
ROAS(広告費用対効果)とCPAの違いを具体例を用いて解説!各指標の活用シーンや気をつける点も紹介
- 戸栗 頌平
ROAS(広告費用対効果)とは、広告費1円あたりの売上げを示す指標であり、広告運用のパフォーマンスを測るために欠かせません。一方、CPA(コンバージョン獲得単価)は、1件あたりのコンバージョンを獲得するためにかかったコストを示す指標です。
WACUL株式会社の調査によると、広告担当者が最も重視する指標としてコンバージョン数が1位、CPAが2位となっています。ROASも多くの票を集めており、広告運用において重要視されていることがわかります。しかし、ROASやCPAといった指標だけを見て、広告の成果を正しく測定できるのでしょうか。
ROASが高ければ良い広告施策だと思われがちですが、必ずしも利益につながるとは限りません。また、CPAが低くてもLTV(顧客生涯価値)が低ければ、長期的には非効率な広告効果であったという評価になることもあります。このように、それぞれの指標の背景を理解しなければ、誤った広告の評価をしてしまうリスクがあるのです。
本記事では、ROASとCPAの違いを具体例を交えて解説し、それぞれの活用シーンや注意点について詳しく説明します。この記事を通じて、ROASとCPAの本質的な違いを理解し、広告費をより効果的に活用するための判断基準を身につけて頂ければ幸いです。
そもそもROASとCPAとは
ROASとCPAは、広告成果を測定するための代表的な指標ですが、それぞれフォーカスしているポイントが異なります。まずは、2つの指標の定義と計算式を改めて整理していきます。
ROASとは?定義と基本のおさらい
ROAS(アールオーエーエス、ロアス)とは、「Return On Advertising Spend」の略で、日本語で「広告の費用対効果」を意味します。簡単にいえば、広告への投資費用がどれだけの売上げを創出したかを示す指標です。

たとえば広告費用が10万円で売上げが50万円だった場合、ROASは500%になります。これは広告費1円あたり5円の売上げを出したことを意味します。
ポイントは純利益ではなく、あくまでも「売上げ」を基準にして評価しているという点です。ROASが高いほど多くの売上げを出していることを意味しますが、必ずしもそれが利益につながっているとは限りません。また、ROASが低くとも、中長期的視点で見れば多くの利益が出るケースもあります。そのため、ROASだけを重視するのではなく、ほかの指標と組み合わせて正確性を高めなければいけません。
ただ、「広告費に対する売上げへのインパクトを、まずは知りたい」と考えるときに、ROASはシンプルかつ強力な指標として機能するでしょう。
CPAとは?定義と基本のおさらい
CPA(シーピーエー)とは、「Cost Per Acquisition」の略で、1件のコンバージョン(たとえば資料請求や会員登録など)を獲得するのに要した広告費を示す指標です。

10万円の広告費で10件のコンバージョンが発生すれば、CPAは1万円という計算になります。しかし、あくまでもCPAは顧客獲得効率を重視する場面で役立ちます。「顧客を増やす施策にかかったコストを可視化したい」「新規リード獲得の費用対効果を知りたい」と考えるなら、まず見るべき指標がCPAだといえます。
ROASとCPAの違いとは?3つの観点で解説
ROASとCPAの基礎を振り返りましたが、おそらく「自社でどちらの指標を使うべきか」「どうやって両方を見ればよいか」といった疑問をお持ちではないでしょうか。ここでは、ROASとCPAを「定義や計算式の違い」「使用目的の違い」「分析対象期間の違い」の3つの視点から比較してみます。

観点1:定義や計算式の違い
ROASとCPAは、いずれも広告費を基準にした指標ですが、評価をするための切り口が「売上げ」なのか「コンバージョン数」なのかによって、評価の意味が大きく異なります。
ROASは、広告によって得られた売上金額を広告費で割って算出します。つまり、投下した広告費に対してどれだけの売上げを生み出したかを示すもので、広告の収益性を測る指標です。一方でCPAは、広告費をコンバージョン数で割って求めます。こちらは、1件の成果を獲得するためにかかったコストを表しており、顧客獲得の効率性を評価するために使われます。

このように、ROASは売上げという「金額」に注目するのに対し、CPAは成果の「件数」に注目しており、どちらも広告の成果を評価するうえで重要ですが、目的によって使い分けが求められます。
観点2:使用目的の違い
確実に押さえておくべき違いが使用目的です。ROASは、広告費に対する売上げを直接的に示すため、各広告の売上げに基づいた費用対効果の評価や予算配分の最適化に使われます。たとえば、複数の広告キャンペーンのROASをリアルタイムで分析し、売上げを生んでいるキャンペーンに予算を多く充てるといった具合です。
特にECサイトやBtoC向けの高単価商材を取り扱う場合、顧客獲得効率に注目するCPAだけでは、売上げに対する貢献度を適切に評価できない可能性があるため、ROASの重要性が増します。具体例を見てみましょう。

この場合、CPAだけを見ると広告Bが高いため、広告Bに関する広告配信を停止するかもしれません。しかし、ROASを見てみるとどうでしょうか。広告AはROASが100%なのに対し、広告Bは150%で多くの売上げを出しています。高単価商材はCPAが高くなる傾向にありますが、その分売上げも大きいため、ROASで適切な評価をすることが重要です。
それでは、どのようなときにCPAを見るべきなのでしょうか。
CPAは、資料請求や問い合わせなどのコンバージョン獲得を目的にしたキャンペーンで使用します。なかでも人材紹介やBtoB、保険金融業などのリード獲得型ビジネス、クラウドサービスなどのBtoBサブスクリプション型ビジネスで大きな重要性を持ちます。リード獲得型ビジネスでは、広告を見たユーザーがその場で購入することは少ないです。
基本的には、広告やオウンドメディアなどで問い合わせや資料請求といったコンバージョンをしてもらい、ナーチャリング施策で徐々に購買意欲を高めて、購入してもらうという流れになります。だからこそ、直接の売上げを評価するROASではなく、CPAを見てリード獲得コストを最適化する優先度が高くなるわけです。
観点3:分析対象の期間の違い
ROASは、広告を出稿してから売上げが発生した時点で評価する指標のため、1週間〜1カ月単位の短期間やキャンペーン終了時などに集計をします。ただし、リピート購入を含めた長期的な収益を考慮する場合は、測定期間をどこまで取るかが重要です。
たとえば、ECサイトで化粧品を販売する場合、初回購入から3カ月〜6カ月後のリピート率を考慮してROASを評価するとよいでしょう。一方、サブスクリプションサービスでは、契約後1年以上の継続率を見ながら、広告費の回収状況を判断するのが賢明です。短期間のROASだけを見て施策の成否を判断すると、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)が考慮されていない、誤った意思決定につながる可能性があります。
CPAは、1件のコンバージョン獲得ごとに広告費を算出できるため、リアルタイムに近い形で測定できる指標です。会員登録や無料トライアルのようなアクションが即時完了する施策では、各広告媒体の管理画面やGoogle Analyticsを使って、迅速にCPAを確認できます。
ROASとCPAどちらも分析対象期間が短いため、広告キャンペーンの統括だけではなく、迅速にPDCAを回すための指標として活用するようにしましょう。
ROASとCPAの違いを理解しておくべき理由
ここでは、ROASとCPAの違いを理解しておくべき3つの理由を見ていきましょう。

理由1:コストと収益の両面から評価できるため
ROASとCPAはまさに「収益面」と「コスト面」の両軸であり、広告キャンペーンの健康状態を評価するために欠かせない要素です。
月に100万円の広告費を投じて売上げが200万円(ROAS 200%)になったとしましょう。しかし、CPAが高すぎる場合は費用対効果に課題があることを示します。たとえば、1人の新規顧客を獲得するのに5万円かかっている場合、その顧客が1回の購入で最低5万円使わなければ、赤字になってしまいます。もちろん、ビジネスモデルによっては高いCPAが許容されるケースもあります。LTVが非常に高いサービスであれば、初期獲得コストが多少高くても問題にはならないでしょう。
一方で、CPAが過度に高騰し続けると、将来的に受注件数が下がってしまう可能性があるため、ROASにも悪影響を及ぼす可能性があることには注意が必要です。逆にいえば、CPAを抑えてCV数を担保していくことでROASを改善するというアプローチも有効です。
状態 | CPA | ROAS | ビジネス的な影響 |
許容できる状態 | やや高い | 高い | 売上げはでているため、許容CPAの範囲内であれば、多少高くても大丈夫 |
効率が悪い状態 | 高い | 低い | 高いコストをかけ、かつ売上げもでていない |
効率が良い状態 | 低い | 高い | 低コストで獲得できていて、売上げもでている |
理由2:最適な予算配分や施策改善を実現するため
広告予算をどの媒体にどの程度投下するかを決めるとき、売上げと顧客獲得効率の両方を知らなければ適切な判断は行えません。一例を見てみましょう。
「ROASの高い施策に注力する」という方針は一見正しそうですが、もしその施策のCPAも高い場合、顧客を獲得するには費用がかかりすぎているかもしれません。逆に、CPAが低い施策ばかりに注力すると、「売上全体への貢献度は小さい」というケースが起こり得ます。
広告運用においては、限られた予算をいかに適切に配分し、効果を最大化できるかどうかが重要です。ROASとCPAの両指標を把握することで、投資対効果とコスト効率のバランスを取った意思決定を行えるようになります。
理由3:事業目標との整合性を合わせるため
自社ビジネスがどのフェーズにいるかによって、求めるKPIは変わります。
顧客基盤の構築が急務なスタートアップ企業の場合、効率よくリードを獲得するためにCPA重視の広告施策が重要になるでしょう。対して知名度が高く、さらなる売上げ拡大を狙う場合はROASを重視した方がよいかもしれません。ニールセンの調査では、ブランドの知名度や媒体の種類によって広告効果は変わると指摘されています。これは、認知度の高いブランドほど広告の影響を受けやすく、購買行動につながりやすいためです。

(引用:ニールセンの調査で判明した企業規模と広告効果の相関性)
そのため、事業の成長ステージや消費者認知の状況を踏まえて、適切な指標を選ぶ必要があります。事業目標を踏まえて施策を設計すれば、「今の事業ステージに合った広告評価」を実現できるようになるはずです。
ROASとCPAのそれぞれの活用シーン
それでは実際にどんな場面でROASとCPAを使うのかをもう少し具体的に考えてみましょう。広告施策の成果を評価するとき、予算配分を検討するとき、そして成果報告や分析を行うときの3つのシーンで、どのように使い分けるべきなのかを見ていきます。

施策のパフォーマンスを評価するとき
広告パフォーマンスを評価する際は、目的に応じてROASとCPAのどちらを重視するべきか判断しましょう。
売上ベースで評価をする際は、ROASを重視するのが賢明です。たとえば、以下のようなシーンで各ROASを比較すれば、広告費用対効果を判断できます。
- 広告費を投入して得られた売上げを短期間で評価したいとき
- 複数の広告媒体やクリエイティブのどの広告が売上げに貢献をしているのかを比較したいとき
どのターゲティングへの広告が売上に貢献をしているのかを判断したいとき
一方、コンバージョン数が目的の広告キャンペーンはCPAに着目しましょう。定期購入・リピート購入が大きな利益につながるECサイトでの初回購入者の獲得や、SaaS企業の無料トライアル登録数を増やす施策などでは、1人の顧客を獲得するためにどれだけの広告費がかかったのかを把握することが重要になります。CPAは新規顧客獲得のコスト効率を示す指標であり、広告の投資対効果をより細かく分析するために欠かせません。
売上げの最大化を目指す場合はROASを重視し、新規顧客の獲得効率を改善したい場合はCPAを重視するというように、目的に応じて適切な指標を使い分けることで、広告のパフォーマンスをより正確に評価し、効果的な施策の改善につなげられます。
予算配分を検討するとき
広告運用においては、限られた予算で最大限の成果を創出することが重要です。
広告運用の目的が短期的な売上げの増加であるならば、各広告のROASを見て、効果が出ている広告への予算を増やすのが定石です。それに対して、コスト効率よく顧客数を増やしたい場合はCPAを見ます。CPAをもとに広告予算を最適化する場合、広告クリエイティブやLPなど見るべきポイントは多々ありますが、比較的効果が出やすいのは配信チャネルとターゲティング設定の比較です。
採用支援SaaSを提供するRecManは、リスティング広告の広告費が高騰し、CPAを抑える必要がありました。そこで、まず低パフォーマンスの広告を停止し、クリック率の低い広告を最適化することで、1カ月以内にCPAを68%削減することに成功。さらに、新たにLinkedIn広告への配信を開始した結果、Googleリスティング広告の半分のコストでMQL(マーケティング有望顧客)を獲得できるようになりました。

(引用:Boosting MQLs and Cutting CPA by 65% for RecMan)
このように広告予算の配分を見直し、チャネルやターゲティングを最適化することで、CPAを大幅に改善できる可能性があります。
成果報告や分析を行うとき
広告運用担当者・マーケティングメンバーと経営層では、広告運用に対する興味関心が異なります。
まずマーケティング部門では、CPAとROASをベースに各広告キャンペーンのパフォーマンスを評価し、迅速にPDCAを回すことが重要になるでしょう。一方、経営層やクライアントが興味関心を持つのは広告パフォーマンスではなく、広告経由で創出した利益やコスト効率です。そのため、成果を報告する際、「売上げが◯円伸びました」というROASの数字と、「1件あたり◯円で獲得できました」というCPAの数字があると、施策の効果を多角的に伝えられます。
特にBtoBビジネスにおいては、1件獲得あたりのコストがどの程度かという視点が重要になるため、CPAの数字を軸に置くケースが多いです。一方でEC系ビジネスでは、短期的な売上変化をダイレクトに確認できるROASが好まれる場合が多いでしょう。こうした業種や商材の特性を踏まえ、自社のKPIや経営目標に沿った指標をメインに据えることで、より説得力のあるレポートが作成できます。
ROASとCPAを考える上で気をつけること
ROASとCPAを見始めると、「どこまで計測範囲を設定すればよいのか」「正しいデータを取得できているのか」などさまざまな疑問を持つことでしょう。ここでは、ROASとCPAを考えるうえで気をつける3つのポイントを見ていきます。
事業や施策の目的に合った指標や目安を選ぶ
ROASとCPAのどちらを見るべきかと迷ったら、まずは自社事業や施策の目的から考えていきましょう。
ここまで見てきたように、ROASは広告の費用対効果を測定する指標のため、短期的な売上げの最大化や収益性を重視する事業に向いています。定期的にROASを確認し、パフォーマンスの高い広告に、より多くの費用を投下するとよいでしょう。なかでも広告が直接的な売上げにつながるBtoCや高単価商材を扱う場合、ROASの重要性は増します。このようなビジネスモデルの場合、ROAS250%~300%を目安に費用対効果の高い広告に注力するのが効果的です。
一方、CPAはBtoBビジネスやSaaSのようなリード獲得が重要なビジネスモデルの場合に重視します。このようなビジネスモデルでROASを重視した場合、短期的には広告経由の売上げが発生せずROASが低くなるため、適切な意思決定を行うのが困難になるでしょう。BtoBの場合、CPAの目安は業種やLTVによって大きく異なりますが、Googleのリスティング広告を活用するケースでは、1件あたり1万〜2万円以内に抑えることがひとつの目安となるでしょう。また、BtoCビジネスにおいても無料トライアルや会員登録、リピート購入などを目的にする場合は、CPAを重視します。
簡単にいえば、短期的に売上げを伸ばしたいのならばROAS、長期的に顧客を育成していきたいのならばCPAを重視するようにしましょう。
コンバージョンポイントの定義やデータの正確性
複数の広告チャネルを同時に運用しているなら、コンバージョンを正しく計測できているかを再確認することが重要です。正しく設定されていないと、広告の効果測定が不正確になり、適切な施策の評価や改善が難しくなります。
また、アトリビューション設定も重要です。アトリビューションとは、直接的なコンバージョン以外の間接的な行動パターンを把握して、全体のアクションにおける最終成果への貢献度を測る手法を示します。たとえば、あるユーザーがSNS広告を目にしたのをきっかけに、Google検索で公式サイトを訪れる。そこでリターゲティング広告を配信し、購入につなげるという流れが考えられます。

(アトリビューションの例)
この場合、リターゲティング広告の成果が大きいように思われますが、きっかけとなったのは直接的な成果を生み出していないSNS広告です。このように広告種類によって役割は異なるため、アトリビューション設定をし、適切な評価ができる仕組みづくりが重要です。
さらに、複数の広告チャネルを運用している場合は、トラッキングの重複や漏れに注意が必要です。同じユーザーがGoogle広告とFacebook広告の両方をクリックし、その後コンバージョンに至った場合、両方の広告管理画面で「1件のコンバージョン」としてカウントされ、実際の成果よりも水増しされることがあります。逆に、トラッキング設定の不備によって、一部のコンバージョンが記録されないケースもあります。
短期的な数値だけでなく、中長期の視点を持つ
SaaSやBtoBのような継続利用やリピートが見込める事業の場合は、初回申し込み時点だけで広告パフォーマンスを評価しないほうが無難です。
たとえば初月だけ格安キャンペーンを打ち出した場合、顧客が一時的に増えても、その後継続利用されなければLTVは伸び悩み、実際にはROASも十分に高くならない可能性があります。また、3カ月の広告キャンペーン中は売上げが出なくとも、半年後、1年後に見ると広告経由で獲得した見込み客が顧客化し、高いROASを出すケースもあります。
そのため、広告運用期間中はCPAを見て顧客獲得単価の最適化に取り組み、ROASは中長期視点で評価するとよいでしょう。逆に最初はCPAが高いように見えても、長期契約によって時間が経つにつれて広告費を回収できる可能性は十分にあります。
ROASとCPAの違いを具体例を用いて解説
ここでは、ROASとCPAの違いを具体例を用いて解説します。
具体例①:ROASは高いが目標CPAを超えて赤字になるケース
ECサイトで単価5000円の商品を販売し、広告費10万円を投じた結果、30個が売れたケースを考えてみましょう。このとき、あらかじめ目標CPAを3000円以下に設定していたとします。
この場合、売上げは15万円となり、ROASは150%です。一見すると広告費の1.5倍の売上げを上げておりよさそうに見えますが、すべて新規顧客だったとするとCPAは3333円です。これは目標CPA3000円を上回っており、非効率な施策と判断されます。さらに、商品原価が2000円だった場合、1個売るごとに赤字が発生します。
- 売上げ = 5000円 × 30個 = 15万円
- ROAS = 15万円 ÷ 10万円 × 100 = 150%
- CPA = 10万円 ÷ 30人 = 3333円
- 1個あたりの利益 = 5000円 – 2000円 – 3333円 = -333円
- 総赤字額 = -333円 × 30個 = -9990円
このようにROASが高くても利益が出ないケースがあるため、売上げだけでなく最終的な利益への貢献度を考慮することが重要です。

具体例②:ROASは低いが中長期では高くなるSaaSのケース
SaaSビジネスでは、初回の契約時点ではROASが低くても、顧客が継続利用することで長期的な収益が見込める場合があります。ここでは、月額5000円のSaaSを提供しており、広告費50万円を投じて100件の新規契約を獲得したケースを想定します。
【初回ROASとCPAの計算】
- 売上げ(初月) = 5000円 × 100人 = 50万円
- ROAS(初月時点) = 50万円 ÷ 50万円 × 100 = 100%
- CPA(顧客獲得単価) = 50万円 ÷ 100人 = 5000円
初月のROASは100%で、広告費と売上げが同額のため、一見すると収益的には成功とはいえません。
しかしSaaSの特性として、顧客が一定期間継続して利用することでLTVが増加し、長期的なROASが向上します。仮に、平均契約継続期間LTVが12カ月だった場合、次のようになります。
- 1顧客あたりのLTV = 5000円 × 12カ月 = 6万円
- 総売上(LTVベース) = 6万円 × 100人 = 600万円
- LTVベースのROAS = 600万円 ÷ 50万円 × 100 = 1200%
このように、初月ではROASが100%と低く見えますが、12カ月の契約継続を前提とすると、最終的なROASは1200%に上昇します。

具体例③:CPAは良いがLTVが低く、広告費が無駄になっているケース
SaaS企業が月額3000円のサービスを提供し、新規顧客獲得のために広告キャンペーンAとBを実施したとしましょう。キャンペーンAでは広告費100万円をかけて250人の新規顧客を獲得し、CPAは4000円、平均継続期間は2カ月でした。これにより顧客1人あたりのLTVは6000円、売上げは150万円、ROASは150%という結果になりました。
- CPA = 100万円(広告費) ÷ 250人(新規顧客数) = 4000円
- LTV = 3000円(月額単価) × 2カ月(平均継続期間) = 6000円
- 売上げ = 6000円(LTV) × 250人(獲得顧客数) = 150万円
- ROAS = 150万円(売上げ) ÷ 100万円(広告費) × 100 = 150%
一方のキャンペーンBも同じく広告費は100万円ですが、獲得できた顧客は100人と少なく、CPAは1万円となりました。しかし、平均継続期間が12カ月と長く、LTVは1人あたり3万6000円に達し、売上げは360万円、ROASは360%という高い成果を上げました。
- CPA = 100万円(広告費) ÷ 100人(獲得顧客数) = 1万円
- LTV = 3000円(月額単価) × 12カ月(平均継続期間) = 3万6000円
- 売上げ = 3万6000円(LTV) × 100人(獲得顧客数) = 360万円
- ROAS = 3,600,000円(売上) ÷ 1,000,000円(広告費) × 100 = 360%
キャンペーンAは短期的に見ればCPAが低く、効率の良い施策に見えます。しかしLTVが低いため、広告費を使っても十分な利益が確保できません。一方、キャンペーンBはCPAが高いものの、LTVが高く、最終的なROASが大幅に向上しています。
この例が示すように、広告の評価をする際はCPAの低さだけで判断せず、LTVやROASを考慮することが重要です。

まとめ
ROASとCPAがそれぞれ何を示し、どのような計算式で導き出され、どんな場面で活用できるのかを解説しました。
ROASは広告費に対する売上げを示す指標として、BtoCなど短期的な売上げが発生しやすい事業で威力を発揮します。一方、CPAは顧客獲得コストを示す指標として、新規顧客を効率よく増やしたいBtoBやリード中心の施策で重宝される傾向があります。ただし、実際にはどちらかだけを見ていればよいわけではなく、両指標、さらにいえばCTR(クリック率)やIMP(インプレッション)、LTV(顧客生涯価値)などを合わせて見ることで、適切に広告キャンペーンを評価できます。
最適な指標は事業や施策の目的によっても変わります。なるべく早く売上げを伸ばさなければならないタイミングならROASを重視するかもしれませんし、長期的に顧客基盤を広げていきたいフェーズならCPAをより大切にするかもしれません。さらにLTV(顧客生涯価値)が大きいビジネスモデルなら、「短期的にはCPAが高くても、長期的に回収可能」という見方が必要になるでしょう。
だからこそ、マーケターや広告運用担当者には、ROASとCPAをバランスよく理解し、施策の評価に使い分ける力が求められているのです。
豪州ビジネス大学院国際ビジネス修士課程卒業。複数企業と起業を経てBtoB専業マーケティング代理店へ。その後、外資SaaSのユニコーン企業の日本法人立上げを行い、法人営業開始後マーケティング責任者として創業期を牽引。現在、日本のBtoBマーケティングの支援事業を行う株式会社LEAPTにて代表取締役。また、株式会社Shirofuneの外部マーケティング責任者を兼任。