Web広告インハウス運用リスティング広告

リスティング広告をインハウス化するメリットとは?LTV重視の広告戦略まで事例を交えてわかりやすく解説

戸栗 頌平

広告運用のインハウス化は「一部の先進企業の話」ではなくなりました。

World Federation of Advertisers(WFA)とThe Observatory Internationalの2023年の調査では、主要多国籍企業の66%がインハウス組織(社内の広告部門)を持ち、さらに21%が設立を検討しています(調査対象は45社、推定年間広告費合計は約600億ドル)。(参考:World Federation of Advertisers「In-housing set for rapid and continued growth at major multinationals 」)

検索広告(リスティング広告)を内製化してLTV(顧客生涯価値)まで最適化するには、検索語句を起点にした改善と、クリック後に発生する「受注・売上げ」などのオフライン成果をCRMデータとして広告側へ戻す仕組みが重要です。

本記事ではメリットや導入ハードル、ロードマップを中心に、成功事例を交えて整理します。

リスティング広告とは

まずはリスティング広告の定義や特徴、他の広告フォーマットとの違いを改めて確認し、インハウス運用が注目される背景を見てみましょう。

リスティング広告の定義・特徴 

Google 広告では検索広告(リスティング広告)を、商品やサービスを検索しているユーザーに表示できる広告として紹介しています。(参考:Google広告「検索広告(リスティング広告)2 つの成功事例 」)

少額から始めやすく、顕在層に効率的にアプローチできる点が特徴です。

表示の起点は、広告主が設定する「キーワード」と、ユーザーが入力する「検索語句(検索クエリ)」の関係です。

検索語句レポートは、広告表示・クリックにつながった検索語句を確認するためのレポートですが、掲載されるのは「一定の人が使用した検索語句」に限られます。キーワードの一致条件(マッチタイプ)によっては、登録キーワードと異なる語句が含まれる場合もあります。(参考:Google Ads「About the search terms report 」)

だからこそ、「検索語句の確認→不要語句の除外→有望語句の追加」という改善サイクルが回せます。検索語句レポートは、運用改善につながるヒントの宝庫だと言えます。

運用で扱う主要要素は、キーワード設計・広告文・リンク先(LP)・入札(クリック単価)と成果計測のセットです。

この構造上、運用ノウハウと事業理解が成果に直結しやすいのも検索広告ならではです。

ディスプレイ広告・SNS広告との本質的な違い

検索広告は“検索した瞬間”に表示されるため、ユーザーの「今まさに探している」という意図を直接捉えやすい広告です。

一方、Google ディスプレイ広告は、200万以上のWebサイトやアプリに配信でき、まだ検索していない見込み顧客にも表示できると説明されています(到達可能ユーザーは90%に近いとされます)。(参考:Google広告「Google ディスプレイ広告 / Google ディスプレイと AI を活用した製品の秘密 」)

SNS広告も、Metaが運営するFacebookなどのプラットフォームでは、検索語句ではなくユーザーの行動や興味・関心などの情報を手がかりに、関連性の高い広告を表示する設計です。(参考:Facebook「About Facebook Ads 」)

結果として、検索広告はキーワード設計・検索語句分析が中心になり、ディスプレイ/SNSはクリエイティブとターゲティングの学習が中心になりやすいといえます。

さらに検索広告は自然検索を完全に置き換えるものではなく、広告停止時に有料クリックの多くが回収されない(平均89%が増分=広告キャンペーンがなければ、広告主のサイトへの訪問は発生しなかった)という研究も報告されています。この“意図データの濃さ”が、検索広告をインハウス化する議論で重要です。(参考:Google 「Incremental Clicks Impact Of Search Advertising 」) 

広告のインハウス化が注目される背景 

本記事の冒頭で述べた通り、近年、広告のインハウス運用体制を構築する企業や、今後を見据えて関心を寄せる企業の割合が増えています。

その背景には以下3点のポイントがあると言えます。

  • コスト・透明性の観点
  • スピード/コントロールの短期化
  • CRM・1st partyデータの活用

アメリカ最大の広告業界団体「ANA」によると、2023年時点で同団体加盟企業の82%が自社内に広告部門を持っていることが明らかになりました。

大きな理由のひとつが「コスト効率」で、62%の加盟企業がコスト面を重視していると明かされています。しかし、彼らが広告運用のインハウス化で重視している要素はコスト面だけではないようです。

「ビジネスパフォーマンス」、つまりスピードやコントロールの短期化など、意図した施策をクイックに実行に移せるかどうかも重視されており(加盟企業の59%が「重視」と回答)、この側面を重視する企業の割合は2018年の調査時と比較して上昇しています。

加えて、近年の3rd party Cookie廃止により、マーケターが顧客から直接1st partyデータを収集するデータ戦略の重要性も高まっています。1st partyデータを保有、管理、保護したいという企業のニーズもまた、広告の内製化を推進する大きな要因となったと述べられているのです。(参考:ANA Report「In-House Agencies No Longer A Trend—They’re Here To Stay 」)

なお、広告運用のインハウス化が進展する傾向はプログラマティック広告の領域でも見られます。欧州のIABの2024年のレポートでは「25%の広告主が社内運用を主な運用モデルとして挙げている」と明らかにされました。こちらの領域でもやはり「コスト効率面」が大きく評価されていることも示されています。(参考:IAB Europe「Attitudes to Programmatic Advertising Report Nov 2024」)

リスティング広告をインハウス化するメリット

この章では、検索広告ならではのインハウス化のメリットについて5つの切り口から整理してご紹介します。

前章の終わりにも少し触れましたが、検索広告をインハウス化する最大の価値は、「検索語句」という一次データを、意思決定と実装の速さで事業に還元できる点です。

一般的な内製化メリット(コストや透明性)ではなく、検索広告特有の「学習と改善」に焦点を当てます。

検索語句レポートを起点にキーワードや広告文を改善し、さらにクリック後の受注・売上げをオフラインコンバージョンとして取り込めば、広告は『件数』ではなく『価値』で評価できます。(参考:Google Ads「About the search terms report 」、「About offline conversion imports 」、「About Maximize conversion value bidding」)

Googleのスマート自動入札は、オークション時点のシグナルも考慮して入札を調整できるため、コンバージョン値の最大化など価値ベース入札と組み合わせるとLTV重視の運用に近づきます。(参考:Google Ads「About Maximize conversion value bidding」)

検索データから顧客ニーズを可視化できる

1つ目のメリットは、検索データから顧客ニーズを可視化できる点です。検索語句レポートで「実際にユーザーによって検索され、広告表示につながった言葉」を見ることができます。(参考:Google Ads「検索語句レポートについて 」)

すなわち「顧客が自ら言語化できている課題や悩み(=求めている解決策)」を示唆しており、インハウス運用によって自ら顧客ニーズを把握することで、後述する「即時の運用改善につながる」メリットがあります。

たとえば、BtoBビジネスのうち「勤怠管理システム」を開発・販売している企業を想定し、自社製品についてリスティング広告を出稿していると仮定して考えてみましょう。

<例>

ニーズ分類検索語句の一例洞察できるユーザーニーズ
情報収集「残業代 計算 法律」「働き方改革 罰則」課題は認識しているが、解決策(勤怠管理システム導入)までは考えていない。
比較検討「勤怠管理システム 比較」「勤怠管理 クラウド 安い」勤怠管理システムの導入を決めている。自社に最適なツールを探している。
購入・決定「(製品名) 評判」「(製品名) 見積もり」特定の製品(勤怠管理システム)に絞り込み、最終的な意思決定の材料を探している。

上記のように、「検索語句レポート」からユーザーニーズが洞察できた後は、他の施策へ迅速に還元することもできるでしょう。

<一例:「働き方改革 罰則」という検索語句が急増していた場合>

還元先チャネル具体的な改善アクション狙い・期待される効果
商品訴求 (Google広告)広告文に「【未対応なら罰則も】」「36協定の超過を自動アラート」といった文言(※製品特徴の一例)を挿入。「知らないと危ない」という危機感に対し、解決策を提示してクリックを促す。
ランディングページ (LP)「法律遵守チェックリスト」をホワイトペーパーとして設置。罰則内容をまとめた表をFV(ファーストビュー)付近に配置。課題の深刻さを再認識させつつ、資料ダウンロード(リード獲得)へつなげる。
コンテンツ・FAQ「36協定に違反するとどうなる?」「労働基準監督署の調査が入る条件」などの実例記事を公開。検索意図(不安)にダイレクトに答え、ドメインの専門性と信頼性を高める。
営業資料・提案トークたとえば「直近、労基署の調査対策でのお問い合わせが急増しています」といった市場背景から話を切り出す。顧客の「今すぐ対策しなければ」という優先順位を引き上げ、成約速度を上げる。

上記の具体例で示すように、インハウス運用で顧客ニーズを迅速に把握することで、広告部門におけるアクションに限定せず、Web制作部門、営業部門など、横展開もしやすくなると想定されます。

入札・広告文・LPを即時改善できる

インハウス化することで、入札や広告文・LPを即時改善できるようになります。

特に、検索広告はテキストベースの広告フォーマットであるため、設定変更の反映が速い特徴があります。社内にWeb制作まで対応できる広告部門を置くことで、広告文/LP/入札を同一の改善サイクルで回せるでしょう。

インハウスの強みは、社内で迅速に施策アップデートの意思決定が可能である点です。広告代理店に運用を依頼している場合に「意思決定ができない」ということではありませんが、自社で運用する場合には「承認・調整・実装の迅速化」が可能になる点が大きなメリットだといえるでしょう。(参考:Harvard Business Review「6 Reasons Marketing Is Moving In-House」)

キーワード設計が事業理解と直結する

検索広告のキーワード設計(指名/一般/課題/比較/競合)は、すなわち市場における自社製品の「需要構造の写像」だといえます。つまりキーワード設計を自ら実践することは、事業理解に直結するのです。

たとえば、本章の前半で例示した「勤怠管理システムを開発・販売している会社」についてもう少し掘り下げてみましょう。キーワード設計(指名/一般/課題/比較/競合)は次のように考えられます。

需要区分(分類)具体的なキーワード例ユーザーの心理・文脈広告・LPでの打ち出し
指名「(自社製品名)」「(自社名) 無料トライアル」すでに製品を認知しており、最終確認や再訪をしたい。最短ルートの提示。 公式サイトであることを明示し、余計な比較をさせずCVへ導く。
一般(顕在)「勤怠管理システム」「勤怠管理 クラウド」ビジネスの課題解決手段は決まっている。「どれがよいか」を探している。機能・実績・手軽さ。 「導入社数No.1」「月額〇〇円〜」など、スペックの強みを強調。
課題(潜在)「働き方改革 罰則」「36協定 残業上限」法令遵守や運用に悩みがある。「どう解決するか」を知りたい。解決策としての提示。 「法令遵守を自動化」など、ツール導入によるリスク回避を訴求。
比較(検討)「勤怠管理システム 比較」「勤怠管理 おすすめ 無料」複数の製品候補から「自社に合うもの」を絞り込みたい。選定基準の提示。 比較表や「選ばれる3つの理由」など、判断材料(エビデンス)を強調。
競合「(他社製品名)」「(他社製品名) 料金」他社製品を検討中。または他社からの乗り換えを考えている。差別化ポイント。 「他社より安く」「〇〇機能が標準搭載」など、乗り換えるメリットを提示。

インハウス運用体制の下、自社内でこのようなキーワード設計ができれば、製品・価格・在庫・営業現場から得た一次情報を広告運用にも即反映でき、不要なクエリ除外や、訴求の精度がより向上するでしょう。

なお、キーワード設計の実践についてはGoogleが2020年に発表した「メッシー・ミドルモデル(Messy Middle=認知から購入までの間にある混沌とした意思決定プロセス)」をヒントにするとよいでしょう。「メッシー・ミドルモデル」とは、検索ユーザーが以下の2つの心理的モードを「絶えずループしている」と考えるモデルです。

Exploration(探索): 選択肢を広げる(広いキーワードで検索)。Evaluation(評価): 選択肢を絞り込む(具体的なスペックや評判で検索)。

この「メッシー・ミドルモデル」に当てはめながら検索広告のキーワードを設計するとしたら、たとえば以下のように考えられるでしょう。

ユーザーの心理モード検索語句の一例インハウス担当者の読み解きとアクション
評価 (Evaluation)「競合A社 料金」「競合A社 評判」【読み解き】 ユーザーは競合A社を軸に意思決定をしようとしている「絞り込み」段階。ここで自社が認知されていないと、選択肢から消える。
【アクション】 広告文に「A社にはない自社の強み(例:最短3日で導入)」を盛り込み、「評価」の基準を自社有利に書き換える。
探索 (Exploration)「勤怠管理 比較」「打刻ミス 防止 方法」【読み解き】 特定の製品に拘らず、広く解決策を探している段階。ループの入り口。
【アクション】 「失敗しない選び方ガイド」などのコンテンツ(ホワイトペーパー)へ誘導する導線を作り、自社を「検討リスト」に滑り込ませる。

あわせて、以下の3つのポイントも念頭に置いてキーワード設計にチャレンジしてみましょう。Googleは、「以下の3ポイントは大規模な企業でも、小規模な企業でも同じだ」と述べています。

  • 自社がユーザーの第一想起に食い込めるようにする
  • 訴求内容に説得力を持たせる
  • ユーザーが迷ったり離脱したりする隙が無いよう、「購買」までの距離・導線を縮める

(参考:Google「How people decide what to buy lies in the ‘messy middle’ of the purchase journey 」)

LTV・利益基準で入札最適化できる

インハウス運用をすることで、LTVや事業利益を基準に入札を最適化できるようになります。

たとえば2つの広告施策を実行して、いずれもCPAが同じだったとします。しかし、その後の受注率・単価・継続率に差が出たとしたら、それぞれの広告施策の「価値」は長期的な視点で見れば異なってきます。

よって、一つ一つの広告施策をより正確に評価するためには、CPAだけにフォーカスするのではなく、「売上げ/粗利/LTV」をコンバージョン価値として扱う必要が出てきます。

たとえば、「Web上で検索広告を見かけて興味を持ち、その後結局電話で問い合わせをし、対面商談を経て成約につながった」というケースも考えられます。製品との接触はオンライン広告だったけれど、コンバージョンはオフラインだったというパターンです。

このような成約の実情も広告データに正確に反映するために、Google広告の機能「オフラインコンバージョンのインポート」を利用することが推奨されます。

簡単な操作で、長期的なコンバージョンデータを広告にフィードバックできます。この作業を挟むことで、価値最大化/ROAS目標で自動入札(または価値ベースの最適化)が可能です。(参考:Google Ads「About offline conversion imports

この、Google広告の公式機能「オフラインコンバージョンのインポート」を活用するためには、CRM起点で見込み客の行動を計測することが重要になります。つまり、自社でCRMデータをきちんと追っていることが、広告施策の価値最大化につながるといえるのです。(参考:Google Ads「About enhanced conversions for leads 」)

アカウント構造が社内ノウハウとして蓄積する

広告のアカウント構造(キャンペーン/広告グループ/広告入稿要素)や運用ルールが社内で“資産化”し、担当交代・外注切替でも成果が落ちにくくなる点もメリットもです。

長期で広告施策への取り組みと改善を自ら積み重ねていくことで、ノウハウが自社内に蓄積し、大きな強みとなっていくでしょう。

たとえば、「検索語句の設計・見直し」「一つひとつの広告施策の運用改善」について、自ら意思決定や軌道修正ができるようになります。また、社内でマニュアルなどを細かく整備しておくことで、人員が入れ替わったとしても手順を言語化して引き継げる体制づくりが期待されます。

なお、このような過程では「成果の定量化」も推奨されるとANA(アメリカ最大の広告業界団体)は述べており、ここで追うべき指標は「より安く」「より速く」「より良く」だとしています。(参考:ANA「The Value of In-House Agencies 」)

具体的な指標を定量化することで、チーム内のモチベーションの後押しになり、また取り組みの属人化を低減できるでしょう。

リスティング広告をインハウス化するデメリット・導入ハードル

インハウス化は万能ではなく、成功には『人・スキル・工数・データ』の前提条件があります。

検索広告は検索語句やマッチタイプの扱いが成果を左右し、運用者が学習し続けることが必要です。

また、受注・売上げなどオフライン成果を広告側に返すには、クリックID(GCLID)や顧客データを扱う計測設計と、一定頻度でのデータアップロード運用が欠かせません。

Google広告のFAQでは、Smart Biddingがオフラインデータに反応しやすくなるために、少なくとも日次アップロードが推奨され、アップロード可能期間にも上限が示されています。(参考:Google Ads「Offline conversion imports FAQs  」

本章では主に、インハウス化で失敗しやすい導入ハードルについて整理します。

専任または兼任の運用担当をアサインする必要がある

リスティング広告は、「アカウントの設定内容の確認」「検索語句レポート」「除外キーワード設定」「予算消化状況」など日次の意思決定が多い施策であり、担当者が不在だと施策の成果が早期に低下してしまう恐れがあります。

具体的に、日次でチェックが推奨される項目をまとめました。

専任担当者でも兼任でも、いずれもまずは週5〜10時間から広告パフォーマンスのレビューのために時間を割き、状況に応じて徐々に体制を拡大していくことも視野に入れましょう。

項目確認内容理由参考
配信エラー審査落ち、支払いエラーの有無配信停止リスクの回避不承認となった広告を修正する、またはポリシーに関する決定に対して再審査を請求するお支払い状況を確認する

予算状況当日の消化ペース、予算による制限の有無機会損失の防止分析情報ページについて
異常値確認CPCやクリック数の急激な増減競合参入や設定ミスの早期発見アカウント、キャンペーン、広告グループのパフォーマンス
最適化案最適化スコアの変動と新しい提案アカウントの健全性維持最適化案について
検索語句前日の無関係な検索語句の除外広告費の無駄の削減検索語句レポートについて

キーワード設計・入札運用の学習コストが高い

検索広告の運用は、媒体の“自動化”が進んでも、設計する側の理解が必要です。

検索語句レポートでは広告表示につながった検索語句を確認できますが、キーワードの一致条件(マッチタイプ)によっては、検索語句は登録キーワードと異なる場合があります。(参考:Google公式ヘルプ「キーワードのマッチタイプについて 」)

そもそもマッチタイプの特性を運用者が理解しておかないと、意図しない検索に配信され、CPA悪化や学習データの汚染が起きます。

入札も同様で、「コンバージョン値の最大化」は過去実績(広告掲載結果)とオークション時点のシグナルを評価し、掲載機会ごとに入札を調整する仕組みです。(参考:Google公式ヘルプ「「コンバージョン値の最大化」入札戦略について 」)

Googleは、コンバージョン値の計測を始めた直後は一定期間待ってから目標ROASを設定することを推奨しています。理由は、コンバージョンから得られる収益をレポートで確認してからでないと、コンバージョン一件あたりの価値を決められないためです。(参考:Google公式ヘルプ「適切な入札戦略を選択する」)

しかし、目標ROASはどこかのタイミングで必ず設定する必要があります。目標ROASを設定しない場合、平均日予算を使い切ろうとすることで、支出が増える可能性があるためです。

したがって、内製化では“運用する人の学習コスト”を最初からコストとして織り込む必要があります。

運用担当は、計測(コンバージョン値)・検索語句分析・入札戦略をセットで理解して初めてLTV最適化に到達します。

検索語句管理や入札調整など日次工数が大きい

検索広告は、表示される検索語句が日々変わるため“放置に弱い”チャネルです。

検索語句レポートには広告表示につながった検索語句が掲載されますが、掲載対象は「一定数の利用者が検索した語句」に限られるため、すべての流入語句を見切ることはできません。(参考:Google Ads「About the search terms report  」)

それでも、無関係な語句が混ざっていないか、除外キーワードが機能しているか、新規で追加すべき高成果語句がないかを定期的に確認する必要があります。(参考:Google Ads「About the search terms report  」)

加えて、競合の入札や季節性でクリック単価や掲載状況が動くため、予算消化と獲得効率のバランス取りも継続作業になります。

Google Ads APIには、検索語句をカテゴリにまとめて検索ボリュームを示すレポート(キャンペーン単位の検索語句インサイト)もあり、こうした“見えない需要”の把握を補助できます。(参考:Google Ads API「Announcing v14_1 of the Google Ads API」)

とはいえ自動化しても、価値の定義や学習データが崩れれば意図しない最適化が起きるため、運用工数は“ゼロ”にはなりません。

売上げ・CRMデータがないとLTV基準の入札が難しい

検索広告は本来、検索語句単位で“価値の高い需要”に強く投資できる媒体ですが、広告側で見えているのが『フォーム送信』などの表面CVだけだと、LTV差を区別できずCPA最適化に戻ります。

Google 広告は、クリック後に電話受注や契約などオフラインで起きる成果を「オフライン コンバージョン」としてインポートでき、拡張版としてユーザー提供データ(例:メール)を併用する enhanced conversions for leads を推奨しています。(参考:Google Ads「About offline conversion imports  」「About enhanced conversions for leads – Google Ads Help

FAQでは、Smart Biddingがオフラインデータに反応しやすくなるため、少なくとも日次アップロードを推奨し、アップロードできる期間にも上限(例:GCLIDは90日)が示されています。(参考:Google Ads「Offline conversion imports FAQs」)

つまりCRMで売上げ/LTVを回収し、広告へ返す仕組みがないと、LTV基準の入札は現実的に難しくなります。

またGoogle広告は、ファーストパーティ データ(メールや電話番号など)をGCLIDと併用して取り込む広告主で、標準のオフライン インポートよりコンバージョンが中央値で10%増加したと述べています。(参考:Google広告 「オフライン コンバージョンのインポートについて

リスティング広告インハウス化のロードマップ

インハウス化を成功させる順序は、体制づくりより先に『目的と計測』を固めることです。

まずLTVに紐づくKPI(受注、粗利など)を定義し、その値を広告のコンバージョン値として扱えるように設計します。

次に、クリック後に起きるオフライン成果を取り込む仕組みを準備します。Google広告は、未導入であれば通常のオフラインインポートではなく enhanced conversions for leads から始めることを推奨しており、Smart Biddingが反応しやすいよう少なくとも日次アップロードを勧めています。(参考:Google  Ads「About offline conversion imports  」「About enhanced conversions for leads 」 「Offline conversion imports FAQs」)

そのうえで自動入札(コンバージョン値の最大化)を使い、最後に体制とツールを整えると、CPAにフォーカスする運用に逆戻りしにくくなります。

目的を設計する(LTV/KPI設計)

最初のステップは、広告の目標をCPAだけでなく『価値』に置き換えることです。

Google の「コンバージョン値の最大化」は、過去実績とオークション時点のシグナルを評価し、予算内でコンバージョン“価値”を最大化するよう入札を調整します。件数を増やす「コンバージョン数の最大化」とは狙いが違うため、LTV重視ならまず価値の定義が必要です。

ROIの基準がある場合は目標ROASを設定し、設定しない場合は平均日予算を使い切ろうとして支出が増える可能性がある点に注意します。

また、コンバージョン値の計測を始めた直後は、値が安定するまで一定期間(4週間または3コンバージョンサイクル)待つことが推奨されています。(参考:Google Ads「About Maximize conversion value bidding  」)

BtoBなら「SQL/受注」、ECなら「購入金額」など、まずは“計測できる価値”から段階導入するのが現実的です。

LTVを直接計測できない場合でも、リードのステータス別に暫定価値を割り当て、後で精度を上げていくと移行がスムーズです。s Help

体制を構築する(組織・役割分担・スキル要件)

目的の設定が進んだら、具体的に体制構築に取り組みましょう。

たとえば最小規模のチーム案として「責任者1名+運用担当者(兼務可)1名+分析/CRM(兼務可))に加え、意思決定を下す人の選任が考えられます。

また、ノウハウの属人化を防止するために、運用マニュアルの整備やレビュー会(週次)、監査(四半期)を行うことも推奨されるでしょう。

なお、海外のWebサイト「ハーバード・ビジネス・スクール」「Forbs」など複数の記事において「優れたスキルをもつ人員を長期的に確保することがインハウス化の課題となりやすい」と示唆されています。(参考:Working Knowledge「Should You Bring Advertising Expertise In-House? 」、Forbs「Weighing The Pros And Cons Of In-House Vs. Outsourced Marketing」)

前項で、施策に取り掛かる前の戦略設計と、その理解が重要だと述べました。インハウスで運用体制を構築する際には、広告プラットフォームの機能を正確に理解し、日頃の仕様アップデートにも積極的にキャッチアップできる、学習意欲の高い人材を配置することが望ましいでしょう。

ツール・データの基盤を整備する

次はデータ基盤です。

クリックから受注まで時間があるビジネスでは、広告のクリックが契約や来店など“オンライン外”の成果につながるため、Google 広告のオフライン コンバージョン計測が重要になります。

Googleは、オフラインコンバージョン計測が未導入ならば「enhanced conversions for leads」から始めることを推奨しており、メールアドレス等、ユーザーから提供されたデータを併用することで計測精度と入札パフォーマンスを高めると説明しています。(参考:Google Ads「About offline conversion imports

FAQでは、Smart Biddingが反応しやすいよう、少なくとも日次アップロードを推奨し、GCLIDは90日以内などアップロード期限も示されています。(参考:Google Ads「Offline conversion imports FAQs」)

実装はCRM連携が理想ですが、スプレッドシートなど“リード情報を保持できる仕組み”でも代替可能です。(参考:Google Ads API「Manage offline conversions」、Google広告「リードの拡張コンバージョン実装チェックリスト 」、Google広告「Google 広告データ マネージャーについて 」)最初は手動・定期アップロードで始め、安定したらAPIで自動化すると失敗しにくいです。

なおAPIで取り込んだオフライン コンバージョンは、元のクリック(インプレッション日)に紐づいてレポートされ、反映まで一定時間を要する場合があります。(参考:Google Ads API「オフライン コンバージョンを管理する 」)

成功企業に学ぶインハウス化の最新事例 

ここからは、広告運用のインハウス化の最新事例についてご紹介します。

本記事では、インハウス化の成功条件として必要な要素は「人員/スキル/工数/データ」だという主旨で解説してきました。

そこで、「なぜ成功したか(体制/計測/運用)」の観点で事例を読み解き、再現条件があるものに絞ってご紹介します。

海外SaaS企業の成功ケース 

monday.com」は世界190カ国以上の企業で利用されている業務マネジメントツール。タスク管理、プロジェクト管理、CRM管理をまとめられるシステムです。このシステムを利用する企業は、ノーコードで自社に合わせてカスタマイズできる点が特徴です。(参考:「monday.com の業務用プラットフォーム   」)

monday.com」は社内にマーケティングチームを持ち、広告運用に関して月額170万ドル(約2億6千万円 ※2017年時点)の予算のもと、Google広告・Facebook・Instagram・Capterra・Outbrain・Bingといった複数媒体の広告をインハウスで回しています。

アドワーズチームリーダー1名、SEM(Search Engine Marketing=検索エンジンマーケティング)キャンペーンマネジャー3名という体制だと公表されています。

Google広告の運用では、特定の業界や業種をターゲットにしている点が特徴です。2014年初頭にサービスを開始した当初は、スタートアップ企業との連携が最も効果的だと予想していました。ところが、実際には驚くほど多くの業界に急速に広がっていることが分かったのです。

ユーザーの70%は非テクノロジー企業で、建設、マーケティング、ビール醸造、ウェディングプランナー、さらには教会などだという側面が運用・分析の結果から判明。キーワード分析・設計によって、効率的なターゲティングに活かしているそうです。その結果、在庫管理、イベント管理計画、CRMなどのグループターゲティングで大きな成果を上げています。

また、Google広告で新しい言語にも挑戦しており、英語圏以外のユーザーにもリーチできるようにしています。

社内で自ら広告運用に臨むことで「自社プロダクトが実際にどのようなユーザーから求められているのか」を明確に把握でき、分析結果と事業理解に基づいて迅速に運用を継続的に回していった結果、社内の広告部門が大きく成長した好例だといえるでしょう。(参考:monday.com Blog 「How Our Mighty Marketing Team Drives Our Growth 」)

日本企業の内製成功パターン 

次は、タイヤの購入と交換予約を一括で行える「TIREHOOD」というサービスを運営する株式会社BEAD(オートバックスと三菱商事の合弁会社)の事例です。

同社では以前、広告運用を代理店へ一任していました。しかし、商材特有の専門性の高さから、施策の精度や対応スピードに課題を抱えていました。

「商材理解が一番ある自分たちで運用を」という観点から、広告運用の内製化(インハウス化)を決断。「チーム全員が数値を把握でき、即座に設定変更が可能であること」を重視した運用体制を構築しました。

インハウス化の結果、コンバージョン数は1.3倍に増加し、コスト効率は30%改善。運用の属人化を防ぎ、組織として継続的な成果を出せる体制を確立しています。(参考:Shirofune「インハウス広告運用の成功と失敗を分けるポイントを事例をもとに解説 」

内製のメリットとして、コスト効率面だけでなく、自社ブランドに関する知識の向上および自社組織に関する知識の深化、そして自社メンバーによるコミットメントの向上なども挙げられるでしょう。(参考:ANA Report「In-House Agencies No Longer A Trend—They’re Here To Stay

代理店ハイブリッドモデルの実例 

イギリスの航空券の比較検索サイト「スカイスキャナー」は、戦略とブランドの根幹を自社で握りつつ、外部代理店の専門性を「組織の延長」として組み込む「Embedded(埋め込み型)パートナーシップ」の形を取っています。

「戦略・ブランド理解」などは社内で主導、その一方で「専門技術・スケール(拡張性)・実務実行」を外部がサポートする構造です。

スカイスキャナーは、代理店を「単なる作業の外注先」ではなく、「同じブランドの理想を共有し、不足するスキルを埋める専門ユニット」として位置づけています。

「自社にしかできないこと(文化・歴史の理解や、事業に対するコミットメント)」を明確にし、それ以外をいかに効率的に外部・AIと分担できるかが、成功の鍵となっている事例です。(参考:IHA「The 2025 IHA Benchmarking Survey Report 」)

このように、広告主と代理店が協働する“in-house/hybrid”モデルはプログラマティック広告領域でも増加傾向だと、IAB Europeのレポートで示されています。理由としては、社内の人員・スキル不足を補いたい場合に現実的な解決策となる、といった点が示唆されています。(参考:IAB Europe 「Attitudes to Programmatic Advertising Report」

まとめ

リスティング広告をインハウス化する本質的なメリットは、検索語句データを起点に学習と改善を高速化し、売上げ・LTVを“価値”として入札と評価に反映できる点です。

インハウス組織の普及は世界的に進み、主要多国籍企業では2/3がインハウス組織を持つという調査もあります。

一方で、担当アサイン、運用スキルの習得、日次工数、CRMデータ連携といった導入ハードルもあります。

まずは価値定義(KPIとコンバージョン値)→オフライン計測(enhanced conversions for leads)→自動入札の順に小さく始め、データが回り始めたら体制とツールを拡張してください。検索語句レポートとオフライン計測の整備が進むほど、インハウスの強みが発揮されていくでしょう。

Shirofune個別無料相談会