
モバイル広告戦略で活用できる広告の種類や戦略策定・改善するステップを解説

- 戸栗 頌平
スマートフォンが生活の中心になり、広告の出会い方も大きく変わりました。
総務省「令和7年版 情報通信白書」によると、2024年の端末別インターネット利用率(個人)はスマートフォンが74.4%とパソコンの46.8%を27.6ポイント上回り、人々がネットに触れる入口は完全にスマートフォンへ移っています。デジタル広告の運用担当者やマーケティング責任者、広告代理店にとって、モバイルを前提にした設計はもはや避けて通れません。
ただし、モバイル広告はパソコン前提の運用の延長では成果が出にくいという特性があります。縦スクロールを高速で流し見するユーザーの注目時間は極端に短く、Amplified Intelligenceの調査ではデジタル広告の85%が記憶に残る目安とされる「2.5秒」の注目を超えられていないとされます。
さらにAppleのATT(App Tracking Transparency)導入後はユーザー追跡に同意が必要となり、Metaが2022年通期で約100億ドルの売上げ減を見込むと公表したように、「誰が見てどこで成果につながったか」の計測も難しくなりました。最初の数秒で勝負を決めるクリエイティブと、追跡に頼りすぎない計測・最適化の設計が、モバイルならではの難所になっています。
本記事では、モバイル広告戦略の定義から扱う媒体やフォーマット、戦略を見直すタイミング、策定と改善のステップ、よくある失敗と成功事例まで実務目線で解説します。
広告戦略とは
広告戦略とは、ビジネス目標を達成するために、誰に何をどのチャネルでどう伝えるかを設計する一連の計画です。広告を打つ前に目的とKPI、ターゲット、媒体、予算配分、クリエイティブの方向性をあらかじめ整理することで、限られた予算で最大の成果を引き出せます。
まずは、モバイル広告戦略の定義とスマホ広告やモバイルマーケティングとの違いを順に整理します。
モバイル広告戦略とは
モバイル広告戦略とは、スマートフォンやタブレットを使うユーザーに対して、アプリやモバイルWeb、SNS、動画、位置情報といったモバイル環境の接点で出会い、成果へつなげるための広告設計です。
パソコンを前提とした従来の広告運用と異なり、縦型の小さな画面、移動中や隙間時間での閲覧、アプリとWebをまたぐ行動など、モバイル特有の見られ方を前提に組み立てる点が特徴です。
具体的には、どの媒体でどのフォーマットを使い、どんなクリエイティブで何を訴求し、どの誘導先(自社サイトのモバイルページやアプリストア)へ送客するかまでを一気通貫で設計します。媒体ごとの管理画面で個別に最適化するだけでなく、モバイル上の顧客行動全体を見渡して予算とクリエイティブを配分することが、モバイル広告戦略では重要です。
モバイル広告とスマホ広告の違い
スマホ広告とモバイル広告は同じ意味で使われがちですが、厳密には指す範囲が異なります。
スマホ広告は、スマートフォンの画面上に表示される広告を指すことが多く、画面という出力デバイスに着目した言葉です。一方のモバイル広告は、スマートフォンに限らずタブレットやアプリ内、モバイルWeb、位置情報を使った配信、モバイル決済や店舗来訪との連動までを含む、より広い概念として使われます。
たとえば、移動中にアプリで表示されるバナーやストアの近くにいるユーザーへ配信する位置情報広告、店舗来訪をコンバージョンとして計測する設計などは、スマホ広告という言葉だけでは捉えきれません。
モバイル広告戦略を考えるときは、画面の中だけでなく、ユーザーがモバイル端末を持って移動し、調べ、購入し、来店するという一連の行動を視野に入れる必要があります。スマホ広告は接触の一場面、モバイル広告は行動全体を覆う上位概念だと整理すると、設計の範囲がぶれません。

モバイル広告戦略とモバイルマーケティングの違い
モバイルマーケティングは、モバイル端末を通じて顧客と関係を築く活動全般を指す広い言葉です。
具体的には、自社アプリの提供やプッシュ通知、メール、LINE公式アカウント、SMS、Web接客、モバイル向けのコンテンツ施策など、有料の広告に限らないあらゆる接点が含まれます。顧客との継続的なコミュニケーションを設計するのがモバイルマーケティングの守備範囲です。
これに対してモバイル広告戦略は、モバイルマーケティングという大きな活動のなかで、お金を払って獲得する有料接点をどう設計するかに焦点を当てた領域です。プッシュ通知やLINE配信といったオウンドの接点と役割を分担しながら、新規の認知獲得や見込み客の刈り取りを有料広告で担います。
モバイルマーケティング全体の地図を描いた上で、有料接点の設計図としてモバイル広告戦略を位置づけると、施策同士の重複や抜け漏れを防げます。両者は対立する概念ではなく、全体と部分の関係にあると理解するのが実務的です。

モバイル広告戦略がなぜ重要なのか
モバイルを前提にした広告設計は、もはや一部の業種だけの話ではありません。ここでは、モバイル広告戦略がいまなぜ重要なのかを、生活者の接点とクリック後の体験、プライバシー制約という3つの観点から順に解説します。

生活者・見込み顧客の接点がモバイル中心になっている
生活者が情報に触れる入り口は、すでにモバイルが中心です。
総務省の令和6年通信利用動向調査によると、世帯のスマートフォン保有割合は90.5%に達しています。検索やSNS、動画視聴、ECでの買い物、日々の情報収集まで、その多くがスマートフォン上で完結するようになりました。広告との出会いも、パソコンの前に座っているときではなく、移動中や就寝前の時間に起きています。
この変化はBtoCに限りません。BtoBの意思決定者であっても、通勤中にニュースアプリで業界記事を読み、移動の合間にセミナー情報やサービス比較記事へ触れます。商談前の情報収集がスマートフォンで行われる以上、BtoB商材であってもモバイルでの見え方を無視できません。
見込み顧客が時間を使っている場所に広告を最適化することが、接点設計の前提になります。
クリック後のモバイル体験が広告成果を大きく左右する
モバイル広告の成果は、広告そのものの良し悪しだけでは決まりません。クリックした後に開くランディングページの体験が、最終的なコンバージョンを大きく左右します。スマートフォンの小さな画面では、読み込みの速さ、ファーストビューの分かりやすさ、CTAボタンの押しやすさ、フォーム入力の手間が、そのまま離脱率に跳ね返ります。
実際、Googleは、モバイルページの表示時間が1秒から10秒に伸びると、サイト訪問者が直帰する確率が123%上昇すると報告しました。この数値の出典であるGoogle/SOASTA Research(2017年、約1100万件の広告ランディングページを分析)では、表示時間が1秒から3秒に伸びるだけで直帰確率が32%上昇し、5秒では90%上昇することも示されています。

(引用:Think with Google)
せっかく広告でクリックを獲得しても、ページが重ければ成果につながる前にユーザーは離れていきます。CTR(クリック率)だけを改善対象にするのではなく、LP速度やファーストビュー、フォーム完了率まで踏み込んで改善することが、モバイルでは成果を伸ばす近道になります。
プライバシー制約により、広告管理画面だけの最適化に限界がある
モバイル広告の運用は、プライバシー保護の流れによって難しさを増しています。Appleは、iOS 14.5以降でAppTrackingTransparency(ATT)フレームワークを通じてユーザーの許可を得ない限り、広告識別子(IDFA)へのアクセスやトラッキングができない仕組みを導入しました。
WebでもサードパーティCookieの制限が進み、個人単位での追跡やリターゲティングに依存した運用は通用しにくくなっています。
この環境では、広告管理画面に表示される数値だけを頼りに最適化を進めると、計測の欠損によって判断を誤りやすくなってしまうでしょう。これからの運用では、ユーザーからの同意取得を前提にしつつ、自社が直接持つファーストパーティデータの活用やCRMとの連携、個人を特定しない集計ベースでの効果評価が土台になります。
管理画面の外にあるデータをどう設計し、つなぐかが、成果を左右する時代に入っています。
モバイル広告戦略で扱う主な広告媒体・フォーマット
モバイル広告には、目的や見られ方の異なる多様なフォーマットがあります。それぞれ得意とする役割やファネル上の機能が異なるため、特性を理解して組み合わせることが広告戦略の立案のスタートです。以下では、代表的な7つの広告フォーマットを順に解説します。

バナー広告

(引用:Amazon ads)
バナー広告とは、アプリ内やモバイルWebの画面の一部に、画像やテキストで表示される広告フォーマットです。画面の上部や下部に横長で固定表示されることが多く、歴史が長く広く使われている形式です。コンテンツの閲覧を妨ぎにくいため、ユーザー体験への影響が小さい点が強みといえます。
一方で、画面に占める面積が小さく、ユーザーの目が慣れて無視されやすい傾向もあります。クリック率は他のフォーマットに比べて低めになりがちなため、認知の補完やリターゲティングでの想起維持といった役割に向くでしょう。クリエイティブでは、限られたスペースでメッセージを一目で伝える簡潔さが成果を左右します。
広く安価にリーチを積み上げたい局面で、配信のベースを支える媒体として活用できます。
インタースティシャル広告

(引用:LINEヤフー for business)
インタースティシャル広告とは、Webページやアプリの画面が切り替わるタイミングなどで、全画面に表示される広告フォーマットです。ゲームのステージ間やニュースアプリの記事遷移時に挟まれることが多く、画面全体を使うため視認性が高く、強いインパクトを与えられます。
全画面で表示される分、バナー広告よりもクリック率やコンバージョン率が高くなりやすい傾向です。ただし、ユーザーの操作の流れを一時的にさえぎるため、表示の頻度やタイミングを誤ると体験を損ね、アプリからの離脱を招くリスクもあります。
閉じるボタンを分かりやすく配置し、自然な区切りで表示することが運用の前提になります。短時間で確実に注目を集めたい認知獲得やアプリインストール訴求で効果を発揮するでしょう。
動画広告

(引用:Tiktok)
動画広告とは、アプリやSNS、モバイルWeb上で再生される映像コンテンツによる広告です。視覚と聴覚に同時に訴えられるため、商品の使い方やブランドの世界観、ストーリーを短時間で伝えるのに向いています。電通の調査によると、2025年のビデオ(動画)広告費は1兆275億円となり、推定開始以降初めて1兆円を突破しました。
モバイルでは、縦型でフルスクリーンに広がる動画が機能しやすく、スマートフォンを縦に持つ自然な視聴姿勢にそのまま収まります。冒頭の数秒で惹きつけられるかどうかが視聴維持を決めるため、結論やインパクトを先頭に置く構成が定石です。
認知拡大やブランド理解の促進に強く、SNS広告との連動運用でファネルの上流から接点をつくる役割を担います。
リワード広告

(引用:Google AdMobSkip)
リワード広告とは、ユーザーが広告動画を最後まで視聴したり指定の操作を完了したりすることと引き換えに、アプリ内のアイテムやポイントなどの報酬を受け取れる広告フォーマットです。ゲームアプリでよく使われ、ユーザーが自発的に視聴を選ぶため、最後まで見てもらいやすい点が大きな強みになります。
ユーザーにとっては報酬というメリットがあり、広告主にとっては視聴完了率の高さからメッセージを確実に届けられる利点があります。広告を見ることに納得感があるため、強制的に表示されるフォーマットに比べて好意的に受け止められやすい点も特徴です。
アプリインストールの訴求や、動画を最後まで見せたいキャンペーンと相性が良く、獲得効率を重視する運用で採用されます。
プレイアブル広告

(引用:Meta)
プレイアブル広告とは、ユーザーが広告内でゲームやアプリの一部を実際に操作して体験できる、インタラクティブな広告フォーマットです。インストール前に中身を試せるため、ユーザーは自分に合うかどうかを判断した上でダウンロードへ進めます。体験を伴う分、関心の高いユーザーを呼び込みやすい点が特徴です。
実際に手を動かして体験するため、インストール後の継続率が高くなりやすく、定着するユーザーを獲得しやすい点が強みです。一方で、操作できる広告を制作するには通常の動画やバナーよりも開発コストがかかります。ゲームアプリのインストール獲得を中心に、体験の面白さがそのまま訴求になる商材で効果を発揮します。
質の高いユーザーを獲得したい局面で、有力な選択肢になるでしょう。
ストーリーズ/リール広告

(引用:Meta)
ストーリーズ/リール広告とは、InstagramやFacebookのストーリーズ面やリール面に、縦型のフルスクリーンで配信される広告フォーマットです。通常の投稿の合間に自然に差し込まれ、画面全体を使った没入感のある表示で、ユーザーの視線を集めやすい点が強みです。ショート動画や静止画で、テンポよくメッセージを届けます。
オーガニックの投稿と同じ縦型フルスクリーンの体裁で表示されるため、作り込んだ広告よりも、自然な口調や実際の利用シーンを見せるクリエイティブが馴染みやすい傾向があります。化粧品やアパレル、フードなど世界観で選ばれる商材と相性が良く、認知獲得から購入促進まで幅広い活用が可能です。
スワイプ操作でそのまま遷移先へ送れるため、興味を持った瞬間に行動へつなげやすいフォーマットです。
検索連動型(リスティング)広告

検索連動型(リスティング)広告とは、ユーザーがGoogleやYahoo!などで検索したキーワードに連動して、検索結果ページに表示されるテキスト広告です。
購入意欲が顕在化したユーザーに直接アプローチできる点が強みで、刈り取りの中心を担うフォーマットです。スマートフォンでの検索が増えた現在、モバイルでの見え方を前提にした運用が欠かせません。
モバイルの検索結果は画面が縦に長く、ファーストビューに表示される広告枠の見え方が成果を左右します。電話発信を促す電話番号表示オプションや地図と連動した来店誘導など、モバイルならではの拡張機能を活用すると、検索からそのまま行動につなげやすくなります。
商品名やカテゴリ名で検索する購入直前のユーザーを取りこぼさないために、除外キーワードの整理や入札戦略の調整といったチューニングが運用効率を大きく左右するでしょう。
モバイル広告戦略を見直すべきタイミング
モバイル広告戦略は一度作って終わりではなく、成果の停滞や組織の状況変化に合わせて見直すべきものです。ここでは、戦略の見直しを検討すべき3つの代表的なタイミングを順に紹介します。

CPA・ROASが頭打ちになった時
入札や予算の調整だけではCPA(顧客獲得単価)やROAS(広告費用対効果)が改善しなくなったときは、戦略そのものを見直すサインです。管理画面の中で入札単価や日予算をいじっても数値が動かない場合、ボトルネックは配信設定より上流にあることが少なくありません。
媒体配分、クリエイティブ、ランディングページ、フォーム、コンバージョンの定義、LTV(顧客生涯価値)での評価まで、対象を広げて点検する必要があります。
このとき注意したいのが、目先の短期コンバージョンだけを追い求める運用です。獲得単価を下げようと刈り取りに寄せすぎると、すぐには購入しない見込み客への接点が減り、質の低いリードばかりが増えることがあります。
CPAが頭打ちになった局面は、目の前の数値を微調整するのではなく、ファネル全体のどこに詰まりがあるかを構造から捉え直す好機として活用できます。
営業部門から「リードの質が悪い」と指摘された時
広告経由のコンバージョン数が増えていても、営業部門から商談につながらないという声が上がったときは、評価指標の見直しが必要なタイミングです。
BtoBや高単価商材では、フォーム送信や資料請求といった広告上のコンバージョンが増えても、その先の商談化率や受注率が低ければ、事業への貢献は限定的にとどまります。数だけを最適化した結果、現場の負担だけが増えている状態かもしれません。
この段階では、広告の評価をコンバージョン数で止めず、MQL(マーケティング有望リード)、SQL(営業有望リード)、商談化、受注、LTVといった事業の下流指標まで組み込むことを検討します。どの媒体やキャンペーンが受注につながるリードを生んでいるかを可視化できれば、数は多いが質の低い流入を絞り、受注に効く接点へ予算を寄せられます。
営業からの指摘は、広告と事業成果のつながりを再設計するきっかけになるでしょう。
レポート作成が属人化し、意思決定が遅れている時
GoogleやYahoo!、Meta、Amazonなど複数の媒体を運用していると、それぞれの管理画面から数値を手作業で集めてレポートにまとめる作業に、多くの時間が奪われがちです。
集計が特定の担当者に依存し、その人がいないとレポートが出てこない状態に陥っていると、本来時間をかけるべき分析や意思決定が後回しになります。手を動かす作業に追われ、考える時間が確保できないのは危険な兆候です。
このタイミングでは、ダッシュボードによる可視化、媒体横断の自動集計、運用ルールの整備を検討します。各媒体のKPIを横並びで把握できる仕組みがあれば、数値を集める作業から解放され、どこに予算を寄せるかという判断に集中できるでしょう。
レポート作成の属人化と意思決定の遅れは、運用体制そのものを自動化や仕組み化へ切り替える合図として受け止めると、組織の足腰が強くなります。
モバイル広告戦略を策定・改善するステップ
モバイル広告戦略は、目的設定から分析改善までを順を追って進めることで、施策の抜け漏れを防げます。本章では、戦略を策定し改善していく5つのステップを順に解説します。

ステップ1:目的・KPIの設定
最初に、何のために広告を打つのかという目的を明確にします。認知の拡大なのか、アプリのインストールなのか、購入や送客なのか、既存顧客の再訪なのかによって、選ぶべき媒体もフォーマットも変わります。
アプリインストールが目的ならリワードやプレイアブル、認知拡大ならSNSの動画というように、目的とフォーマットを対応させる前提として、まず目的を1つに絞ることが出発点です。
目的が定まったら、対応する指標を先に決めましょう。
アプリインストールならCPI(インストール単価)、獲得ならCPA、売上げ効率ならROAS、認知ならCTRやリーチ、長期価値ならLTVといった具合に、目的ごとに見るべきKPIは異なります。その上で目標数値と予算を確定させ、広告のKPIを事業のKPIにひも付けます。目標と予算を先に固めることで、後の効果検証がぶれずに進められるでしょう。
ステップ2:ターゲットと媒体・フォーマットの選定
次に、誰に届けるかを具体化します。
年齢や地域、興味関心といった属性に加えて、利用しているデバイスやアプリ、モバイル上での行動パターンまで含めてターゲットを定義します。その上で、定義したユーザーが多くの時間を過ごしている媒体を選ぶことで、無駄打ちの少ない配信ができます。ターゲットが曖昧なまま媒体を決めると、費用対効果は上がりません。
媒体とフォーマットは、目的別に配分するとよいでしょう。認知獲得にはSNSの動画広告、アプリのインストールにはリワードやプレイアブル広告、刈り取りには検索連動型広告やリターゲティングというように、ファネルの段階と媒体の得意分野を対応させます。
1つの媒体にすべてを担わせるのではなく、上流から下流まで役割を分担させることで、ファネル全体で成果を積み上げる設計になります。
ステップ3:クリエイティブと訴求の制作
ターゲットと媒体が決まったら、クリエイティブと訴求を制作します。モバイルでは縦型のフルスクリーンで見られることが多く、冒頭の数秒で惹きつけられるかどうかが視聴維持を決めます。スマートフォンを縦に持ち、移動中や隙間時間にスクロールするという見られ方を前提に、結論やインパクトを先頭へ置く構成に最適化しましょう。
制作では、訴求軸とコピー、そして遷移先を整えます。送客先が自社のモバイルページなのかアプリストアなのかによって、クリエイティブで約束すべき内容も変わります。重要なのは、最初から複数パターンを用意してA/Bテストできる状態にしておくことです。
静止画と動画、訴求軸違いの素材を同時に走らせ、どのメッセージや表現が響くかをデータで判定できる体制を初期から組んでおくと、改善のスピードが上がります。
ステップ4:配信・効果測定
クリエイティブがそろったら、予算と入札、ターゲティングを設定して配信を開始します。
同時に、成果を正しく取得するための計測基盤を整えてください。広告管理画面に加えて、アプリ広告ならMMP(モバイル計測パートナー、AppsFlyerやAdjustなど)、Web中心ならGA4といったツールでデータを取得し、媒体をまたいだ成果を一元的に把握できるようにします。
ここで欠かせないのが、配信を始める前に計測設定を確認しておくことです。計測タグの実装漏れやコンバージョン定義のずれがあると、配信後のデータが資産にならず、判断を誤ります。
たとえば、あるMeta広告のアカウントでは、ピクセルがタグマネージャー経由とページへの直接埋め込みの2か所で発火しており、コンバージョンが二重にカウントされていました。管理画面のCV数は実際の問い合わせの約1.8倍に膨らみ、ROASも見かけ上良く見えていたため、好調だと誤って判断しかけたケースです。
逆に、別のアカウントではLPの改修にともないサンクスページのURLが変わった結果、そこに置いていたCV計測タグが外れ、コンバージョンが突然ゼロになりました。配信は回っているのに成果だけが計上されず、原因の特定に時間を要しました。
媒体ごとのKPIを横並びで見られるよう、計測タグやコンバージョン設定を配信前にチェックすることが、後の分析の精度を決めます。また、プライバシー制約への対応として、同意取得やサーバーサイドでの計測も配信前に設計しておくと安心です。
ステップ5:分析・改善(PDCA)
配信後は、設定したKPIの実績を媒体やフォーマット、クリエイティブの単位で分析します。
どの組み合わせが成果を上げ、どこが足を引っ張っているかをデータで切り分け、成果の高いものへ予算を寄せ、低いものは停止または改修しましょう。感覚ではなく実績にもとづいて判断を繰り返すことが、モバイル広告の成果を伸ばす土台になります。
分析の射程は、目先のコンバージョンだけにとどめないことが重要です。
獲得単価が低くても、その後の継続率やLTVが低ければ事業貢献は限られます。アプリならインストール後の起動や課金まで、Web獲得なら受注やリピートまで追いかけ、LTVを含めた費用対効果で評価します。このPDCAサイクルを継続して回せるかどうかが、戦略の質を最終的に決めるでしょう。
モバイル広告戦略でよくある失敗と対策
モバイル広告では、媒体運用そのものは正しくても、その前後の設計で成果を取りこぼす失敗が多く見られます。以下では、現場で起きやすい3つの失敗と、その対策を順に解説します。

失敗1:スマホLPとフォームを軽視する
広告のCTRは高いのにコンバージョン率が低いという場合、問題は広告ではなくクリック後のページにあることが少なくありません。
スマートフォンのLPでは、表示速度が遅い、ファーストビューで何のページか分からない、フォームの入力項目が多すぎる、CTAボタンが押しにくい位置にある、といった要因が積み重なって離脱を生みます。広告の改善だけに目を向けていると、この取りこぼしに気づけません。
対策は、広告運用とLPO(ランディングページ最適化)やEFO(入力フォーム最適化)を同時に進めることです。
ページの読み込みを速くし、ファーストビューで訴求と次の行動を明示し、フォームの項目を必要最小限に絞ります。広告でクリックを獲得する力と、ページで成果へ転換する力は両輪です。配信側のチューニングと遷移先の改善をセットで回すことで、同じ広告費からの成果を底上げできます。
失敗2:CPAだけで媒体評価をしてしまう
媒体を評価するとき、CPAの低さだけを基準にすると判断を誤ることがあります。獲得単価が安い媒体でも、そこから入ってくるリードの商談化率や受注率が低ければ、事業の成果にはつながりません。安く数を獲れる媒体に予算を寄せた結果、現場が追いかけても受注に至らないリードばかりが増える、という事態が起こり得ます。
対策は、媒体の評価軸をCPAの先まで広げることです。
媒体ごとにリードの品質、商談化率、受注率、そしてLTVを比較し、どの媒体が事業に効く顧客を連れてくるかで判断します。獲得単価は高くても受注に直結する媒体があれば、許容CPAを引き上げてでも投資する価値があります。広告の数字と事業の数字をつないで評価することが、予算配分の質を高めるでしょう。
失敗3:プライバシー対応とデータ連携を後回しにする
計測タグや同意管理、CRMの項目設計、オフラインコンバージョンの連携、顧客データの取り扱いといった土台づくりを後回しにすると、後から大きなしわ寄せが来ます。
ATTやCookie制限が進むなかで、計測の基盤が整っていないと、配信を始めてからコンバージョンの取りこぼしに気づき、自動入札の学習に使うデータも痩せていきます。データが欠けたまま運用すると、正確な効果測定そのものが難しくなるでしょう。
対策は、計測と同意、データ連携を初期の設計段階で組み込んでおくことです。
同意取得の仕組み、ファーストパーティーデータの蓄積、CRMやオフラインデータとの連携を配信開始前に設計しておけば、プライバシー制約のなかでも成果を正しく捉えられます。データ連携は地味で後回しにされがちな領域ですが、ここを最初に固めることが、これからのモバイル広告運用の前提条件になります。
モバイル広告戦略の成功事例
ここまで解説してきたモバイル広告戦略の流れを、実在企業の事例から確認します。ここでは、モバイル広告戦略がどう成果に結びついたかを3社の例で見ていきます。
事例①:Kooapps(縦型ゲーム動画×アプリインストールの効率化)

(引用:Kooapps)
カジュアルゲームSnake.ioを提供する米国のモバイルゲーム企業Kooappsは、米国市場でのユーザー獲得を効率よく拡大したいという課題を抱えていました。アプリインストール獲得の規模を伸ばしたい一方で、獲得単価を抑えながらスケールさせる打ち手が見つかっていなかったのです。
そこで同社は、TikTokのAI最適化ソリューションSmart+をコストキャップ入札で活用し、社内制作のゲームプレイ動画を縦型フルスクリーンの広告クリエイティブとしてA/Bテストしました。
配信量を一気に引き上げながら、効率の高いクリエイティブへ自動で予算を寄せていく運用を構築したことで、CPI(インストール単価)を56%削減し、ROASは2倍、CTRは18%向上、配信予算の消化量は20倍に拡大しました。

(引用:Tiktok for Business)
この事例から学べるのは、モバイルゲームのインストール獲得では、実際のゲームプレイを見せる縦型動画と媒体側のAI最適化を組み合わせることが効率改善の起点になるということです。クリエイティブを複数用意してA/Bテストできる状態にしておけば、成果の高い素材へ自動的に予算を寄せながらスケールさせられます。
事例②:Gameduo(高価値プレイヤーの類似オーディエンスで投資回収率を改善)

(引用:Gameduo)
RPG『Another Dungeon』などを世界配信する韓国・城南市のモバイルゲーム企業Gameduoは、アプリインストール広告の投資回収率(ROAS)が伸び悩むという課題を抱えていました。新規インストールの数自体は獲得できていたものの、入れてすぐ離脱するユーザーも多く、課金して長く遊ぶ「価値の高いプレイヤー」を効率よく集める打ち手が見つかっていなかったのです。
そこで同社は、Metaの価値ベースの類似オーディエンス(Value-based Lookalike)を活用しました。『Another Dungeon』でアプリ内課金の実績がある高価値プレイヤーをシード(種)に設定し、それと似た特性を持つユーザーへ配信を絞り込んだのです。
あわせてiOSの集計イベント測定(Aggregated Event Measurement)と自動最適化を組み合わせ、「Install Now」を促す動画広告を配信しました。
インストール数ではなく「課金という価値」を生むユーザーを起点に配信設計を組み替えたことで、約2週間の配信でモバイルアプリ購入あたりの獲得単価を79%削減し、ROASを8%向上させました。
この事例が示すのは、数だけを最適化目標に置くと、すぐ離脱するユーザーまで集まり、費用対効果が頭打ちになりやすいということです。課金やLTVにつながる優良ユーザーをシードにした類似オーディエンスで狙い撃ちすれば、同じ予算でも回収につながる層を効率よく獲得できます。
事例③:goPure(高速モバイルLPでSNS広告の転換率を引き上げ)

(引用:goPure)
クリーンビューティーを掲げる米国のスキンケアブランドgoPureは、SNS広告から流入したユーザーを、いかに購入まで転換させるかという課題に取り組みました。広告のクリック後に開くモバイルページの体験が、売上げを左右する状況でした。
同社は、通常のモバイルWebより高速に読み込むInstant Pagesを活用し、7 Reasons Whyのようなリスト型のコンテンツ、Learn MoreやShop Now、Take the Quizといった複数のCTAをテストしています。広告とランディング先をセットで磨き込んだ結果、コンバージョンは411%増加し、CPA(顧客獲得単価)は26%削減、ROASは51%向上、日次予算は152%まで拡大できました。

(引用:Tiktok for Business)
この事例が示すのは、SNSのモバイル広告では、広告クリエイティブだけでなくクリック後のスマホLPの速度と構成が成果を大きく左右するということです。広告と遷移先を両輪で最適化することで、同じ配信からの転換率を底上げできます。
まとめ
モバイル広告戦略を組み立てるには、スマホ広告やモバイルマーケティングとの違いを押さえます。その上で、バナーから検索連動型まで多様なフォーマットの特性を理解し、目的設定からターゲットと媒体の選定、クリエイティブ制作、配信と効果測定、分析改善までを順序立てて設計することが出発点になります。
CPAやROASの頭打ち、リードの質への指摘、レポートの属人化といった見直しのサインを見逃さず、プライバシー制約に対応した計測とデータ連携を初期から組み込むことが、これからの運用の前提です。
複数媒体に分散したモバイル広告のデータを横断で集約し、自動集計と最適化を担う基盤として広告運用自動化ツールのShirofuneを活用すれば、運用者は数値を集める作業から解放され、戦略の判断やクリエイティブの改善といった本質的な仕事に時間を振り向けられます。
豪州ビジネス大学院国際ビジネス修士課程卒業。複数企業と起業を経てBtoB専業マーケティング代理店へ。その後、外資SaaSのユニコーン企業の日本法人立上げを行い、法人営業開始後マーケティング責任者として創業期を牽引。現在、日本のBtoBマーケティングの支援事業を行う株式会社LEAPTにて代表取締役。また、株式会社Shirofuneの外部マーケティング責任者を兼任。





