ROASとROIの違いを多角的に解説!理解すべき理由や各指標の使い分けシーンも紹介

菊池 満長

広告の成功を測る際、多くのマーケターや経営者はROAS(広告費用対効果)に注目する傾向にあります。確かに、ROASは広告費に対する売上げの効率を示し、短期的な広告運用の最適化には欠かせません。しかし、それだけでは広告の「本当の価値」を正しく評価できません。売上げが増えたとしても、利益が残るとは限らないためです。

WARC(世界広告調査機関)の大規模分析によると、広告キャンペーンの短期ROI(広告終了直後の投資利益率)は250%とのこと。しかし、広告の長期的なブランド効果を考慮すると、そのROIは500%以上になる可能性があると指摘されています。つまり、マーケティングROIの半分以上は長期で生まれるという分析があるのです。

このように、短期的なROASやROIだけを見ていると、本来の広告効果を見落とす可能性があります。そこで重要になるのがROIです。ROIは広告費だけでなく、原価や運営コストを含めた全体の収益性を評価する指標であり、「ビジネスとして本当に意味のある成長をしているのか?」を判断するための基準となります。

「広告を打つたびに売上げは伸びるのに、なぜか利益が残らない…」「成長しているはずなのに、キャッシュフローが悪化している……」こんな経験はありませんか? これは、ROASばかりを重視し、ROIを考慮していないことが原因かもしれません。では、広告運用においてROASとROIはどのように使い分けるべきなのでしょうか?本記事では、ROASとROIの違いを明確にし、それぞれの計算方法や活用シーンを具体例とともに解説します。

ROASとROIの違いとは?

ROASとROIはどちらも「投資に対する成果」を可視化する指標ですが、その計算方法や目的、評価対象が異なります。混同してしまうと誤った評価を行う原因となるため、それぞれの特徴をしっかり理解することが重要です。

定義や計算式の違い

ROAS(アールオーエーエス、ロアス:Return on Ad Spend)とは、広告費に対する売上げを測定する指標です。広告費1円あたりに対し、どれだけの売上げを創出したかを可視化します。

【ROASの計算式】

ある広告キャンペーンに10万円の広告費を投じ、それによって50万円の売上げが発生したとしましょう。この場合、ROASは以下のように算出できます。

  • ROAS = 50万円 ÷ 10万円 × 100% = 500%

つまり、広告費1円あたり5円の売上げを生み出したことになります。ROASの数値が高いほど、広告の費用対効果がよいと判断できます。

一方、ROI(アールオーアイ:Return on Investment)は投資全体に対する利益を測定する指標です。広告費だけでなく、広告代理店への外部費用、広告運用ツールの料金、LP制作費、その他を含めた全体的な収益性を評価する際に用いられます。

【ROIの計算式】

あるキャンペーンに100万円の広告費、20万円の外部費用、20万円のツール料金を投じて、売上げが200万円となり60万円の利益を創出した場合、ROIは以下のように算出します。

  • 利益 = 200万円 − (100万円 + 20万円 + 20万円) = 60万円
  • ROI = 60万円 ÷ 140万円 × 100% = 42.9%

140万円の投資に対して42.9%の利益率が得られたことを示しています。このように、ROASは「広告投資の効率」を測定するのに対し、ROIは「事業全体の収益性」を基準にするという違いがあります。

使用目的の違い

ROASは、各広告施策がどれだけ売上げに貢献しているのかを評価し、限られた広告予算をどこに配分するかを判断するための指標として役立ちます。たとえば、以下のような目的で使用します。

  • 費用対効果の分析:投資した広告費がどれだけの売上げにつながっているのかを確認し、最も費用対効果の高い広告を特定する。
  • 異なる広告媒体やキャンペーンの比較:Google 広告、Facebook広告、YouTube広告など、異なる媒体での広告効果を比較し、最適な広告媒体を特定する。
  • ターゲットユーザーの反応を分析:どの広告がどの顧客層に最も響いているのかを分析し、ターゲティング精度を向上させる。

このように、ROASは広告の売上げを測定する指標です。

より広い視点を持って、マーケティング施策や事業全体の投資対効果を把握したい場合は、ROIを用います。

  • 収益性を総合的に判断する:広告費だけでなく、人件費や製造コストなども含めて、最終的な利益がどれだけ増加したかを評価する。
  • 事業の投資価値を評価する:新規事業やプロジェクトへの投資が適切だったかを測定し、今後の投資戦略を検討する。
  • 長期的なマーケティング戦略を策定する:広告だけでなく、SEOやブランディング施策なども含めたマーケティング投資全体の成果を分析し、次の施策の計画を立てる。

ROIを基準に評価することで、「短期的な売上げを追う施策」と「長期的なブランド価値を高める施策」のバランスを取ることが可能になります。

評価期間の違い

ROASは、広告がどれだけの売上げを生み出しているかを短期間で測定するための指標です。広告出稿直後やキャンペーン期間中にリアルタイムで効果を測定し、その数値をもとに広告の運用を最適化することが目的となります。

たとえば、ECサイトのシーズンセール期間中は、最もパフォーマンスの高い広告に予算を多く配分し、売上げを加速させるべきです。その際、ROASを用いて各キャンペーンの効果を比較すれば、どのキャンペーンが最も売上げに貢献しているのかを素早く判断し、広告費の最適な配分を行えます。

デジタル広告の最大の強みは、リアルタイムでの分析と改善が可能な点です。従来のテレビ広告や新聞広告と異なり、デジタル広告ではROASを定期的に測定し、それにもとづいて広告クリエイティブやターゲティングを迅速に調整できます。効果の低い広告は即座に停止し、最も収益性の高い施策に集中することが可能なわけです。

しかし、ROASはあくまで短期間での売上効率を評価する指標であるため、広告が事業全体の利益や長期的な成長にどれだけ貢献しているのかを測るには不十分です。一時的に売上げを伸ばすことはできても、それが長期的な利益につながるのかどうかは、ROASだけでは判断できません。

そこで重要になるのがROIです。ROIは、広告だけでなく、事業全体の収益性や長期的な投資成果を測る指標のため、プロジェクトや施策が終了し、一定期間が経った後に評価をします。短期的なROASが高かったとしても、実際に利益が確保できているのか、広告投資がビジネス全体にどれほど貢献しているのかを判断するには、ROIの視点が不可欠です。

計算するための情報量の違い

ROASの計算には、基本的に「広告費」と「広告による売上げ」の2つのデータがあれば十分です。

広告費のデータは、Google広告、Facebook広告、Amazon広告などのプラットフォームから直接取得できます。売上データも、CRM内のデータやECサイトの管理画面、Google Analytics、広告プラットフォームのコンバージョンデータなどを活用すれば簡単に得られます。このように、ROASは必要なデータの取得が比較的容易であり、迅速な分析が可能ということが特徴です。

ROIは、広告費に加えて、施策に関係する幅広いコストを考慮しなければいけません。たとえば、以下が挙げられます。

  • 原価(商品を製造・仕入れるためのコスト)
  • 人件費(広告運用担当者や営業スタッフの人件費)
  • 運営費(オフィス賃貸費、システム利用料など)
  • マーケティング費用(SEO施策、PR活動などのコスト)

ECサイトが広告を使って売上げを増やした場合、単に広告費と売上げだけを見ると高いROASが得られているように見えるかもしれません。しかし、商品の仕入れコストや物流費、人件費を考慮すると、最終的な利益はあまり残らない可能性もあります。

一例を見てみましょう。南米アルゼンチンでは、ECサイトで購入された商品の返品率は15〜20%と推定されます。返品処理のコストや再販不能な商品の損失を考慮すると、ROASが高くても利益が圧迫される可能性が十分にあります。同国で普及しているMercado Libreでは、配送遅延や紛失、クレジットカードの不正利用が発生しており、これらは運営コストを増加させる要因です。

(引用:中南米のAmazonと評されるMercado Libre

ROIは、これらの要素を含めて「本当にその投資が収益を生んでいるのか?」を判断するための指標です。そのため、より多くのデータを収集する必要があり、分析の手間がかかるというデメリットがあります。ROIの測定には手間がかかるものの、それによって広告が本当に利益を生み出しているのかを正確に判断できます。

特に以下のようなケースでは、ROIを重視すべきです。

  • 広告経由の売上げが増えているが、実際の利益がどれほど残っているのか不明な場合
  • 短期的な売上げだけでなく、長期的な利益成長も考慮したい場合
  • BtoB企業や不動産業界など、顧客の購買決定までに長期間を要するビジネスモデルの場合

ROASとROIの違いを理解しておくべき理由

ROASとROIの違いを正しく理解し、適切に使い分けることは、広告運用や経営判断において重要です。この2つの指標を混同すると、広告施策や投資判断を誤るリスクが高まり、収益最大化を妨げるリスクが生じます。ここでは、ROASとROIを区別するべき4つの理由を詳しく解説します。

理由1:評価対象が異なるため

ROASは「売上げ」を測定する指標であり、「利益」には着目していないというデメリットがあります。広告費に100万円を投じて200万円の売上げを獲得した場合、ROASは200%になります。しかし、製造コスト・物流コスト・人件費などを差し引いた結果、実際の利益がほとんど残らない、あるいは赤字になる可能性も考えられるでしょう。

また、ROASだけに着目すると、広告効果を過大評価してしまうリスクが生じます。たとえば、ブランドキーワードやリターゲティングなど、すでに高い購買意欲を持つ顧客をターゲットにする広告では、ROASの計算上は「広告による売上げ」としてカウントされますが、実際には広告がなくても売れていたかもしれません。つまり、ROASだけで広告のパフォーマンスを評価すると、本当に必要な広告投資とそうでないものを見極めることが難しくなります。

このように、ROASだけに頼ると「売上げが増えた」という事実は見えるものの、「利益が増えたかどうか」は見落とされてしまう可能性があります。売上げが増えていても利益が圧迫されている場合、広告投資の戦略そのものを見直すべきです。

理由2:前提とするタイムスパンが異なるため

ROASは広告の短期的な売上効率を測る指標であり、広告を打った直後に発生する売上げを基準に評価されます。一方、ROIは長期的な視点で、広告を含むすべての投資が事業全体の利益にどのように貢献したかを測定する指標です。

この違いを理解せずにROASだけを重視すると、短期的な収益の最適化に偏り、長期的なブランド価値の向上や市場シェアの拡大といった「将来の成長」という視点が欠けてしまいます。

BtoBビジネスや高単価製品の販売においては、広告を見た直後に購入が発生するわけではなく、顧客が購入を決断するまでに数カ月から1年以上かかります。そのため、ROASの数値だけを短期的に見ても、実際の広告効果を適切に評価することはできません。

ROIの視点で長期間にわたる利益を評価すれば、広告が最終的にどれだけの収益を生み出したのかを適切に把握できます。また、ROIは広告施策だけでなく、SEOをはじめとした長期的なマーケティング投資の成果を評価するためにも重要です。SEOやブランディング施策は、ROASの短期間の評価では効果が見えにくいため、ROIを活用することで、それらが最終的に売上げや利益にどのように貢献したのかを測定できます。

理由3:最適な予算配分を実現するため

ROASを基準に予算配分を決定すると、短期的な売上げばかりが優先され、長期成長に必要な投資が削減されるリスクがあります。短期的な広告パフォーマンスを最大化することは重要ですが、それが長期的な事業成長と矛盾してしまうような状況が生まれることもあります。

この問題のわかりやすい例がリターゲティング広告です。短期的なROASを最大化するために、多くの企業はリターゲティング広告に多くの予算を投入しがちです。リターゲティング広告は、すでに自社を認知し、サイトを訪れたことがある顧客に再アプローチする施策であるため、コンバージョン率が高く、ROASの数値が向上しやすいという特徴があります。

RTB Houseの調査によると、2つ目のリターゲター(リターゲティング広告を施文に扱うプラットフォーム)を追加導入した企業では、顕著なROAS向上効果が確認され、一部業界ではROAS180%増という改善が見られたとのことです。

あるECサイトがROASを指標として広告戦略を決定した場合、リターゲティング広告に予算を集中させれば、ROASは高くなるでしょう。しかし、これは単に「すでに購入意向がある顧客」に対して広告を出しているだけであり、潜在的な顧客の獲得にはほとんど貢献していません。

また、ROASだけを基準に広告予算を決定すると、広告の成長可能性を見誤る原因にもなります。現在の広告キャンペーンでROASが300%だったとしても、追加で予算を投入すればROASが下がる可能性があります。しかし、それでも広告を増やすことで市場シェアを拡大し、長期的な利益につなげられるケースも多いのです。

広告予算を適切に配分するには、短期的な広告効果(ROAS)と長期的な事業成長(ROI)のバランスをとるようにしましょう。広告の短期的な効率だけでなく、長期的なブランド価値や市場拡大のための投資を考慮しなければ、本当に最適な予算配分は実現できません。

理由4:関係者とのコミュニケーションの円滑化のため

関係者との円滑なコミュニケーションを取るためには、ROASとROIを適切に使い分ける必要があります。

広告担当者同士やマーケティング部門内での会話では、基本的にROASをベースに施策の良し悪しを評価し、広告の最適化を進めます。ただし、ROIの視点を持たずに運用を進めると、たとえROASが高くても、実際には利益を生んでいないというリスクがあるため、ROIも意識することが必要です。

一方、経営層の関心は「個々の広告の成果」ではなく、「事業全体の成長や利益」にあります。広告がどれだけ事業の利益に貢献しているのか、どのように売上成長につながっているのかが最も重要なポイントです。そのため、経営層との会話では、ROASではなくROIをベースにした説明がよいでしょう。

このように、関係者の視座が異なれば、興味関心も異なるため、適切な指標をもとにコミュニケーションを実施することが重要です。

ROASとROIの活用シーンと使い分け

マーケティングにおいて、ROASとROIはどちらも重要な指標です。では、具体的にどのような場面で両者を使い分けるべきなのか、詳しく見ていきましょう。

施策のパフォーマンスを評価するとき

広告施策のパフォーマンスを評価する際には、施策の目的に応じた適切な指標の選択が不可欠です。

ROASは、広告費に対してどれだけの売上げが発生したのかを測る指標であり、短期間での広告効果を可視化する際に有効です。たとえば、Google広告とFacebook広告のどちらがより売上げに貢献しているのかを比較したい場合、ROASを活用することで、各広告の費用対効果が明確になり、広告費の最適な配分を判断する材料となります。

また、キャンペーンごとのパフォーマンスを分析する際にもROASは役立ちます。ターゲティングやクリエイティブの最適化を行うには、どの広告が最も高いコンバージョン率を生み出しているのかをリアルタイムで把握することが重要です。 たとえば、あるECサイトがセール期間中に複数の広告を運用している場合、ROASを活用すれば、どの広告が最も費用対効果が高いかを迅速に特定し、効果的な施策に予算を集中させられます。

しかし、ROASはあくまで広告費と売上げの関係を示す指標であり、利益や事業全体の収益性を評価する際には注意が必要です。ROASが高い広告施策であっても、商品の原価が高く、利益率が低ければ、最終的な利益はほとんど残らない可能性があります。

広告施策がビジネス全体の収益にどのように貢献したのかを正しく評価するためには、ROIの視点が不可欠です。短期間で売上げが大きく伸びた広告キャンペーンがあったとしても、ROIの観点から評価した際に利益がほとんど残っていない、あるいは赤字になっているケースもあります。

具体的には、大幅な割引を伴う広告施策では、一時的に売上げが増加するかもしれませんが、割引によって利益率が圧迫されるため、最終的な収益性が低くなることが考えられます。このような場合、ROASだけを見て「広告が成功した」と判断するのは危険です。

また、ROIの視点を持つことで、広告施策がもたらす長期的な影響も考慮できます。認知拡大やブランディングを目的としたディスプレイ広告はコンバージョンにはつながりにくいため、ROASの観点では「非効率な広告」と判断されがちです。しかし、ブランド認知度が向上すれば、将来的に指名検索が増えたり、オーガニック流入が増加したりする可能性があり、長期的なROIの観点ではプラスの効果をもたらします。

このように、広告の本当の価値を評価するためには、短期的なROASだけでなく、ROIを活用して長期的な利益貢献度を測定することが必要です。

予算配分を検討するとき

広告予算の配分を決定する際には、短期的な最適化を目的とする場合と、長期的な事業成長を見据えた場合とで、ROASとROIの使い分けが不可欠です。

短期間で広告のパフォーマンスを分析し、最適化を行う際にはROASが有効です。異なる広告媒体やキャンペーンごとの成果を即座に比較し、効果の高い施策へ優先的に予算を投下することで、広告費の無駄を削減できます。

しかし、ROASに依存して広告予算配分をすると、短期的な売り上げを優先することになり、本来注力すべきチャネルや顧客層への広告配信を見誤るリスクが生じます。

具体例を見てみましょう。ある企業がROASを基準に広告予算を決定し、高いROASを維持していたとします。しかし詳細に分析すると、売上げが伸びているのは利益率の低い商品ばかりであり、事業全体の収益はほとんど増えていない、あるいは減少しているのです。

この場合、ROASだけを見て広告の予算配分を行うと、利益率の低い商品にばかり広告費を投じてしまうリスクがあります。このような状況を防ぐためには、ROIを活用して、広告投資が利益にどのように影響しているのかを正しく評価しなければいけません。

また、市場シェアを拡大するために一時的に利益率を下げる戦略を取る場合でも、ROIの視点が重要です。 新規顧客獲得を目的とした広告施策では、初回購入時の利益率は低いかもしれませんが、その後のリピート購入を通じてLTVが向上すれば、最終的なROIは高くなる可能性があります。

短期的なROASの低さだけで広告を非効率と判断するのではなく、ROIの視点を持って長期的な成長の可能性を評価することを重視しましょう。

成果報告や分析を行うとき

マーケティング部内で具体的な広告結果を共有する際には、ROASを活用し、どの広告媒体やクリエイティブが短期間で売上げを伸ばしたのかを明確に示すとよいでしょう。複数の広告プラットフォームを運用している場合、ROASを分析することで最も費用対効果の高いチャネルを特定し、予算を最適化することが可能です。

また、A/Bテストを実施し、異なるターゲティングやクリエイティブのパフォーマンスを評価する際にも、ROASが有効な指標となります。

しかし、経営層や投資家向けに広告の効果を説明する際には、ROASだけでは不十分です。ROASは広告費に対する売上効率を示すものの、利益率やその他のコストを考慮していないため、広告が本当に収益に貢献しているのかを正確に判断することはできません。ROASが300%(広告費1万円で売上げ3万円)だったとしても、その売上げの大部分が低利益率の商品に偏っていた場合、最終的な利益がほとんど残らない可能性もあります。

効果的な広告施策の評価と分析を行うためにも、短期的な最適化を目的とする場合はROASを活用し、広告投資が事業全体の利益にどのような影響を与えているのかを評価するためにはROIを活用しましょう。

施策の改善や戦略を検討するとき

ROASは広告の費用対効果を即座に測定し、より高いリターンが期待できる施策へ迅速にリソースを投下するために役立ちます。しかし、ビジネスの持続的な成長を考えるなら、ROIの視点が欠かせません。ROIを軸に評価することで、単に広告の効率を上げるだけでなく、収益性の高い領域への投資最適化を行い、長期的な成長戦略を構築できます。

短期的なROASの向上に注力しすぎるあまり、ROIの低下を招くケースはよくあります。短期の成果を追い求めるだけでは、成長の機会を逃してしまうのです。ROASの最適化は「今の売上げ」を最大化する手段にすぎず、「将来の利益」を保証するものではありません。

ROIの視点を取り入れることで、広告施策だけでなく、ビジネス全体の構造を見直すきっかけにもなります。広告による売上げが事業全体の利益にどう貢献しているのかを分析すれば、より適切な意思決定が可能になります。

施策の成功を判断する際、ROASとROIは異なる視点から事業を映し出します。ROASは広告費に対する売上効率を示しますが、コストや利益の観点は含まれていません。一方、ROIは事業全体の利益貢献度を測るため、広告だけでなく、運営コストや市場環境の変化も加味する必要があります。

重要なのは、ROASの最適化にとどまらず、ROIの視点を持つことです。短期と長期、個別施策と事業全体、広告の成果と経営判断、これらのバランスを適切に取ることで、効果的な施策改善や戦略立案が可能になるのです。

ROASとROIの計算式を使って違いを具体的に解説

ROASとROIの違いを理解するために、具体的な計算例を用いて、それぞれの指標がどのような意味を持つのかを解説します。

具体例①:ROASは高いが、ROIは赤字のケース

あるECサイトが新商品のプロモーションのために広告を出稿しました。広告費は50万円、この広告を経由した売上げは200万円に達しました。

  • ROAS = 200万円 ÷ 50万円 × 100% = 400%

この結果を見ると、広告費の4倍の売上げが発生しているため、成功した広告施策のように思えます。しかしROIを算出する際には、売上げだけでなく、商品の原価やその他の関連コストを考慮しなければいけません。今回のケースでは、商品原価が売上げの70%(140万円)、広告以外の運営コスト(物流・人件費など)が30万円発生していたとします。

  • 利益 = 200万円 − (50万円 + 140万円 + 30万円) × 100% = −20万円
  • ROI = −20万円 ÷ 50万円 × 100% = −40%

ROASだけを見ればよい広告施策のように見えましたが、ROIを確認すると、この広告施策は赤字であり、事業の収益性を高めるどころか損失を生んでいたことがわかります。 

このように、ROASだけで判断すると誤った投資判断をしてしまうリスクがあるのです。

具体例②:ROASは低いが、ROIが高いケース

次は、高単価なBtoBサービスを提供する企業が広告を出稿したケースを考えます。広告費は100万円、広告経由で受注した案件の売上げは150万円でした。

  • ROAS = 150万円 ÷ 100万円 × 100% = 150%

ROASは150%と、それほど高くはありません。 平均的なROASは200%と言われる中で、この結果は「広告のパフォーマンスが悪い」と判断される可能性が高いです。

しかし、利益率が高いBtoBサービスの場合、この案件の原価が売上げの20%(30万円)、運営コストが10万円であったとしましょう。

  • 利益 = 150万円 − (30万円 + 10万円 + 100万円) = 10万円
  • ROI = 10万円 ÷ 100万円 × 100% = 10%

一見するとROASはそれほど高くないため、「広告の成果が出ていない」と思われがちですが、実際には利益がしっかりと確保できており、ROIはプラスです。この場合、ROASだけを基準にして広告を停止すると、利益を生み出している施策をやめることを意味します。

このケースでは、売上げよりも利益の視点を重視し、ROIをもとに広告投資の判断を行うことが適切だと言えます。

具体例③:長期的なROIを考慮すべきケース

SaaS企業が、サブスクリプション契約を増やすために広告を出稿しました。

広告費は200万円、この広告を通じて50人の新規顧客が獲得できました。 SaaSサービスの月額料金は1万円、顧客の平均継続期間は24カ月です。売上げの考え方にもよりますが、仮に短期間での評価として、新規契約の1カ月目の売上げをもとに計算するとすると、売上げは50万円(1万円 × 50人)となります。

  • ROAS = 50万円 ÷ 200万円 × 100% = 25%

ROASが25%と非常に低く、この広告は失敗と見なされる可能性が高いです。

しかし長期的な見方として、SaaSビジネスでは顧客のLTVを考慮することが多くあります。50人の顧客は平均24カ月間契約を続けるため、実際の売上げは1200万円(1万円 × 50人 × 24カ月)となります。

広告以外のコストとして、サーバー維持費やサポート費用がLTVの20%(240万円)発生するとした場合の利益とROIは以下の通りです。

  • 利益 = 1200万円 − (200万円 + 240万円) = 760万円
  • ROI = 760万円 ÷ 200万円 × 100% = 380%

短期的なROASで見るとパフォーマンスは悪いですが、長期的に見るとROIは大きくプラスです。このように、サブスクリプションやリピート率の高いビジネスでは、ROASよりもROIを重視するべきなのです。

ROASとROIの指標の算出や比較をする上で気をつけること

ROASとROIを適切に活用するためには、以下のポイントを押さえましょう。

1. 正確なデータを活用する

ROASやROIを正しく活用するためには、データの精度が極めて重要です。

当然ながら、誤ったデータでROASとROIを算出した場合、信頼性の低い結果が導き出され、結果的に誤った意思決定へと進んでしまいます。

たとえば、SNS広告やメールマガジンでクーポンコードを配布したとしましょう。この場合、広告経由の売上げをすべて広告の効果とみなしてしまうと、本当はメルマガからの流入が購入を促した可能性があるにもかかわらず、広告のROASが実際よりも高くなってしまいます。結果、広告の効果を過大評価し、不必要に広告費を増やす判断がされるかもしれません。

ROIの算出においても、原価や物流費、カスタマーサポートのコストなど、事業全体の経費を正確に把握しなければ、誤った利益率が算出されます。ROIを評価する際は、広告費に加えて、商品原価・物流費・人件費・販促費などの間接的なコストを適切に計上することが不可欠です。

2. 同じ期間のデータを使用する

ROASやROIを比較する際には、必ず同じ期間のデータを使用しましょう。異なる期間のデータを比較すると、誤った結論に至る可能性があるため、慎重に扱う必要があります。たとえば、広告費が月単位で計上されているのに、売上データが四半期単位で集計されている場合、正確なROASやROIの算出はできません。

特に、SaaSやサブスクリプションモデルを採用しているビジネスでは、ROIとROASの時間軸の違いが問題になることが多く見られます。広告を出稿してすぐに収益が発生するわけではなく、顧客が無料トライアルを経て有料プランに移行するまでに数カ月かかることもあります。このようにビジネスモデルによっては、広告出稿直後のROASだけを見て「この施策は失敗だった」と判断するのは避けましょう。

短期的なROASの数値が低く見えても、長期的なROIの視点でLTVを考慮すると、実は利益を生む施策だったというケースもあります。短期的なROASと長期的なROIを分けて評価し、異なる時間軸のデータを混同しないことが重要です。

3. 目的に合わせて他の指標の視点からも分析をする

ROASとROIは重要ですが、それだけでは広告施策の本質的な効果を正しく測れません。目的に応じてCPA(顧客獲得単価)、LTV(顧客生涯価値)、CVR(コンバージョン率)などの指標も活用することで、より精度の高い分析が可能になります。

新規顧客獲得を目的とする場合、CPAを活用すれば、1件の成約にかかる広告コストを把握し、ROASだけでは見えない施策の効率性を判断できます。一方、サブスクリプションやリピート購入が多いビジネスでは、LTVを考慮することで、広告の長期的な収益貢献度を評価できます。加えて、CVRやCTRを分析すれば、広告のターゲティングやクリエイティブの改善点を特定し、より効果的な施策へとつなげることが可能です。

短期的な広告効果を可視化するROAS、事業全体の収益性を示すROI、そして施策の目的に応じた指標を組み合わせ、多角的に評価・分析することで、広告の真の価値を見極められます。

まとめ

本記事では、ROASとROIの違い、そしてそれぞれの指標が持つ意味と役割について解説しました。

ROASは広告費に対する売上げの効率を測定する指標であり、短期的な広告効果の測定に適しています。一方、ROIは広告だけでなく、原価や運営コストなどの要素を加味し、事業全体の収益性を評価する指標です。

広告運用においてはROASが重視される傾向にありますが、ROASが高いからといって必ずしも利益を生む広告とは限りません。 一方で、ROIだけにこだわると、短期的な施策の調整や改善が遅れ、機会損失につながる可能性もあります。重要なのは、両指標をバランスよく組み合わせ、広告施策の目的に応じた適切な指標を活用することです。

ROASが高い施策が必ずしもよいとは限らず、ROIが高い施策がすべての場面で正解とも限りません。短期的なパフォーマンスと長期的な利益を両立させる視点を持って、施策の推進に取り組みましょう。

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