ブランディングブランド認知広告戦略

ブランド認知構築に効く広告戦略とは?認知度向上のステップと事例を交えて解説

菊池 満長

Web広告といえばリスティング広告が代表格ですが、顕在層を狙った獲得施策だけに取り組んでいると、いずれ獲得数は頭打ちを迎えます。すでに「買いたい」と思っている人の数には限りがあるため、そこだけを刈り取り続ければ、市場を掘り尽くした時点で伸びしろがなくなるからです。

獲得施策に注力するということは、数の限られた顕在層を競合と奪い合うということ。その土俵では価格や知名度で選ばれやすく、入札単価も上がり続けるため、リソースの少ない企業ほど不利になります。

だからこそ重要になるのが、いま買う気のない潜在顧客が将来必要になったときに、真っ先に思い出される状態、つまりブランド認知をつくれるかどうかです。ニーズが生まれた瞬間に候補として頭に浮かぶ企業と、そこで初めて検索されて存在を知られる企業とでは、選ばれる確率が大きく変わってきます。

Ehrenberg-Bass研究所のジョン・ドーズ氏が示した95:5ルールによると、BtoBの潜在顧客のうち、いま実際に購買を検討しているのは約5%にすぎず、残りの約95%は現時点では市場にいません。では、広告を活用してこの95%にどうアプローチし、自社の認知度を高めればよいのでしょうか。

本記事では、ブランド認知構築に聞く広告戦略について、認知度向上のためのステップや実際の事例を交えて解説していきます。

広告戦略とは

広告戦略とは、ビジネス目標を達成するために、誰に何をどのチャネルでどう伝えるかを設計する一連の計画です。広告を出す前に目的とKPI、ターゲット、媒体、予算配分、クリエイティブの方向性をあらかじめ整理することで、限られた予算から最大の成果を引き出せるようになります。

以下では、広告戦略の全体像を確認した上で、ブランド認知構築における広告戦略を定義します。

ブランド認知構築における広告戦略とは

ブランド認知構築における広告戦略とは、目先のコンバージョンを取るための設計ではなく、将来必要になったときに思い出され選択肢に入る状態を、一貫したメッセージと接点設計で積み上げる計画です。

いま買う人を刈り取ることだけを目的とせず、まだ買わない人に自社を覚えてもらい、必要になった瞬間に想起される準備を整えることが目的です。具体的には、買い手が検討段階に入る前から、自社ブランドを関連する購買シーン(カテゴリーエントリーポイント)と結びつけておくことがスタートになります。

この課題が起きたらこのブランド、という記憶をあらかじめ積んでおくことで、検討が始まった瞬間に候補として立ち上がります。

筆者の経験でいうと、YouTubeで何度も同じ高級石鹸ブランドの広告が配信されたことで、興味がなかったものの認知はしていました。石鹸がきれかけた時にそのブランドが比較検討に浮かび上がったものの、サイトを見ると値段が高い。しかしその後、おそらくリターゲティング広告で専用の割引ページが表示され、まんまと購入したという経験があります。

このように、想起されるための資産を時間をかけて積み上げていく設計です。

ブランド認知を向上させる広告戦略がなぜ重要なのか

ブランド認知の広告は、すぐにコンバージョンを生む刈り取り施策とは役割が異なります。なぜ取り組むのかを理解し、チームや経営層、クライアントと共有しなければ、短期の数字だけで判断されて途中で止まりがちです。以下では、記憶への定着からメッセージの一貫性、中長期の事業成長まで、順に重要性を掘り下げます。

見込み顧客の記憶に残り、選択肢に入る状態をつくるため

ブランド認知の広告が重要になるのは、いま買わない見込み顧客の記憶に残り、必要になったときに選択肢へ入るためです。95:5ルールが示すとおり、刈り取り施策だけを回していると、いま市場にいる約5%を奪い合うだけで、将来の買い手にあたる約95%には何も残りません。

その支えになるのが、前述のカテゴリーエントリーポイントという考え方です。この状況になったらこのブランド、という記憶を先に積んでおけば、いざ市場に入ったときに真っ先に想起されます。

買い手の行動もこれを後押しします。Gartnerが2026年3月に発表した調査によると、BtoBバイヤーの67%が営業担当を介さない購買体験を好むと回答しました。購買プロセスの多くをオンラインの自己完結型リサーチで進めています。

営業に会う前に候補が絞られる時代です。検討が始まる前に記憶へ入っておけるかどうかで、選ばれる確率は変わります。

ブランドの選ばれる理由を一貫して伝えるため

媒体ごとに訴求が分散すると、接触するたびに違う印象を与えてしまい、記憶が積み上がりません。同じブランドに何度触れても、言っていることがバラバラでは、想起につながる一貫したイメージは育ちません。

認知を積む上で大切なのは、広告もランディングページも営業資料も事例も、選ばれる理由を同じ言葉で繰り返すことです。この課題にはこの強みで応える、という軸となるメッセージを決め、接点をまたいで一貫して伝えることで、はじめて認知はブランド資産として蓄積されていきます。

伝える中身がそろっていなければ、どれだけ露出を増やしても記憶には残りません。

短期的な獲得施策だけではつくれない、中長期の事業成長につながるため

レス・ビネット氏とピーター・フィールド氏の研究では、長期のブランド構築に約60%、短期の刈り取りに約40%を配分するのが効果的とされ、この配分はのちに60:40ルールと呼ばれます。ブランド構築は効果が緩やかでも持続し複利的に効く一方、刈り取りは即効ですが短命です。

獲得だけに寄せると、その場の数字は動いても、将来の需要を生む土台が育ちません。

そして、ブランド認知の貢献は短期のCPAでは見えにくいという問題があります。検討期間が長い商材では、広告が最初の入口になっていても、予約や申し込みという結果は検索や直接アクセスといった最後のチャネルに付きます。

そのため、ラストクリックだけで見ると認知広告の貢献が0に見えてしまうこともあるでしょう。短期のCPAだけで測ると、中長期の成長を支える認知の価値まで取りこぼしかねません。

ブランド認知構築の広告戦略を考えるタイミング

ブランド認知が目的の広告は、全ての会社フェーズで取り組むべきというものでもありません。たとえば、まだリード獲得基盤ができていない企業の場合、まずは顕在層にアプローチするリスティング広告やMeta広告に取り組むべきでしょう。

それでは、どのようなタイミングでブランド認知構築に取り組むべきなのでしょうか。以下では、着手する意味が大きい代表的な場面を取り上げます。

CPA・ROASが頭打ちになってきたとき

まず検討したいのは、CPAやROASが頭打ちになってきたときです。

指名検索以外での獲得効率が悪化し、リターゲティングへの依存が高まり、コンバージョン数は増えても商談や購買につながらない。こうした兆候が重なるときは、認知や想起、信頼といった上流の不足がボトルネックになっている可能性があります。刈り取りに寄せすぎると、すでに市場にいる少数を奪い合うだけになり、上流が枯れていきます。

検討期間の長い商材では、広告が入口として機能していても、成果は最後のチャネルに付くため、管理画面上のCPAだけを追うと広告が無駄に見えてしまうでしょう。ここで刈り取りをさらに強化しても、頭打ちは解消しません。

むしろ、いま市場にいない95%へ想起を積み、将来の需要そのものを増やす投資に目を向ける局面です。獲得効率の悪化そのものが、認知への投資を始めるサインです。

リードの質を営業から指摘されるようになったとき

コンバージョン数を追う運用に寄せると、数はそろっても受注に結びつきにくいリードが増えます。広告側はコンバージョン数を成果と見なしがちですが、営業側は商談化率や案件単価で評価するため、同じ数のリードでも現場の手応えは伴いません。

このズレは、指標をつなぐことで解消できます。

ferret Oneの調査によると、BtoB広告運用の商談化率は11〜20%の層が31.3%で最多で、15%前後が一つの目安になります。ところが、広告運用支援のオーリーズが実施した調査によると、リード獲得を商談や受注などのROI観点で評価しているBtoB企業は約3割にとどまり、リード単価で評価する企業が47.5%と最多です。

(引用:オーリーズ)

約半数の企業が単価しか見ていないからこそ、その先まで見る余地が残されています。ターゲット、訴求、フォーム、CRMのデータ、商談化率を連動させ、安く数を取る最適化から、質の高いリードを取る最適化へ舵を切りましょう。

営業と広告が同じ基準で成果を見られるようになって、はじめて見直しは前に進みます。

競合との違いが伝わりにくくなったとき

機能や価格が似通った市場では、何が違うのか、なぜ自社を選ぶべきかが伝わらないと、価格や条件だけで比較される消耗戦に陥ります。差が伝わらないまま刈り取りだけを続けても、値引き合戦から抜け出せません。

BtoBでは特に、導入前の安心感や実績の訴求が効いてきます。前述のGartner調査が示すように、買い手は営業に会う前から、ウェブ上の自己完結型リサーチで違いを見極めています。だからこそ、この課題にはこの強みで応える、導入すればこう変わる、という選ばれる理由を繰り返し伝え、記憶に定着させたい局面です。

差別化が伝わりにくいと感じ始めたら、刈り取りの手前で認知と想起を組み直す局面に来ています。

ブランド認知構築はどの広告接点で発生するのか

ブランド認知は、一つの広告で一度に完成するものではなく、買い手の検討段階に応じた複数の接点を通じて積み上がっていきます。それぞれの接点が担う役割を理解すると、どこに何を配置すべきかが見えてきます。ここでは、認知獲得から比較検討、意思決定へと続く接点を、媒体とKPIの対応とともに整理しましょう。

認知獲得の接点

認知獲得の接点は、まだ課題が顕在化していない潜在層に広く接触し、ブランド名や課題認識、利用シーンを記憶してもらう入り口です。ここで狙うのは、いますぐの成果ではなく、将来のための記憶の種まきです。前述の95:5ルールでいう、いま市場にいない約95%へ届ける接点だと位置づけられます。

動画は利用シーンや世界観を記憶に残しやすく、SNSのフィードは繰り返し接触して想起を高め、ディスプレイは幅広い面でリーチを広げます。この段階で意識したいのは、この課題が起きたらこのブランド、というカテゴリーエントリーポイントと結びつけることです。

どんな場面で思い出してほしいかまで設計して届ければ、後の検討段階で立ち上がる記憶を積めます。認知獲得は成果が遅れて現れる投資だからこそ、短期の反応ではなくリーチと記憶で評価します。

比較検討の接点

比較検討の接点は、課題が顕在化して情報を集め始めたユーザーに、ブランドの強みや事例、価格、導入メリット、他社との違いを提示する場です。認知獲得で記憶に残ったブランドが、ここで具体的な検討候補へと引き上げられます。

十分な認知獲得ができていれば、リスティング広告で指名検索数が増え、CPAの最適化にもつながるでしょう。比較検討の段階では、買い手が能動的に比べ始める段階だからこそ、選ばれる理由を明確に示す必要があります。

前述のGartner調査が示すように、買い手は営業に会う前から、ウェブ上の自己完結型リサーチで候補を絞り込んでいます。検索広告で顕在ニーズを受け止め、資料請求やウェビナーへ誘導して、検討材料を渡すといった設計が効いてくるはずです。

導入事例や比較資料、価格の考え方を先回りして提示し、買い手が自己完結で判断できる情報をそろえておくと、候補として残りやすくなります。認知で入り口をつくり、比較検討で選ばれる理由を届けます。この接続が成果を左右するでしょう。

意思決定の接点

意思決定の接点は、広告で得たリードが営業商談やメールナーチャリング、セミナー、事例接触を通じて受注へ近づいていく最終段階です。ここでは、広告のデータと営業側のデータをつなぎ、どの接点が受注に貢献したかを見える状態にすることが重要です。

データが分断されていると、認知広告の貢献が正しく評価されません。

特に検討期間の長い商材では気をつけたい点があります。広告とCRMが分断されたままだと、ラストクリックで認知広告の貢献が0に見え、ブランド投資の評価が曖昧になります。

あわせて狙いたいのが、ファネルの最終段階まで進んで離脱した購買意欲の高いユーザーです。ある宿泊施設のGA4ファネルでは、プラン確定まで進んだ145件に対して、予約完了は24件でした。差分にあたる100件超は、プランを選ぶところまで来て申し込まなかった層で、最も成果に近い再訴求の対象になるため、リターゲティング広告を配信しました。

意思決定の接点では、こうした離脱者への再訴求とCRMまでつないだ貢献評価の両方を設計しておきます。

ブランド認知構築に効く広告戦略の立て方5ステップ

ブランド認知の広告戦略は、可視化から計測、改善までを一本の流れで設計すると成果が安定します。認知という測りにくい成果を扱うからこそ、順序を守ることが大切です。ここでは、戦略を組み立てる5つのステップを解説します。

ステップ1:自社ブランドの認知状況と広告成果を可視化する

最初のステップは、自社ブランドの認知状況と広告成果を可視化することです。指名検索数や自然検索の流入、SNSでの言及、広告接触後のCVR、商談化率、受注率、顧客単価、LTV(顧客生涯価値)まで、いまどこにいるのかを数字で把握します。コンバージョン数だけで判断すると、認知の現在地を見誤ります。

整えておきたいのが、客単価と計測です。客単価やコンバージョン計測が欠けていると、いくらまで広告費をかけてよいかという許容CPAの上限を引けず、認知にどこまで投資してよいかも判断できません。

可視化は、思い込みの無駄をあぶり出します。ある広告アカウントを数字で棚卸しすると、予算の37%を最も非効率な25-34歳の層に投じ、その層のCPAが最高の201円だった一方、最も効率のよい45-54歳は146円で獲得できていました。

認知が足りないのか、比較検討で落ちているのか、受注でつまずいているのか、ボトルネックを数字で特定してから設計に進みます。

ステップ2:ターゲットとブランド想起の場面を定義する

次のステップは、誰に覚えてもらい、どの場面で思い出してもらうかを定義することです。ここで軸になるのが、どんな課題が発生したときに自社を想起してほしいかというカテゴリーエントリーポイントの設計です。想起される場面が曖昧なままでは、認知を積んでも肝心なときに立ち上がりません。

BtoBでは、届ける相手が一人ではない点に注意します。担当者には業務が楽になる具体性、上長には投資対効果、決裁者には事業インパクトというように、同じブランドでも相手ごとにメッセージの重心を変えなければいけません。

誰に、どんな課題が起きたときに、何を思い出してほしいのか。この3点をそろえて定義しておけば、後の媒体選定と訴求設計に一本の軸が通ります。

ステップ3:ブランド接点に応じて広告媒体と予算配分を設計する

3つ目のステップは、接点ごとに広告媒体と予算配分を設計することです。認知獲得は動画やSNS、ディスプレイ、比較検討は検索やSEO、ランディングページ、受注貢献はリターゲティングやメール、CRM連携というように、接点と媒体の得意分野を対応させます。

予算配分の目安になるのが前述の60:40ルールで、短期の獲得と中長期のブランドに配分を分けて設計します。

このとき、自社もしくは他社の勝ちパターンをそのまま持ち込まないことが大切です。たとえば同じ宿泊業でも、一棟貸しは静止画が勝ち、高級旅館では動画のほうが伸びたというケースがありました。ある施設では、表示あたりのカート追加率が写真0.12%に対して動画0.33%と、約3倍の開きが出ました。

正解は事業ごとに違います。もう一つ注意したいのが、主力1本のクリエイティブへの依存です。1本の素材に頼ったまま予算を増やすと、同じ人に何度も表示されて擦り切れ、フリークエンシーが上がってCPAが急騰します。増額と新しいクリエイティブの投入はセットで考えましょう。

ステップ4:認知・想起・比較検討・獲得の段階ごとにKPIを設定する

4つ目のステップは、段階ごとに異なるKPIを設定することです。認知広告を短期のコンバージョンだけで測ると役割を見誤るため、次のように段階に応じた指標を用意します。

認知効果は、専用の測り方で可視化できます。

接触者と非接触者でブランド認知や好意、購入意向の差分を測るブランドリフト調査、広告接触後の指名検索の増加を測るサーチリフトです。

認知が目的の広告評価で気をつけたいのが、断定を急がないことです。数日やコンバージョン一桁の小さなサンプルで良し悪しを断じてはいけません。計測タグが付くことと成果まで計測できることは別で、母数がそろってから複数の指標で認知の貢献を評価します。

ステップ5:CRMと連携し、広告接触後の商談・受注まで改善する

最後のステップは、CRMと連携し、広告接触後の商談や受注まで追って改善することです。広告管理画面上のコンバージョンだけでなく、CRM上の商談や受注、LTVを広告評価に戻し、媒体別、キャンペーン別、訴求別に、どこから質の高いリードが来ているかを判断できる状態にします。

意外と多いのが、計測の受け皿と最適化イベントを取り違えるパターンです。予約や申し込みのクリック計測を実装していても、広告の最適化がランディングページ閲覧のような浅いイベントのままだと、配信は成果から遠いユーザーへ寄っていきます。

広告のコンバージョンで止めず、CRM上の商談や受注、LTVまで戻して評価し、成果に近い行動で最適化します。

ブランド認知構築で広告を活用するメリット・デメリット

ブランド認知の広告は、うまく設計すれば事業成長の土台になりますが、短期の刈り取りとは評価軸が異なるため、注意点も伴います。ここでは、広告を活用するメリットとデメリットを、流入や比較検討、組織評価といった側面から整理します。

ブランド認知構築に広告を活用するメリット

ブランド認知構築に広告を活用するメリットは、流入基盤の強化、比較検討での優位、そしてマーケ部門の提案価値の向上にあります。目先のコンバージョンを超えて、事業の持続的な成長につながる点が、認知への投資ならではの強みです。ここから、メリットを順に見ていきます。

指名検索や自然流入が増えやすくなる

ブランド名やサービス名を知るユーザーが増えると、その名前を直接検索する「指名検索」の数が増えます。何かのきっかけで思い出して自ら探しに来てくれるということであり、つまり、広告のみに頼らなくとも、一定の流入を安定して確保できる基盤が整うのです。認知が広がるほど、広告費をかけずに選ばれる土台が厚くなり、出稿を止めた途端に流入がゼロになるような広告依存の状態から抜け出せます。

指名検索や自然流入が育てば、クリック単価が高騰する市場でも獲得コストに左右されにくい流入を確保でき、競合が入札を強めても影響を受けにくくなります。しかも、こうして積み上げた認知は一度きりで消えるものではなく、資産のように蓄積して効き続けるため、将来の獲得効率そのものが底上げされます。目先の一件を取りにいく獲得施策と、この土台づくりを両輪で回すことが、伸び続けるための条件です。

比較検討時に選ばれやすくなる

事前に認知があり、信頼や導入事例に触れているブランドは、いざ検討が始まったときに候補へ入りやすくなります。人はまったく知らないものを選ぶことに不安を覚えるため、まったく知らないブランドと、以前から名前や強みを知っているブランドとでは、そもそも検討の土俵に上がる確率が違います。比較検討の入口に立てなければ、どれほど製品が優れていても選ばれる機会は訪れません。

BtoBではこの効果がさらに高くなるでしょう。購入までの検討期間が長く、関わる人数も多い上、失敗したときの責任が個人に及びやすいため、聞いたことのないブランドは無意識に候補から外されがちだからです。

担当者が上長や決裁者へ社内提案するとき、すでに社内でも名前が知られているブランドなら説明がしやすく、「なぜこれを選んだのか」を問われても答えやすく、導入への不安も和らぎます。認知は、買い手個人の想起だけでなく、社内稟議の通りやすさという組織の意思決定まで後押しする資産として働くのです。

マーケ部門の提案価値が高まる

3つ目のメリットは、マーケ部門の提案価値が高まることです。コンバージョン獲得の報告にとどまらず、その先にある顧客価値や中長期の事業成長まで語れるようになると、経営層との会話が「今月何件取れたか」から「事業をどう伸ばすか」へと変わり、経営層への提案や予算の確保がしやすくなります。日々の数字を集めて報告するだけの部門から、事業の成長そのものを設計する部門へと、社内での位置づけが変わっていきます。

その裏づけになるのが、60:40ルールです。これは予算の約6割をブランド構築に、約4割を短期の獲得に配分すると成果が最大化されやすいという経験則で、ブランド構築は効果が緩やかでも長く持続し複利的に効くという考え方を共有できれば、なぜ短期のCPAにすぐ現れない投資が必要なのかを、経営層に根拠を持って説明できます。感覚論ではなく共通のフレームで語れることが、投資判断の後押しになります。

マーケ部門が短期の獲得と中長期のブランドをそろえて示せるようになると、広告予算は削るべきコストではなく、未来の売上げを生む成長投資として扱われるようになるのです。

ブランド認知構築に広告を活用した際のデメリット

一方で、ブランド認知への広告活用にはデメリットもあります。短期評価の落とし穴や媒体拡大による属人化、CRM連携の欠如を理解しておくことが、失敗を避ける前提になります。順に見ていきましょう。

短期CPAだけで評価すると失敗しやすい

認知広告は効果が遅れて現れるため、短期のCPAだけで評価すると役割を見誤りやすいです。将来の想起を積むための投資を、その日のコンバージョンで測ろうとすると、実態に合いません。これは運用の巧拙ではなく、認知広告という手法そのものが持つ性質的な弱点です。

特に検討期間の長い商材では、広告が入口として機能していても、成果は最後のチャネルに付くため、ラストクリックでは貢献が0に見えることさえあります。効果が遅れて現れる施策を、即効の刈り取りと同じ物差しで評価すると、まだ育っている途中で止めてしまいます。

この弱点を踏まえ、目的に応じた評価期間とブランドリフトや指名検索といったKPIをあらかじめ用意しておくことが、認知投資を活かす前提になります。

媒体を広げすぎると運用が属人化する

認知獲得のために動画やSNS、ディスプレイと媒体を増やすほど、各管理画面からの数値の集計やレポートの作成、媒体間の予算調整、成果の比較といった作業が膨らみます。これらが特定の担当者に集中すると、その人しか全体像を把握できない状態になります。

特に認知の評価は指名検索やブランドリフトなど管理画面の外の指標とも突き合わせるため、集計の手間はさらに増えるでしょう。手作業のスプレッドシート運用の場合、担当者の異動や退職で一気に大きな負担となります。

媒体を横断して数値を束ね、誰が見ても同じ基準で成果を比較できるデータ統合の仕組みがあるかどうかが、多チャネル運用を続けられるかの分かれ目になります。

CRM連携がないとリードの質を判断できない

管理画面ではコンバージョン数は見えても、そのリードが商談に進んだのか、受注に至ったのか、そして受注後にどれだけのLTVを生んだのかまでは分かりません。管理画面が教えてくれるのは「リードが何件取れたか」までで、その質や、その先の売上げまでは追いきれないのです。

広告データとCRMが別々に存在する以上、両者をつながないかぎり、安く大量に取れた広告が本当に優秀なのか、それとも商談につながらないリードを量産しているだけなのか、どの広告が本当に事業へ貢献したのかは見えない構造になっています。

この分断は、認知広告でとりわけ重くのしかかります。検討期間の長い商材では、最初に接点をつくった認知広告の貢献がラストクリック評価では0に見えてしまうため、複数接点をまたいだアシスト貢献を追えなければ、認知の役割は評価の外に置かれ続けるでしょう。結果として、本当は効いている施策が「成果ゼロ」と見なされて予算を削られ、悪循環に陥りかねません。この壁をどう乗り越えるかは、次の失敗と対策で具体的に扱います。

ブランド認知構築の広告戦略でよくある失敗

ここまでの設計を踏まえても、認知構築の現場では典型的な失敗が起こりがちです。多くは、媒体の操作そのものではなく、メッセージの一貫性や評価の仕方、データのつなぎ方に原因があります。以下では、特によく見られる失敗と対策を解説します。

ブランドメッセージが媒体ごとにバラバラになる

最も多い失敗は、ブランドメッセージが媒体ごとにバラバラになることです。広告とランディングページ、営業資料、事例、メールで言っていることが違うと、接触するたびに違う印象を与え、認知が積み上がりません。同じブランドに何度触れても、核となる訴求が定まっていなければ、記憶に残る一貫したイメージはできあがりません。

この失敗は、計測の分断とも結びつきます。たとえば、前任者から引き継いだ広告のUTMが無料投稿用のまま放置され、有料広告が別扱いで計測されていたという例がありました。メッセージも計測も土台がずれると、何が認知に効いたのかを分析できません。

対策は、核となるメッセージを言葉にして整えることです。この課題にはこの強みで応える、という選ばれる理由を一つに定め、広告もランディングページも営業資料も事例も、同じ言葉で繰り返します。メッセージガイドラインとして共有し、接点をまたいで訴求と計測をそろえることで、はじめて認知はブランド資産として蓄積されていきます。

認知広告をCPAで止めてしまう

認知広告はその日のコンバージョンに現れにくいため、管理画面のCPAだけを見ると過小評価され、まだ効いている途中で出稿を止められてしまいます。効果が遅れて複利で効く施策を、即効の刈り取りと同じ基準で判断することが原因です。

対策は、評価指標を1本から複数に増やすことです。ブランドリフトや指名検索、サイト再訪、商談化といった認知の指標を並べ、施策の目的に応じた評価期間をあらかじめ決めておきます。ラストクリックのCPAが0でも、他の指標で入口としての貢献が見えれば、出稿を止める判断は変わります。

ブランド構築は効果が緩やかでも持続し複利的に効くことを前提に、短期のCPAだけで認知広告の是非を決めない運用ルールを、チームであらかじめ共有しておきましょう。

広告データがCRMに接続されていない

媒体の管理画面でコンバージョン数は見えても、そのリードが商談に進んだのか、受注したのか、なぜ失注したのかが分からなければ、どの広告が価値を生んだのかを判断できません。

前述のリード評価の調査が示すように、リード単価だけで評価する企業が最多で、受注貢献まで追うBtoB企業は少数にとどまります。単価での評価が主流という現状は、裏を返せば、受注貢献まで追える体制をつくるだけで差がつく余地があるということです。

対策は、到達や離脱の計測を先に整え、広告データとCRMを連携させて、どの広告経由のリードがどれだけ受注に至ったかを追える状態をつくることです。媒体別、キャンペーン別、訴求別に受注への貢献を戻せるようにしておけば、経営層にブランド投資の価値を数字で説明できるようになります。

ブランド認知構築の広告戦略の事例

ここでは、ブランド認知構築の広告戦略を3つの事例から具体的に見ていきます。

事例①:高単価×長リードタイムで広告経由の予約が0に見えた実例

1つ目は、高単価で検討期間の長い商材で、広告経由の成果が0に見えた実例です。これはBtoCの宿泊施設の例ですが、高単価で検討期間が長い商材の計測構造はBtoBと共通します。

ある高単価の宿泊施設では、月に約24件の予約完了がありましたが、ラストクリックで広告(有料ソーシャル)経由に計上された予約は0件でした。一方で、流入の約64%はオーガニックソーシャルからでした。管理画面のCPAだけを見れば、広告は無駄打ちに映る数字です。

しかし、これは広告が無効だったことを意味しません。検討期間が長い商材では、広告が最初の入口になっていても、予約という結果は検索や直接アクセスといった最後のチャネルに付きます。そのため、ラストクリックで測ると認知広告の貢献が0に見えてしまうのです。

ラストクリックの0を無効と読み違えず、ブランドリフトや指名検索、アシスト貢献まで見て、認知の役割を評価します。検討期間の長い商材ほど、短期のCPAという一つの指標に頼らず、複数の切り口から貢献を捉えられるかどうかで結果が変わってきます。

事例②:ブランドリフト/サーチリフトで認知広告の貢献を可視化する

(引用:オーリーズ)

広告運用支援のオーリーズが2024年に公開した検証では、YouTube広告が指名検索をどれだけ押し上げるかを、エリア分割のテストで確かめています。人口規模をそろえた配信エリアと非配信エリアを用意し、Google検索広告における指名キーワードの表示回数を両者で比較する設計です。

表示機会の差が結果を歪めないよう、検索広告のインプレッションシェアをほぼ100%に保った状態で計測している点も、再現する際の参考になります。

結果、リリースから2〜3年の新しいサービスでは、配信エリアの指名キーワード表示回数が非配信エリアの146.7%となりました。検証期間を通じて配信エリアは110%以上を維持しており、CPAには現れない認知の効果が、指名検索という行動の変化として数字で捉えられたわけです。

この検証が興味深いのは、同じ設計を2つのブランドで並走させている点です。新サービスでは明確な押し上げが出た一方、創業以来の主力である成熟ブランドでは、指名検索数にほとんど差が出ませんでした。オーリーズはこの差を市場での認知度や成熟度の違いによるものと解釈し、成熟ブランド側の動画広告は認知拡大ではなく、購入意向の促進へと目的を切り替える判断材料にしています。

だからこそ、認知はコンバージョンではなく想起や検索行動で測り、自社の認知の現在地に合わせて指標を選ばなければいけません。

事例③:BtoB SaaSが指名検索とデモ獲得を伸ばした実例

(引用:Powered by Search)

マーケティング支援会社Powered by Searchが公開するBtoB SaaS(データガバナンス領域)の事例では、LinkedInのABM(Account-Based Marketing:アカウントベースドマーケティング)広告とSEO最適化を組み合わせ、ブランド名を含むオーガニック検索の表示回数が前年比124%増、デモ申込が前四半期比91%増となりました。なお、これは支援会社が公開する事例で、対象企業名は明らかにされていません。

この事例のポイントは、認知(指名検索が増える状態)とデマンドジェネレーションを統合すると、獲得効率が上がるという点です。まだ市場にいない層へブランドを結びつける投資と、いま検討している層への需要獲得を並行して回すことが、前述の95:5ルールと60:40ルールの実践そのものになります。

獲得とブランドのどちらかに寄せきらず、両方を走らせ続けることが成果を分けます。

まとめ

買い手の約95%がいまは市場にいないなか、成果を分けるのは、将来必要になったときに思い出される状態を、一貫したメッセージと接点設計で積み上げられるかどうかです。認知広告は短期のCPAで測らず、ブランドリフトや指名検索、CRM上の商談や受注、LTVまでつないで評価することが欠かせません。

そして、媒体をまたいだデータを自動で束ねることが、複数の指標で認知の貢献を継続的に評価できる前提になります。認知の評価は媒体横断の集計が土台になるため、レポート作成や予算調整は属人化しやすく、運用の負荷も無視できません。

複数媒体に分散したデータを横断で束ね、自動集計と運用の最適化を担う基盤として広告運用自動化ツールのShirofuneを活用すれば、担当者は数値を集める作業から解放されます。空いた時間をメッセージ設計や想起の場面づくり、営業との連携といった本質的な仕事に振り向けられます。

獲得とブランドを両輪で回す広告戦略を、続けられる仕組みとともに築いていきましょう。

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