後に見込まれる利益」までを含めて捉える視点が必要になります。広告ROIという指標を通じて、「目の前の数値」だけでなく「将来の利益」も見据えられるようになることは、企業全体のマーケティングの成熟度を高める上でも極めて意義深いといえるでしょう。
広告ROIはどのような時に活用するのか
広告ROIは、施策の「振り返り」だけで使う指標ではありません。むしろ、施策を打つ前の段階から、広告費の投資対効果を考慮に入れておくことで、運用全体の質を底上げできます。
具体的には、広告ROIは次の3つの活用方法が考えられます。それぞれのタイミングにおいて広告ROIが果たす役割をみていきましょう。

予算投入や新規広告施策を始める際の指針として活用
新たなキャンペーンを立ち上げる際、最も悩ましいのは「どこに、どれだけの予算を割くか」という判断です。SNS、検索広告、ディスプレイ、動画広告など選択肢が多いなかで、広告ROIは事前シミュレーションで大いに役立つでしょう。
具体的には、過去に似た施策で広告ROIが高かったチャネルに予算を多めに配分する。またはCPA(顧客獲得単価)は高くてもLTVが大きく広告ROIが良好だった施策を、優先的に再実行するといった判断が可能になります。
このように、広告ROIを活用すれば、単なるトライ&エラーではなく、根拠ある仮説にもとづいた予算設計が可能になり、初動からの成果最大化につながります。
複数の広告施策を並行して行う際の、費用対効果の比較軸として活用
広告施策は単発では終わりません。大半の企業では、複数の媒体・複数のターゲットに向けて同時にキャンペーンを展開しています。そのなかで「どの施策が最も利益を生んでいるか」の判断軸となるのが、まさに広告ROIです。
単に「クリック数が多い」「CV数が多い」といった一時的な反応ではなく、実際にどれだけ利益をもたらしているかを、広告ROIという形で横並びに比較すれば、リソースの再配分がしやすくなります。
対応例を挙げると、ディスプレイ広告よりも検索連動型広告の広告ROIが高ければ、次回の出稿予算を検索に重点的に寄せる。または、広告ROIが伸び悩む施策に対しては、ランディングページやターゲティングの改善を検討する。こうした改善と投資の判断が、明確な根拠を持って行えるようになります。
上層部への説明や組織全体で意思決定を行うための根拠として活用
広告運用の現場だけで完結する意思決定は、もはや少数派です。多くの場合、マーケティング部門の判断は経営層や他部署との連携を経て成立します。
特に、広告予算の増額ともなると、さまざまなステークホルダーから合意を得る必要があり、一筋縄ではいかないのが実情です。株式会社WACULがWeb広告代理店で経営やマネジメントに携わる人々を対象に行った調査では、クライアントの61.5%が「興味は示すが、最終的に予算が確保できず実行は少ない」との対応だったと判明しており、その難易度の高さが伺えます。

(出典:株式会社WACUL「『予算増額なき顧客』は事実、優先度が下がる。Web広告代理店の実態調査」)
「この施策は、広告費に対して200%の広告ROIが出ています」といったデータを提示できれば、経営層の理解と合意を得やすくなります。逆に、広告ROIが低い場合でも、「現状は回収できていないが、LTVを考慮すると回収見込みは高い」といった戦略的な説明にも活用可能です。
社内での意思決定や追加予算の申請、マーケティング戦略の転換といったシーンでも、広告ROIの数字は説得力ある資料の土台となり、言葉だけでは伝えきれない「広告の価値」を定量的に示す武器になります。
広告ROIを最大化するおすすめの方法
広告ROIを定期的に確認することで、施策ごとの良し悪しを把握するだけでなく、改善の方向性も見えてきます。とはいえ、広告ROIが「ただの計算結果」に終わってしまっては意味がありません。
実際に数値を高めるには、「何をどのように工夫すべきか」を具体的に理解し、運用に落とし込んでいく必要があります。そのための方法としては、次の6つが代表的です。次項より、詳しく解説します。

方法①:ビジネス目標との整合性を持つ
広告ROIを正しく測定し、改善につなげるためには、まず「何をもってリターンとするのか」をビジネス目標と結びつけて定義する必要があります。
「売上げを目的とするのか」「問い合わせや資料請求といったリード獲得を優先するのか」「LTV(顧客生涯価値)を前提とした長期収益を重視するのか」などの目的の違いによって、広告ROIの算出方法や評価指標は大きく異なります。
この視点は実務でも課題として認識されています。TrackMaven社が2017年に発表したデータでは「KPIとビジネスゴールの不整合」が広告ROIを証明するうえでの課題として49%のマーケターに指摘されています。

(出典:Linkedin「Marketing 広告ROI – Is It Aligned?」)
これは、マーケティング活動がどれほど数値化されていても、その評価軸が経営や営業とずれていれば、本質的な投資判断につながらないということを意味します。
広告ROIを最大化するためには、マーケティング部門単独ではなく、営業やカスタマーサクセス、プロダクト、経営層とも連携し、共通の成果指標を設計することが不可欠です。KPIの設定は単なる数値管理ではなく、広告ROIの解像度と改善精度を左右する「戦略設計の軸」として機能します。
方法②:ペルソナやセグメントに合わせた広告メッセージの最適化
広告ROIを高めるには、「誰に向けて、どんなメッセージを発信するか」という設計の精度が不可欠です。ここで重要になるのが、ペルソナ(理想的な顧客像)やセグメント(属性や行動ごとに分類されたユーザー群)の設定と活用です。
広告メッセージは一律に発信するのではなく、対象ごとの関心・課題に即して最適化することで、クリック率やコンバージョン率を大きく引き上げられます。

具体的に考えてみましょう。同じ商品を訴求する場合でも、「コスト重視のペルソナ」には価格の優位性を、「安心感を求めるセグメント」にはレビューや実績を前面に出すといった調整が効果的です。また、BtoB向けの広告では、経営層・現場責任者・実務担当者といった意思決定階層に応じて、課題設定や訴求ポイントを変える必要があるでしょう。
こうした最適化を行うには、あらかじめユーザーの行動データや問い合わせ傾向、過去の成果分析などをもとにペルソナとセグメントを設計する。その上で、クリエイティブやランディングページ、出稿媒体を柔軟に調整する運用体制が求められます。
「誰に届けるか」を意識せずに、広告メッセージを企業都合で設計してしまうと、無駄なコストがかさみ、広告ROIの悪化につながりかねません。逆に、ユーザーごとの関心や購買意欲にフィットした訴求ができれば、少ない投資でも高い成果を上げられる運用が可能になるのです。
方法③:クリエイティブとランディングページの継続改善
広告のクリックを獲得できたとしても、その後の導線が弱ければコンバージョンにはつながりません。広告ROIは「広告費に対する利益」である以上、最終的に売上げや成約に結びつかなければ数値は上がらないため、クリエイティブとLP(ランディングページ)の質も重要度が高い要素です。
株式会社ニュートラルワークスが2023年に実施した調査では、LPに対する課題として44.5%が「売上げにつながっていない」と回答してます。

(出典:PR Times「LPを活用する企業の約45%が『売り上げへの貢献度』に課題を感じていると明らかに【LP制作・活用調査】」)
「バナーのビジュアルが商品の特性と合っていない」「キャッチコピーがぼんやりしてる」といったコンテンツでは、せっかく興味を持ったユーザーも離脱してしまいます。同様に、LPに遷移してからの導線が長すぎたり、CTAが目立たなかったりするだけで、CVR(コンバージョン率)は大きく落ち込むでしょう。
こうした問題は、A/Bテストやヒートマップ、ユーザー行動の分析ツールなどを使って検証・改善を繰り返すことで解消していくことが可能です。広告ROIは細部の積み重ねによって変わってくるため、広告とLPを「セット」で最適化していくことが求められます。
方法④:適切な広告プラットフォームを活用する
広告ROIを最大化する上で、どの媒体にどれだけの予算を配分するかという判断も必要です。SNS広告、検索連動型広告、ディスプレイ広告など、企業が活用できるチャネルは年々増えており、成果のバラつきも大きくなっています。
こうした複数チャネルの運用においては、各媒体ごとの広告ROIを定期的にモニタリングし、数値に基づいて予算を柔軟に調整する運用体制が求められます。たとえば、Instagram広告では反応がよくても利益が出にくいのに対し、検索広告では購入意欲の高い層が流入し、広告ROIが安定しているというようなケースも多く見られます。
重要なのは、「この媒体が良さそうだから出す」という感覚的な判断ではなく「実際に利益が残っているかどうか」という事実に基づいて、配分の優先順位を見直すことです。広告ROIを基軸に据えることで、戦略的に投資先を選ぶ精度が高まり、結果として成果の底上げにつながるでしょう。
方法⑤:無駄なコストを削減する
広告ROIは分母に広告費を含む指標である以上、いかに「無駄な出費」を避けるかが直接的に数値に影響します。どれほど広告が機能していても、投資額が過剰であれば広告ROIは低くみえてしまうため、「どの施策に、どの程度の費用をかけるのが妥当か」を見極める視点が必要です。
株式会社IDEATECHが2024年に公開している調査では、CPA高騰への対策として「無駄な広告費用を減らす」と30%の調査対象者が挙げており、費用対効果の悪いチャネルやセグメントに対する支出を見直す重要性が伺い知れます。

(出典:PR Times「【調査レポート|2024年BtoB企業の広告施策の実態】2024年広告予算について、『30%未満』が59.2%、2023年比13.3ポイント増!高騰するCPA対策も明らかに」)
よくあるケースとして「成果が低迷している施策に対して十分な検証もせず予算を投下し続けている」「ターゲティングが広すぎて本来届けたいユーザー以外に広告が配信されている」といった状況では、それだけで広告ROIは圧迫されます。
これを防ぐためには、出稿前に費用対効果をシミュレーションすることに加え、実際のパフォーマンスをもとに上限設定や入札調整を行うなど、地道なコストコントロールが求められます。広告ROI最大化のためには、「効果を上げる工夫」と同じくらい、「不要な支出を避ける工夫」も重要です。
方法⑥:マーケティングツールの活用
広告ROIの改善には、「早期発見」と「タイムリーな対応」が必要です。週次・月次のレポートだけでは変化に気づくまでに時間がかかり、改善の機会を逸してしまうおそれがあります。そこで有効なのが、リアルタイムでデータを確認できるマーケティングツールの導入です。
詳しくは後述しますが、Google広告やMeta広告の管理画面に加え、BIツールやダッシュボードを組み合わせることで、キャンペーンごとの広告ROIを即座に把握できる環境を構築できます。異常値や急なパフォーマンスの低下を見つけた際も、即座にキャンペーンを一時停止したり、クリエイティブを切り替えたりといった対処が可能になります。
広告ROIを計算するためのツール例を紹介
方法⑥で述べたように、広告ROIは「利益 ÷ 広告費」というシンプルな式で算出できますが、実際の広告運用ではチャネルが複雑化しているため、正確な広告ROIを継続的に測定・改善していくにはツールの活用も不可欠です。
ここからは、広告ROIの算出や分析に役立つ3つの代表的なツールカテゴリーを紹介します。それぞれの役割と特徴を理解し、自社の運用体制や目的に応じて適切な組み合わせを検討しましょう。
(※以下の情報は2025年6月時点での各社公開情報に基づいています)
広告プラットフォーム
Google広告、Meta広告(旧Facebook広告)、Yahoo!広告などの主要な広告プラットフォームは、広告配信を行う企業では日常的に活用しているでしょう。これらは広告の出稿・配信だけでなく、広告ROIの計算に必要なデータを取得・分析するためのツールとしても役立ちます。
各プラットフォームでは、キャンペーン単位での費用、クリック数、コンバージョン(購入や問い合わせ)数などをリアルタイムで確認できます。そのため、広告ROIの算出に必要な「投資額」と「利益に直結する成果」を追跡しやすくなるのです。
代表的な広告プラットフォームと特徴は以下のとおりです。
プラットフォーム | 主な特徴 |
Google広告 | 費用・コンバージョン・ROASのトラッキングオフラインコンバージョンのインポート機能Googleアナリティクス4連携によるLTVや収益性の把握自動入札×目標ROAS設定 |
Meta広告(旧Facebook広告) | コンバージョンイベントごとのROAS計測コンバージョンAPIによる計測精度向上類似オーディエンスを活用した成果分析 |
Yahoo!広告 | ページ遷移・電話・地図表示など複数の成果地点に対応したコンバージョン測定スマートターゲティングによる予算最適化支援パフォーマンスレポートによる費用・成果の詳細な可視化 |
このように、各プラットフォームには、広告費やコンバージョン数の集計に加えて、LTVやオフライン成果の取り込み、ターゲティングの最適化など、広告ROIの把握に役立つ機能が備わっています。
こうした機能を活用することで、「どの施策がどれだけ利益に結びついたのか」を定量的に確認可能です。一例を挙げると、特定のキャンペーンに対して、費用に見合った利益が出ているかをROASで評価し、十分な収益性が確認できれば配信を強化する判断につながります。
逆に、期待値を下回っている場合は、ターゲティングや訴求内容の見直しといった改善策を検討できます。
ただし、広告ROIを継続的にモニタリングしていく上では、「成果の定義」「データの粒度」「分析の再現性」がそろっていることが前提です。各プラットフォームが提供する機能を組み合わせて、そうした前提条件を満たしながら、意思決定の精度を高めましょう。
MA・CRM
広告ROIをより正確に測定するためには、MA(マーケティングオートメーション)やCRM(顧客関係管理)ツールの活用が有効です。
HubSpotやSalesforceのような統合型プラットフォームを活用すれば、広告クリックから商談化、受注、さらに継続的な取引やLTV(顧客生涯価値)に至るまでの一連のデータをまとめて追跡できます。これにより、「どの広告がどれだけ利益を生み出したのか」を単発ではなく、顧客の長期的な価値も含めて評価することが可能になります。
たとえば、HubSpotでは広告キャンペーンごとに獲得したリードがその後どれだけ商談・成約につながったかをトラッキングでき、広告による収益貢献を数値で把握することが可能です。

(出典:HubSpot「Configure the calculation of 広告ROI for paid ad campaigns」)
Salesforceにおいても「広告施策が案件や受注につながったか」をMarketing CloudやSales Cloudと連携して追跡できるため、「単なるクリック単価の評価」では終わらない中長期の広告ROI分析を実現できます。
こうした総合プラットフォームを使えば、クリックやCV数といった「点のデータ」だけでなく、その後の商談化率や受注率、さらにはリピートやLTVまでを一気通貫で把握できます。
つまり、広告施策が一時的な成果をもたらしたかどうかではなく「売上げや利益にどれほど貢献したか」を可視化しやすいのです。
BIツール
広告ROIを多角的に分析・改善するには、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールの活用も視野に入れておくべきです。BIツールとは複数のデータソースを集約・可視化し、ビジネス上の意思決定に役立つインサイトを得るためのプラットフォームで、代表的なツールにはGoogle Looker StudioやTableauがあります。
これらのBIツールでは、Google広告やMeta広告など複数チャネルからのデータを取り込み、施策別・期間別・媒体別の広告ROIを一元的に可視化できます。
具体的にいうと、Looker Studioでは、GoogleアナリティクスやGoogle広告と連携し、KPIダッシュボードをノーコードで作成可能です。これにより、複数の指標を一画面で俯瞰できるため、広告ROIの変動要因を日常的に追跡しやすくなり、改善アクションの優先順位付けにも活用可能です。
Tableauでは、「パイプライン分析ダッシュボード」を活用することで、広告経由で獲得したリードがその後どのように営業プロセスを進み、最終的に受注や売上げにつながったかを可視化できます。「広告費用→売上げ・LTV」までの流れを構造的に把握でき、単発の成果指標にとどまらない広告ROIの改善に役立てられます。

(出典:Tableau「データドリブンな営業チーム向けの 7 つの売上ダッシュボードとテンプレート」)
このように、BIツールを用いて複数の軸からデータを整理することで、「見た目の成果が良いが、利益につながっていない」といった落とし穴にも気づきやすくなります。広告も含め、全体最適を見据えた分析をしたい場合に有効な選択肢です。
まとめ
広告ROIは、単に広告費に対する効果を測るための指標にとどまらず、広告施策全体を「利益」という視点から評価し直すための重要な軸となります。ROASのような売上ベースの指標だけでは見えにくい、本質的な費用対効果を捉えることができるからです。
広告ROIを意識することで、施策の優先順位や予算配分の判断がより明確になり、数字を根拠とした社内合意も取りやすくなります。さらに、利益が見込める施策へリソースを集中させたり、改善すべき部分を客観的に特定したりと、継続的な最適化にもつなげられるでしょう。
広告ROIの最大化には、ビジネス目標との整合性、クリエイティブやLPの改善、そしてツールを活用したリアルタイムのモニタリングが求められます。広告の成果を単発の売上で終わらせず、長期的な利益にまでつなげていくために、「広告ROIを評価し、改善していく」という視点を日々持つようにしましょう。

大手ネット広告代理店に新卒で2006年に入社し、一貫して広告運用に従事。
緻密な広告運用をアルゴリズム化し、誰もが高い広告効果を得られるようShirofuneを2014年に立ち上げ。
2016年7月に国内No.1を獲得し、2022年までに国内シェア91%を獲得。
2023年から海外展開をスタートし、現在までに米大手EC企業や広告代理店への導入実績。
2025年3月に米国広告業界で最古かつ最大級の業界団体である全米広告主協会からMarketing Technology Innovator AwardsのGoldを受賞。