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なぜブランディングにLTVが重要なのか?事例を交えて解説

菊池 満長

デジタル市場での顧客獲得単価が高騰し続けるいま、真に差別化を生むのは「ブランドと顧客との絆」です。ハーバード・ビジネス・レビューの調査によると、ブランドと感情的に結びついた顧客は、単に満足している顧客に比べ、LTV(顧客生涯価値)が52%高いと報告されています。

彼らは購入頻度が高く、価格弾力性が小さく、さらに自発的な推奨行動によって新規顧客を呼び込むため、企業の収益基盤を長期にわたり厚くしてくれる存在です。

この数字が示すとおり、ブランド価値の向上はLTV最大化と表裏一体。しかし、ブランディングは「長期投資」と見なされ、短期KPIと切り離されがちなのも事実です。

本記事では、そんなブランディングとLTVに関する各種調査や、ブランディング施策によりLTVを向上させたSaaS、金融、EC企業の事例を紹介しながら、ブランディング施策のLTVへの影響を定量的・定性的に解説します。貴社のブランド戦略を「費用」ではなく長期収益を生む資産へと昇華させるヒントを、ぜひ本記事で掴んでください。

LTVとは

LTV(顧客生涯価値)とは、一顧客の生涯を通しての収益のことです。企業の収益性を測る重要な指標として、さまざまな領域で活用されています。LTVはブランディング施策との関わりも強く、ブランド力が向上するほどLTVも向上します。

LTVの一般的な定義


“LTV(エルティーブイ)Life Time Value(ライフ・タイム・バリュー)の略。1人の顧客が取引を開始してから終了するまでの間にもたらす利益のこと。”                (引用:インターネット広告基礎用語集(JIAA)

上記の顧客とは、一企業、一個人、一家族など商材によって単位が異なります。取引が開始してから終了する期間も商材によって差はありますが、BtoCであれBtoBであれ一年単位というよりも数年、10年単位の長期間なことが一般的です。

LTVは長い目で顧客の収益をとらえる指標といえます。。

※詳細は「LTV(顧客生涯価値)とは?言葉の定義や意味、計算方法や向上施策についてわかりやすく解説」をご覧ください。

LTVの計算式

LTVのもっとも汎用的でシンプルな計算式は以下です。どのような業界であっても以下の3つのデータが入手できればLTVを算出できます。

  • LTV = 平均購入金額× 購入頻度 × 顧客継続期間

LTVの計算式はビジネスモデルによって多様であり、少なくとも10数種類以上は存在します。たとえば毎月定額サービスを購入するSaaSなら、以下の計算式を活用します。

  •  LTV = 平均顧客単価(ARPU) × 平均顧客寿命(ACL)    

計算式の中には概算で算出するための式もあれば、コストや解約率まで含めて精緻に計算する式もあるので、目的に応じて使い分けましょう。

※より詳しく知りたい方は「LTVの計算方法とは?算出する目的や具体的な求め方について具体例を交えて解説」をご覧ください。

なぜブランディング×LTVなのか

LTVの基本計算式を見てわかるように、LTVの構成要素は「購買単価」「購買頻度」「継続期間」の大きく分けて3つあります。そして、そのいずれにも強く作用するのがブランド力です。

まず、顧客はブランドへの信頼があれば、多少高価であっても商品を購入する傾向があり、結果として購買単価が上昇します。また、リピート発注や関連商品の購入などにより、購入頻度も高くなるでしょう。解約せずに長く利用する傾向があるため、継続利用期間も長くなります。

このように、ブランディングはLTVを構成する主な3要素にポジティブな影響を与えるため、ブランディング施策=LTV向上施策ともいえます。

ブランド価値がLTVを向上させるメカニズム

より具体的にメカニズムを解説すると、ブランディング施策に力を入れると顧客体験が向上し、顧客のブランドへのエンゲージメントが向上し、その結果LTVが向上します。

前述のように、ブランドに思い入れや愛着を感じている顧客は商品の価格にあまり頓着しません。アップセルや追加購入にも積極的です。他社商品へ乗り換えるケースも少なく、長期的に取引が続くからです。

マーケティング界隈で有名な、米国コンサルティング企業Bain & Companyのコンサルタントが提唱した「5:25の法則」は、顧客維持率を5%改善するだけで利益が25%〜95%も向上するという実際のデータに基づいた法則です。つまり、ブランディングによって顧客の定着率が上がるだけでLTVが大幅に改善することがわかります。

ブランドがLTVの各要素に及ぼす効果

ブランド力がLTVを構成する要素におよぼす効果を解説していきます。

継続利用期間の延長(=解約率低下)

ブランド力が高いと取引期間が長くなり、LTVが向上すると説明しました。ブランド力とは商品そのものの品質だけでなく、対応の安心感や心地よさも重要な要素です。

Microsoftの調査によると、世界の消費者の96%が「顧客対応の良し悪しがブランドへの忠誠心に影響する」と答えています。

たとえばSaaSのようなサービスも、機能の良し悪しだけでなく、困ったときのカスタマーサポートの対応のよさや、その対応から見える顧客への姿勢が信頼されると顧客のロイヤルティが向上します。その結果、解約率が低下し長く利用されるためLTVも向上します。

購入頻度・顧客単価の増加

ブランドへの愛着が強い「ファン顧客」は、クロスセル・アップセルに応じやすい特徴があります。新商品を待ち望む傾向があり、最新作をいちはやく入手したいという希望を持つファンも少なくありません。

たとえば、iPhoneは商品力はもちろんブランド力が高いからこそ、高価でもファンがこぞって購入し、常に新製品が話題にのぼります。

自動車でいえば、フェラーリやBMWなどの外車ブランド、最近はイーロン・マスク率いるテスラもそうでしょう。ブランドへの憧れがあったり、ブランドにステイタスを感じたりする顧客は高額でも購入するため、LTVは向上します。

Gallup社の調査によると、顧客エンゲージメントを高めた企業は、顧客ロイヤルティが25%向上し、売上高が66%増加、純利益も10%以上向上したと報告されています。

顧客獲得コスト低減(ネットワーク効果)

ブランドへのロイヤルティが高い顧客は、友人や知人への推薦(口コミ)も積極的に行い、結果として新規顧客の獲得につながります。特にブランドのストーリーに共感するファンは、「無償の宣伝マン」として企業の売上げに大きく貢献してくれるでしょう。

たとえば、ファイル共有サービスのDropboxは、顧客紹介プログラムを導入し、顧客ごとに紹介数に応じたファイル容量の増加を提供しました。この施策により、低コストで顧客基盤を拡大し、LTVの最大化に成功しています。

自然に紹介が発生すれば広告費はゼロです。仮に紹介キャンペーンで謝礼を支払う場合でも、従来の顧客獲得コストより低く抑えられ、CPAは減少します。これにより、新規顧客開拓の費用対効果が改善し、LTVから獲得コストを差し引いた正味価値も向上します。

ブランディングがもたらす定性的効果

ブランディングは、顧客に共感や安心感といった定性的な付加価値をもたらします。ブランド力が強ければ、品質や価格に多少の違いがあっても顧客に選ばれるようになります。Gallup社の調査によると、商品に強いエンゲージメントを感じている顧客は、平均的な顧客よりウォレットシェア、収益性、売上高の成長において23%も多く貢献するとも報告されています。

たとえばマクドナルドを考えてみましょう。ハンバーガーの味だけであれば、モスバーガーの方が優れていると感じる人もいるかもしれません。しかし、多くの人がマクドナルドを選び続けるのは、「手頃な価格で、そこそこ美味しく、店員も笑顔で、子どもの頃からの楽しい思い出がある」といった理由からです。結婚して家族ができても、休日に子どもと訪れる場所となることで、結果的に何十年にもわたる利用につながり、顧客生涯価値(LTV)も高まるのです。

顧客に「自分に合うブランド」だと感じてもらい、一貫したブランドメッセージを発信することで、競合他社にはない代替不可能な存在になれます。その結果、顧客は生涯にわたり自社を選び続けてくれる高LTV顧客になる可能性が高まります。

ブランディングでLTVを最大化した成功事例

SaaS、金融、EC業界でブランディング施策により、LTVを向上させた事例を紹介します。

事例1 Slack

(出典:Slack公式サイト

Slackは急成長を遂げたSaaS企業として知られていますが、その成功の背景には、創業当初からのNPS(ネットプロモータースコア)活用がありました。具体的には、創業1年目からNPSを導入し、ユーザーからのフィードバックを継続的に戦略に組み込みました。

彼らの独自性は、NPSの結果から、ユーザーがサービスを推奨する理由を特定し、それを戦略に活かし続けた点にあります。新規登録数などの指標に注力するのではなく、「既存ユーザーがサービスを推奨するかどうか」を最重要指標に設定。この徹底したユーザー目線でサービス水準を高め、推奨者を増やした結果、急速な成長を実現しました。

現在もSlackはNPSスコアランキングの常に上位に位置しています。ネットプロモータースコアは57で、推奨者が69%、中立者が19%、批判者が12%という内訳は、SaaS業界のNPS平均を大きく上回る実績です。(参考:38 SaaS NPS Benchmarks & Top SaaS eNPS scores

事例2 Amazon Prime

(出典:Amazon

Amazonのブランディング施策の集大成ともいえるのがAmazon Primeです。月会費600円でプライム会員になった顧客は、送料無料、Prime Video、Music、Reading、ゲーム特典など、多岐にわたる価値提供によって「離れられない」状態になります。

Primeのスピード、コストパフォーマンス、強固な倉庫・配送ネットワーク、NPSを活用した改善サイクル。これらすべては、「地球上で最も顧客中心の企業」というAmazonの哲学に基づいた戦略的なブランディング施策の賜物です。

公式発表はありませんが、徹底した会員満足度の追求の結果、プライム会員のLTV(顧客生涯価値)は一般顧客の2倍以上に達するともいわれています。

事例3 Amex

(出典:アメリカン・エキスプレス公式サイト

アメリカン・エキスプレス(Amex)は、ゴールド(年会費3万円強)、プラチナ(年会費16万円以上)、センチュリオン(招待制)など、多様なステータスのクレジットカードを提供しています。

Amexは、尊敬されるプレミアム・サービスブランドとしての地位を確立するため、「価値ある顧客体験を追求するブランディング施策」を実施してきました。

たとえば、顧客アンケートやNPSのフィードバックに基づき、コンシェルジュサービスや空港ラウンジ、さらには京都の寺院の客殿といった特別な体験を提供しています。これにより、単なるポイント還元に留まらない「特別感」を会員に提供し、顧客満足度を向上させています。その結果、顧客維持率は20%も向上しました。

高額な消費をするロイヤル顧客をこのような特別なサービスで維持することは、LTVのさらなる向上につながっています。

Amexは2025年6月、プラチナ・カードの刷新と過去最大の投資、さらに会費の値上げを計画していることも発表しています。

LTVをブランディングに活用する際のポイント 

最後に、ブランディング施策をLTV向上につなげるための実践ポイントをまとめます。各種事例から導かれる成功要因を自社に取り入れE-E-A-T(経験・専門性・権威・信頼性)の高い戦略立案に活用してください。

1.LTV指標の可視化とセグメンテーションを行う

まず、顧客のLTVを計測・可視化し、顧客層をセグメンテーションして戦略を立てることが重要です。高LTV顧客セグメントを特定し、優先的にエンゲージメントを醸成することで、ロイヤルティを強化しましょう。

LTVに基づいて優良顧客層を抽出し、VIP対応や専用オファーを提供することで、ブランド力を高めます。高所得者向けのブランディング施策は、中LTV層や低LTV層向けのサービスにも良い影響を与え、全体のブランド力向上につながります。

2.ブランド約束を守る

「ブランドの約束を常に守る」──これが全業界に共通するLTVを伸ばす鉄則です。

たとえば、Amazonは華やかなブランドイメージを持つ企業ではありませんが、「Earth’s Most Customer-Centric Company(地球上で最も顧客中心の企業)」という方針は恐ろしく徹底しています。

Gallupの報告では「自社が顧客への約束を常に守っている」と従業員が自信を持って言える企業はわずか25%しかないといいます。多くの企業はブランドステートメントと実際の顧客体験にズレがあるということであり、逆に言えばだからこそ約束を守る姿勢は評価されます。

商品・サービスの品質保持、カスタマーサービス対応まで、ブランドが掲げる価値観を一貫して体現し顧客の信頼を積み重ねていく努力が必要です。それが長期的なロイヤルティ醸成=LTV向上につながります。

3.エンゲージメント施策に投資する

顧客との接点を増やし双方向のコミュニケーションがとれる施策に投資しましょう。

まず、パーソナライズされた発信(メール・アプリ通知・DM等での一人ひとりに合った情報提供)をしましょう。自社データを活用し顧客の嗜好や行動に即した情報発信を心がけることで、「自分のことを分かってくれている」という愛着につながります。

パーソナライズは効果が大きく、Epsilonの調査によれば「80%の消費者は個別体験を提供してくれるブランドから購入する可能性が高まる」という結果が出ています。

コミュニティ施策も重要です。自社商品について語り合えるSNSのグループの運営や、ユーザーコミュニティの支援、イベントの企画などにより、顧客が主体的にブランドに関与できる場を提供しましょう。そうすることでエンゲージメントが高まり、継続利用だけでなくさまざまなユーザーサイドからの知見を提供してもらえるでしょう。

4.定量・定性の効果測定をセットで行う

ブランディング施策の効果は見えにくいため、LTVに直結するKPIを定め、定量・定性データで定期計測することが成功の鍵です。

  • リピート率
  • 解約率
  • NPS
  • 顧客満足度(CSAT)

自社でも、キャンペーン前後のリテンション指標(例:解約率低下)や、定期アンケートでブランド好意度(例:CSAT上昇)を測定。定量データで数値改善を示し、定性フィードバックで顧客の声を深掘りすることで、施策の効果を社内に説得力高く伝え、LTV向上の戦略を磨きましょう。

Bain & Company の公式ガイドによれば、NPS が 0 を超えることは「プロモーターがデトラクターを上回った」状態を示すにすぎず、同社は「zero is never a good score(0 は決して良いスコアではない)」と明言しています。そのため良否の判断には、業界平均や主要競合のスコアとの相対比較が不可欠です。(参考:Measuring Your Net Promoter Score℠

さらに、SNS上の顧客の意見やカスタマーサポートへのフィードバックなどの定性情報も収集し、施策に反映させましょう。定量データ×定性インサイトの両面から施策を検証し、PDCAを回すことで、ブランディングとLTVの好循環を実現できます。

まとめ

ブランディングは、一見すると成果が見えにくいマーケティング施策ですが、LTV向上に大きく貢献する実効性の高い施策です。ブランディング施策によって顧客のブランドに対する信頼や愛着が高まることで、顧客の購入単価は大きくなり、購入頻度は増え、取引期間も継続します。LTVを構成する3つの要素すべてにポジティブな影響を与えるからです。

  • LTVの基本計算式 = 平均購入金額 × 購入頻度 × 顧客継続期間

ブランディング施策において何よりも優先すべきは、貴社にとって重要な顧客の欲求を実現することです。NPSやアンケートなどから定量的・定性的にニーズを収集し、最も優先順位の高いサービスや対応を改善していきましょう。そして顧客との人間的なつながりを醸成してください。たとえば、カスタマーサポートに投資し顧客対応品質を向上させるだけでもブランドへの愛着は強まり、リテンション率が向上し、LTV向上につながります。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。本記事の内容が、貴社のブランディング戦略とLTV向上の取り組みの一助となれば幸いです。

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