
ROASを向上させるコミュニケーション設計の改善施策と具体例

- eyamaguchi@leapt
2025年における最新の市場データによれば、デジタル広告コストは市場全体で5.13%上昇しています。さらに、現代の消費者は多様なデバイスやプラットフォームを横断しながら情報を収集しており、カスタマージャーニーはかつてないほど複雑化しています。
このような環境下でROASを向上させるには、入札調整やターゲティング変更といった広告運用面の最適化だけでは不十分です。広告接触から購買、さらには継続利用に至るまでのコミュニケーション設計を抜本的に見直す必要があります。
そもそもROASとは、広告を起点とした顧客との最初の接点から売上げに至るまでをつなぐ、一貫したコミュニケーションの成果を示す指標です。クリック率やCPAが改善していても、期待の設計やメッセージの整合性が崩れていれば、最終的な売上げには結びつきません。
本記事では、ROASを向上させるコミュニケーション設計の重要性、具体的な施策、改善事例などをわかりやすく解説します。
ROASとは
ROAS(Return On Ad Spend:アールオーエーエス)とは、広告費に対する売上げの割合を示す指標であり、簡単にいえば広告の費用対効果を示す指標です。たとえばROASが300%の場合、広告費1円につき3円の売上げを獲得できていることを意味します。ROASは、CV数やCPAと並び、広告運用の成果を判断する上で欠かせない指標のひとつです。ここではあらためて、ROASの基本的な考え方を簡潔に整理します。
ROASの計算式
ROASの計算式は「ROAS=売上げ ÷ 広告費 ×100%」とシンプルです。たとえば、広告費が100万円で、その広告から500万円の売上げが発生した場合、ROASは500%となります。

ここで押さえておきたいのは、ROASはあくまで売上げベースの指標であり、利益を直接示すものではないという点です。ROASが高くても、必ずしも事業として健全とは限りません。原価率が高い商材や、継続利用を前提とするSaaSモデルなどでは、数値上のROASが良好でも利益が残らないケースがあります。
そのため、ROASだけで良し悪しを判断するのではなく、CPAやLTVとあわせて評価することが重要です。短期的にROASが低く見えても、リピート購入やアップセルによってLTVが伸びるビジネスであれば、許容できる場合があります。一方、初回購入で投資回収が求められるモデルでは、一定水準のROASを下回ると、早急な改善が必要になります。
ROASを向上させるコミュニケーション設計とは
ROASが伸び悩むと、入札調整や配信面の最適化に意識が向きがちです。もちろん、これらは重要な施策です。しかし実際には、その前段階にあるコミュニケーション設計が原因となり、成果が頭打ちになっているケースも少なくありません。
ここでいうコミュニケーション設計とは、誰に、どの文脈で、何を約束し、どのような流れで行動してもらうかを一貫して設計することです。
ROASの計算式を踏まえると、この構造は理解しやすくなります。ROASは、最終的に売上げが発生して初めて改善する指標です。広告経由で売上げが出る手順は以下の通りです。
- 広告をクリックしてもらう
- LP上でコンバージョン行動を取ってもらう
- BtoCであればこの時点で売上げが発生
- BtoBの場合は、その後ナーチャリング活動へ移行
つまりROASとは、広告を起点とした顧客との最初の接点から売上げに至るまでをつなぐ、一貫したコミュニケーションの成果を示す指標だといえます。クリック率が高くてもCVRが低ければ意味はなく、CVRが高くても売上げにつながらなければROASは改善しません。
ROASを向上させるには、広告のクリック率、CROやLPO、さらにはナーチャリング活動まで含めた全体最適が必要というわけです。
ROASを向上させるコミュニケーション設計がなぜ重要なのか
ROAS改善においてコミュニケーション設計が重要なのは、広告から売上げまでの一連の流れを、点ではなく線で改善できるためです。入札や配信面の調整は部分最適になりやすい一方で、訴求、文脈、根拠、CTAまでを一貫して設計すると、ユーザーの理解と納得が積み上がり、結果としてROASに直結する改善が生まれます。
ここでは、その理由を3つの視点から整理します。

認識のミスマッチが減りCVRが上がるから
ユーザーが広告をクリックしたにもかかわらず購入に至らない原因の多くは、期待と実態のズレにあります。広告をクリックしたユーザーは、広告の訴求内容をLPでも期待します。しかし、LPの内容が広告と食い違っていれば、期待を裏切られたと感じ、離脱につながります。
ニールセン社の調査によれば、ユーザーはWebサイト訪問から10秒以内に有益な情報を見つけられなければ、高い確率で離脱するとのことです。まず最初の関門は、広告をクリックしたユーザーにLPを読み進めてもらうことです。そのためには、広告とLPの訴求内容を一致させなければいけません。

(引用:ニールセン社)
コミュニケーション設計において訴求、文脈、根拠、CTAを整理することで、広告で抱いた期待がLPや、その先のナーチャリング、営業活動などで裏切られにくくなります。誰のどのような課題を、どのように解決するのかを常に意識し、広告やLPへ落とし込むことで、ユーザーの認識のズレを最小限に抑えられます。
その結果、クリック数を無理に増やさなくてもCVRが改善し、CPCは下がったにもかかわらずROASが伸びないといった状況を回避できるわけです。一方で、この一致が欠けている場合、クリックは獲得できても購入に至らず、CPCが下がってもROASが改善しないという悪循環に陥ります。
納得と安心で客単価を上げることができるから
高単価商材やBtoBサービスにおいて、ユーザーは安心感を重視します。つまり、不安や情報不足の場合にはコンバージョンに至りません。導入して本当に成果が出るのか、失敗した場合のリスクはどれくらいか、社内で説明できる材料がそろっているか、といった点で迷いが生じます。この不安を放置すると、値引きに頼らざるを得ず、ROASが悪化します。
コミュニケーション設計の中で、実績、第三者評価、導入事例、保証、FAQといった根拠を段階的に提示すると、意思決定を妨げる要素を先回りして解消することが可能です。納得感が高まるほど、ユーザーは価格以外の価値で判断するようになり、上位プランの選択やセット購入が増えます。
実際に調査データによれば、レビューがある製品は、レビューがない製品に比べて購入可能性が270%高まるとのことです。値引きに頼らずに売上げを積み上げられる構造ができる、またユーザーの不安を先回りして解消し、セット購入や上位プランの選択を促すことが可能になるため、顧客単価が上がり、ROAS改善につながります。
伸び悩みの原因が特定できて改善が速くなるから
運用調整だけでROASを上げようとすると、結果の良し悪しが「入札設定のせいか」「ターゲットのせいか」という議論に終始し、本質的な改善が遅れがちになります。一方、コミュニケーションを設計の視点から捉え直すと、「表示→クリック→理解→行動」というユーザーの心理変容の各プロセスを定量的に分解できるようになります。
たとえば、クリック後の離脱が多いなら訴求とLP構成の問題、比較段階で止まっているなら根拠や事例不足、問い合わせ後に失注が多いなら導線やオファーの設計が原因かもしれません。

改善点の仮説が立てやすくなることで、コピー変更やクリエイティブ差し替え、LP改善といったA/Bテストのサイクルが早くなります。ムダな施策が減り、改善スピードが上がる点も、コミュニケーション設計がROAS向上に欠かせない理由です。
ROASを向上させるコミュニケーション設計を考えるタイミング
全てのフェーズにおいて設計を見直すのが理想ですが、特に以下の5つの状況下では、コミュニケーション設計の再構築がROAS改善の重要タイミングとなります。

クリックは取れるのにROASが伸びない時
CTRは良好で、広告としての反応は取れているのに、売上げやROASが伸びない場合、集客している流入の質と流入後の体験に乖離が生じている可能性があります。広告がクリックを誘発することに特化しすぎてしまい、LP後の期待値コントロールに失敗している可能性が高いでしょう。
たとえば、広告では即効性や手軽さを強調しているのに、LPでは詳細な仕様説明から始まっていると、クリック後に温度感が下がり、離脱につながります。
このタイミングでは、広告のベネフィットとLPのファーストビューでの訴求を一貫させる必要があります。ユーザーがページを開いてから3秒以内に「誰の、どのような課題を、どう解決するか」を即座に理解できる構造に整えることで、CVRが改善し、同じ広告費でも売上げが伸び、ROAS改善につながるでしょう。
CVは出るが単価が高止まりしてしまっている時
CV自体は一定数発生しているにもかかわらず、CPAが下がらず、予算を増やすと効率が悪化する場合、すでに効率の良い層を取り切っている可能性があります。市場における今すぐ客を獲得し終えた後は、競合と比較して迷っている層や現状維持を選ぼうとしている層へのアプローチが欠かせません。
この段階では、ユニークセールスポイント(自社ならではの強み)を強化するとともに、無料相談やトライアルなど、心理的ハードルの低いオファーを段階的に設計する必要があります。マイクロコンバージョンを組み込むことで、同じ流入量からより多くの成約を生み出せるようになります。
そのために重要なのが、比較材料の提示と不安払拭の強化です。選ばれる理由を整理し、FAQ、導入手順、サポート体制などを明確に伝えることで、検討中のユーザーの意思決定を後押しできます。同じ流入数でも成約率が高まればCPAは下がり、予算を拡大してもROASが崩れにくい構造をつくることが可能です。
競合との差別化ができない時
競争が激しい市場では、機能やスペックの訴求はすぐにコモディティ化し、クリック単価の高騰を招いてしまいます。この場合、製品の良さを語るのではなく、導入後の未来や失敗リスクの回避といったユーザー視点の価値を再定義し、それを事例や数値、第三者評価とセットで伝えることで、価格以外の判断軸が生まれます。差別化が明確になるほど、無駄な比較が減り、ROASは安定しやすくなるでしょう。
パ―ミッション・マーケティングの提唱者とされるSeth Godin(セス・ゴーディン)氏は「ブランドとは、消費者が他の製品ではなくその製品を選ぶ理由となる期待、記憶、物語、関係性の集合体である」と述べています。
競合が強いときこそ、単なる広告ではなく、一貫したブランド体験をコミュニケーションとして設計することで、指名検索の増加や比較段階での優位性を確保し、ROASの向上を見込めるのです。
新商材・新ターゲット・訴求変更の時
新しい商材やターゲットを開拓する際に、既存の訴求をそのまま流用しても成功しない可能性は十分にあります。ターゲットが変われば、前提知識や不安ポイントなどが変わるためです。まずは、誰の、どんな状況で、何が意思決定の障壁かを改めて整理し、訴求軸・クリエイティブ・LPの説明順序をゼロから設計し直しましょう。
初期段階では、何が刺さるのかは不明なため、複数のコンセプト(例:コスト削減軸 vs 業務効率化軸)をテストし、どのコミュニケーションが最も効率的にROASを生むかを早期に特定することが、予算の浪費を防ぐポイントとなります。
リピートやアップセルが伸び悩んでいる時
ROAS停滞の原因がリード獲得後にある場合、初回購入や問い合わせは取れているのに、LTVが伸びず、回収効率が上がらない状態に陥ります。このケースでは、広告だけを改善しても限界があります。実際に新規顧客を獲得するコストは既存顧客を維持するコストの5倍に達する(1:5の法則)といわれており、ビジネスの収益性はリピート率に大きく依存しているのです。
この場合は、購入後のオンボーディングや活用提案、成功体験の設計、休眠顧客の掘り起こしといったコミュニケーションを整えることで、次の行動を促せます。CRMやオートメーションを活用し、適切なタイミングで次の行動(リピートやアップセル)を促すことで、広告費をかけずに売上げを積み上げ、結果として全社的なROASを劇的に改善できます。
ROASを向上させるコミュニケーション設計の改善施策
それでは、具体的にどのような改善施策を実施すればよいのでしょうか。ここでは、取り組みやすく、かつROAS改善につながりやすい代表的な施策を解説します。

訴求の出し分け
訴求の出し分けとは、ターゲットや検討段階に応じて、何を約束するか、すなわち訴求内容やオファーを動的に切り替える施策です。
同じ商材であっても、初めて接触するユーザーと比較検討中のユーザーとでは、関心を持つポイントが異なります。たとえば、初期段階のターゲットには課題の言語化や得られる価値を中心に据えたLPを提示し、比較段階では選ばれる理由や導入実績を前面に出したLPを表示する、といった設計が求められます。
McKinseyの2024年レポートによれば、パーソナライズされた体験は収益を5%〜15%向上させ、マーケティングROIを10%〜30%押し上げると報告されました。ターゲットが自分事として受け取りやすい文脈を提示できれば、ミスマッチによる離脱を抑制し、クリックの質を高めることが可能です。
また、HubSpotの調査では、LP数が5つ以下の企業と30以上の企業とでは、コンバージョン数に7倍の差が生じると示されています。訴求を適切に切り分けることで、より精度の高いパーソナライズコミュニケーションが可能です。一方で、単一の訴求で配信を続けると、クリックは集まっても購買確度の低いユーザーが混在しやすくなります。

(引用:HubSpot)
訴求を出し分けることで広告段階から期待値を調整できるため、クリックの質が向上し、結果としてCVRの改善につながります。無駄なクリックが減少すれば、同じ広告費でも売上げを伸ばしやすくなり、ROAS向上に直結します。
クリエイティブ簡潔化
広告クリエイティブは、情報を詰め込むほど伝わるわけではありません。情報過多の時代において、ユーザーが広告をスキャンする時間はわずか数秒です。この短時間で価値を伝えるためには、足し算よりも引き算の視点が欠かせません。
つまり、誰向けで、何が得られ、なぜ信じられるのかが一瞬で理解できる構造にすることが重要です。たとえば、複数のベネフィットや機能を並べるよりも、最も強い価値をひとつに絞った方が、意図しないクリックを減らせます。
クリエイティブの簡潔化は、ユーザーのスクリーニングにも貢献します。興味本位のクリックが減り、購入や問い合わせを検討している層だけが残るためです。CPC自体は大きく下がらなくても、クリック後の成果が改善し、ROASが伸びやすくなります。CPC改善に固執せず、クリックの質を見る視点がここでは重要です。
不安払拭の強化
LPでユーザーがコンバージョンしない多くの理由は、十分に不安が解消されていないためです。導入して本当に成果が出るのか、失敗した場合のリスクは何か、どれくらい手間がかかるのかといった疑問が解消されないままでは、意思決定に踏み切れません。
不安払拭の施策では、事例、実績、FAQ、比較情報、導入の流れ、保証といった要素を、意思決定の順番に沿って配置します。単に情報を増やすのではなく、迷いが生まれるタイミングで答えを提示することがポイントです。納得材料がそろうほど離脱は減り、CVRや客単価が上がり、ROASの改善を見込めます。
オファーの段階化
ユーザーの心理的負担を考慮し、小さなコンバージョンから段階的にオファーするのも良い施策です。極端な例ですが、LP上のCVを住宅購入にしても、誰もコンバージョンしません。まずは資料請求、次に住宅見学、そして購入と段階的に進めるのが一般的でしょう。
このように、ユーザーの検討段階や心理状態に合わせて適切なオファーを提示しなければいけません。決断の負荷を下げることで、リードの母数が増え、その後のフォローで成約まで育成しやすくなります。特にCPAが高止まりしている場合や、拡大量で効率が悪化している場合には有効です。
短期的なROASだけでなく、ナーチャリングを含めた回収構造を作る点で、安定したROAS改善につながります。
ナーチャリング設計
初回接触で決めきれないユーザーに対して、接触回数に応じて伝える内容を変えるのがナーチャリング設計です。リターゲティング広告、ステップメール、LINE公式アカウントなどを通じ、1回目は価値、2回目は事例、3回目は他社比較というように、段階的に情報を提供すれば、ユーザーの購買意欲や信頼感を徐々に醸成できます。
ただし、全てのリードに同じタイミングで、同じ情報を届けても、期待した成果は得られません。たとえば、「北欧、暮らしの道具店」を運営する株式会社クラシコムは、MAツールを活用し、メルマガの開封回数、ウェビナー参加有無などを条件に細かに顧客ステージを設計しています。
これにより、アポイント数2倍増、顧客単価133%向上を達成しているのです。

(引用:100)
比較検討が長い商材ほど、ナーチャリング設計の有無が成約率に大きく影響します。広告だけで完結させず、メールやコンテンツを通じて使い続ける理由や選ぶ理由を提供することで、LTVが伸び、結果としてROASが向上します。
ROASを向上させるコミュニケーション設計の具体例
ここでは、実際の企業がどのようにコミュニケーション設計をし、ROASを向上させたのかを見ていきましょう。
事例①:検討層向けコミュニケーション設計の見直しにより、ROASを3倍に改善

(引用:hiver)
hiverは、メールを起点に顧客・社内・取引先とのコミュニケーションを一元管理できるカスタマーエクスペリエンスプラットフォームを提供しています。
同社ではCV数自体は一定数獲得できていたものの、CPAが高止まりし、広告予算を増やすと効率が悪化する状態に陥っていました。ROASは低水準にとどまり、獲得単価の上昇によってCACや回収期間にも悪影響が出ていました。
分析を進めると、すでに「今すぐ導入を検討している層」は取り切っており、比較検討中や現状維持を選びがちな層に対して、十分なコミュニケーション設計がなされていないことが課題として浮かび上がっています。
そこで重視したのが、広告から成約までを単発の施策として捉えるのではなく、顧客の購買プロセス全体を通したコミュニケーション設計の再構築です。
まず、広告・LP・その後の接点で伝えるメッセージを整理し、「なぜhiverが選ばれるのか」という独自の価値を明確化しました。その上で、いきなり導入を促すのではなく、無料相談やトライアルといった心理的ハードルの低いオファーを段階的に設計し、マイクロコンバージョンを増やす構造に切り替えました。
また、検討中ユーザーが抱きやすい不安を想定し、比較材料、FAQ、導入手順、サポート体制などの情報を整理。広告とLP、さらにその後のコミュニケーションまで一貫した文脈で接触できるように設計を見直しました。
その結果、同じ流入量でも成約率が向上し、CPAは大幅に改善しています。CPMQLは約5分の1まで低下し、広告費全体を抑えながらもROASは約3倍に向上しました。
事例②:ブランド体験の一貫設計により、自社ECのROASを220%改善

(引用:Hydro Flask)
Hydro Flaskは、アウトドア志向のライフスタイルを体現するステンレス製ウォーターボトルブランドです。2009年に単一の商品ラインからスタートし、現在では約20カ国で100以上の商品を展開するまでに成長しました。急速な事業拡大の一方で、ブランド認知を全米規模に広げながら、自社ECサイトでの売上げを安定的に伸ばすことが課題となっていました。
同社の商品はAmazonや多数の小売店でも購入可能です。そのため、自社ECサイトであるHydroFlask.comで製品購入する理由・ベネフィットをユーザーに十分に伝えられていない状態でした。特に、西部地域では一定の認知を獲得していたものの、東部地域ではブランド接触の機会が限られており、広告投資を拡大するとROASが悪化するリスクも抱えていました。
そこで同社が着手したのが、広告から購入完了までを貫くコミュニケーション設計の見直しです。
広告、LP、チェックアウトに至るまで、ブランド独自のトーン&マナーとビジュアルを統一し、自社サイト限定の商品やカスタマイズサービスといった直販ならではの価値を訴求の軸に据えました。これにより、他チャネルとの違いが明確になり、自社サイトで購入する理由を直感的に理解できる導線を構築しました。
ファネル上流では、YouTubeを活用してブランドの世界観を伝える認知施策を強化し、東部地域に向けた接触機会を拡大しています。一方で、西部地域では購買を見据えたプロスペクティングを継続し、地域ごとに役割を分けたメッセージ設計を行いました。さらに、ユーザーの閲覧履歴や行動データを活用したパーソナライズ広告を展開し、検討段階に応じて再訪を促す流れを設計しました。
その結果、自社ECサイトの売上げは前年比で92%成長し、ROASは220%改善しています。ブランドの世界観を損なうことなく、直接購入への納得感を高めたことで、広告投資を拡大しても効率が崩れにくい構造を実現しています。
事例③:顧客にとって価値ある情報を再設計し、2桁の売上げ成長を達成

(引用:アドタイ)
森永乳業は、過去10年分に及ぶ約12000件の顧客の声に加え、SNS上の膨大なコメントやWeb検索キーワードを横断的に分析しています。その結果、マウントレーニアに対して顧客が求めている本質的な価値は、単なる飲料としての機能ではなく、「心のよりどころ」や「ありのままの自分に戻れる時間」にあるというインサイトにたどり着きました。
この示唆をもとに、同社は「ありのまま〜ココロのよりどころ」というコミュニケーション・ステートメントを策定しました。
クリエイティブでは、「都市の中に山(マウントレーニア)が現れる」というビジュアルコンセプトを展開し、日常のストレスから解放される瞬間を象徴的に表現しています。さらに本プロジェクトでは、広告制作チームを単なる外部パートナーではなく、戦略を共創する存在として位置づけました。これにより、企画から制作まで一貫した視点を保つ体制を構築しています。
こうしたコミュニケーション設計の刷新は、定量・定性の両面で成果をもたらしました。販売面では2桁の売上げ成長を達成しています。情報の総到達量は当初計画の5.5倍に拡大しました。加えて、SNS上ではブランドを祝福する投稿が自然発生的に増加し、熱量の高いファン層の存在が可視化されています。
ROASの具体的な数値は公表されていません。しかし、情報到達量が5.5倍に拡大しながら売上げが2桁成長を遂げた事実は、1インプレッションあたりの価値が大きく向上したことを示唆しています。
まとめ
本記事で述べてきたとおり、ROASは広告単体の成果ではなく、コミュニケーション全体の設計がもたらす結果として表れる指標です。クリック数やCPAといった中間指標が良好でも、伝え方や導線が噛み合っていなければ、売上げには結びつきません。
コミュニケーション設計の本質は、誰に、どの文脈で、何を約束し、どの順序で納得へ導くのかを一貫して描くことにあります。広告、LP、オファー、CRMが点で最適化されている状態から、線として接続された状態へと転換できれば、無駄なクリックや迷いは減少します。同じ広告費でも回収効率は大きく変わり、CVRや客単価、LTVが底上げされることで、ROASは安定的に向上するでしょう。
CPCは改善しているにもかかわらずROASが伸びない、あるいは配信を拡大すると効率が崩れると感じている場合、それはコミュニケーション設計を見直すべきサインです。
ROAS向上のために新たな施策を追加する前に、まずは現状の広告がどのような期待を生み出し、どの段階でその期待が途切れているのかを整理してみてください。伝え方を整えることは、広告費を増やすことなく成果を高める、再現性の高い改善策のひとつです。





