ROASブランディング

ブランディング施策でのROASの評価考え方と獲得施策との両立でROASを高める方法

戸栗 頌平

株式会社タナベコンサルティングによる「2025年度 ブランディングに関するアンケート」によれば、ブランド戦略を策定している企業は全体の約4割にとどまり、そのうち「順調に進行している」と回答したのは半数程度に過ぎません。

つまり、実質的にブランド戦略が機能している企業は約5社に1社という水準です。貴社においても、「ブランディング施策を推進しているが効果が見えない」「経営層の理解が得られない」といった課題を抱えているのではないでしょうか。

こうした状況が生じる背景には、ブランディング施策が短期的な指標で評価されがちであり、獲得施策と同一の基準で比較される構造的な問題があります。広告接触から成果までに時間がかかる特性上、売上げへの即時的な貢献が見えにくく、「費用対効果が低い」「ROASが合わない」と判断され、施策が途中で打ち切られるケースも少なくありません。

しかし実際には、ブランディングは指名検索や再訪流入といった間接的な経路を通じて、獲得施策の効率を中長期的に支える役割を果たしています。その効果が可視化されないまま、定量的な評価がなされていない点に、最大の課題があるといえます。

本記事では、ブランディング施策におけるROASの適切な評価軸、獲得施策との役割分担によって全体最適を図る考え方を解説します。

ROASとは

ROAS(アールオーエーエス、ロアス)とは、「Return On Ad Spend」の略で、広告の費用対効果を示す指標です。簡単にいえば、広告費1円あたりの売上げを示します。たとえば、ROASが500%なら広告費1円あたり5円の売上げを創出していることを意味します。

広告運用においては、CPAやCV数と並び、成果を測る代表的なKPIとして扱われます。月初のレポート作成時に、広告費は抑えられているのに売上げが伸びていない、あるいは逆に売上げは立っているのに利益が残らない、といった状況に直面したことはないでしょうか。こうした状況を整理するために、ROASは有効です。

一方で、ROASはあくまで売上ベースの指標であり、将来の利益や成長までを保証するものではありません。そのため、ROASの定義や適用する施策を整理しないまま使うと、短期的に数字が良い施策ばかりを残し、長期的に効く施策や本記事で扱うブランディングも切り捨ててしまうリスクがあります。

ROASの計算式

ROASの計算式は「売上げ ÷ 広告費 × 100%」とシンプルです。たとえば広告費が100万円、売上げが500万円であれば、ROASは500%となります。この数値だけを見ると、広告運用が順調に推移しているように思えるかもしれません。

しかし注意すべきなのは、どの売上げを広告経由と定義するか、どの期間で集計するかによって、ROASの値は大きく変わるという点です。

特にブランディング施策を含む場合、広告接触から購買までの間に時間的なラグが発生しやすく、短期の集計では効果が過小評価される傾向があります。実際、月次レポートではROASが低く見えていても、数カ月後に指名検索や再訪経由の売上げが増加するケースは少なくありません。

また、ROASは売上ベースの指標であるため、粗利率の低い商材や、割引施策を多用している場合には、数値が高くても実際には利益が残らないことがあります。こうした背景からも、広告運用の現場ではROASだけに頼らず、CPA(顧客獲得単価)や粗利、LTV(顧客生涯価値)などの指標と組み合わせて評価する視点が不可欠です。

ブランディング施策と獲得施策の違い

獲得施策の目的は、今すぐ売上げや問い合わせといった具体的な成果を生み出すことにあります。リスティング広告やリターゲティング広告のように、すでに課題やニーズが顕在化している層を対象に、購入や申し込みといった行動を促します。

たとえば、比較検討段階にあるユーザーに対して、値引きや期間限定のプロモーションを提示し、決断を後押しするようなイメージです。この領域では、ROASやCPAといった短期指標が機能しやすく、改善サイクルも短く、運用効率が高まります。

一方、ブランディング施策の役割は、将来の選択肢に入るための土台を築くことです。すぐに購買するわけではないが、いずれ検討する可能性のある潜在層に対して、認知や信頼、好意といった感情的価値を積み重ねます。広告に触れた直後に成果が現れなくても、それは自然な状態です。

たとえば、展示会やセミナーで初めて接点を持った企業を、数カ月後に指名検索し問い合わせるといった行動の流れは、ブランディング施策の典型的な成果といえます。

この違いを無視し、両者を同じ指標やタイミングで評価してしまうと、獲得施策は効率的に見え、ブランディング施策は効果が乏しいように映ります。

しかし実際には、ブランディングがあるからこそ、獲得施策が効果を発揮しやすくなっている場合が少なくありません。クリック率やCVR、最終的なROASが底上げされているケースの多くは、その背景に中長期のブランド接触が存在します。

つまり、獲得施策は「刈り取り」、ブランディング施策は「畑づくり」のような関係です。前者だけに注力しても、刈り取る対象が枯渇すれば成果は頭打ちになります。

実際、英国広告主協会(IPA)のデータにもとづくLes Binet(レス・ビネー)氏とPeter Field(ピーター・フィールド)氏の研究では、長期的な成長を最大化するための予算配分のベースラインは「ブランド構築:獲得施策 = 60:40」であると結論づけられています。

獲得施策に偏りすぎると、短期的には成果が出る一方で、中長期的には市場におけるリード数が不足し、獲得効率そのものが低下します。視点を変えれば、ブランディングによって潜在層との接点を継続的に生み出すことで、獲得施策のROASを構造的に押し上げていくことが可能です。

ブランディング施策でROASの評価がなぜ難しくなるのか

ブランディング施策の重要性をお伝えしましたが、実はブランディング施策でROASの評価を行うのは困難です。獲得施策と同じ感覚でROASを見ると、評価が厳しくなり、やっている意味があるのかという議論に発展するリスクさえあります。ここには、ブランディング特有の構造的な理由があります。

ROASは短期回収、ブランディングは中長期寄与で時間軸が違う

ROASは、広告費に対する売上げの回収率を捉える短期的な指標です。日次や週次で数字を追いやすく、改善の手応えも見えやすいのが特徴です。

一方、ブランディング施策は、広告に触れた瞬間に売上げが立つことを前提としていません。接触してから想起され、比較検討の場に入り、最終的に指名されて購入に至るまでには、どうしても時間のラグが生まれます。

たとえば、今月配信した動画広告を見たユーザーが、来月以降に指名検索をして資料請求をするケースは珍しくありません。この場合、当月のROASだけを見ると成果が出ていないように見えますが、実際には将来の売上げの種をまいている状態です。

短期ROASだけで判断すると、後から効いてくる施策を捨ててしまうことになります。だからこそ、週次では配信が適切に届いているかという品質、月次以降では指名や検討行動の増分を見るなど、いつ効くKPIなのかを分けて設計しなければいけません。

指名検索・自然流入・再訪など広告外の成果に波及してROASが歪む

ブランディングが効き始めると、ユーザーの行動は広告クリックにとどまりません。後日、指名検索をしたり、URLを直接入力して訪問したり、比較サイトや自然検索経由で戻ってきます。この結果、実際にはブランディング広告がきっかけになっているにもかかわらず、ラストクリックの計測上は広告以外の成果として扱われます。

すると、広告のROASは過小評価され、自然流入や指名流入だけが伸びているように見えます。ここで広告が効いていないと判断してしまうと、原因と結果を取り違えることになります。重要なのは、指名流入の増加、再訪率の上昇、直帰率や滞在時間の変化といった兆候を、ブランド貢献のサインとして捉えることです。

計測上の見え方と実態にはズレがある前提で整理しないと、ROASは正しい判断材料になりません。

ラストクリック偏重が意思決定を誤らせる

ラストクリックのROASを優先すると、配信はどうしても顕在層や既存需要に偏ります。この場合、短期的には売上げが増え、効率が良いように見えますが、新規の母数が増えず、指名も伸びない状態が続きます。その結果、値引きや期限付きオファーに頼らないと成果が出にくくなり、徐々にCPAの上昇やROASの悪化を招いてしまうでしょう。

これは、刈り取り施策だけに注力した場合に起こりやすい典型的なリスクです。短期の数字を追えば追うほど、将来の選択肢を狭め、結果的に中長期のROASを下げる構造に陥ってしまいます。

ブランディング施策では、ラストクリックのROASだけで良し悪しを判断しないことが重要です。短期回収を測る指標と、将来の需要を育てる投資を、同じ物差しで評価してはいけません。この前提を押さえずにROASを使うと、指標そのものが意思決定を誤らせる原因になってしまいます。

ブランディング施策でROASの評価が求められるタイミング

ブランディング施策は、本来中長期で効かせるものですが、ROASの視点を避けて通れない場面も訪れます。特に予算や方針を決める局面では、感覚論だけでは合意が取れず、何らかの数値的な裏付けが必要です。ここでは、ブランディング施策でもROASの考え方が必要になる代表的なタイミングを見ていきましょう。

予算配分を見直す局面

四半期や半期の計画更新、あるいは広告費が増減するタイミングでは、ブランド投資をどれだけ維持するかが論点になります。獲得施策はROASやCPAで比較しやすい一方、ブランディングは成果が見えにくいため、削減対象になりやすいのが実情です。

このとき、ROASもしくはそれに近い回収指標を持っておくと、獲得施策との相対比較が可能になります。たとえば、短期ROASは低いものの、指名検索や再訪が伸びており、獲得側のROASが底上げされていると説明できれば、ブランド投資の有効性を示せます。

数値がまったくない状態よりも、限定的でも回収の目安を示すことで、予算配分の合意形成が進みやすくなります。

ブランド施策の継続や停止を短期で判断しないといけないとき

キャンペーン期間が限られている、追加予算の承認が必要、KPI未達成で見直しの圧が強いなど、短期で判断を迫られる場面では、ROASが判断指標となることが多々あります。ここで注意したいのは、短期ROASだけで白黒をつけないことです。

たとえば、配信開始から数週間でROASが目標に届かない場合でも、ブランド想起率や指名検索数、自社サイトへの流入数などが改善していれば、将来の獲得効率に貢献する可能性があります。

ROASはあくまで判断材料のひとつと位置づけ、配信品質や指名行動の変化と合わせて見ることで、止めるべき施策と調整すべき施策を切り分けられます。

ブランド施策が他の施策のターゲットと重複している疑いがあるとき

ブランド施策を強めた直後に、獲得キャンペーンのCPAが悪化したり、ROASが下がったりすると、ブランド施策が無駄なのではないかと疑われがちです。しかし実際には、オーディエンスの重複やフリークエンシー過多、配信面の重複によって、獲得側の効率を一時的に食っているケースも少なくありません。

このような状況では、ブランド施策そのものを止める前に、配信設計を疑うべきです。ターゲットの重複度合いや到達頻度を整理し、獲得とブランドの役割が競合していないかを確認することで、ROAS低下の本当の原因が見えてきます。ここでも、ROASは問題を発見するためのシグナルとして活用するのが適切です。

ブランディング施策でROASも一緒に考える際の手順

ブランディング施策にROASの視点を持ち込むとき、いきなり数字を並べても上手く評価はできません。重要なのは、先に考え方と前提をそろえ、ROASが判断を誤らせない状態を作ることです。ここでは、ブランディング施策でROASも考える際の手順を紹介します。

STEP1:目的を分離して、ROASの評価範囲を決める

最初にやるべきことは、どこまでをROASで評価し、どこからを別の指標で評価するのかをはっきりさせることです。ブランディング施策と獲得施策を同じROASで並べてしまうと、目的の違いが無視され、ブランディング施策はどうしても不利に見えてしまいます。

獲得目的の施策は、売上げの回収がゴールです。そのため、ROASやCPAといった短期指標を主軸に置いても問題ありません。一方で、ブランド目的の施策は、認知や想起、信頼を積み上げることが役割です。この領域では、到達の質や想起につながる行動を中心に見て、ROASはあくまで補足的な参考値として扱うのが適切です。

重要なのは、目的が異なる施策を同じ物差しで直接比較しないことです。キャンペーンや広告セットを目的別に分け、それぞれに合った指標で評価する状態を作ることで、数字に振り回されにくくなり、運用判断も安定します。

STEP2:ブランドKPIから売上げへの道筋を言語化する

次は、ブランディング施策が売上げにつながるまでの因果関係を仮説として言語化します。ここが曖昧なままだと、ROASが低いという一点だけで評価され、施策の価値を説明できなくなります。

たとえば、ディスプレイ広告やYouTube広告でまず接触を作り、ブランドの存在を認知してもらう。そのうえで、繰り返し触れることで想起されやすい状態を作る、という流れを想定します。この段階では、広告を見た直後に売上げが立たなくても不思議ではありません。

重要なのは、想定した変化が本当に起きているかどうかを、適切な指標で確認することです。

具体的には、ブランド想起率や広告接触後の指名検索数、直接流入数、再訪率などが確認ポイントになります。これらが増えていれば、広告接触が無駄になっているのではなく、検討フェーズに進む土台ができていると判断できます。

このように、TOFUでは接触や認知、MOFUでは想起や比較行動、BOFUでは指名検索や指名CVといった形で、マーケティングファネルの各段階を階層でつなげて整理しておくことが重要です。すると、たとえ短期のROASが低く見えても、どの段階が前に進んでいるのかを具体的に説明できるようになります。

STEP3:ROASの見え方を整える

一般的な広告レポートでは、最後にクリックされた接点だけに成果が紐づくラストクリックが採用されています。この考え方は獲得施策では分かりやすい一方で、ブランディング施策を評価する際にはズレが生じやすくなります。

たとえば、YouTube広告でサービスの存在を知り、その場では行動しなかったユーザーが、後日あらためて指名検索や直接流入で購入した場合、売上げは広告以外の成果として計上されます。実際には最初の広告接触がきっかけになっているにもかかわらず、ROAS上は売れていないように見えてしまいます。これが、ブランディング施策が過小評価されやすい構造です。

このズレを小さくするためには、まず指名と非指名に分けて成果を見ることが有効です。

指名検索経由の流入やコンバージョンを切り出して管理すると、広告を強めた後に指名が増えているか、再訪が増えているかといった変化を確認できます。これらは、ブランディング施策が効き始めたときに、最初に現れやすい兆候です。ブランド広告のROASが低く見えていても、指名CVや指名流入が増えていれば、成果が別の場所に現れていると説明できるようになります。

可能であれば、売上げではなく粗利ベースでROASを見る視点も重要です。値引きやポイント付与を伴うプロモーション施策では、売上ROASが実態以上に良く見えることがあります。粗利を基準にすることで、こうした錯覚を減らし、本当に事業に貢献しているかどうかを判断しやすくなります。

また、ROASを比較する際には、必ず条件をそろえましょう。期間、商材、地域、ターゲットが異なる状態でROASを並べても、その差が施策の違いなのか、前提条件の違いなのかを切り分けることができません。比較する前に条件をそろえ、そろえられない場合は無理に比較しない判断をすることが、ROASを正しく使うための前提になります。

STEP4:評価の時間軸を分けて考える

ブランディングは中長期的な施策、ROASは短期的な指標です。この違いを理解せずに同じ時間軸で評価すると、ブランディング施策の成果が低く見積もる結果となります。

原則として、ブランディング施策におけるROASは半年、1年、もしくは数年単位で見るべき指標です。ブランドは数日や数週間で形成されるものではありません。そのため、以下のように評価の時間軸を分けて考える必要があります。

STEP5:予算配分と運用ルールを決める

最後に重要なのが、数字を見たときにどう動くかを、あらかじめ決めておくことです。ここが曖昧だと、会議の雰囲気や直近の数字に引っ張られ、判断が毎回変わってしまいます。

考え方はシンプルで、ブランド施策が順調に効いているときは、無理に変えず、むしろ少しだけ強めます。

具体的には、指名検索や再訪が伸びていて、獲得施策のROASも大きく崩れていない状態です。この場合、ブランドが獲得を後押ししている可能性が高いため、ブランド比率を少し増やして様子を見る判断が合理的です。

一方で、頻度が高くなりすぎていたり、視聴完了率や到達単価が悪化していたりする場合、すぐに止める必要はありません。多くの場合、問題は施策そのものではなく、配信の仕方にあります。ターゲットの重なりを調整する、配信面を見直す、除外設定を入れるなど、設計を修正したうえで継続する方が、結果的に安定します。

逆に、一定期間回しても指名検索や再訪といった変化が見られず、獲得施策の効率を明らかに下げている場合は、立ち止まって見直すサインです。このときは、予算を減らす前に、クリエイティブやターゲットが本当にブランド目的に合っているかを再設計します。それでも改善が見込めない場合に、縮小や停止を検討しましょう。

このように、数字がこうなったらこう動く、という形で条件と行動をセットにしておくと、ブランディング施策とROASを同時に追っても判断がぶれません。

ブランディング施策でのROASを考えた時にやりがちな失敗例

ブランディング施策とROASを両立させようとすると、理屈では分かっていても、現場では同じ失敗を繰り返しがちです。特に、短期の数字に追われている状況ほど、判断が極端になりやすくなります。ここでは、広告運用の現場でよく見られる代表的な失敗例を整理します。

短期ROASでブランド施策を切って、後から獲得効率が落ちる

最も多い失敗のひとつが、短期的なROASだけを根拠にブランド施策を中止してしまうことです。広告配信を止めた直後は、広告費が減少することで、獲得施策のROASが一時的に改善したように見える場合があります。しかし、この状態は長くは続きません。

数週間から数カ月後には、指名検索が伸び悩み、新規流入も減少します。その結果、獲得は既存需要の奪い合いとなり、CPAは上昇、CVRは低下し、最終的なROASも悪化します。これは、ブランド投資の停止による影響が時間差で現れる典型的なパターンです。

2019年、アディダスは自社のマーケティング戦略が効率性を重視しすぎた結果、有効性を損なっていたと認めました。同社はROASを最優先指標とし、刈り取り施策であるリスティング広告に積極的な投資を行っていました。しかし、詳細にエコノメトリクス分析をすると、実際には売上げの65%がブランド構築活動によって生まれていたことが判明したのです。

さらに、中南米市場でGoogleリスティング広告が技術的な不具合により停止した際にも、売上げやサイト流入にほとんど影響がなかったことから、すでに購買を決めていたユーザーへの広告投資が無駄になっていたことが照明されました。これをきっかけに、同社はブランド構築への投資を再び強化する方向へ大きく舵を切りました。

ブランド施策を継続すべきか否かの判断には、短期ROASではなく、指名検索や再訪などの兆候指標や、増分効果をもとにした評価が必要です。

フリークエンシー過多・配信面ミスで逆効果になる

広告の到達度を重視するあまり、同じユーザーに繰り返し広告を表示してしまうケースは少なくありません。

頻度が過剰になると、認知ではなく飽きや嫌悪を引き起こし、ブランドイメージを損なうリスクが生じます。ヤフーの調査によれば、ユーザーの7割以上が広告に対してストレスを感じているとされています。

(引用:LINEヤフー for Business

さらに、目的に合わない配信面やターゲットに広告が表示されると、一見リーチしているように見えても、実際には意味のある接触が行われていない場合があります。

適切なタイミング、適切な回数、そして適切な接触面でユーザーと接することができなければ、ブランディング効果は得られず、むしろブランド嫌悪を招く恐れがあります。その結果、ROASの悪化だけでなく、長期的な獲得効率の低下にもつながります。

こうした事態を防ぐには、頻度管理や除外設計、視認性、VTR(視聴完了率)といった品質指標を活用し、パフォーマンスが低下しているときほど配信設計そのものを見直す視点が重要です。

獲得訴求に寄せすぎてブランド資産が積み上がらない

短期的な成果を優先するあまり、値引きや期限付きオファーといった獲得訴求に偏ると、ユーザーの記憶に選定理由が残りにくくなります。価格面での一時的な比較には勝てても、継続的な指名や再訪につながらず、長期的な関係構築には至りません

こうした状況では、ブランドが本来持っている価値や魅力が伝わらず、競合との違いも曖昧になります。選ばれる理由が形成されていなければ、次回の購買行動においても価格だけが判断基準となり、リピーターを獲得できない構造に陥ります。

本来、ブランディング施策には、価値訴求の根拠や他社との違い、信頼につながる情報を伝える役割があります。獲得施策と同じ枠組みで語るのではなく、明確に役割を分けることが重要です。役割を明確化することで、クリエイティブやメッセージの精度も高まり、結果としてCVRや指名検索の比率が上がり、ROAS全体の底上げにつながっていきます。

ブランディング施策と獲得施策を両立させてROASを向上させるには

ブランディングと獲得は、どちらかを優先すればもう一方が犠牲になる、という関係ではありません。役割を整理し、運用ルールをそろえれば、両立どころか相互にROASを押し上げる関係を作れます。ここでは、ブランディング施策と獲得施策を両立させるポイントを解説します。

予算配分の考え方

ROASを重視すべきタイミングと、ブランド投資を優先すべきタイミングは、企業の成長段階や市場環境によって大きく異なります

まず、創業期・成長初期においては、ブランドの認知度がほとんどないため、市場における牽引力やチャネルの有効性を検証することが優先されます。短期的なROASにとらわれるのではなく、将来的な顧客基盤の構築を見据えた獲得施策に注力する必要があります。

売上げが拡大してくると、単一チャネルでの獲得効率は徐々に頭打ちとなり、それまでの手法だけでは成長が鈍化します。このフェーズでは、ブランド構築への投資比率を引き上げなければ、顧客獲得単価(CAC)の上昇が続き、収益性が圧迫されていきます。

目指すべきは、ブランド想起を高め、指名検索や直接流入を増やすことで、広告依存を軽減する構造への転換です。中長期的に自走する集客モデルを整えることが、利益の最大化につながります。

ブランドが成熟し、市場における認知と信頼が確立されると、次に求められるのは既存顧客との関係性を深めること、および業界内での地位の維持です。この段階では、ROASだけでなく、LTVとCACの比率を重視することで、持続可能な成長と適切な資源配分を判断する指標となります。

クリエイティブの役割分担

ブランディング施策と獲得施策では、クリエイティブに求められる役割が異なります。

ブランディングにおけるクリエイティブの目的は、企業や商品に対する理解を深め、選択肢として記憶に残る状態をつくることです。企業の価値観や強み、背景にあるストーリーを伝え、ユーザーが将来の比較検討時に思い出せるような接点を形成します。これは購買行動の前段階に対する投資と位置づけられます。

獲得施策のクリエイティブの目的は、迷わせることなくユーザーに行動を促すことです。申し込み導線の分かりやすさ、オファーの明快さ、今動く理由が提示されているかどうかが、CVRを左右する決定要因になります。このフェーズでブランド訴求に寄りすぎると、かえってユーザーの判断を遅らせてしまう可能性があります。

これらの役割分担を明確にし、検討段階に応じたクリエイティブを設計すれば、ユーザーは必要な情報を適切なタイミングで受け取れます。その結果、過度に強い訴求や値引きに頼らずともCVRは改善し、短期的なROASの達成と中長期的なブランド形成の両立が可能です。

レポート設計

効果測定においても、時間軸ごとに評価視点を分けることが欠かせません。以下の表に、時間軸ごとに確認するべき主な指標をまとめました。

時間軸ごとにレポートを設計すれば、ブランディングと獲得の効果を分断せずに捉えられます。結果として、部分最適に陥らず、ROASを全体最適の視点で高める運用が実現します。

まとめ

ブランディング施策とROASは、対立するものではありません。確かに短期的な視点で評価を行うと、ブランディング施策は一時的にROASが低く見える傾向があります。しかし、それはブランディングが中長期的に効果を発揮する性質を持つためであり、本質的な問題ではありません。

そのため、ブランディング施策のROASを正しく評価するには、以下のような視点が欠かせません。

  • 中長期的なスパンで成果を見る
  • 指名検索数やサイト流入数の変化を追う
  • 事業全体における総投資と総売上の関係を見る

これらの観点を持たずに、短期の数値だけでブランディング施策を評価してしまうと、十分な成果が出る前に中止されてしまう恐れがあります。

しかし、事業の売上げを持続的に拡大していくには、潜在層との接点を生み出すブランディング活動が不可欠です。そして、その接点がやがて顕在化し、獲得施策のROASを押し上げる要因にもつながっていきます。

ブランディングと獲得の連携は、事業成長において両輪のような関係にあります。本記事を通じて、ブランディング施策の適切な評価軸と、その意義を再確認いただけたなら幸いです。

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