
オンラインマーケティング上のROASの計測体制の構築ステップとROASを高めた事例を紹介

- 戸栗 頌平
オンライン広告の投資対効果を測るうえで欠かせない指標が、ROAS(広告費用対効果)です。しかし実際には、多くの企業が売上創出を目的にオンライン広告を活用していながら、その成果を正確に把握できていないのが現状です。
たとえば、WACUL株式会社の調査によれば、広告経由の売上額を確認している担当者は全体の52%にとどまり、商談数・売上げ・LTVのいずれも見ていない企業が27%存在しています。こうした状態では、たとえ数百万円の広告費を投下してCV数が増えても、実際には売上げにつながっていなかったという事態を招きかねません。計測体制が整っていなければ、ROASを評価する以前に、広告投資が本当に成果を生んでいるのかさえ判断できないわけです。
ROASは、単なるスコアではなく、資本配分とマーケティング戦略を最適化するための判断基盤です。本記事では、ROASを軸にオンラインマーケティングの計測体制をどう構築すべきかを5つのステップで整理し、あわせてROAS向上を実現した成功事例も紹介します。広告を費用ではなく再投資資源として活かすために、ぜひご一読ください。
ROASの定義と計算方法
ROASは広告運用の基本指標のひとつですが、売上げをベースにしている点やオンラインマーケティングで重要な理由を理解しておかなければ、正しく施策を評価することができません。まずはROASの定義と計算方法をあらためて整理します。
ROASの定義
ROAS(Return On Advertising Spend:アールオーエーエス、ロアス)とは、広告費に対して得られた売上げを数値で示す費用対効果指標です。媒体を横断した施策評価や運用型広告の改善判断において、マーケティング投資の健全性を測る共通言語として活用されます。
一般に、ROASは数値が高いほど広告効率がよいとされますが、その評価は単なる売上回収にとどまりません。たとえば、LTV(顧客生涯価値)が高いビジネスモデルでは、初回のROASが低くても長期的に利益を生む場合があります。そのため、ビジネスモデルや戦略との整合性を踏まえた運用設計が不可欠です。
オンラインマーケティング上のROASとは
ROASは広告費に対する売上げを示す指標ですが、実際の売上げには広告以外のチャネルの影響が含まれることが多く、広告単体の効果として評価するには限界があります。
たとえば、以下のようなケースです。
- 広告をクリックした後、検索で再訪しSEO経由でコンバージョンした
- 広告ではCVに至らなかったが、後日メール施策によって成約に至った
- 広告経由でLPに到達し、ホワイトペーパーをダウンロード → 約1カ月後にメール経由で成約
このように、広告はユーザー行動の一部であり、CVや売上げは複数チャネルの接点を経て成立しています。そのため、広告施策単体のROASでは売上構造を正しく捉えきれず、過小評価・過大評価のリスクがあります。
たとえば、SEOによって認知を獲得していれば、広告接触時のクリック率やCV率は自然に向上します。また、メールマーケティングが有効に機能していれば、広告でCVしなかったユーザーを後日ナーチャリングし、最終的に成約へ導くことも可能です。
初回の売上げは広告経由でも、以降の購買がオーガニックに移れば、LTV全体の向上にもつながります。このように、SEOやメール施策は広告のROASを間接的に底上げする要素であり、逆にオーガニック施策が弱ければ広告ROASも下がりやすくなります。
本来、ROASは広告施策単体のKPIとして扱うべきではありません。マーケティング全体で得た売上げと、それに対して投下した資本という視点から、統合ROASとして再定義する必要があります。データを個別に見るのではなく、全体としてLTVとCACのバランスを構造的に捉えることが、真に価値あるROAS戦略の出発点となります。
ROASの計算方法
ROASの計算方法はシンプルで、以下の式で算出されます。

たとえば、ある広告キャンペーンに20万円を投じ、80万円の売上げが得られた場合、ROASは400%です。これは1円の広告費で4円の売上げを上げたことを意味します。数値が大きいほど広告効率が高く、費用対効果に優れていると判断されます。
計算自体は単純ですが、実務では「何を売上げと見なすか」「広告費にどこまで含めるか」が重要なポイントです。売上げにはWeb経由の注文だけでなく、資料請求からの成約やチャットボット経由の予約などが含まれる場合もあります。広告費についても、運用代行費やクリエイティブ制作費を含めるかどうかで、ROASの数値は大きく変わってきます。
そのため、ROASを正確に評価するには、売上げと広告費の定義をあらかじめ明確にし、社内や関係者と共通認識を持つことが欠かせません。また、キャンペーン単位、チャネル単位、クリエイティブ単位といった粒度で比較することで、施策ごとの効率を可視化できます。
さらに、ROASはあくまで表面的な費用対効果に過ぎないため、利益やLTVといった他の指標と併せて分析することが必要です。
オンラインマーケティングの種類
オンラインマーケティングとは、インターネットを通じて製品やサービスの認知拡大、集客、販売促進を行う取り組み全般を指します。施策の手法は多岐にわたり、広告のように費用をかけて即効性を狙うものもあれば、SEOやコンテンツマーケティングのように、時間をかけて見込み顧客との関係構築を目指すものもあります。
それぞれの施策には特性があるため、目的やターゲットに応じて適切に使い分けることが欠かせません。たとえば、「今月中に売上げを伸ばしたい」といった短期的な課題には広告が有効であり、「1年後の問い合わせ数を増やしたい」といった中長期の目標にはSEOが効果を発揮します。
さらに、広告効果を正確に評価するには、施策ごとに異なる計測方法やKPI設計を理解しておくことが必要です。ROASを正しく比較・分析するためにも、各チャネルの特性を踏まえたうえでの評価が求められます。ここでは、主要なオンラインマーケティング施策を3つに分類し、それぞれの特徴を解説します。
オンライン広告(Web広告)
オンライン広告とは、インターネット上でユーザーの行動や興味関心に合わせて配信される広告の総称で、Web広告とも呼ばれます。即効性の高い施策として、短期間での売上向上やリード獲得に活用されることが多く、ROASの計測と改善においても中心的な役割を担います。
代表的な手法のひとつがリスティング広告です。Google広告やYahoo!広告を使って、特定のキーワードを検索したユーザーに対して広告を表示し、能動的なニーズに応じて効率的に集客できます。たとえば「営業管理ツール 比較」と検索する見込み客に自社サービスを露出できるため、CVRの高い広告運用が可能です。

ディスプレイ広告は、Webサイトやアプリ上の広告枠にバナーや動画クリエイティブを表示する形式で、潜在層へのアプローチに効果を発揮します。行動履歴に基づくターゲティングや、過去にサイトを訪れたユーザーに再接触するリマーケティングなど、細やかな配信設計が可能です。
さらにSNS広告では、FacebookやInstagram、X(旧Twitter)、LinkedInなどのSNS上で、ユーザーの属性や興味関心に応じた広告配信が行えます。BtoB領域では、LinkedIn広告による職種・業界別ターゲティングが有効で、ニッチなターゲットにもピンポイントでリーチできます。
このようにオンライン広告は、目的・ターゲットに応じた柔軟な運用が可能であり、ROASの高いチャネルを見極めることで、費用対効果の最適化を図れます。
SEO/コンテンツマーケティング
SEO(検索エンジン最適化)とコンテンツマーケティングは、オンラインマーケティングにおける中長期的な資産形成を支える施策です。即効性は高くないものの、継続的にユーザーとの接点を増やし、自然検索からの流入を着実に積み上げられます。
コンテンツマーケティングでは、オウンドメディアやブログ、ホワイトペーパー、事例記事などを通じて、見込み顧客にとって有益な情報を提供します。たとえば、人事担当者向けに評価制度の導入ステップや人的資本経営の実践例といったテーマで記事を展開することで、SEO経由のトラフィックを集めながら、リード獲得や商談創出につなげることが可能です。
SEOは、こうしたコンテンツを検索結果の上位に表示させるための技術的・戦略的な取り組みです。検索キーワードの選定、タイトルやメタ情報の最適化、内部リンク設計、被リンク獲得などを通じて、検索エンジンからの評価を高めていきます。

(弊社のSEOブログ)
この施策群では、広告のように直接的なROASを算出するのは難しいものの、GA4やCRMと連携すれば、どの記事からどの商談が生まれたか、どのキーワードがCVに貢献しているかといった情報を可視化できます。これにより、広告とは異なる観点から費用対効果を測定することが可能です。
アフィリエイト/インフルエンサーマーケティング
アフィリエイトおよびインフルエンサーマーケティングは、第三者の発信力を活用し、自社の商品・サービスを紹介してもらう手法です。認知拡大や新規顧客の獲得に効果があり、広告とは異なる接点からコンバージョンを促進するチャネルとして注目されています。
アフィリエイトマーケティングでは、ブロガーや比較メディアの運営者が自らのWebサイト上で製品・サービスを紹介し、成果報酬型で報酬が支払われます。たとえば、SaaSツールの比較記事に自社製品が掲載され、そこから申込みが発生した場合に報酬が発生する仕組みです。ROASの観点では、広告費が成果ベースで発生するため、CPAを抑えやすく、初期リスクが小さいというメリットがあります。

(出典:ITトレンド)
一方、インフルエンサーマーケティングは、YouTuberやTikToker、インスタグラマーといったフォロワー数の多い個人の発信力を活かして、製品・サービスの認知を広げる施策です。BtoCに限らず、BtoB領域でも、X(旧Twitter)やLinkedInで影響力のある専門家や経営者による紹介を通じて、商談創出につながるケースが増えています。
これらの手法は、広告のように配信条件を細かく設定できるわけではないため、効果測定には工夫が求められます。
オンラインマーケティングでROASを意識するべき理由
デジタル施策の多様化が進む現在、ROASを意識したマーケティング運用は、単なる費用対効果の可視化にとどまらず、意思決定の精度やスピードを高めるうえでも不可欠な観点となっています。とくに広告費の投下額が大きい場合、定量的な判断軸がなければ、費用対効果の悪化やリソースの浪費につながりかねません。
たとえば、施策ごとの貢献度をあいまいな感覚で判断してしまうと、「なんとなく続けている広告」「効果の見えにくいコンテンツ配信」にコストが集中し、重要チャネルへの投資機会を逃すリスクがあります。ROASという明確な指標があれば、リソース配分が可視化され、PDCAサイクルを高速に回すことが可能です。
ここでは、オンラインマーケティングでROASを意識するべき理由を整理します。

広告投資の効率化と即時最適化ができるから
ROASをオンラインマーケティングで重視すべき理由のひとつは、広告投資の効率化と即時最適化が可能になる点にあります。ROASをリアルタイムでモニタリングすることで、どのキャンペーンやクリエイティブが高収益を生んでいるかを即座に判断でき、非効率な出稿を抑えつつ、効果の高い施策に予算を集中させられます。
たとえば、同一商品の訴求で複数のFacebook広告を運用している場合、それぞれのROASを日次で確認すれば、成果が出ていないクリエイティブを迅速に停止し、成果の高いものへ予算を再配分できます。こうした即応的な判断は、成果が日々変動する季節イベントやキャンペーン期間(新年度や年末商戦など)で特に有効です。
さらに、Google広告やFacebook広告などの主要プラットフォームでは、ROASを基準にした自動入札やキャンペーン最適化の機能が整備されています。あらかじめ目標ROASを設定しておけば、システム側で配信調整が行われ、手動の運用負荷を軽減しながら成果を最大化できます。
広告運用においてスピードと成果の両立が求められる今、ROASは意思決定の中核となる指標として位置づけるべきでしょう。
広告媒体を横断した投資判断ができるから
リスティング広告、Facebook広告、ディスプレイ広告など、各広告媒体にはそれぞれ異なる特性と評価軸があります。

このように、各媒体ごとに評価軸が異なる中で、すべてのチャネルを共通の基準で評価できる指標がROASです。ROASを基準とすれば、媒体ごとの成果を定量的に比較し、売上げに貢献している広告チャネルを横断的に把握できます。
特に広告費に限りのある企業ほど、最も費用対効果の高い媒体に予算を集中させる戦略が必要でしょう。たとえば、Google広告とLinkedIn広告を併用していたとします。前者は多くのクリックを集めているもののCV率が低く、ROASが150%にとどまっている。一方、後者はクリック単価が高いものの商談化率が高く、ROASが300%を超えている。こうしたデータに基づけば、費用対効果の高い媒体への再配分が理にかなっていると判断できます。
逆に、ROASを基準にせず複数媒体を運用していると、予算配分は感覚的な判断に頼ることになります。「リスティング広告はクリック率が高いから」「Facebook広告は昨年うまくいったから」といった曖昧な理由では、成果に直結しない施策に予算を浪費しかねません。
さらに、ROASによる横断的な分析結果は、社内の予算配分や上層部への説明材料としても有効です。チャネル構成が複雑化する中でも、一貫した評価軸としてROASを活用することで、納得感のある戦略的な投資判断が実現できます。
予算戦略と事業目標への整合を保つことができるから
ROASは、広告の費用対効果を測る指標であると同時に、事業戦略との整合性を保つための判断軸として機能します。
売上目標、マーケティング目標、施策KPIは階層的につながっています。たとえば、売上目標が10億円、広告予算が5000万円であれば、必要ROASは2000%です。実績が1200%であれば、計画とのズレが明らかになり、再設計が必要でしょう。ROASは、単なる施策の成否ではなく、戦略設計の妥当性を測る指標です。
また、ROASは予算の意味を明確にします。広告費は将来の売上げを得るための先行投資です。ROASを活用すれば、予算は「いくら使うか」ではなく「どれだけの成果を得るか」に変わります。売上5億円を目指すなら、粗利率や広告費に応じて、必要なROASが算出されます。実績と比べれば、投資判断の妥当性が数値で見えてくるでしょう。
さらに、ROASは経営とマーケティングをつなぐ共通指標です。マーケ側のCPAやCTRは、経営層には伝わりづらい一方、ROASは「いくら使っていくら戻ったか」を一言で示せます。これにより、部門間の意思疎通がスムーズになります。
ただし、文脈を無視したROASは誤解を招きます。顕在層向け施策はROASが高く出やすく、潜在層向けは低くなりがちです。数字だけを見て判断すれば、戦略的な投資を過小評価することになるため注意が必要です。
オンラインマーケティングでROASと合わせて知っておきたい指標
ROASは広告施策の費用対効果を把握するうえで中心的な指標ですが、それ単体では不十分な場面もあります。
たとえばROASが高くても、実は粗利率が低く、結果として利益に貢献していないケースも少なくありません。また、CPAが高騰していては、いずれROASが維持できなくなる恐れもあります。こうした落とし穴を避けるには、複数の指標を横断的に活用し、因果関係や相関性を見極める視点が求められます。
以下では、ROASとあわせて押さえておきたい代表的な4つの指標(ROI、CPA、CPC、CPM)を取り上げ、それぞれの定義や活用方法について整理していきます。

ROI
ROI(Return On Investment)とは、投資利益率のことで、広告費だけでなく、施策全体にかかったコストを含めて、どれだけの利益が得られたかを示す指標です。計算式は以下の通りです。

たとえば、ある施策で100万円を投じて150万円の売上げがあり、利益が50万円だった場合、ROIは50%となります。ROASが売上ベースの費用対効果を測るのに対し、ROIは利益ベースの投資対効果を測るため、より事業の収益性に直結した判断指標として活用できます。
特にBtoBでは、広告費のほかにも営業コストやコンテンツ制作費、人件費など、プロモーションにかかる総費用が大きくなりがちです。一例をあげると、Web広告で1件のリード獲得に成功しても、その後にセミナー開催や営業訪問といった工程が必要であれば、それらを含めたROIで評価するほうが現実に即した効果測定となるでしょう。
ROIの導入によって、短期的な売上げだけでなく、中長期の収益性やビジネス全体の健全性を見極める視点が生まれます。ROASだけで判断してしまうと見落としがちな利益構造の最適化まで踏み込める点が、ROIの大きな価値です。
CPA
CPA(Cost Per Acquisition)とは、顧客獲得単価またはコンバージョン単価のことであり、1件の成果(問い合わせ、申込み、資料請求、購入など)を獲得するために必要となる費用を示す指標です。計算式は以下の通りです。

10万円の広告費で20件の資料請求を獲得した場合、CPAは5000円となります。つまり、1件の成果を得るために5000円のコストがかかっているということです。
CPAは、特定のコンバージョン目標に対する獲得効率を表す指標であり、ROASとあわせて活用することで施策の健全性を多面的に評価できます。たとえROASが高くても、CPAが許容範囲を超えている場合、その施策は長期的にはスケールしにくい可能性があります。
BtoBにおいては、獲得したリードが商談化・成約につながる確率(いわゆるリードの質)も評価に加味する必要があります。1件あたり1万円のCPAでも高確度の商談につながるリードであれば、結果的に費用対効果は良好といえるでしょう。一方で、CPAが低くても質が悪く、営業負荷ばかりが増えるようでは本末転倒です。
このように、CPAは数の効率を示す指標である一方、質とのバランスを見極めることが重要です。ROASと併せてチェックすることで、広告投資の成否をより精緻に判断できるようになります。
CPC
CPC(Cost Per Click)とは、クリック単価を意味します。広告が1回クリックされるごとに発生するコストを示す指標で、オンライン広告における最も基本的な単価のひとつです。計算式は以下の通りです。

たとえば、5万円の広告費で1000回クリックされた場合、CPCは50円となります。つまり、ユーザーが1回広告をクリックするたびに、広告主は50円を支払っているということです。
CPCは広告の集客力を評価する基礎指標であり、主にリスティング広告やディスプレイ広告、SNS広告などクリック課金型の広告で活用されます。CPCが低ければ、同じ広告費でもより多くのユーザーにサイトを訪問してもらえ、結果としてCV数や売上げにつながる可能性が高まります。
ただし、単にCPCが安ければよいというわけではありません。CPCが30円でも、クリックしたユーザーの多くがすぐに離脱してしまうようなケースでは、費用対効果が悪化する恐れがあります。逆にCPCが100円でも、質の高い見込み顧客が流入し、最終的に高ROAS・低CPAを実現しているのであれば、その広告は十分に有効だといえます。
つまり、CPCはあくまで入り口の単価であり、最終的なCVや売上げにつながるかを見極めるためには、他指標と組み合わせて評価する視点が求められます。広告クリエイティブやターゲティングの精度によってもCPCは大きく変動するため、改善施策のヒントを得るうえでも有用な指標です。
CPM
CPM(Cost Per Mille)とは、広告1000回表示あたりのコストを意味します。主にインプレッション(表示回数)に基づいて課金される広告で使われる指標で、視認性やリーチ規模を重視する施策でよく活用されます。計算式は以下の通りです。

たとえば、10万円の広告費で20万回のインプレッションがあった場合、CPMは500円になります。これは、1000回広告が表示されるごとに500円の費用がかかっていることを示します。
CPMが重要視されるのは、認知獲得やブランディングを目的とした広告施策です。具体的には、新サービスのローンチ時やイベントのプロモーション時など短期間で多くの人に存在を知ってもらいたいときなどに、インプレッション課金型のディスプレイ広告や動画広告が活用されます。
BtoB領域でも、ターゲット職種や業種に対して認知度を高めたい初期フェーズでは、CPCやCPAではなくCPMを基準に配信戦略を組むケースがあります。特にLinkedInや業界特化型メディアなどでは、1クリックあたりの単価が高騰しやすいため、CPMでの出稿がより合理的な場合もあるでしょう。
ただし、CPMはあくまで見られた可能性に基づく指標であり、クリックやCVといった具体的なアクションを直接示すものではありません。そのため、ROASやCPAと連携して、表示されたあとにどう行動されたかを把握することが、投資判断を誤らないための重要な視点になります。
オンラインマーケティングのROAS計測体制の構築ステップ
ROASを単なるレポート指標として扱ってしまえば、本質的な活用には至りません。ROASとは本来、広告の効果測定を超えて、企業としての資金の流れをリアルタイムで管理する仕組みを構築することを意味します。ここでは、ROAS体制の本質を踏まえたうえで、構築に必要な具体的ステップを解説します。

ステップ1:目標設定とKPI定義
最初に考えるべきなのは、ROASを測定して何を判断したいのかという点です。ROASは広告施策の良否を見るためだけでなく、投資した資金がどれだけ事業成果に結びついているかを確認するための指標です。売上げの最大化を目指しているのか。広告効率の改善が目的なのか。利益を確保しつつ新規顧客の獲得を進めたいのか。目的が不明確なままでは、ROASをどう使えばよいかの判断もあいまいになります。
とくに、売上げの定義は重要です。一見シンプルに見えても、何をもって売上げとみなすかによってROASの意味は変わります。注文金額だけを対象にするのか。資料請求やチャットからのCVも含めるのか。初回購入だけでなくリピートやLTVまで見るのか。たとえばSaaSなら、契約の月額に継続月数をかけた金額が本来の売上になります。BtoBではリードの質も無視できません。
同様に、広告費の定義も評価に大きく影響します。出稿費のみを集計するのか。代理店の運用費やバナー制作、LP制作なども含めるのか。目的によっては、実際に発生したすべてのコストを含めた実効ROASで見るほうが、判断材料として適しています。
ROASを正しく機能させるには、何を成果とし、何をコストとみなすか。その前提を明確に定めたうえで、評価基準を設計する必要があります。
ステップ2:トラッキング基盤の整備
「ROAS = 売上げ ÷ 広告費 × 100%」と式で書くと簡単に見えますが、実際には売上げと広告費の定義や取得方法によって、その信頼性は大きく左右されます。どこから、どのように、どの粒度でデータを取得しているか次第で、ROASは正しくもなり、まったく意味をなさなくもなります。
たとえば以下のようなケースがあります。
- CV数はGoogle広告で確認できても、実際の売上データとはつながっていない
- Meta広告で流入したユーザーが、別チャネルでCVしている
- 売上データはCRMにあるが、それが広告経由かどうか判別できない
このように、ユーザー行動のトラッキング体制が整っていなければ、ROASは正確に算出できません。「何に、いくら使って、どのような成果が出たのか」を施策単位で追える状態でなければ、どのチャネルに予算を集中すべきかの判断も不可能です。
トラッキングが曖昧なままでは、以下のような事態が起こり得ます。
- 本当は他チャネルの貢献である売上げを、一部の広告施策が横取りして評価されてしまう
- リターゲティング広告ばかりが高評価となり、新規開拓の施策が過小評価される
こうした状態では、誤った投資判断を繰り返すリスクが高まります。
ROASを信頼できる指標として機能させるには、広告クリックから売上げまでのユーザー行動を、一貫して追跡できる体制が必要です。Google Tag Managerによるタグ設計、MetaのコンバージョンAPI導入、GA4との連携、CRMやSFAとのID統合など、データを横断的に結びつける仕組みが欠かせません。
今後はCookieの制限が強まる中、拡張コンバージョンやファーストパーティデータの活用も前提となります。誰が、どこから、何を、いくらで購入したのかを、広告IDや顧客IDを通じて一元的に把握できる状態が、ROAS計測の土台となります。
この段階では、広告プラットフォーム上で見えるCVデータだけでは不十分です。売上げやLTVと直接つながる情報との統合こそが、マーケティングの判断精度を左右する最重要要素となります。
【トラッキング基盤に必要な主な要素】

ステップ3:UTM設計とデータ連携
UTMとは、どの広告がどの成果につながったのかを特定するためのタグであり、広告流入ごとの出所や手法、キャンペーン、クリエイティブを識別するための仕組みです。ROASを正確に算出するには、施策単位で成果を分解して見る必要があります。そのためには、UTMの設計が欠かせません。UTMがなければ、次のような問題が生じます。
- Google広告とSNS広告の成果が混在して分析できない
- バナーごとの効果が比較できない
- メール経由かオーガニック検索かの判別ができない
このように、UTMは広告の貢献度を明確にするための施策識別情報であり、媒体・キャンペーン・クリエイティブ単位でROASを分析するために不可欠です。
【UTM設計で使う5つの基本パラメータ】

これらのパラメータを全施策・全媒体で一貫して設計することで、施策ごとの効果を明確に把握できるようになります。UTM情報はGA4などで確認できますが、最終的にはCRMや受注データと連携させ、広告から商談、受注、LTVまでを一元管理することが重要です。
たとえば以下のような流れです。
- LPフォームでURLやCookieからUTM情報を取得
- フォーム送信時にhidden項目としてデータを送信
- SalesforceやHubSpotなどのCRMに格納
- 商談や受注データと紐づけて分析
この構造を整えることで、どの広告がいくらの商談や売上げを生み出したのかを、BIツール上で可視化できるようになります。
ステップ4:アトリビューションモデル選定とダッシュボード構築
オンライン広告では、1件の売上に複数の広告接点が関与するのが一般的です。そのため、ROASを正しく把握するには、最終クリック主義に依存しないアトリビューション設計が不可欠です。
たとえば、リターゲティング広告はROASが高くなりやすい傾向にありますが、その前段階で接触したディスプレイ広告やYouTube広告なども成果に貢献している可能性があります。にもかかわらず、数値の高いリターゲティング広告だけに予算を集中させれば、認知拡大や潜在層の育成が不十分となり、結果的に顧客獲得数が減少しかねません。

こうした事態を避けるには、各接点の貢献度を適切に評価するアトリビューションモデルの導入が必要です。主なアトリビューションモデルには以下があります。

モデル選定では、自社のビジネスモデルやユーザーの検討行動、施策目的をふまえる必要があります。BtoBや高単価商材のように接点が多くなる場合には、線形モデルやU字モデルが有効です。
また、GoogleデータポータルやTableau、Power BIなどのBIツールを活用し、チャネルや媒体単位でROASをリアルタイムに可視化できるダッシュボードの構築を検討しましょう。週次のExcel集計に依存していては、変化への迅速な対応は難しくなります。
ステップ5:PDCAサイクルによる継続的改善
ROASが高い・低いといった評価にとどまる運用では、施策ごとの事後確認しかできません。本来ROASは、PlanとDoの意思決定を先に動かし、CheckとActで再現性と拡張性を担保する運用判断の基準として活用すべきです。
まずPlan。ROASは市場や配信条件に左右される相対値であり、安定した基準にはなりません。あらかじめファネルやチャネルごとに最低許容ライン(トリガー)を定義し、変化に対する具体的なアクションを設計しておくことが重要です。たとえば、Metaの動画広告なら100%、Googleリスティング広告で250%、リターゲティング広告で400%といった水準を設定しておけば、継続・停止・再投資の判断がスピーディに行えます。
【Planの設計例:ファネル別】

つぎにDo。多くの現場では、数値を見ても何も起きないことが課題です。これを防ぐには、ROASにもとづくアクションフローをあらかじめ決めておく必要があります。たとえば、200%を下回れば広告を一時停止しLP改善チームへ共有、400%を超えCPAも順調であれば予算増と類似クリエイティブの制作指示、数値が横ばいでもCVが増えていればターゲティングの拡張やLPテストに着手。こうした即応体制が、実行の停滞を防ぎます。
Checkの目的は、数値の変化を確認することではなく、その構造を分解し、再現性のある知見として定義することです。高ROASを生んだクリエイティブの要素(訴求軸・CTAなど)、LTVが高かったセグメント、LPでのユーザー行動、曜日や時間帯による成果の偏りなどを仮説化し、次の施策につなげます。
【主な分析項目】

最後にAct。Actを失敗の修正として扱いがちですが、ROAS活用の本質は成功パターンの再投資にあります。成果の出たキーワードをSEO記事に転用し、好反応の訴求軸をSNS投稿に展開、高ROASだったBtoB広告のCTAをメール施策へ応用するなど、広告で得た知見をオーガニック施策にも展開することが重要です。
PDCAを回すとは、変化に反応することではなく、変化を前提に基準を設計し、可視化し、拡張していくことです。ROASはその中心に据えるべき指標であり、マーケティングを経営判断の一部に組み込むための起点となります。
オンラインマーケティングにおいてROASを向上させた事例
ここでは、実際にROASを大きく向上させた企業の取り組みを通じて、「どのような施策が効果的だったのか」「何を改善すべきだったのか」といった実務的な示唆を紹介します。
自社のマーケティング最適化のヒントとして、ぜひ参考にしてください。
事例①:広告運用自動化ツールの導入でクリック数18%増・ROAS向上

(出典:Newegg Commerce)
米大手EC企業Newegg Commerce社は、広告運用の最適化を目的に、広告運用自動化ツールShirofuneを導入しました。Shirofuneは、日々の入札調整、予算配分、ROASの管理といった複雑な業務を自動化し、運用効率と成果の両立を支援するクラウド型ツールです。
導入前のNewegg Commerce社では、すべてのキャンペーンに画一的な目標ROASを設定していたため、時間帯に応じた配信最適化ができず、特に夜間の成果が出やすい時間帯に予算が残らないという課題がありました。この結果、本来得られたはずの売上機会を逃していたのです。
Shirofune導入後は、キャンペーンごとに最適なROASと日予算が自動で調整され、成果の出やすい時間帯への予算配分が実現。また、GA4とのデータ連携により、各高校媒体を横断してパフォーマンスを正確に評価できる仕組みも構築しました。
その結果、広告予算を抑えながらクリック数は18%増加。広告パフォーマンス全体は10%以上改善し、ROASも大幅に向上。属人的な運用に依存せず、データに基づいた予測的な運用が可能となり、より戦略的な広告展開が実現しています。
広告運用の最適化は、すでに手動管理の限界を超えています。Shirofuneのような自動化ツールを活用することで、リソースを効率化しながら継続的な改善が可能となり、広告運用体制はより柔軟で再現性のあるものへと進化していきます。
事例②:コンバージョン数より質を追い、ROAS改善と収益最大化を両立

(出典:Sleep Reset)
睡眠改善アプリを提供するSleep Reset社は、コンバージョンの質と収益性を高めるため、Google広告の入札戦略を見直し、ROASの改善に取り組みました。従来は無料トライアルの申込みをコンバージョンとして最適化していたため、収益に直結する有料サブスクリプションの価値が広告運用に反映されず、収益効率の改善が課題となっていました。
そこで、Google広告の入札戦略を目標CPAからコンバージョン値の最大化へと変更。有料サブスクリプションのデータをオフラインコンバージョンとして日次でGoogle広告に取り込み、トライアルとサブスクリプションの両方を最適化対象とするキャンペーンを展開しました。
初期フェーズでは、目標ROASを設定せずにテストを実施。トライアル件数は18%減少した一方で、サブスクリプションが40%増加し、ROASは325%まで向上。コンバージョン値は90%増、サブスクリプションあたりの獲得コストも30%低下するなど、高収益型の成果へと転換されました。
次のフェーズでは、目標ROASを設定しつつ調整を加えながら最適化を継続。トライアルとサブスクリプションの件数はわずかに減少したものの、コンバージョン値は61%増加し、ROASも50%改善。コンバージョンの量から価値へと運用方針を転換することで、収益性を大きく引き上げることに成功しました。
事例③:自動化と高速PDCAで広告売上が300%以上向上

(出典:アルマード)
化粧品やサプリメントのD2Cビジネスを展開するアルマードは、広告経由の売上最大化を目的に、LINE広告とYahoo!広告を活用した運用最適化を行いました。かつては多くの媒体に出稿していましたが、現在はCV獲得が見込める主要媒体に絞り、成果を追求しています。その結果、LINE広告経由の売上げは前年比3.1倍、Yahoo!広告では3.6倍に増加しました。
LINE広告では自動ターゲティングを導入し、性別・年齢別の配信と比べてCV数が6倍、CVRが2.2倍、CPAが40%改善する成果を得ました。自動で最適なユーザー層に配信されるため、配信効率が大きく向上しています。
Yahoo!広告では、類似ユーザー機能を活用し、CTRが1.3倍、CVRが1.5倍、CPAは12%削減。精度の高いターゲティングによって効果的な広告運用が実現しています。
アルマードでは広告クリエイティブのPDCAにも力を入れており、月に200点以上を制作し、毎日効果を検証・更新しています。LINE広告では「LINE Creative Lab」を使い、短時間で静止画やアニメーション広告を作成するなど、スピード感ある運用体制を構築しています。
さらに、Yahoo!広告の接触者にLINE広告でリターゲティングを実施したことで、CV数が1.2倍、CPAが4%改善しました。媒体ごとのユーザー特性を見極めた配信と、高速PDCAによる継続的な改善が、広告成果の最大化につながっています。
まとめ
ROASは、広告施策の効果測定にとどまらず、オンラインマーケティング全体の意思決定を支える資本配分の指標として機能します。
重要なのは、ただ数値の高さを追うのではなく、正確な計測体制を構築し、トラッキングやUTM、アトリビューションの整備を通じて信頼性のあるデータを取得することです。さらに、そのデータにもとづいて即時に判断を下せる運用体制を整えることが、成果の再現性と拡張性を高める鍵となります。
また、ROASで得た知見は、SEOやSNSといったオーガニックチャネルへの展開や、LTV・CACなど中長期的な事業指標にも応用可能です。広告はもはや単独で評価するものではなく、企業全体の投資判断を支える基盤へと進化しています。
マーケティングのROIを本質的に向上させるには、ROASという数値そのものよりも、その数値からどのような行動を起こすかが問われます。
豪州ビジネス大学院国際ビジネス修士課程卒業。複数企業と起業を経てBtoB専業マーケティング代理店へ。その後、外資SaaSのユニコーン企業の日本法人立上げを行い、法人営業開始後マーケティング責任者として創業期を牽引。現在、日本のBtoBマーケティングの支援事業を行う株式会社LEAPTにて代表取締役。また、株式会社Shirofuneの外部マーケティング責任者を兼任。





