
アドフラウドとは?発生理由や仕組みから種類・対策まで徹底解説

- 菊池 満長
もし、自社の広告予算が知らない間に不正に搾取されているとしたら……と考えたことはあるでしょうか? 近年、アドフラウド(広告不正、詐欺広告)の手口は非常に巧妙になっており、無視できなくなってきています。
株式会社Spider Labsが公表した『アドフラウド調査レポート(通年版2025)』によると、2024年の日本国内のアドフラウド被害額は1510億円(前年比+194億円)に急増。広告トラフィックの5.12%が不正という結果が報告されています。
デジタル広告を成功させるためには、アドフラウドの発生理由や手口、対策への理解が不可欠です。本記事では、アドフラウドの定義から具体的な手口、とるべき対策について詳しく解説します。
アドフラウドとは?
まず、アドフラウドという言葉の意味、仕組み、問題視されるようになった背景について解説します。
アドフラウドの定義
アドフラウド(Ad Fraud:広告不正)とは、デジタル広告において、実際には発生していないインプレッションやクリック、インストールなどを偽装し、不正なトラフィックを発生させて広告主から広告費をだまし取る行為です。
アドフラウドは、デジタル広告の普及に伴い、2010年代半ばから欧米の広告主やメディアの間で問題視されるようになりました。日本でも2010年代後半から「アドフラウド」という言葉が認知され始めています。昨今は総務省の「広告主等向けガイドライン」でも注意喚起されるほど問題視されています。
たとえば、ボット(自動プログラム)を使って広告を大量にクリックさせるなど、あたかも人間のユーザーが広告を閲覧したりクリックしたりしたように見せかけます。広告主を欺き、収益を不正に得るのが典型的な手口です。

(出典:デジタル広告の課題とJICDAQ – 総務省 検討会資料)
アドフラウドの仕組みと背景
アドフラウドの多くは、ボットネット(悪意あるプログラムで遠隔操作される多数のコンピュータネットワーク)やマルウェアといった自動化技術を用いて実行されます。ボットが人間になりすましてウェブサイトを訪問し、広告の表示やクリックをします。
特にボットネットは、ネットワーク化された多数のデバイス(ボット)から、異なるIPアドレスでアクセスされるため不正が発覚しにくいのが特徴です。
近年、リアルタイム入札(RTB) や多層的なサプライチェーンなど、広告配信の仕組みが複雑化していることも不正が紛れ込む原因です。広告在庫の売買過程が不透明になりがちなため、低品質なサイトを高品質なサイトに偽装する手口が隠ぺいしやすくなっています。
組織的な犯罪もあります。2016年に発覚した「Methbot(メスボット)」と呼ばれる大規模なスキームでは、ロシアの犯罪グループがプレミアムサイトを装った偽サイト群とボットネットを駆使し、1日あたり300万~500万ドル(当時のレートで約3億5千万~5億9千万円)の広告収入を詐取しました。
このように巨額の利益が見込めるため犯罪の温床になっており、手口も年々巧妙化しているのが現状です。
アドフラウドの被害状況(日本&海外)
アドフラウドは、デジタル広告市場が誕生した初期から存在しますが、近年は市場の急成長に比例して経済的な損失も年々大きくなっています。
アドフラウドの被害額は、調査機関によって数字にばらつきがありますが、損害額が年々大規模になっている点は共通です。
たとえば、イギリスの調査会社ジュニパーリサーチは、2023年の世界の広告支出額の22%にあたる842億ドル(約13兆円)が、広告詐欺によって失われたと試算しています。また、米国Anuraの「グローバル広告詐欺レポート」では、2024年に世界の企業が詐欺行為によって1400億ドル(20兆6000億円)以上を失ったと発表しました。
FraudScoreの最新レポートによると、2024年上半期ロシア、中国、EUの広告トラフィックの不正率は30%以上に上ります。
一方、日本では冒頭のSpider Labsの調査でも運用広告の不正率が約5%、他調査でも10%程度という数字が出ているので、他国と比較すれば低い水準であるといえるでしょう。規制や業界による対策が、一定の効果を上げている可能性はあります。とはいえ、5〜10%という広告主にとっては無視できない損失が生じています。

(出典:Ad Fraud Report 2024: January-June)
アドフラウドが広告主にもたらす主な影響・デメリット
アドフラウドは、広告主の予算を無駄にするだけでなく、機械学習の妨げやブランドイメージの毀損など、さまざまなデメリットを引き起こす深刻な問題です。ここでは、具体的なデメリットと対策の重要性を解説します。
無駄な広告費の発生・機会損失
アドフラウドによって、実際にはユーザーに届いていない広告に費用を支払うことになります。ボットがクリックしただけの広告に課金された場合、実態のない成果に対して費用を支出しているので、広告予算の無駄遣いが発生します。
また、不正なインプレッションやクリックによって、その広告で本来リーチできたはずのユーザーには広告が届きません。つまり、不正トラフィックが混入することで、本来得られたはずのユーザー獲得や認知向上といった機会損失にもつながります。
自動最適化(機械学習)の妨げ
近年のデジタル広告運用では、機械学習による自動入札や最適化が広く活用されています。しかし、アドフラウドはこの学習データを汚染します。不正なクリックやコンバージョンが紛れ込むと、システムは誤ったデータに基づいて入札や配信の最適化を行ってしまうため、本来とは異なる方向に予算が配分されるリスクが生じるわけです。
たとえば、ボットだらけのサイトが高いクリック率(CTR)を示すと、アルゴリズムがそのサイトを有望な配信先と誤認し、予算を集中させてしまうといった事態が起こり得ます。
広告担当者の判断力にもマイナス。不正トラフィックが混入することで、広告指標が実態と乖離し、適切な判断ができなくなります。「クリックは多いのにコンバージョンが極端に少ない」といった異常値に気づかなければ、効果の出ていないキャンペーンに予算を継続的に投下してしまいかねません。
このように、アドフラウドはマーケティング施策のPDCAサイクルを狂わせ、最適化を妨げます。
広告効果の正確な計測が困難
アドフラウドによって得られたキャンペーンの数値には、人間に閲覧されていないインプレッションやクリックが混在します。そのため、表示回数・クリック率・コンバージョン率といった重要指標が正しく反映されません。
ROI(投資対効果)を正確に測定できなくなるため、どの媒体やクリエイティブが効果的だったのかを正確に評価することが難しくなります。極端な例では、「大成功に見えた広告施策が、実は大半が不正トラフィックによる見せかけだった」というケースすら起こり得ます。
このように広告効果の計測やレポーティングが不正によって精度が低くなると、社内外への説明や次回施策の計画立案にも支障をきたすでしょう。
ブランドイメージ毀損のリスク
アドフラウドの手口によっては、広告主の意図しない不適切なサイトやコンテンツに広告が表示されてしまうリスクがあります。
たとえ広告主が一流サイトに出稿したつもりでも、実際には海賊版サイトや低品質なサイトに広告が掲載されると、ユーザーはそのブランドが有害なコンテンツを支援していると誤解し、ブランドイメージの低下につながりかねません。
このような事態において広告主は被害者ではありますが、残念ながらユーザーが最も責任があると思っているのは広告主です。
総務省が実施したアドフラウドに関する調査結果では、誤情報を掲載する媒体にデジタル広告が配信されたことで「広告の印象が悪くなる」と回答した人は約58%。その件に対し「一番の責任がどこにあると思うか」という回答の1位が「広告主」、2位が「広告プラットフォーム」という結果でした。
(デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス – 総務省)
プラットフォームや代理店もビジネスパートナーからの信頼を失います。不正流入を許しているプラットフォームだと判断されれば、広告主はその媒体への出稿を取りやめる可能性があります。広告を配信していた側(媒体社)は最悪、ブラックリストに載せられて収益機会を失ってしまうでしょう。
アドフラウドは、デジタル広告エコシステム全体の信頼関係を揺るがし、悪影響を及ぼすリスクがあります。
アドフラウドの代表的な手口・種類
具体的な手口には「隠し広告(Hidden Ads)」「自動リロード(Auto Refresh)」「ブラウザの自動操作(Imp/Click Bot)」ほか、多様な手口があります。ここでは、代表的な9種類を紹介します。
隠し広告(Hidden Ads)
ユーザーの画面上では見えない形で広告を読み込み、インプレッションだけ発生させる手口です。
具体的には、1ピクセル角の極小フレーム内に広告を表示したり、ページの表示範囲外(画面外)に広告を配置したりします。あるいは複数の広告を重ねて、その下層の広告は実際には見えなくする(アドスタッキング)などの方法があります。
ユーザーには認識されないにもかかわらず広告インプレッションがカウントされるため、広告主は実態のない露出に対して支払いを行うことになるわけです。
自動リロード(Auto Refresh)
ページの自動更新による水増しです。ウェブページ上の広告枠がユーザーの操作とは無関係に、一定時間ごとに自動で再読み込みされるよう仕組まれています。ユーザーがページを閲覧している間に広告が次々と差し替わり、その都度新たなインプレッションが発生します。
この手口は、1人のユーザーから得られるインプレッション数を不当に水増しし、広告収入を増やすことが目的です。(※一般的な広告配信でも適正な範囲でのリフレッシュはありますが、不正な場合はユーザーの視認や関与がまったくない頻繁すぎる更新が行われます。)
ブラウザの自動操作(Imp/Click Bot)
人間ではなくボットがウェブサイトを訪問し、広告の表示やクリックを自動で行う手口です。いわゆる「インプレッションボット」「クリックボット」と呼ばれるマルウェアやスクリプトが大量の偽装トラフィックを発生させます。
これらのボットは人間らしい行動を模倣するように巧妙にプログラムされており、多数のコンピュータやスマートフォン(ボットネット)からアクセスすることで検知を逃れます。結果として、実在しないユーザーのクリックに対しても、広告主は費用を支払わされるわけです。
ドメインスプーフィング(偽装サイト)
低品質なサイトや不正サイトが、一流のプレミアムサイトであるかのように偽装して広告枠を販売する手口です。本来は広告出稿に値しないようなサイトが、広告取引の中間業者での情報を書き換えるなどして「〇〇新聞.com」等の有名サイトになりすまし、広告枠を高単価で売りつけるという具合です。
広告主はレポート上でその有名サイトに配信されたと信じますが、実際にはまったく別のサイトに表示されており、広告効果だけでなくブランドの安全性も大きく損なわれます。
広告の差し替え(Ad Injection)
ユーザーや正規のサイト運営者の知らないところで、ページ上の広告枠を乗っ取り「第三者の広告」に差し替えてしまう手口です。
具体的には、ユーザーのパソコン・スマートフォンに感染したマルウェアや、不正なブラウザ拡張機能、あるいはハッキングされたWi-Fiルーターなどが介在し、正規の広告タグを書き換えて攻撃者の用意した広告を表示させます。
本来そのサイトから得られるはずだった広告収益が乗っ取られ攻撃者に流れるほか、ユーザーがマルウェア広告をクリックしてしまうなどの被害にもつながります。
デバイスファーム(端末養殖場 / Device Farm)
スマートフォンやタブレットなど多数の実機あるいはエミュレーターを用意し、それらでひたすら広告のクリックやアプリのインストールを繰り返す手口です。「クリックファーム」「インストールファーム」とも呼ばれます。
人海戦術の場合もあり、発展途上国などで低賃金の労働者を動員し何千回ものクリック作業を行わせるケースもあります。また近年ではエミュレーション技術でパソコン上に何百台もの仮想デバイスを動かし、自動スクリプトで偽のインストールやクリックを発生させることも可能です。
大規模なデバイスファームでは検知を免れるために、端末IDのリセットやIPアドレスを変え続けるなどの工作も行われています。
クリック洪水(Click Flooding)
主にモバイル広告の成果測定(アトリビューション)を悪用したクリックスパムによる水増し手口です。ユーザーが実際にはクリックしていない広告について、詐欺師側がユーザーの端末IDだけ借用して大量の架空クリック記録を送信します。
この手口では、ユーザーが実際にクリックしていない広告について、詐欺師側がユーザーの端末IDを借用し、大量の架空クリック記録を送信します。
やみくもにばら撒かれた偽クリックの中から、たまたま同じ端末IDを持つユーザーが後日アプリをインストールした場合、そのインストール成果を詐欺師が送信したクリックに紐づけます。
「自分たちが獲得したユーザーだ」と偽装し、本来はオーガニックや他のマーケティング施策で獲得されたユーザーを横取りして不正に報酬を得るのです。クリック数の洪水に紛れ込ませるため「Click Flooding=クリック洪水」と呼ばれています。
インストールハイジャック(Install Hijack)
インストールの横取りです。こちらもモバイルアプリのインストール計測を悪用する手口です。「クリックインジェクション」とも呼ばれ、ユーザーが新しいアプリをダウンロード・インストールするタイミングを検知して、その直後に不正なクリック信号を発生させることでインストール成果を乗っ取ります。
たとえば端末に潜んだ不正アプリが、他のアプリのインストール完了を感知すると即座に架空のクリックを計上します。そのユーザー獲得が、自分たちの広告から発生したかのように装う方法です。広告計測システムは最も直近のクリックを成果に紐付けるため、実際には関与していないインストールの報酬を詐欺師が奪い取ります。
クッキースタッフィング(Cookie Stuffing)
アフィリエイト詐欺の一種であり、主に成果報酬型(アフィリエイト型)の広告で使われる手口です。ユーザーがサイトを訪れた際に、その裏でユーザーのブラウザに第三者のアフィリエイト用クッキーをこっそり仕込むことで、本来は経由していない成果まで自分の紹介によるものと偽装します。
たとえば悪質なブラウザ拡張機能やスクリプトが、ユーザーに提示したクーポン取得ボタンを押させた瞬間に、裏でECサイトへの偽のリファラクリックを発生させます。ユーザーがそのまま購入に至ると、詐欺師側にアフィリエイト手数料が入るといった仕組みです。
クッキースタッフィングにより、広告主は何も貢献していないアフィリエイトに誤って報酬を支払うことになり、マーケティングデータも歪められてしまいます。
広告主が押さえておくべきポイント
アドフラウドを防ぐには、どうすればよいでしょうか? 広告主として押さえておくべきポイントは、「アドベリフィケーション」「広告サプライチェーンの透明化」「信頼できる広告パートナーの選定」です。また、市場価格と比べて極端に安価な広告在庫には注意しましょう。
アドベリフィケーション(ブランドセーフティ、ビューアビリティ、アドフラウド)
アドベリフィケーションとは、広告主が配信した広告が「適切な媒体に表示されているか」「ユーザーに視認されたか」「無効トラフィックに晒されていないか」などを検証するプロセスです。
アドベリフィケーションは、主に以下の3つの指標で構成されます。
- アドフラウド: ボットや不正なクリックによって発生した無効なトラフィックを検知し、警告することです。不正なインプレッションやクリックを特定して、広告費の無駄遣いを防ぎます。
- ブランドセーフティ: 自社ブランドの広告が、違法サイト、ヘイトスピーチ、アダルトコンテンツなどの不適切なコンテンツに表示されていないかを確認することです。
- ビューアビリティ: 広告の視認性。広告がユーザーの画面上で視認できる状態にあったかを測定することです。広告が画面外に表示されたままだったり、極小サイズで表示されていたりといったユーザーが認識できない広告を除外し、実際の閲覧数を正確に把握するために重要です。
具体的には、広告タグに専用のベリフィケーション用コードを埋め込み、広告が表示された環境を解析して、広告配信の条件が契約通り守られているかをチェックします。
とはいえ、多忙な担当者が毎日発生する大量の広告トラフィックデータをリアルタイムで分析するのは一般に難しいため、各種ツールの活用が推奨されます。例:DoubleVerify、Integral Ad Science
広告サプライチェーンの透明化(Ads.txt・Sellers.json など業界標準の活用)
広告サプライチェーンの透明化には、「Ads.txt」「app-ads.txt(アプリ向け)」「Sellers.json」といった業界標準の仕組みを活用することが重要です。
業界標準の仕組み
| Ads.txt(Webサイト向け) | Webサイト運営者が、自分の広告枠を販売してよい業者リストを公開するテキストファイル。広告枠のなりすましを防ぐ。 |
| app-ads.txt(アプリ向け) | Ads.txtのアプリ版。アプリ開発者が、自分の広告枠を販売可能な業者リストをアプリストア情報からリンクして公開する。 |
| Sellers.json(広告取引事業者向け) | 広告販売者や再販者の情報(企業名やドメインなど)を広告取引所が公開し、取引相手を確認できるようにする。 |
広告主は、自社の広告が配信されているサイトにAds.txtが実装されているかを確認したり、パートナー企業がSellers.jsonに対応しているかをチェックしたりするなど、広告出稿経路を精査しましょう。
また、代理店やDSP(広告主が複数の広告枠をまとめて購入・管理するためのプラットフォーム)に対してもAds.txt/Sellers.jsonへの対応状況を確認し、業界の透明性向上の取り組みに沿っていないパートナーとは取引量を見直すなどの判断も必要です。
信頼できる広告パートナーの選定(不正対策の重視)
アドフラウド対策は、広告を配信するプラットフォームによって取り組み方が異なります。パートナーを選ぶ際に、その企業がどれだけ不正対策に力を入れているかの確認が重要です。
確認すべきポイントは、以下の通りです。
- 業界認証の取得: Trustworthy Accountability Group (TAG)の「Certified Against Fraud」のような、業界の厳格な基準を満たしているか。
- 専門企業との連携: DoubleVerify や HUMAN のような、不正検知の専門企業と提携して広告トラフィックを監視しているか。
- 過去の不正事例: 過去に大規模な不正流入の事件を起こしていないか。
こうした基準をクリアした信頼性の高いパートナーを選ぶことが、不正な広告配信を防ぎ、健全な広告効果データと高い投資対効果(ROI)を得ることにつながります。
極端に安価な広告在庫への注意
不正インベントリはしばしば「非常に安価な広告枠」として市場に出回ります。広告主にとって破格のCPMで在庫を購入できるチャンスに見えますが、異常に低価格な枠には高確率で何らかの不正トラフィックが含まれていると考えるべきです。
実際、プログラマティック広告では安価なインプレッションを追求しすぎると、不正在庫を掴まされるリスクが上がることが指摘されています。
「平均より極端に安い在庫には裏がある」という視点を持ち、価格と在庫品質のバランスを見極めましょう。たとえば、特定サイトで異常に低い入札価格で大量の在庫が買える場合、過去にそのサイトで不正が検出されブラックリスト入りした結果として価格が暴落している可能性もあります。
広告主が取るべきアドフラウドへの具体的な対策
広告主がとるべきアドフラウドへの具体的な対策は、アドフラウドに対する正しい知識と最新動向の情報収集、ホワイトリストの活用、監視・チェックの徹底、専用対策ツールの導入です。
正しい知識と最新動向の習得
アドフラウド対策の第一歩は、広告運用に関わるすべてのメンバーが、不正の脅威を正しく理解し、認識することです。特に、マス広告の知見を持つ経営層や上層部には、デジタル広告特有の不正の手口や背景を理解してもらうことが重要です。
以下、総務省の検討資料「デジタル広告の課題とJICDAQ」にもあるように、マス広告とデジタル広告には明確な違いがあります。

(出典:デジタル広告の課題とJICDAQ – ~掲載品質確保に向けた取組み)
具体的な方法は以下の通りです。
- 社内勉強会: チーム内で知識を共有し、理解を深める。
- 専門記事の共有: 業界の最新動向をまとめた記事やホワイトペーパーを共有する。
- 業界コミュニティへの参加: JIAAやIABなどの業界団体が主催するセミナーや、オンラインコミュニティに参加し、情報交換を行う。
アドフラウドの手口は日々進化しているため、常にアンテナを張り、最新の動向をキャッチし続けることが大切です。新しい対策テクノロジーや業界ガイドラインが登場したら、自社の対策もアップデートしていきましょう。
怪しいサイト・アプリへの出稿を避ける(ホワイトリストの活用)
配信先の選別によってリスクを下げる基本的な方法として「ホワイトリスト・ブラックリストの活用」があります。
| ホワイトリスト | 広告を配信してもよいと認めた安全性の高いサイトやアプリのリスト。※このリストにのみ広告を出稿する設定に |
| ブラックリスト | 過去に不正が発覚したサイトなどはブラックリスト。※このリスは除外設定に |
広告主は、DSPの配信設定でこれらのリストを適用し、低品質な媒体への配信をブロックできます。自社で媒体ホワイトリストを管理しておくことが不正排除の強力な武器となります。
新規の配信先については、事前に調査を行いましょう。月間トラフィックやユーザー層に不自然な点がないか、過去に不正疑惑が報じられていないかなどを確認します。
可能であれば、少額でテスト出稿を行い、そこで得られたデータに不審な点がないか分析します。クリック率だけが異常に高い、特定のサイトからのトラフィックの直帰率が100%といった怪しい兆候が見られた場合は、その媒体をリストから除外しましょう。
広告配信データの分析・監視を徹底する
日々の広告運用では、配信データの分析と監視を徹底し、異常値を早期に発見することが基本です。
- クリック率(CTR)
- コンバージョン率
- サイト滞在時間
- ユーザーの行動パターン
これらの指標に不自然な点がないか、常にチェックしましょう。
たとえば、「ある媒体だけクリック率が異常に高いのにコンバージョンがゼロ」「深夜に大量のクリックが発生している」「特定の地域からのトラフィックが多すぎる」といった不自然なパターンは、アドフラウドの兆候かもしれません。発生次第分析し、必要に応じてその配信先を停止するなど迅速に対処します。
また、ビューアビリティやエンゲージメント計測(サイト内の複数ページ閲覧や動画再生完了率など)も有効。ボットはすぐにページを離脱することが多いため、「サイトに〇〇秒以上滞在したユーザーのみをコンバージョン対象にする」といったフィルターをかければ、不正なクリックの影響を減らせます。
日々の分析を通じて「明らかに効果のないクリック元は次回から除外する」というPDCAサイクルを回し、不正な流入を徐々に排除していくことが大切です。
DSPやネットワーク選定時に対策状況をチェックする
新たにDSPやアドネットワークを利用する際は、契約前に不正対策への取り組み状況を確認しましょう。
- 不正対策の仕組み: 無効トラフィックをフィルタリングする仕組みがあるか、第三者のアドベリフィケーションツールと連携しているか。
- 実績の確認: 過去の採用実績や、不正対策レポート、検知ロジックの概要を開示できるか。
信頼できるパートナーであれば、こうした情報を明確に開示してくれるでしょう。逆に、透明性が感じられないプラットフォームは、不正トラフィックが紛れていても放置している可能性があります。
可能であれば、少額の広告費でテスト運用を行い、トラフィックの品質をチェックしてください。コンバージョン率やサイト滞在時間、カート投入率などを既存のプラットフォームと比較し、明らかに品質が低い場合は注意が必要です。
不正が多い配信網では、「クリックは多いのに有効な成果がほぼゼロ」といった極端な状況が起こりがちです。テストの結果、安全だと判断できたパートナーのみ本格的に採用することで、大規模な不正被害を未然に防げます。
アドフラウド対策ツールの導入を検討する
アドフラウド対策には、専門のツールやサービスの導入も有効です。これらのツールは、機械学習やビッグデータ分析を活用し、広告キャンペーンに混入する不正なパターンをリアルタイムで検知・除去してくれます。
たとえば、不自然なユーザーの行動の検知や、重複したIPからの大量クリックを自動で無効化するなど、高度な機能で不正なトラフィックを排除できます。これにより、人手では見逃してしまう不正を検知し、被害を大幅に減らせます。
主なアドフラウド検知ベンダー:
- HUMAN(旧White Ops)
- DoubleVerify
- Integral Ad Science
- Pixalate
- Forensiq
上記のベンダーは業界で不正検知の情報を共有するなど、横断的な対策を提供しています。導入コストと被害額を比較して費用対効果が見込めるようであれば、専門ツールの導入を積極的に検討してもよいでしょう。
主な広告プラットフォーム(媒体)のアドフラウド対策状況
広告プラットフォームの大手、GoogleとYahoo!のアドフラウド対策状況の最新を解説します。
Googleの取り組み

(出典:https://www.google.com/ads/adtrafficquality)
世界最大の広告プラットフォームGoogleは、アドフラウド対策に多大なリソースを投入しています。専門の「広告トラフィック品質チーム」を設け、機械学習による自動フィルターと人の手によるチェックを組み合わせることで、不正なクリックやインプレッションを徹底的に排除。
データサイエンティストやエンジニアからなるグローバルチームが常にトラフィックを監視し、ボットによる異常なクリックや悪質なサイトからの不正をリアルタイムで検出し、課金の対象から除外しています。
Googleは毎年不正広告・不正アカウントを排除した実績を公表しています。たとえば2023年の一年でGoogleは55億件以上の不適切な広告をブロックまたは削除し、約1270万の広告主アカウントを停止しました。
2024年はさらに取り組みを強化し、近年では、生成AIも活用した検出システムを導入しています。悪意がある業者の、アカウント作成プロセスの早期に不正を阻止する能力を向上させました。
「Google Ads Safety Report 2024」によるとGoogleが2024年に停止したアカウントは3920 万件ですが、そのほとんどを広告配信前に停止したとレポートしています。また51億件以上の不正な広告をブロックしました。

日本での取り組み
Googleは2024年、日本で不正やポリシー違反が確認された2億350万件の広告を削除。また、悪質な広告を掲載していた140万件の広告主アカウントが停止するなど、厳格な対策をとっています。

(出典:Google Ads Safety Report 2024 年版のハイライト)
Yahoo!の取り組み

(出典:Diamond of advertising quality – Yahoo! JAPAN Marketing Solutions)
Yahoo! JAPANは、日本最大級の広告プラットフォームとして、「広告品質のダイヤモンド」という品質向上プログラムを掲げています。このプログラムは、アドフラウド防止やブランドセーフティを含む6つの具体策で構成されています。
具体的な取り組みの例
- 無効トラフィックの排除と監視: Yahoo!の広告配信システムは、不正なクリックやインプレッションを常に監視し、課金対象から除外する仕組みです。大量のクリックや、ユーザーの誤操作による不要なクリックは「無効クリック」として扱われ、広告主への請求は発生しません。
- 提携サイトの審査: 提携サイトに対しては、違法・虚偽コンテンツの掲載を禁止しており、広告掲載の前後で人手とシステムの両方で厳しく審査しています。
- 外部ソリューションの活用: 自社の不正検知ロジックだけでなく、外部の専門企業が提供するアドベリフィケーションサービスも併用しています。複数のソリューションを組み合わせることで、不適切なサイトを排除する精度を高め、広告主のブランド毀損や不正被害のリスクを低減しています。
まとめ
アドフラウドは、広告主にとって多大な機会損失をもたらす手口です。広告費の無駄遣い、機会損失、機械学習への悪影響、ブランドイメージの毀損ほかデメリットは多岐にわたります。放置していると広告効果へのマイナスの影響だけでなく、大きな問題が生じかねません。
昨今のアドフラウドは手口が巧妙かつ多様化しているため、自社が気づかずに被害にあってしまう可能性は十分あります。基本的な対策をするとともに、アドフラウドについての最新情報を常に収集し、もし被害が発生したときに迅速な対応がとれるようにしておきましょう。

大手ネット広告代理店に新卒で2006年に入社し、一貫して広告運用に従事。
緻密な広告運用をアルゴリズム化し、誰もが高い広告効果を得られるようShirofuneを2014年に立ち上げ。
2016年7月に国内No.1を獲得し、2022年までに国内シェア91%を獲得。
2023年から海外展開をスタートし、現在までに米大手EC企業や広告代理店への導入実績。
2025年3月に米国広告業界で最古かつ最大級の業界団体である全米広告主協会からMarketing Technology Innovator AwardsのGoldを受賞。





